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一章 恥と嘘と無情と過酷

Ⅰ 国境三国

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 ガーディアン召喚が起きた。
 トウマは一瞬で視界が眩い光に包まれ、目を腕で遮り瞼を閉じても視界は白一色に染まっている。目は痛くなく頭も痛くない。
 間もなく思考すら出来なくなった。


 先に働いた身体機能は聴覚であった。
 何を話しているか分からないが、”何か騒がしい”そう感じた。
 やがて思考出来るようになり、目を開けることが出来た。
「――様、ガーディアン様がお目覚めに」
 虚ろ眼で捉えた、煌びやかな衣服を纏う女性と、どこか『神官』という言葉を彷彿させる衣服を纏った老爺と四十か五十代と思しき男性が話し合っている。
(……な、に?)
 何かを話しているが、どうやら体力に限界をきたし気絶した。

 次に目を覚ますと、ジェイク達の旅路で泊まった宿屋と同じような見た目の部屋であった。
 一瞬、ガーディアン召喚が起きなかったのか、レイデル王国の策が成功したのだと考えた。
 窓の風景、自分の衣服を見て即座に”違う”と判断した。
(ビィ、いる?)
 警戒心が働き、念話でビィトラを呼ぶ。
「なに~?」
 暢気にビィトラは浮遊して現われた。
(僕、召喚された?)
「あぁ、別に声だして話しても大丈夫だよ」
「なんで?」
 咄嗟に周囲を警戒し、念話で聞き直そうとする前にビィトラが答えた。
「トウマね、あのフェンリル戦でかなり無理したの覚えてるでしょ」

 無理な大技を放ち、意識が飛ぶも、数日後に目を覚ました出来事。
 そのことだろうが、既に体調は万全であった筈。

「一応、生活する分には問題ない体調だったんだけどぉ、召喚で飛ばされた時、一気に魔力が乱れに乱れたから今までずっと寝てたんだよぉ」
「え、何日?」
「五日。で、色々面倒なことも重なって。あ、でも、この【バースル】にビィの姿が見える人が居たから、話出来て信じて貰えたんだ」
 やや嬉しそうにビィトラが語るも、話を端折られすぎてトウマの理解が追いつかない。
「ビィ、ごめん。よく分かんない」
「ねえ、ずっとトウマ看てたから、ちょっと城の中とか見てきて良い?」
 ワクワクが治まらない子供のようだ。こうなったらまともな説明は期待出来ないと判断したトウマが「いいよ」と許可する。
 即座にビィトラは壁をすり抜けて飛んでいった。

 たった一人しかいない見知らぬ部屋をゆっくりと眺めた。
 ベッドの枕側の壁に一際大きな世界地図が張られているのが目にとまり、眺めていると自分が購入した安物の地図が安直で雑な作りだと実感した。
(これが世界地図)

 大湖より北に位置する国がガニシェッド王国。
 時計回りにレイデル王国、ミルシェビス王国、バルブライン王国、ゼルドリアス王国、リブリオス王国、グルザイア王国と判明した。
 ゼルドリアス王国とリブリオス王国の間に三つある小国がある。
 何も分からない状態でベッドに寝転がった途端、部屋の扉をノックする音がし、男性の入室を求める声が聞こえた。
 慌てて起き上がり「はい」と返すと扉が開いた。
 入室してきた男性は、見るからに王族か格式高い騎士を印象づける衣装を纏っていた。正しく王道ファンタジーの世界の風景が頭に浮かんだトウマはついつい見とれてしまった。

「無事に目覚められて何よりです」
 男性は近づくと、ベッドを設けている台の段差手前で立ち止まった。
「自己紹介を致しましょう。私はバースル所属、第二隊主ラギラルバ=アイザード。ラルバとお呼び下さい」

 トウマは立ち上がり、段差を降りて姿勢を正した。

「す、すいません。えーっと、ガーディアンのトウマです」
(で、いいんだよね)
 よく分かっていないが相手の肩書きに気圧され、自己紹介文の貧弱さに不安を覚えた。
「あの、守護神、って言われて、分かります?」
「ええ。ビィトラ様と聞き及んでおります」
「ビィに説明をされたんですけどよく分からなくて。今、僕は何処にいるんですか?」

 ラルバは部屋の壁に掛かっている世界地図をの元へ寄り、手頃な棒状のものを探した。
 手に取ったのは花瓶に生けてある白い花。茎が長くて丈夫である。

「国境三国というのはご存知でしょうか?」
 当然分からず、即座に頭を左右に振った。
 ラルバは地図の左端の国二つに白い花を当てた。
「魔力壁に囲まれた国、ゼルドリアス王国とリブリオス王国。この二国を隔てる国境は幅が広く、そこに三つの小国が存在します」
 それが国境三国。大湖から順に【ギネド】、【バースル】、【ミゴウ】と説明された。
「各国の詳細ですが、今は必要ないので省かせて頂きます。三国にはそれぞれ王や女王が統治し、バースルでは女王・ネイラ=シャールス様が」
 名前を聞いてトウマは疑問に思った。
「名前に国の名前が入らないのですか?」
「それは大国である七国の王のみに使用される、いわば王たりうる証明のようなものです」

 ラルバは再び地図に花を当てた。バルブライン王国を囲うように動かして。

「数日前、バルブライン王国に魔力壁が発生しました。原因は不明ですが、此度のガーディアン召喚と何かしら関係があるのではと、我が国も含め考えている国は多いです。そして召喚の翌日、魔力の異様な揺らぎを感じ、魔獣の凶暴化や自然界の魔力が異様な乱れが生じております」
「全部繋がってるってことでしょうか」
「今はまだ情報が不足しております。分かっている事は、ガーディアン召喚を成功させたことだけです」
 召喚前後の話が壮大すぎ、自分の存在が何か大きな影響を及ぼすのでは無いかとトウマは不安になり気まずくあった。
「……あの、僕、これといって何も出来ないのですが」
 申し訳なさそうに訊くも、ラルバは笑顔で返した。
「ええ。こちらも大きな期待はしておりません」
 はっきりと言い切られ、頭の中が混乱する。そんなトウマを余所にラルバは続ける。
「召喚した後、失礼ながらお体に内在する力を調べました。結果、少々実力がある並の術師程度である事が判明し、ガーディアンへ向ける意識が変わっただけです」

 建前だろうか。
 平然とにこやかに語るが、トウマの精神面はズタボロであった。

「ですが伝説上の存在であるガーディアンです。敵国や邪な考えを持ち合わせる者達の手に渡れば悪用される素材となるのは危険極まりない。トウマ様は我が国で保護させて頂きます」
 様付けされるのはまだ敬意がある証拠だろうが、今までの戦いは何だったのかと思わせる一言『保護対象』。トウマの心はトドメの一撃を加えられたように苦しい。
「……すいません。強くなるので、そのような」
 なぜ保護を拒まれるのか分からないラルバは、少し考える。
「なぜ戦いに赴きたいのかは不明ですが。では一度、ネイラ様と相談致しましょう」
 なぜこうもトウマの心情を理解してくれないのか。

(この人、もしかして薄情?)
 当然、このような疑惑が浮かぶ。
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