悪女は毒花を食む

oro

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どれくらい眠っていたのでしょうか。
私が目を覚ますと、そこにはお父様はいらっしゃいませんでした。
私の体は清潔になっており、毛布までかけてあります。
お父様の前で意識を飛ばしてしまうなんて、殺されてもおかしくなかったですわね。お父様の機嫌がよくて良かったですわ。
仕事の報告もしていませんが、きっと私が生還している時点で仕事は片付いたと判断されたのでしょう。
私は腰が痛むのは分かっていたのでゆっくりと上体を起こすと、ベッドサイドテーブルに置かれたトレイに乗る花を無造作に一つ手に取りました。

紫や水色、黄色や白色などの美しい花々。
けれどこれらは全て毒花です。
美しい薔薇には刺があるなんて言うように、美しい花には毒があるのです。
私は手に取った花の花弁を1枚ちぎると、口の中へ入れました。
我が家の人間は皆愛用の武器を1つ選び、持ち歩くことが決められています。
ローラお姉様は鞭、お父様はナイフでしたかしら?
まぁあまり他人の武器を詮索しないのが暗黙のルールなのですけれど。
私が選んだ武器は毒です。
公爵家の子供は専属の研究者達が作り上げた毒を幼い頃から摂取するのですが、私は皆とは違い毒を持った花を摂取しています。
そのためただ毒に耐性があるだけではなく、私の体臭や体液にまで毒が行き渡っているのです。
舌をピリリと刺激する感覚やこの不味さも慣れたものです。
そして毒花ということで、私の体臭は花のように人々を惹きつけ、中毒性を持って虜にさせることが出来ます。
まぁ我が家の人間は毒に耐性があるので効かないのですけれどね。
女性としての私自身が毒という武器になる。
この事実は有用な為、勿論我が家の限られた人間しか知りません。

私はトレイに乗った花を全て食べ終えると、ベルを鳴らして使用人を呼びつけました。
ナイトドレスはお父様に引き裂かれてしまったため、変えのドレスを持ってきてもらわなければいけません。
まるで部屋の前で待ち構えていたかの様に直ぐに部屋に入ってきたメイドは、私の体にドレスを着せて持ってきていた包帯を首に巻きました。

…それにしても、今日は機嫌が良くて良かったですわ。
もし機嫌が悪かったら失血多量でお父様諸共死んでいましたもの。

私はお父様のベットのシーツと毛布と変えるよう使用人に指示を出すと、だいぶ遅れて食堂へと向かいました。








「あら。」

メイドを連れて廊下を歩いていると、目の前から久しくみていなかったお兄様が現れました。
全身黒ずくめの服装で口当てをしている当たり、つい先程任務から帰ってきたのでしょうか。

「ライアンお兄様。お久しぶりですわ。」

私がそう言ってカーテシーをしようとすると、お兄様は私の首を掴んで顔を上げさせました。

「その首の傷はどうした。」

ギチギチと私の首に掛かった手の圧が増していきます。
背が高く、体格がしっかりしていて筋肉質なライアンお兄様が力加減をしているのは分かりますが、このままでは首をへし折られてしまいます。

「っお、に…さ、ま…。」

このままでは言葉を話すことも出来ない。という意味を込めて名前を呼べば、その手は簡単に離されました。
私は新しく入ってきた酸素が脳まで供給されるのを感じ、淑女の矜恃でなんとかその場に倒れこまずにすみました。

「ゴホッ…これは、お父様のものですわ。」

私がそう言うと、ライアンお兄様は舌打ちをして私の横を通り過ぎて行きました。
まるで嵐のような方ですが、考えていることはまるで分かりません。

ライアンお兄様はブラックロペス公爵家の長男で、私の義兄。次期当主の最有力候補です。
その分お父様からの信頼度も高く、暗殺技術において彼の右に出るものはいません。
お父様譲りの黒髪に、少しつり目な深紅の瞳。そして調和を取るように若干垂れた眉。体格ににつかわない端整な顔立ちをしています。
彼はいつも無表情で、全てのものに興味が無いように感じられますわ。
嗚呼。もしかして、彼もまたお父様のように次期当主としての重圧があるのでしょうか。
だからこそ、ああして私でストレスを発散しようとしているのでしょうか?
私もライアンお兄様に特別な感情は抱いておりませんが、強いて言うなら苦手ですわ。




「あ!ライラねぇ!」

声のした方へと振り返れば、そこには義弟のテオが立っていました。

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