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第1章 銀色のサメ
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しおりを挟む大空に向かって手を伸ばせば、肌に当たる心地よい風を感じる。
鼻先を擽る、潮の匂い。鼓膜を刺激する、心地よい波の音。少女は唇を緩ませながら、窓の外に広がる海を眺めていた。
たっぷりとした豊かな金髪が、太陽の光によりキラキラと輝く。白い小さな顔に嵌め込まれた、サファイアの瞳。桜貝のような、淡い色味の唇は、ふっくらと瑞々しい。クリーム色の愛らしいドレスに身を包んだ彼女の名は、セレニティ・ミア・アスティル。美しい海に囲まれたアスティル王国の第一王女だ。
「セレニティ」
聞き慣れた声音に、セレニティはビクリと肩を跳ねさせる。窓から乗り出していた身を慌てて引っ込めると、恐る恐ると振り向いた。
そこには、彼女の淡い金髪よりも濃い色味の髪を持ち、顎髭を生やした男が、気難しそうな顔をして立っている。
「ご、ごきげんよう。お父様!」
「王女が、そのように大きな声を出すでない。はしたないと思われる」
厳しい父の一言に、セレニティは思わず顔を顰めそうになる。
「ごめんなさい、お父様。それよりも、どうしてここに?王であるお父様は、お忙しい身でしょうに。休憩でしょうか。それならーー……」
ペラペラと小鳥のように言葉を紡ぐセレニティに、父王であるオスカーは、ついには厳しい顔で眉を寄せた。
「セレニティ!誤魔化そうとしても無駄だ。お前はまた、海を眺めていただろう」
セレニティはグッと唇を閉じて、不満そうに目尻を下げた。
「何度言えば、わかるんだ?何の為に、お前の部屋の窓数を少なくしていると思う?お前はーー……」
「わかっているわよ、お父様。海を見てはならない。近付いてはならない。関わってはならない……でしょう?」
一つ一つ、指で数えながら言ってみせた彼女に、オスカーは溜め息を漏らした。
「わかっていながら、何故……」
「だって、お父様。理由がなく禁じられても、納得がいかないわ」
そう言って、セレニティは窓の外へと顔を向ける。浅瀬のエメラルドグリーンから、コバルトブルーへのグラデーションが美しい海。比較的、浅いその場所は、波の動きも緩やかだ。それは、城の周りを囲う珊瑚礁のおかげだろう。珊瑚礁が、荒れ狂う海との境界線となり、城の周りを穏やかな海へと変えているのだ。
だが、セレニティは、珊瑚礁の守りよりもずっと奥ーーネイビーブルーに染まった海も美しいと思っていた。荒々しい波が、岩を削り、芸術的な自然のオブジェを作り上げる。深い深い紺色の海の底など、太陽の光を持ってしても、窺うことなど出来やしない。その深淵の海に、何故だか強く惹かれるのだ。
「セレニティ、海は危険だ」
有無を言わせないオスカーの声に、セレニティは唇を噛む。融通の効かない父の態度に、こんこんと怒りが湧き起こる。あまりに理不尽ではないか。小さい頃は、そうなのかと我慢してきたが、もう我慢ならない。
「アンナは、海で遊んでいるじゃない」
一つ口から零れれば、固く閉じていた栓も、開いてしまう。今まで我慢してきた思いが、次々と溢れ出した。
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