史上最悪の王妃は2度目の人生を与えられました

oro

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医務室

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「王妃様…。大変申し上げにくいのですが…ご実家のベネット公爵家が火事で全焼し、公爵夫妻がお亡くなりになられました。ッ原因は不明で、現在治安維持隊などが捜査をしております…。」

王妃になってから彼らにあったことは無い。
目の前でガタガタと震え、頭を垂れて報告をする彼女の姿を一瞥する。
王妃この座に着こうとも、彼らが私を認めてくれることはなかった。
彼らが欲する地位も名誉も、私が王妃となることで手に入った筈なのに。
それなのに、彼らは私を見てくれなかった。
皆そう。
今ここで頭を垂れる彼女も、国王も、国民も、私を肩書きでしか見ていない。
まぁ私に中身がないとバレるよりは良いけれど。

愛されることを知らない。
皆が知る常識を知らない。

生きる理由が分からない。

昔はただ、両親に見られたかった。
認められたかった。愛されたかった。
けれど彼らはどう足掻いても私のことを愛してはくれない。見てはくれない。…最後の最期まで。
もう分かってしまった。
彼らにとって私は欲を満たすための道具でしかないのだと。
痛みに慣れたはずの体の内側、胸の部分が嫌に痛む。

「そう…。」

私は吐き出すようにその一言を口にすると、メイドを退室させた。
胸の部分が空いたような気持ちで、やはり胸が痛む。
落ち着かない。
もう私を操ろうとする彼らは消えたのに。

この感情は…なに?








酷く気怠いけれど、それでも王妃になった時よりは大分マシ。
ゆっくりと瞼を開けると、真っ白で見慣れない天井が写った。

「目を覚ましたか。」

隣から聞こえた声の主へと顔を傾けると、ケネスが相変わらずの冷めた瞳でこちらを見ていた。
まだいまいち状況が掴めない。
私は何を……嗚呼、そうだ。
あの女と握手をした瞬間、光魔法が流れ込んできて…。
やられたわ。
まさかあんな皆がいる中で仕掛けてくるとは。
私がゆっくりと体を起こすと、ケネスが手を差し伸べてきた。

「体調は…。」

「平気よ。」

それよりも…その手は何?
私の疑問に気付いたであろうケネスは、少し目を見開いてから手を引いた。
彼が表情を崩したのはほんの一瞬のことだったが、現世では嫌にコロコロと表情が変わる。
前世と現世、一体どちらの彼が本性なのだろうか。
 白いシーツやカーテンに囲まれたここでは、彼の艶やかな黒髪がより際立つ。
恐らくは医務室であろうここは、静寂に包まれていた。

「教師には貧血と話したが、あの女の光魔法にあてられたのだろう?」

人払いが済んでいるのだろう。ケネスは直球に質問してきた。
ここで否定しても仕方が無いので、私は「そうよ。」と短く答える。
闇魔法を完全に取り込めてさえいれば、あの程度の光魔法なんて簡単に弾くことが出来た。
逆にあの女に闇魔法を流すことだって。
だけど私にはそれが出来ない。
闇魔法を満足に操ることも。

「俺がついていながら…。」

何やら険しい表情をしているケネスを横目に、私はベッドから降りて立ち上がった。
別にケネスと2人でいる空間は苦ではないが、特に話すこともないのでその場を立ち去ろうとする。
まだ完全に回復していないせいか少し立ちくらみするが問題は無い。

「…リリス。」

少しよろけただけの私を支えたケネスもどうやら医務室を出るらしい。
私はケネスから離れると、医務室を出て寮のある方角へと歩き出した。

「リリス。…闇魔法を扱えるようになりたいか?」

隣を歩くケネスにそう話しかけられて、私は歩みを止めて彼の瞳を見上げる。
答えるまでもない。
その返事はYESに決まっている。
でなければなんのために私は闇魔法を吸収したのか分からない。
ケネスが何を言おうとしているのか、次の言葉を促すように彼の真紅の瞳を見据える。


「…俺が、リリスに闇魔法の扱い方を教えよう。」

教師以外にそんなことを言われたのは初めてだ。
なんだか微妙な表情をしている彼の考えは分からない。
けれど正直言って、願ってもない提案だ。

「ありがたいわ。」

私が素直に感謝の言葉を口にすると、ケネスは少しだけ表情を柔らかく歪めた。

「では明日の放課後から。…それと、明日からは俺がエスコートしよう。」

正直エスコートはどうでも良いため、特に返事はしなかった。
いつの間にか寮の前に着いていたらしく、私達は寮の前で挨拶をして別れた。
因みに男女で寮は別れており、更に寮内では爵位によって与えられる部屋が違う。
表向きは平等を謳う学園だが、実際は暗黙のルールによる格差がある正に貴族社会の縮図だ。

高位貴族には専用のフロアが与えられており、そこに設置された談話室も高位貴族仕様となっている。
…まぁ前世の私が使うことは無かったし、現世でも使う予定は無い。
自分の部屋に行くためには談話室の前を通らなければならないのだが、既に談話室は数人の令嬢が使用していた。
公爵家の令嬢である私に与えられた部屋は、実家にある塔の部屋よりも広い。
私はカミラに教わった通りに湯浴みをしてナイトドレスに着替えると、ベッドに横になった。
ベッドの質も、家の物よりずっと言い。
私は今日のことを振り返っていたが、やがてその意識は深い闇の中に沈んでいった。
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