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三章 戦い続けるガーディアン
Ⅵ 霧に包まれる
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治癒に専念して二人の戦いを眺めていたゼノアは、あまりの速さに言葉を失い、ついつい治癒の手を止めてしまいそうになるほどであった。
ミゼルとレンザ。双方、俊足で相手を撹乱させ、死角から迫るも、避けられ、斬りつけ、また躱す。それらを繰り返した。
傍目には互角の斬り合いを見せているように見えるも、傷を負っているのはミゼルのみであった。
頬、肩、腕、足と。しかし小さな切り傷程度で、それ以上深い傷は無い。
「おいおい、躱して逃げて、そんなんじゃ俺に勝てねぇぞ!」
始めの斬り合いでミゼルが自分と相対する実力者と知ったときは焦りを覚えたものの、防戦一方でややレンザが勝っていると分かるや、嬉しくなって笑顔が定着する。
ただ、ミゼルが一向に涼しい表情を変えず、時折笑みが零れる余裕であった。
第三者が見れば気づく違和感だが、レンザは悦に浸りきって気付いていない。そのため、僅かな隙をつくも刃先がまるで届いていない攻撃を続けている事さえ、ミゼルの実力不足だと思い込んでいる。
「なんだなんだ? 無口になって逃げ回ってっけどよぉ! 結構いっぱいいっぱいなの丸わかりなんですけどぉぉ!」
連続した攻撃を躱し続けるミゼルは、隙を伺って魔力を籠めた刃を飛ばした。
まともに食らうと大怪我を負うと察したレンザは、刀に魔力を籠めて無理な体勢で受け止めた。
「うっ、ぐぅぅ……」
予想以上に威力が大きく、渾身の力を込めて刃を弾け飛ばした。
「……ふぅ。今のは合格点。澄まし顔でも挑発に苛ついたのバレバレだぜ。つーかさ、あんた俺の仲間になれよ。この昇格試練に勝つ」
「ようやくお前がどういう人間か分かりかけてきたよ」
「あぁ?」
「いやぁ、苦労した。魔力と気功を合わせた力、速度、一太刀一太刀の威力はまさに私より遙かに上だ。しかし立ち回り、足運び、刀の軌道など、何かのものまねかな? 頭に残る戦いの印象を再現しようと、雰囲気で行っているようだ。一言言わせて貰うなら無駄が多い」
図星をつかれ、レンザは言い返せない。
「何をもって”最強”と豪語しているかは分からんが、その最強と自惚れさせるのは並外れた気功と魔力だろ。違うか?」
「はっ。それが分かったからって何が出来るよ。現状、俺のほうがてめぇより強ぇんだぞ!」
ミゼルは可笑しくなった。
「ははは! これは傑作。お前は発言一つ一つで自身の無知を晒していると気付いていないのかな?」
「何言ってんだ?」
「今の発言で理解したよ。お前は転生した時点でその力を得ていた。どういう差別が生じたかは不明だが、それ故に魔力と気功の知識が乏しい」
「魔力も気功も人間に備わった力だろうが」
「気功はそうだ。生物から溢れ出る力そのもの。しかし魔力は少々解釈が違う。大雑把には気功同様、体内から溢れる力とされているが、ある詳しい者の間では、自然界の魔力が身体に浸透し、蓄え、自身の意思で使える力。術を使用するにあたり、精度、蓄積、感知、凝縮が重要視されているのは、内から発する力に付加をかけて身体を鍛えるのではなく、魔力が浸透する身体の筋道を強化させるものなのだそうだ」
レンザは退屈そうに拍手する。
「長々とご高説ありがと。だからって、てめぇが俺より強くなったわけじゃねぇから」
「全くもって愚かだな。まだ気付かないのか?」
咄嗟に、先ほどまでの刃が届かない攻撃に何かあると気づく。
全身を確認するも、斬られた様子も罠を張られた様子もない。
「こと剣術において実力はお前よりも数段上の私が、どうして一太刀も、かすり傷一つ付けられなかったと?」
ここまでの余裕、届かなかった刃先、魔力の話。これらの要素から一つの答えに気付く。
全身の魔力と気功の流れを感じると、劇的に魔力が弱くなっている。刀に力を込めるも貧弱である。
「何しやがった!」
「”魔力の筋”を切った。本当は手傷をかなり負わせようと思ったのだが、お前の動きがあまりにも速くて出来なかった。ここぞという時にお前が背後や横に回るから、もしや意図を読まれたのかもとヒヤヒヤしていた。しかし、運が良かっただけとは」
レンザは身体を震わせるほど怒り心頭となる。
「魔力の筋が損傷しようと月日が経てば回復する。まあ、約一年かそれ以上か。ある程度は覚悟するといい。が、私はそれまで悠長に待つ気はないよ。お前はとても危険だからね、ここで終わりにさせてもらう」
剣を構え、鋭く睨み付ける。
レンザは刀を構え直し、地面から大振りで切り上げた。
斬ったのは空中。空間の裂け目が徐々に広がりだした。
逃げられると判断したミゼルが突進するも、突如阻む力に合い、やがて飛ばされた。
渾身の抵抗か、まだ手があるのか、事情は不明だ。
「いいか、よく覚えとけ! てめぇは俺が必ず殺すからなぁ!」
着地して立ち上がったミゼルは剣を鞘に収めた。
「こちらの台詞だ」
「ああ?」
「この昇格試練の先、お前に生存の未来はない。どのような状況であれ、私が必ず殺す。……忘れるなよ」
力強い睨みに気圧されつつ、レンザは空間の裂け目の中へ消えていった。
レンザの気配は完全に消えた。
安堵し力の抜けたミゼルは、全速力で長距離を駆け抜けた走者のように腰を下ろした。
「ふぅぅ……。かなり疲れるなこれは」
遠くで観ていたゼノアが駆け寄ってくる姿を見つつ、ラドーリオと話をした。
「ミゼル無茶しすぎだよ。なんで最後に挑発したのさ」
「ははは。あれは本心さ。ああいった輩は許したくない。ゼノア殿を楽しみながら嬲り殺そうとした。まさしく悪人ではないか」
「そうだけどぉ……。あれだけ強いと今のミゼルじゃすぐに殺されるよ」
「そうなのだよ……。私もそろそろ自らを鍛える行動にでなければならないようだ」
話しの最中、ゼノアが辿り着いた。
「無事か!」
「ああ。ご覧の通りだ」
腰掛けて若干弱々しい魔力から平気ではないことが窺える。
「すまない。私が不甲斐ないばかりにこのような……」
「いや、奴は例外なガーディアンだ。軽んじて見るのは命取りになる」
そんな存在と対峙し退けたミゼルの強さも優秀と思わせる。
「そんな奴と同等か。傍目に見ても向こうが逃げたように窺えたが、ミゼル殿も相当な強さではないか。やがて来るゾアの災禍を勝ち抜くに頼もしい味方だ」
「あー……、喜んで頂いている所申し訳ないのだが……。もう今の戦いは出来ないよ」
ゼノアの表情が疑問を抱いたものと変わる。
「どういうことですか?」
「あれは、所謂、切り札というやつだ。もっと後で使おうと考えていたのだが。思い通りに行かないものだ。あのような強者がいるとは油断したよ」
本当かどうか、ゼノアはラドーリオに訊くも、「本当だよ」と返された。
「では、また攻められたら……」
「太刀打ちできないだろう。しかし、魔力の筋は斬ったから一年かそれ以上か。あのような人知を超える強さは発揮出来ないだろうね」
「それを見越し、戦っていたので?」
体力が少し回復したミゼルは徐に立ち上がる。
「言っただろ切り札を使ったと。一時凌ぎでしかない戦力向上に甘んじていては、近い将来足下を救われてしまう。力があると悦に浸るのはとても危険だ。現にあの強さでも奴を仕留める事が出来なかった。いつ如何なる時も先を見越して最良の手を考えなければ」
言葉が身に染み、ゼノアは頭を下げた。
「重ねて感謝する。第六師団長という驕りがこのような事態を招いた。今後とも精進」
「おっと、反省は今ではないよ。奴の存在がゾアの災禍に関連する異変の一つだとすると、なかなかに頭が痛い」
「あの黒い人もあるしね」ラドーリオが加えて告げた。
「黒い人? それは……」
「ああ、私をこの地へ導いた者だ」
ゼノアは思い出した。本日、ミゼルはリネスの所へ向かっていたと。
「そういえば今日はグメスの魔女のところへ。ここへはどういった絡繰りで?」
「おそらく空間術の類いだろう。リネス殿と薬に関する実験をしている時、奴が現われたのだよ」
それは突然、何も無い、入り口が何処にも無い所に、黒い人間が現われた。
”黒い”というのは一部比喩である。影のあるところに現われ、顔はより黒い影に覆われて見えない人間であったという。
「無理やり連れてこられたと?」
「いや、選択を迫られたよ。『貴重な人材を失いながらも薬学に興じる』か『貴公の食指は軽快に動くだろうが死と隣接した地へ』。どちらかを選べ、とね」
それでこの地へ転移させられたのだと分かった。
「当然性分が抑えきれずに後者を選んだが、ただただ不快な思いをして切り札を失ったに過ぎない。まだなにかあるのやらと考えてはいるのだが」
「しかし私は助かった。正直死を覚悟した。出来るならジェイクを探し、リシャの泉の開放に協力してほしいところだ」
ミゼルは口にしなかったが、黒い人が補足した言葉を思い出す。
『複雑に絡み合う前世の縁。知る気はないか?』と。
まだ何かある。とてもこの程度ではないと内心で思えて仕方なかった。
話の最中、緑色の霧がバーデラ方向に現われ、みるみる近づいてくる。
「なんだアレは?!」
ゼノアは剣の柄に手をかけて構えると、霧の勢いはすぐ手前で止まる。
ミゼルは特定加護をラドーリオに使ってほしいと提案する。
ラドーリオの力も格上げし、守護神だけではなく、ミゼルと接点がある者達を探すに役立つ力を得ていた。
「ミゼル!? 大変な事になるかもしれない」
事情を訊くと、ミゼルは霧の中へ進む決心を固める。
ゼノアも同行を提案するも、「ここからは私でなくては面倒だ」と返される。
仕方なく、ゼノアはリシャの泉へ行くこととなった。
霧に埋もれ、ミゼルの姿が見えなくなると瞬く間に霧が消えた。
ミゼルとレンザ。双方、俊足で相手を撹乱させ、死角から迫るも、避けられ、斬りつけ、また躱す。それらを繰り返した。
傍目には互角の斬り合いを見せているように見えるも、傷を負っているのはミゼルのみであった。
頬、肩、腕、足と。しかし小さな切り傷程度で、それ以上深い傷は無い。
「おいおい、躱して逃げて、そんなんじゃ俺に勝てねぇぞ!」
始めの斬り合いでミゼルが自分と相対する実力者と知ったときは焦りを覚えたものの、防戦一方でややレンザが勝っていると分かるや、嬉しくなって笑顔が定着する。
ただ、ミゼルが一向に涼しい表情を変えず、時折笑みが零れる余裕であった。
第三者が見れば気づく違和感だが、レンザは悦に浸りきって気付いていない。そのため、僅かな隙をつくも刃先がまるで届いていない攻撃を続けている事さえ、ミゼルの実力不足だと思い込んでいる。
「なんだなんだ? 無口になって逃げ回ってっけどよぉ! 結構いっぱいいっぱいなの丸わかりなんですけどぉぉ!」
連続した攻撃を躱し続けるミゼルは、隙を伺って魔力を籠めた刃を飛ばした。
まともに食らうと大怪我を負うと察したレンザは、刀に魔力を籠めて無理な体勢で受け止めた。
「うっ、ぐぅぅ……」
予想以上に威力が大きく、渾身の力を込めて刃を弾け飛ばした。
「……ふぅ。今のは合格点。澄まし顔でも挑発に苛ついたのバレバレだぜ。つーかさ、あんた俺の仲間になれよ。この昇格試練に勝つ」
「ようやくお前がどういう人間か分かりかけてきたよ」
「あぁ?」
「いやぁ、苦労した。魔力と気功を合わせた力、速度、一太刀一太刀の威力はまさに私より遙かに上だ。しかし立ち回り、足運び、刀の軌道など、何かのものまねかな? 頭に残る戦いの印象を再現しようと、雰囲気で行っているようだ。一言言わせて貰うなら無駄が多い」
図星をつかれ、レンザは言い返せない。
「何をもって”最強”と豪語しているかは分からんが、その最強と自惚れさせるのは並外れた気功と魔力だろ。違うか?」
「はっ。それが分かったからって何が出来るよ。現状、俺のほうがてめぇより強ぇんだぞ!」
ミゼルは可笑しくなった。
「ははは! これは傑作。お前は発言一つ一つで自身の無知を晒していると気付いていないのかな?」
「何言ってんだ?」
「今の発言で理解したよ。お前は転生した時点でその力を得ていた。どういう差別が生じたかは不明だが、それ故に魔力と気功の知識が乏しい」
「魔力も気功も人間に備わった力だろうが」
「気功はそうだ。生物から溢れ出る力そのもの。しかし魔力は少々解釈が違う。大雑把には気功同様、体内から溢れる力とされているが、ある詳しい者の間では、自然界の魔力が身体に浸透し、蓄え、自身の意思で使える力。術を使用するにあたり、精度、蓄積、感知、凝縮が重要視されているのは、内から発する力に付加をかけて身体を鍛えるのではなく、魔力が浸透する身体の筋道を強化させるものなのだそうだ」
レンザは退屈そうに拍手する。
「長々とご高説ありがと。だからって、てめぇが俺より強くなったわけじゃねぇから」
「全くもって愚かだな。まだ気付かないのか?」
咄嗟に、先ほどまでの刃が届かない攻撃に何かあると気づく。
全身を確認するも、斬られた様子も罠を張られた様子もない。
「こと剣術において実力はお前よりも数段上の私が、どうして一太刀も、かすり傷一つ付けられなかったと?」
ここまでの余裕、届かなかった刃先、魔力の話。これらの要素から一つの答えに気付く。
全身の魔力と気功の流れを感じると、劇的に魔力が弱くなっている。刀に力を込めるも貧弱である。
「何しやがった!」
「”魔力の筋”を切った。本当は手傷をかなり負わせようと思ったのだが、お前の動きがあまりにも速くて出来なかった。ここぞという時にお前が背後や横に回るから、もしや意図を読まれたのかもとヒヤヒヤしていた。しかし、運が良かっただけとは」
レンザは身体を震わせるほど怒り心頭となる。
「魔力の筋が損傷しようと月日が経てば回復する。まあ、約一年かそれ以上か。ある程度は覚悟するといい。が、私はそれまで悠長に待つ気はないよ。お前はとても危険だからね、ここで終わりにさせてもらう」
剣を構え、鋭く睨み付ける。
レンザは刀を構え直し、地面から大振りで切り上げた。
斬ったのは空中。空間の裂け目が徐々に広がりだした。
逃げられると判断したミゼルが突進するも、突如阻む力に合い、やがて飛ばされた。
渾身の抵抗か、まだ手があるのか、事情は不明だ。
「いいか、よく覚えとけ! てめぇは俺が必ず殺すからなぁ!」
着地して立ち上がったミゼルは剣を鞘に収めた。
「こちらの台詞だ」
「ああ?」
「この昇格試練の先、お前に生存の未来はない。どのような状況であれ、私が必ず殺す。……忘れるなよ」
力強い睨みに気圧されつつ、レンザは空間の裂け目の中へ消えていった。
レンザの気配は完全に消えた。
安堵し力の抜けたミゼルは、全速力で長距離を駆け抜けた走者のように腰を下ろした。
「ふぅぅ……。かなり疲れるなこれは」
遠くで観ていたゼノアが駆け寄ってくる姿を見つつ、ラドーリオと話をした。
「ミゼル無茶しすぎだよ。なんで最後に挑発したのさ」
「ははは。あれは本心さ。ああいった輩は許したくない。ゼノア殿を楽しみながら嬲り殺そうとした。まさしく悪人ではないか」
「そうだけどぉ……。あれだけ強いと今のミゼルじゃすぐに殺されるよ」
「そうなのだよ……。私もそろそろ自らを鍛える行動にでなければならないようだ」
話しの最中、ゼノアが辿り着いた。
「無事か!」
「ああ。ご覧の通りだ」
腰掛けて若干弱々しい魔力から平気ではないことが窺える。
「すまない。私が不甲斐ないばかりにこのような……」
「いや、奴は例外なガーディアンだ。軽んじて見るのは命取りになる」
そんな存在と対峙し退けたミゼルの強さも優秀と思わせる。
「そんな奴と同等か。傍目に見ても向こうが逃げたように窺えたが、ミゼル殿も相当な強さではないか。やがて来るゾアの災禍を勝ち抜くに頼もしい味方だ」
「あー……、喜んで頂いている所申し訳ないのだが……。もう今の戦いは出来ないよ」
ゼノアの表情が疑問を抱いたものと変わる。
「どういうことですか?」
「あれは、所謂、切り札というやつだ。もっと後で使おうと考えていたのだが。思い通りに行かないものだ。あのような強者がいるとは油断したよ」
本当かどうか、ゼノアはラドーリオに訊くも、「本当だよ」と返された。
「では、また攻められたら……」
「太刀打ちできないだろう。しかし、魔力の筋は斬ったから一年かそれ以上か。あのような人知を超える強さは発揮出来ないだろうね」
「それを見越し、戦っていたので?」
体力が少し回復したミゼルは徐に立ち上がる。
「言っただろ切り札を使ったと。一時凌ぎでしかない戦力向上に甘んじていては、近い将来足下を救われてしまう。力があると悦に浸るのはとても危険だ。現にあの強さでも奴を仕留める事が出来なかった。いつ如何なる時も先を見越して最良の手を考えなければ」
言葉が身に染み、ゼノアは頭を下げた。
「重ねて感謝する。第六師団長という驕りがこのような事態を招いた。今後とも精進」
「おっと、反省は今ではないよ。奴の存在がゾアの災禍に関連する異変の一つだとすると、なかなかに頭が痛い」
「あの黒い人もあるしね」ラドーリオが加えて告げた。
「黒い人? それは……」
「ああ、私をこの地へ導いた者だ」
ゼノアは思い出した。本日、ミゼルはリネスの所へ向かっていたと。
「そういえば今日はグメスの魔女のところへ。ここへはどういった絡繰りで?」
「おそらく空間術の類いだろう。リネス殿と薬に関する実験をしている時、奴が現われたのだよ」
それは突然、何も無い、入り口が何処にも無い所に、黒い人間が現われた。
”黒い”というのは一部比喩である。影のあるところに現われ、顔はより黒い影に覆われて見えない人間であったという。
「無理やり連れてこられたと?」
「いや、選択を迫られたよ。『貴重な人材を失いながらも薬学に興じる』か『貴公の食指は軽快に動くだろうが死と隣接した地へ』。どちらかを選べ、とね」
それでこの地へ転移させられたのだと分かった。
「当然性分が抑えきれずに後者を選んだが、ただただ不快な思いをして切り札を失ったに過ぎない。まだなにかあるのやらと考えてはいるのだが」
「しかし私は助かった。正直死を覚悟した。出来るならジェイクを探し、リシャの泉の開放に協力してほしいところだ」
ミゼルは口にしなかったが、黒い人が補足した言葉を思い出す。
『複雑に絡み合う前世の縁。知る気はないか?』と。
まだ何かある。とてもこの程度ではないと内心で思えて仕方なかった。
話の最中、緑色の霧がバーデラ方向に現われ、みるみる近づいてくる。
「なんだアレは?!」
ゼノアは剣の柄に手をかけて構えると、霧の勢いはすぐ手前で止まる。
ミゼルは特定加護をラドーリオに使ってほしいと提案する。
ラドーリオの力も格上げし、守護神だけではなく、ミゼルと接点がある者達を探すに役立つ力を得ていた。
「ミゼル!? 大変な事になるかもしれない」
事情を訊くと、ミゼルは霧の中へ進む決心を固める。
ゼノアも同行を提案するも、「ここからは私でなくては面倒だ」と返される。
仕方なく、ゼノアはリシャの泉へ行くこととなった。
霧に埋もれ、ミゼルの姿が見えなくなると瞬く間に霧が消えた。
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