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甘い果実
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「フィオラ…。どうか泣き止んでくれ。」
公爵家へと帰る途中、俺は馬車の中でもフィオラを離せずにいた。
彼女は何も言わずに俯いたまま俺の膝の上に乗っている。
そんなに傷ついてしまったのだろうか。
──やはり殺しておくべきだった。
今更ながら後悔してしまう。
王に任せるのではなく俺がこの手で殺すべきだった。
「私は…自分勝手な女ですわ。」
自嘲したような声に、俺は思わず腕の中にいるフィオラを凝視した。しかし彼女は俯いているため表情は分からない。
フィオラは決して自分勝手な女ではない。むしろ俺の方が自分勝手な行動を繰り返している。
彼女の顎を掴んで目線が合うように顔を上げた。彼女は俺の手を拒むこともしない。
自虐的になっているのだろうか。そうして出会った時のように全てを受け入れて、自分の心を守ろうとしているのだろうか…。
フィオラは泣いてはいないものの、その瞳は未だ潤んでいていた。いつもの笑顔の面影はどこにもなく、ただ女神が悲しんでいるようにしか見えなかった。
こんな時でも美しいと思えてしまう俺は重症だ。
「…なぜそう思う?」
一体自分自身のどこに勝手な要素を感じたのか気になって、俺は優しい口調でフィオラに問うた。
彼女は悲しそうに眉を下げ、不安に瞳を揺らしていた。
話すことを躊躇っているようだ。しかし話してもらわないと俺は彼女の傷を癒すことは出来ない。
フィオラがそれを拒んでも、俺は無理矢理にでも彼女の心に入り込みたかった。
出なければきっと彼女は、また全てを諦める。
俺に甘い笑顔を向けてくれることもなくなってしまう。
──本当に俺は、どこまでいっても自分勝手な男だ。
こんな時ですらフィオラの愛を乞うのだから。
「アリスが...レイバン様と婚姻すると言った時...私、酷いことを考えてしまいましたわ。」
酷いこと?
少なくとも俺の考える酷いことよりはマシな考えだろうが、彼女の考える酷いこととは何なのだろうか。
俺の疑問とは裏腹に、フィオラはまだ伝えることを躊躇っている様で中々口を割ろうとはしない。
「フィオラ…。俺はどんなあなたも愛してる。だから教えてくれないか?」
彼女の不安をかき消すように、泣き止んでからまだ赤みを帯びている頬に口付けを落とした。
たとえどれだけフィオラが極悪非道な人間だったとしても、俺は絶対に離さない。
──フィオラが逃げないように、2人で堕ちてしまえばいい。
彼女はまだ不安そうな瞳をしていたが、覚悟を決めたようにゆっくりと口を開いた。
「私、レイバン様と離れ離れになってしまうと思った時…凄く嫌な気持ちになったんです。レイバン様の意思を尊重するべきなのに、私のだけのお側にいて欲しいと思ったんです。」
…は?
フィオラは本気で言っているのだろうか。
──それは、嫉妬じゃないか。
彼女の瞳に嘘は感じられない。やはり本気で言っているようだ。
「フィオラ。」
彼女の温もりを確かめるように、この幸せを実感するために彼女を抱き締めた。
嫉妬と独占欲にまみれた言葉は、確かに俺を困らせる酷い言葉だ。
──それは俺を愛してるが故に起こる感情じゃないのか。
幸せで満たされた。今までこんなにも喜びを感じたことは無い。
「レイバン様…?」
フィオラは困惑した様子で、けれども優しく俺の背中に手を回してきた。
俺はフィオラの顔が見れるように彼女の体を抱き寄せる。
「フィオラ。それは…俺を愛してるということじゃないか。」
自然と頬が上がってしまうのがわかる。
目の前で驚いた顔をしている彼女が愛おしくて仕方がない。
彼女自身が気付くまでは何も言わないでいたが、こうも無自覚ならばと伝えてしまった。
「これが…愛…。」
まるでその感情を噛み締めるように、フィオラはぽつりと呟いた。
きっと考えているのだろう。知識としての愛と、自分が今感じている感情を比べて。
「フィオラ。愛してる。」
フィオラの頬を撫でながらそう伝える。
彼女は俺の言葉に何かを感じたようだ。目をきらきらさせて、幸せに満ちた笑顔をこちらに向けた。
どうやら答えが出たらしい。
「私も、レイバン様を愛しています。」
彼女の笑顔は今まで見たどの芸術品よりも美しかった。
思わず息をすることも忘れてしまうほどに。
──嗚呼、絶対に。フィオラをあらゆるものから守らなければ。
俺だけの女神。
もう誰も照らせないように、俺の闇で包んでしまおう。2人で共に堕ちてしまえば、彼女は逃げられない。
絶対に逃がさない。
「何を犠牲にしても、死んでも愛すと誓おう。」
公爵家へと帰る途中、俺は馬車の中でもフィオラを離せずにいた。
彼女は何も言わずに俯いたまま俺の膝の上に乗っている。
そんなに傷ついてしまったのだろうか。
──やはり殺しておくべきだった。
今更ながら後悔してしまう。
王に任せるのではなく俺がこの手で殺すべきだった。
「私は…自分勝手な女ですわ。」
自嘲したような声に、俺は思わず腕の中にいるフィオラを凝視した。しかし彼女は俯いているため表情は分からない。
フィオラは決して自分勝手な女ではない。むしろ俺の方が自分勝手な行動を繰り返している。
彼女の顎を掴んで目線が合うように顔を上げた。彼女は俺の手を拒むこともしない。
自虐的になっているのだろうか。そうして出会った時のように全てを受け入れて、自分の心を守ろうとしているのだろうか…。
フィオラは泣いてはいないものの、その瞳は未だ潤んでいていた。いつもの笑顔の面影はどこにもなく、ただ女神が悲しんでいるようにしか見えなかった。
こんな時でも美しいと思えてしまう俺は重症だ。
「…なぜそう思う?」
一体自分自身のどこに勝手な要素を感じたのか気になって、俺は優しい口調でフィオラに問うた。
彼女は悲しそうに眉を下げ、不安に瞳を揺らしていた。
話すことを躊躇っているようだ。しかし話してもらわないと俺は彼女の傷を癒すことは出来ない。
フィオラがそれを拒んでも、俺は無理矢理にでも彼女の心に入り込みたかった。
出なければきっと彼女は、また全てを諦める。
俺に甘い笑顔を向けてくれることもなくなってしまう。
──本当に俺は、どこまでいっても自分勝手な男だ。
こんな時ですらフィオラの愛を乞うのだから。
「アリスが...レイバン様と婚姻すると言った時...私、酷いことを考えてしまいましたわ。」
酷いこと?
少なくとも俺の考える酷いことよりはマシな考えだろうが、彼女の考える酷いこととは何なのだろうか。
俺の疑問とは裏腹に、フィオラはまだ伝えることを躊躇っている様で中々口を割ろうとはしない。
「フィオラ…。俺はどんなあなたも愛してる。だから教えてくれないか?」
彼女の不安をかき消すように、泣き止んでからまだ赤みを帯びている頬に口付けを落とした。
たとえどれだけフィオラが極悪非道な人間だったとしても、俺は絶対に離さない。
──フィオラが逃げないように、2人で堕ちてしまえばいい。
彼女はまだ不安そうな瞳をしていたが、覚悟を決めたようにゆっくりと口を開いた。
「私、レイバン様と離れ離れになってしまうと思った時…凄く嫌な気持ちになったんです。レイバン様の意思を尊重するべきなのに、私のだけのお側にいて欲しいと思ったんです。」
…は?
フィオラは本気で言っているのだろうか。
──それは、嫉妬じゃないか。
彼女の瞳に嘘は感じられない。やはり本気で言っているようだ。
「フィオラ。」
彼女の温もりを確かめるように、この幸せを実感するために彼女を抱き締めた。
嫉妬と独占欲にまみれた言葉は、確かに俺を困らせる酷い言葉だ。
──それは俺を愛してるが故に起こる感情じゃないのか。
幸せで満たされた。今までこんなにも喜びを感じたことは無い。
「レイバン様…?」
フィオラは困惑した様子で、けれども優しく俺の背中に手を回してきた。
俺はフィオラの顔が見れるように彼女の体を抱き寄せる。
「フィオラ。それは…俺を愛してるということじゃないか。」
自然と頬が上がってしまうのがわかる。
目の前で驚いた顔をしている彼女が愛おしくて仕方がない。
彼女自身が気付くまでは何も言わないでいたが、こうも無自覚ならばと伝えてしまった。
「これが…愛…。」
まるでその感情を噛み締めるように、フィオラはぽつりと呟いた。
きっと考えているのだろう。知識としての愛と、自分が今感じている感情を比べて。
「フィオラ。愛してる。」
フィオラの頬を撫でながらそう伝える。
彼女は俺の言葉に何かを感じたようだ。目をきらきらさせて、幸せに満ちた笑顔をこちらに向けた。
どうやら答えが出たらしい。
「私も、レイバン様を愛しています。」
彼女の笑顔は今まで見たどの芸術品よりも美しかった。
思わず息をすることも忘れてしまうほどに。
──嗚呼、絶対に。フィオラをあらゆるものから守らなければ。
俺だけの女神。
もう誰も照らせないように、俺の闇で包んでしまおう。2人で共に堕ちてしまえば、彼女は逃げられない。
絶対に逃がさない。
「何を犠牲にしても、死んでも愛すと誓おう。」
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