婚約破棄?私、貴方の婚約者ではありませんけれど

oro

文字の大きさ
1 / 4

婚約破棄

しおりを挟む
「アイリーン・ヒメネス!私は今ここで婚約を破棄する!」

今宵王宮にて行われている婚約パーティーで、突然ステージに立った第1王子はそう高らかに宣言した。
その会場にいた人間は、王子を除く皆が突然のことに困惑する。なぜなら王子の婚約破棄だなんて、パーティーの予定になかったからだ。
第1王子…アレックス・バークは見た目こそ王族に相応しいものの、その性格や能力は決して褒められたものではない。
周囲の人間はステージ上に立つ殿下と、名前を呼ばれた本日の主役、公爵令嬢…アイリーン・ヒメネスを見るものとで二分された。

中小国であるこの国の唯一の公爵家。国交を担うアイリーンの家は、王族間の橋渡し役も行っていた。特に最近は隣国の大国との関係を深めている。
そんな他国との繋がりも強いヒメネス公爵家の一人娘、アイリーン。
目付きは多少鋭いものの、容姿端麗な彼女はまるで天から降りてきた女神のようだと評されていた。
そんな彼女は感情の読めない笑顔を浮かべたままこてりと小首を傾げる。
なぜ自分の名が呼ばれたのか心当たりがなかったからだ。

「あらあらそれは…おめでとうございます。」

とりあえず祝福の言葉を口にしたものの、おめでとうという言葉がふさわしいのかは分からなかった。そしてその疑問があったからか、語尾の音が少しだけ高くなってしまう。
今この場で起きている状況を周囲の人間は愚か、アイリーンでさえ理解出来ずにいた。
だからこそ当たり障りのない言葉をかけたのだが、どうやらアレックスは気に入らなかったらしい。
怒りと憎しみに顔を歪め、アイリーンのことを睨みつける。

「この私が婚約破棄をすると言うのに、随分と余裕そうだな。」

──余裕も何も…。わたくしに関係の無いことに気を乱す筈ありませんのに。

アイリーンは美しい笑顔を浮かべたまま、心の中でそう毒を吐いた。彼女は自分に害のない者には分け隔てなく優しいが、自分に害を及ぼす者には容赦がない。そして今この状況は、アイリーンにとって害でしかなかった。

「いくらおめでたい話といえど、私には関係の無い話ですもの。」

アイリーンも婚約破棄が世間一般から見ておめでたいとは到底思われないことは理解している。しかしこんな大衆の面前で声高々にアレックスが宣言する以上、それは喜ばしいことなのだろうと判断した。
アイリーンの言葉に、アレックスは顔を真っ赤にして怒りを露わにした。その顔はまるで茹でられたタコのようで、アイリーンは扇の影でクスリと笑う。
馬鹿にされているとも知らないアレックスは怒り任せに叫んだ。

「関係ないだと…!?私と貴様の婚約破棄だぞ!どこまで私を愚弄する気だ!」

アレックスとアイリーンの婚約破棄。
勿論アイリーンにアレックスと婚約した記憶はない。
しかし聡明な彼女はこの状況をすぐに理解すると、「あらあら。」とまるで愉快な玩具を見つけた子供のように微笑んだ。といっても、その笑みは子供のように無邪気なものでは無いのだが。

──きっと殿下は私の婚約者が誰なのか知らないのだわ。

そう仮定した上で、アイリーンの推測はこうだ。
本日は我が国を誇る公爵家の一人娘、アイリーンの婚約を祝したパーティーが開かれる。そしてその会場は王宮。つまり彼女と同等か、それ以上の身分の人間が婚約相手だとアレックスは予想する。
この国においてヒメネス公爵家よりも力を持つのは王族のみ。つまり、今宵アイリーンと婚約するのは第1王子であるアレックスしかいないと。
アレックスはそう考えたのだ。

これなら筋が通ってはいるが…もしこのことが事実だとすれば、彼はあまりにも王の資質が欠けている。
しかしそんなことはアイリーンに関係なかった。
何故なら彼女が婚約した相手はこの国の人間では無いから。
面白い余興であると、彼女はにやりと笑みを濃くする。アイリーンの怪しい光を宿す瞳に気付くものはそう居ない。
もはやアレックスは蛇に巻き付かれたカエルのような状況なのだが、本人はそれを理解していないようだった。

「私と殿下の婚約…ですか。ええ、ええ、喜んで了承致しましょう。」

クスクスと微笑みながらそう述べるアイリーン。
彼女の笑顔は妖艶で、見るもの全てを魅了する。
勿論アレックスも例外ではなく、頬を赤く染めてフン!と鼻を鳴らした。

「私の婚約者は既に男爵令嬢のソフィアと決まっている。…が、しかし彼女だけで王妃の仕事をこなすことは難しいだろう。だから特別に、時期国王の命で貴様を側室に入れてやろう。」

「まぁ。」

──我が公爵家がなければ他国とまともな外交も出来ないような小国の王族風情が、私を側室にするなんて。

アイリーンは笑みを絶やさぬまま、おめでたい頭をしたアレックスのことを見つめていた。
この国において最重要な存在であるヒメネス公爵家が、どこぞの馬の骨とも知らない男爵家の令嬢以下の扱いを受けることに驚いたからだ。
それを何と勘違いしたのか、アレックスは得意げな表情になっている。まるでアイリーンが断るはずがないと確信しているかのように。
だからこそ、彼女の次の言葉はアレックスにとって予想外のものだった。

「残念ですが…私には側室など務まりませんわ。」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。

秋月一花
恋愛
「すまないね、レディ。僕には愛しい婚約者がいるんだ。そんなに見つめられても、君とデートすることすら出来ないんだ」 「え? 私、あなたのことを見つめていませんけれど……?」 「なにを言っているんだい、さっきから熱い視線をむけていたじゃないかっ」 「あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です」  あなたの護衛を見つめていました。だって好きなのだもの。見つめるくらいは許して欲しい。恋人になりたいなんて身分違いのことを考えないから、それだけはどうか。 「……やっぱり今日も格好いいわ、ライナルト様」  うっとりと呟く私に、ライナルト様はぎょっとしたような表情を浮かべて――それから、 「――俺のことが怖くないのか?」  と話し掛けられちゃった! これはライナルト様とお話しするチャンスなのでは?  よーし、せめてお友達になれるようにがんばろう!

婚約者の元恋人が復縁を望んでいるので、婚約破棄してお返しします。

coco
恋愛
「彼を返して!」 婚約者の元恋人は、復縁を望んでいる様だ。 彼も、まんざらではないらしい。 そういうことなら、婚約破棄してお返ししますね。 でも、後から要らないと言うのは無しですから。 あなたは、どんな彼でも愛せるんでしょ─?

婚約者はメイドにご執心、婚約破棄して私を家から追い出したいそうです。

coco
恋愛
「婚約破棄だ、この家を出て行け!」 私の婚約者は、メイドにご執心だ。 どうやらこの2人は、特別な関係にあるらしい。 2人が結ばれる為には、私が邪魔なのね…。 でもそうは言うけど、この家はすでに私の物よ? あなたは何も知らないみたいだから、教えてあげる事にします─。

【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」 物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。 ★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位 2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位 2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位 2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位 2023/01/08……完結

婚約破棄?どうぞ私がいなくなったことを後悔してください

ちょこ
恋愛
「おい! この婚約は破棄だ!」 そう、私を突き付けたのはこの国の第二王子であるルーシュである。 しかし、私の婚約者であるルーシュは私の返事など聞かずにただ一方的に婚約を破棄してきたのである。 「おい! 返事をしろ! 聞こえないのか?」 聞こえないわけがない。けれども私は彼に返事をするつもりはなかった。私は何も言わない。否、何も言えないのだ。だって私は彼のことを何も知らないからだ。だから、返事ができないのである。 そんな私が反応を示さなかったのが面白くなかったのかルーシュは私を睨みつけて、さらに罵声を浴びせてきた。 「返事をしろと言っている! 聞こえているんだろ! おい!」 そんな暴言を吐いてくるルーシュに私は何も言えずにいた。けれども彼が次に発した言葉により私は反射的に彼に言い返してしまうのである。 「聞こえているわ! その反応を見てルーシュは驚いたのかキョトンとした顔をしていた。しかしすぐにまた私に暴言を吐いてきた。 「聞こえているじゃないか! ならなぜ、返事をしなかった?」 「返事をしたかったわ! けれど、貴方の勢いに圧倒されてできなかっただけよ!」 そんな私の言葉にルーシュは益々驚いてしまったようだった。そのルーシュの顔を見て私は少し笑ってしまった。 「何笑っているんだ? 俺を馬鹿にしたつもりか!?」 そんなつもりは無いと私は彼に否定するが彼は聞く耳を持たないといった様子だった。そんな彼に対して私はある質問をした。それは今私が最も知りたい質問である。 「それより、この婚約破棄の理由は何かしら? 私は貴方に何かした覚えはないのだけれども」 そんな私の疑問にルーシュはさも当然といった様子で答えたのである。 「そんな理由など決まっているだろ! お前が俺よりも優秀な人材を捕まえたからに決まっている!」 そう言って彼は指をさした。その指が指し示している先には私がいた。一瞬なんのことか分からなかったが、少ししてからそのことに気づいた私はまさかと思った。 「そんな理由で!?だってその優秀な人材と言うのはまさか、彼なの!?」 そう言って私が指を指した方向にはあの眼鏡を掛けた彼がいた。すると彼は頭を下げてこう言ったのだ。 「はい、お嬢様に拾っていただきたくこちらに来ました」 彼の名前はリビン・ボタスキー。ボタスキー伯爵家の次男である。そして何を隠そう、私が暇つぶしでやっていたゲームの攻略対象であった人物だ。 「あら? そんな理由で私を追い出したと言うの? 随分と小さい器をお持ちなのね」 「なんだと!? お前は自分の立場が分かっていないのか?」 彼は私が何を言っているのか理解出来ていない様子だった。まぁ、それも仕方がないだろう。

婚約者が義妹と結ばれる事を望むので、ある秘密を告白し婚約破棄しようと思います─。

coco
恋愛
私が居ながら、義妹と結ばれる事を望む彼婚約者。 醜い化け物の私は、気色悪いですって…? では、あなたにある秘密を告白し、婚約破棄しようと思います─。

本当は幼馴染を愛している癖に私を婚約者にして利用する男とは、もうお別れしますね─。

coco
恋愛
私は、初恋の相手と婚約出来た事を嬉しく思って居た。 だが彼は…私よりも、自身の幼馴染の女を大事にしていて─?

自分を裏切った聖女の姉を再び愛する王にはもう呆れたので、私は国を去る事にします。

coco
恋愛
自分を裏切り他の男に走った姉を、再び迎え入れた王。 代わりに、私を邪魔者扱いし捨てようとして来て…? そうなる前に、私は自らこの国を去ります─。

処理中です...