上 下
26 / 100
三章 戦い続けるガーディアン

Ⅸ 仲間に

しおりを挟む
 手助けされて以降、ガイネスはダリオスの連続した攻撃を難なく受け止める。圧倒的なまでの劣勢にダリオスは立たされた。
「つまらん。急に弱くなったではないか」
「王が強すぎるのですよ」
「だから助力などいらんと言ったのだ。くそっ、ロゼットにしてやられてばかりではないか」
 左手に魔力の球体を発生させ、ダリオスの腹部にぶつけて飛ばした。
「無駄な時間だ。締めにさせて貰うぞ異世界の戦士よ」
 両手で柄を握り、魔力と気功を同時に剣へ籠めた。
「シューゼルゥゥ!」
 未だ幻覚が解けないダリオスも気功を限界まで発生させる。締めの大技に出るというのは誰が見ても分かる。
 怒りに我を忘れ、狂者と化したダリオス。
 力を制御し、放出を抑えて薄い衣のように纏い冷静に構えるガイネス。

 勝負は呆気なくついた。

 ダリオスの一撃が振るわれる前にガイネスは一振りでダリオスの剣の刃を寸断し、続いて懐へ潜り込み柄頭で腹部を突いた。ただ、そのひと突きは柄頭から魔力と気功を混ぜた刃が発生してダリオスの胴を貫き、立て続けに衝撃波が発生して身体を突き飛ばした。
 勝負が決し、剣を鞘に収めるガイネスにローブ姿の男は近寄った。
「お見事です。しかしどうしてわざわざあのような仕留め方を? 寸断してしまえば消耗は抑えられた筈」
「ふん。貴様の助力が籠もった刃以外で仕留める方法を模索したまでのことよ」
 どこまでも抗おうとするガイネスを見て、男は笑んでいるが呆れていた。

「ダリオス!」
 飛ばされたダリオスの元へ駆け寄るジェイクの姿を二人は見た。
(あやつは)
 即座に見知った顔が思い浮かぶと、ローブ姿の男は静かに溜息を吐く。
「あれも不思議な力を籠めてるな。戦いとなったら今度こそ助力は無しだぞ」
「いえ、王よ、それは無理かと」
 神妙な面持ちで返され、ガイネスは不思議に思う。


「おいしっかりしろ!」
 腹部の傷を見るからに助かる見込みはないと分かる。しかし何もしないなど出来ず、必死に傷口を手で押さえた。
 呻くダリオスは次第に苦しみだす。
(……なあダリオス。これからも共に戦おうぞ)
 苦しみ、視界がぼやける中、幻覚ではあれ懐かしい人物の姿をダリオスは見た。ただ、名前が思い出せない。

 ジェイクが他に傷がないかを探しているとダリオスはまたも呻いた。
 心配する最中、背から血塗れの歪な丸い胴体に蜘蛛のような足を四本生やした物体が歩いて出てきた。
「なんだ……これ」
 ソレが出たことにより、ダリオスの呻きは治まった。
 そして次の幻覚が浮かぶ。
(お前等息ぴったりだな。これからも頼りにしてるぞ)
 位の高い兵服姿の男に、ダリオスと先ほどの男が褒められる。この時の事は思い出せる。大きな仕事を達成し、称号を与えられた式典。
「…………ゼド……」
 呟く声はあまりにも微かで、ジェイクの耳に届かない。

 一方、ジェイクはダリオスの背から出てきた物体が何処へ向かうか目で追っている。
 奇妙な物体がある方向へ走り出すと、高く跳躍し、何もない所にしがみついた。
「残念だったね。おじちゃん」
 声の主が何もない所から、濃い霧の中から出てくるようにゆっくりと姿を現わす。
 腹部に先ほどの物体が張り付いた少年が笑顔でダリオスを見ていた。

 声に反応したダリオスは、少年の名を思い出す。
「……グ……レン」
「ボク、お兄ちゃん捜しに行くからここでお別れだね」
 まるで心配する様子すらなく、手を振り、「ばいばい」と言って姿を消した。
 少年が消えるとダリオスは血を吐いた。

「しっかりしろ! くっそ、どうすれば」
 止血と治療を模索する。
 治癒術が使えれば幾分は回復出来るだろうがジェイクにはできない。血の勢いを見るからにそれでは術が使えても助かる見込みは低いだろう。
 なにか、もっと強い回復のすべが必要。
(強い力…………アレなら!)
 その言葉でジェイクは思いつく。
「待ってろ、すぐに治してやる」
 方法は烙印技であった。
 今まで多くの場面で奇跡を起こした特別な力。これがあれば傷口を塞げると確信めいた気持ちになる。
 ジェイクは右手に烙印を籠めるとゆっくり傷口に乗せた。
 烙印の効果か、ダリオスの表情は穏やかになる。
「よし! 効いてる」

 腹部にとても心地よく温かいものを感じるダリオスは、またも幻覚で男の姿を見た。
(先に行ってるぜダリオス。お前はやることやってからこっち来いよ)
 今すぐ手を伸ばしてでも去って行こうとする男を止めたい。しかし手が動かない。呼び止める叫び声を発することも困難である。ただ、空虚な心情で見送るしかできない。
 男が消えると、ダリオスは全てを思い出した。全くの別人だが、ジェイクと幻覚で見た男は似た風貌、似た雰囲気の人物であることも。

「今すぐ止めろ」
 突如ジェイクの背後から声がした。
 聞き覚えのある声。しかしここにいる筈のない人物の声。
 驚きながらジェイクは振り返る。
「ミゼル!? なんでいる!」
 今、グメスの魔女の屋敷にいる。距離からして追いつくのは不可能なのに。
「そんな事は後だ。烙印で回復など出来んよ。すぐ止め、遺言を聞いてやれ」

 告げた途端、ダリオスは苦しみだした。
 咄嗟にジェイクは烙印を消す。
 混乱の最中、ダリオスが口を動かした。

「おい、何言ってんだよぉ!」
「念話だ。その者も転生者なら出来るだろ」
 今はミゼルの言葉に自然と身体が従った。
(ダリオスなんだ。なんて言ったんだ!)
(ジェイク……仲間になりたい)
 突然の申し出に言葉を失うも、ダリオスは続けた。
(神力はいらん。他のどんな力も権利もいらん。お前と仲間になりたい)
 念話ではしっかり話せているが、顔に血の気は無く表情は今にも死にそうなまで弱っている。

「おい、しっかりしろ!」
(思い出せた。昔、とても気の良い、頼りがいのある戦士がいたんだ。肩を並べて、戦ったんだ。……楽しかった。……もう一度……だから)
 ジェイクはダリオスの手を強く握った。
「ああ。ああ! 俺等は仲間だ! これからもずっと! 言っただろ、気の良い奴らもいるって。だから皆で楽しくやろう!」
 言葉に安堵し、嬉しくあり、口元に笑みを浮かべたダリオスは静かに息を引き取った。

 助けられなかったことに悔やむジェイクの向かいにリューザが現われ、ダリオスの身体に両手を乗せた。

「彼は貴方に感謝しています。心の拠り所として、安らいだ気持ちのまま死にました」
「感謝も何も、これからだって時に」
「ジェイク=シュバルト。短い間ですが、信念を貫き通し生きた戦士の事を、忘れないであげてください」
 告げると、リューザと共にダリオスは姿を消した。

 もう、ダリオスはいない。死体は元の所持者、元の場所へ還り弔われる。
 どう足掻いても変えられない『転生者の法則』。
 悔しい思いを抱えながら、ジェイクは立ち上がる。
「お前は後だ。逃げるなよ」
 ミゼルに告げてガイネスの方へと向かう。
 距離をおいて向かい合うとジェイクは剣を抜いた。
「まるで仇討ちのような面構えだな。やり合うのは大いに結構だが誤解するなよ。あのガーディアンが錯乱して迫ったから対峙したまでのことだ」
 ガイネスを睨み付けたジェイクは切っ先を向けた。
「てめぇ、なぜ烙印を使える。この世界の住人は使えないと聞いてるぞ」

 烙印が籠もる剣から発せられる気迫に、ガイネスの闘争心はかき立てられ興奮する。
 ガイネスも剣を抜いた。

「知りたくば力尽くで口を割らせてみろ」
「ふざけやがってぇ」
 激昂したジェイクは全身にも烙印を籠め、今にも突進する姿勢を示す。
 互いに興奮状態。
 一触即発の最中、ローブ姿の男がガイネスの前に立ちはだかる。
「誰だてめぇ! どきやがれ!」
「相変わらずの阿呆だな」

 告げると素顔を表わした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

【完結】虐待された幼子は魔皇帝の契約者となり溺愛される

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
 ――僕は幸せになってもいいの?  死ね、汚い、近づくな。ゴミ、生かされただけ感謝しろ。常に虐げられ続けた子どもは、要らないと捨てられた。冷たい裏路地に転がる幼子は、最後に誰かに抱き締めて欲しいと願う。  願いに引き寄せられたのは――悪魔の国ゲーティアで皇帝の地位に就くバエルだった!  虐待される不幸しか知らなかった子どもは、新たな名を得て溺愛される。不幸のどん底から幸せへ手を伸ばした幼子のほのぼのライフ。  日常系、ほのぼの、ハッピーエンド 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 【表紙イラスト】蒼巳生姜(あおみ しょうが)様(@syo_u_ron) 2022/10/31  アルファポリス、第15回ファンタジー小説大賞 奨励賞 2022/08/16  第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 2022/03/19  小説家になろう ハイファンタジー日間58位 2022/03/18  完結 2021/09/03  小説家になろう ハイファンタジー日間35位 2021/09/12  エブリスタ、ファンタジー1位 2021/11/24  表紙イラスト追加

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】

小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」  私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。  退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?  案の定、シャノーラはよく理解していなかった。  聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

妾の子だった転生勇者~魔力ゼロだと冷遇され悪役貴族の兄弟から虐められたので前世の知識を活かして努力していたら、回復魔術がぶっ壊れ性能になった

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
◆2024/05/31   HOTランキングで2位 ファンタジーランキング4位になりました! 第四回ファンタジーカップで21位になりました。皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!! 『公爵の子供なのに魔力なし』 『正妻や兄弟姉妹からも虐められる出来損ない』 『公爵になれない無能』 公爵と平民の間に生まれた主人公は、魔力がゼロだからという理由で無能と呼ばれ冷遇される。 だが実は子供の中身は転生者それもこの世界を救った勇者であり、自分と母親の身を守るために、主人公は魔法と剣術を極めることに。 『魔力ゼロのハズなのになぜ魔法を!?』 『ただの剣で魔法を斬っただと!?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ……?』 『あいつを無能と呼んだ奴の目は節穴か?』 やがて周囲を畏怖させるほどの貴公子として成長していく……元勇者の物語。

家族と婚約者に冷遇された令嬢は……でした

桜月雪兎
ファンタジー
アバント伯爵家の次女エリアンティーヌは伯爵の亡き第一夫人マリリンの一人娘。 彼女は第二夫人や義姉から嫌われており、父親からも疎まれており、実母についていた侍女や従者に義弟のフォルクス以外には冷たくされ、冷遇されている。 そんな中で婚約者である第一王子のバラモースに婚約破棄をされ、後釜に義姉が入ることになり、冤罪をかけられそうになる。 そこでエリアンティーヌの素性や両国の盟約の事が表に出たがエリアンティーヌは自身を蔑ろにしてきたフォルクス以外のアバント伯爵家に何の感情もなく、実母の実家に向かうことを決意する。 すると、予想外な事態に発展していった。 *作者都合のご都合主義な所がありますが、暖かく見ていただければと思います。

転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい

高木コン
ファンタジー
第一巻が発売されました! レンタル実装されました。 初めて読もうとしてくれている方、読み返そうとしてくれている方、大変お待たせ致しました。 書籍化にあたり、内容に一部齟齬が生じておりますことをご了承ください。 改題で〝で〟が取れたとお知らせしましたが、さらに改題となりました。 〝で〟は抜かれたまま、〝お詫びチートで〟と〝転生幼女は〟が入れ替わっております。 初期:【お詫びチートで転生幼女は異世界でごーいんぐまいうぇい】 ↓ 旧:【お詫びチートで転生幼女は異世界ごーいんぐまいうぇい】 ↓ 最新:【転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい】 読者の皆様、混乱させてしまい大変申し訳ありません。 ✂︎- - - - - - - -キリトリ- - - - - - - - - - - ――神様達の見栄の張り合いに巻き込まれて異世界へ  どっちが仕事出来るとかどうでもいい!  お詫びにいっぱいチートを貰ってオタクの夢溢れる異世界で楽しむことに。  グータラ三十路干物女から幼女へ転生。  だが目覚めた時状況がおかしい!。  神に会ったなんて記憶はないし、場所は……「森!?」  記憶を取り戻しチート使いつつ権力は拒否!(希望)  過保護な周りに見守られ、お世話されたりしてあげたり……  自ら面倒事に突っ込んでいったり、巻き込まれたり、流されたりといろいろやらかしつつも我が道をひた走る!  異世界で好きに生きていいと神様達から言質ももらい、冒険者を楽しみながらごーいんぐまいうぇい! ____________________ 1/6 hotに取り上げて頂きました! ありがとうございます! *お知らせは近況ボードにて。 *第一部完結済み。 異世界あるあるのよく有るチート物です。 携帯で書いていて、作者も携帯でヨコ読みで見ているため、改行など読みやすくするために頻繁に使っています。 逆に読みにくかったらごめんなさい。 ストーリーはゆっくりめです。 温かい目で見守っていただけると嬉しいです。

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

男爵令嬢が『無能』だなんて一体誰か言ったのか。 〜誰も無視できない小国を作りましょう。〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「たかが一男爵家の分際で、一々口を挟むなよ?」  そんな言葉を皮切りに、王太子殿下から色々と言われました。  曰く、「我が家は王族の温情で、辛うじて貴族をやれている」のだとか。  当然の事を言っただけだと思いますが、どうやら『でしゃばるな』という事らしいです。  そうですか。  ならばそのような温情、賜らなくとも結構ですよ?  私達、『領』から『国』になりますね?  これは、そんな感じで始まった異世界領地改革……ならぬ、建国&急成長物語。 ※現在、3日に一回更新です。

処理中です...