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第2章 カリハリアス帝国
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しおりを挟む「確かに美味しそうではあるが、そのチビはエサじゃない」
フレディの言葉に、カルメンはガッカリしたようだった。手の中にいるマノミーを一瞥して、肩を落とす。
「そうなの?」
「ああ、残念なことに。そいつは、セレニティのペットだ」
「ペットじゃなくて、友達よ」
セレニティは思わず反論したが、一番に反応しそうなマノミーは、フレディの声が聞こえていないようであった。ポヤポヤとカルメンの顔を見つめている。
「何て可愛いんだろう……。こんなに可愛い子、カクレクマノミにはいなかったよ。みんな同じ顔で、真っ赤な体だし……」
何やらブツブツと呟きながら、マノミーはカルメンの手の中で体をくねらせた。奇っ怪な動きをする小魚に、カルメンは思わずマノミーを放り出す。
「美味しそうと思ったけれど、やっぱりいらないわ。お腹壊しそうだもの」
「ああ、止めとけ」
そんな兄妹二人の言葉など、耳に入っていないのか、マノミーは恥ずかしそうにセレニティの影に身を潜ませた。
「ねぇ、セレニティ」
「なに?」
「カルメンって凄く可愛いね」
セレニティの黄金の髪を体に巻き付けて、うっとりと宙を見つめるマノミー。
ーーやだ、マノミーったら。カルメンに恋をしたのかしら。
小魚がサメに?恋?マノミーの様子は、見るからに恋に浮かれる男そのもの。姿は小魚だが、その瞳は熱が篭った情熱的な色を宿しているように見えなくもない。ーー人間から見れば、白目に黒い点という魚の目なのだが、人魚になったセレニティには、そう見えた。
「お姉様!どうぞ、こちらにいらして下さいな。お兄様の事は勿論好きですが、昔から姉が欲しかったのです」
ギュッとセレニティの手を握って、嬉しそうに頬を紅潮させるカルメンは天使のようだ。マノミーも、そう感じたらしく、もぞもぞと身じろぎしている。まぁ、彼にはカルメンの背びれが、天使の羽にでも見えているのだろう。
「まぁ、嬉しいわ。私も、あなたのような可愛い妹が欲しかったのよ」
セレニティは、生意気な義妹のアンナの事を頭に浮かべた。昔からワガママで、癇癪持ちの彼女は、可愛いとは言えない存在だった。やってもいない事をでっち上げ、ベリルに言いつけて、セレニティが怒られるのを、いつも影から見て笑っている。そんな子だった。
それに比べて、カルメンは素直な少女だ。セレニティの言葉に頬を緩ませて、スキップでもしそうな程、憧れの姉という存在に浮かれている。
「カルメンと仲良くしてやってくれ。アイツは、カリハリアスにしては穏やかな気性のせいか、貴族の子女達の中で浮いている」
コソッと囁くように言うフレディの顔は、妹を心から案じる兄の表情であった。
「学び舎でも、周りと合わせる事に苦労しているらしくてな。王女だから、堂々と従わせればいいのに、アイツにはそれがどうにも出来ないらしい」
俺様何様なフレディとは違い、カルメンは繊細で大人しい子なのかもしれない。いや、だがセレニティの目には、明るく元気な少女に映ったのだが……。カリハリアスの女性基準では、違うのだろうか?
「大丈夫よ。私もカルメンと、仲良くなりたいと思ったから。それに、私も友達がいなかったもの。だから本当に嬉しいわ」
城に閉じ込められいたセレニティに、友達なんてものが出来るわけがなかった。それに、義母ベリルを恐れて、セレニティに近付く令嬢もいなかったのだ。
セレニティの返答に、フレディは安心したように微笑んだ。彼は思った以上に、妹思いらしい。珍しく、偉そうぶっていない自然な笑みに、セレニティもつられて笑みを返した。
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