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自己解釈
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アルバートが動くよりも先に、突然崩れ落ちたリリスの体はケニスによって抱き留められた。
「きゃぁッ!?リリス様!どうなさったの!?」
驚いた様子で自身の手を引いたフローラはアルバートの背に隠れるように後ずさった。
最早白々しい程の怯えた演技だが、その場にいる人間はフローラではなくリリスに注目しているため気づかない。
チッ。どうしてケネスがリリスを助けるのよ!
私が倒れるべきだったかしら。
フローラは内心そう憤っていたが、リリスを抱いたケネスに冷たい瞳で睨まれてしまえば何も言えない。
結局リリスとケネスは入学式に参加せず、新入生代表の挨拶は緊張してできないというフローラではなく王族のアルバートが行うこととなった。
「きっと、私の光魔法が強すぎたせいですわ。リリス様には本当に申し訳ないことをしました。」
直前に騒ぎがあったものの、入学式はアルバートの完璧な挨拶により無事閉式した。
そして今、アルバート達Sクラスの生徒は教室で教師が戻ってくるのを待っている。
アルバートやその取り巻き集団にさりげなく近付いたフローラは、まるで怯える小動物のように自分の責任だと口にした。
『そんなことはない。』
そう言ってもらいフローラに責任がないことを周囲の人間にも分からせるため。そして…。
「君のせいかどうかは医師に聞かなければ分からないだろう。それに魔力量の数値は彼女の方が高い筈だ。もし本当に君が意識して魔力を操っていないのだとしたら、君の光魔法が彼女の闇魔法を上回ったことになる。それではあの順位の意味がなくなってしまう。」
ハマった。
フローラは内心ほくそ笑んだ。
しかしそれを悟られないように、まるで勇気を振り絞った告白かのように不安げな表情でアルバートを見つめ、そして言った。
控えめに、けれどこちらの動向を伺っていた教室の生徒全員に聞こえるように。
「でも…不敬に当たるのは分かっています。リリス様…ベネット公爵令嬢は史上最年少で闇魔法を取得されたお方。けれど誰もその闇魔法を見たことも、ましてや本人だって今日初めて見た方が大半でしょう?ベネット公爵家は名誉欲や権力欲が強い家柄と聞きます。もしかしたら闇魔法も本当は大したことなくて、学園の教師を買収したのかも…。」
たった一滴の毒。
けれどこの場にいる者が皆疑問に思っていたことにこの毒を垂らせば、それが真実であろうと嘘であろうと、疑いの意識は嫌でも芽生える。
リリス・ベネットには大した能力がないのではないかと。
フローラの思惑通り、その発言によってクラス内では数々の声が上がった。
それはリリスやベネット公爵家を非難するようなものであったり、そんな筈はないと学園やリリスを擁護する声であったり。
「…ここは学園で、爵位に関わらずに様々な人間がいる。あまり憶測でものをいうのは控えたまえ。」
アルバートの普段よりも幾らか低い声色に、その場にいる者達は皆黙った。
アルバートはリリスを擁護する訳でもなく、ただ1人の憶測では混乱を招くだけだと判断しそう言った。
しかしフローラにはそれがリリスを擁護するようなセリフに聞こえ、再び怒りが込上げる。
私はヒロインであいつは悪役令嬢なのに!!
どうしてあの女を擁護するワケ!?
怒りを胸に、けれど周りには悟られないようにアルバートを見つめる。
前回も使った庇護欲をそそる表情で。
けれどアルバートの瞳にはフローラの姿は映ってお
らず、代わりにフローラはその瞳に写る感情を察した。
アルバートは口ではリリスを擁護しているものの、実際は不安なのだろうと。
次期国王が一令嬢の噂如きに翻弄されるのはお笑い草だが、フローラにとってはそちらの方が扱いやすくて丁度良い。
今度こそはケネスを手に入れて、本当のヒロインとして幸せになるんだから。
フローラがそう意気込んでいると教室に教師がやって来たため、噂話をしていた生徒達も皆自分の席に着いた。
「ベネット公爵令嬢は貧血でお倒れになったそうなので、命に別状はありませんでした。皆さんもこれからの寮生活では自己管理も怠らないように留意して下さい。」
教師の説明を真に受けた生徒は少ない。
ただの噂ではあるものの、先程の話を聞いてしまったから。
実際のリリスを知る人間も以前見た事のある人間もいないからこそ、教師の説明よりも面白い噂話を皆信じたのだ。
明日以降の予定について軽く説明を受け、Sクラスは解散となった。
皆が寮へと移動すると、教室にはアルバートやその取り巻き、そして彼らの様子を伺うフローラが残った。
「何のお話をしてるんですかぁ?」
時折自身を見つめる視線に気づいたフローラは、彼等の話を遮るようにその輪の中に入った。
「おい。貴様、さっきから不敬だぞ。」
「よせダニエル。例え王族であろうと下級貴族であろうと、この学園では皆等しく学生だ。」
アルバートが自身の護衛騎士ダニエルを制したことにより、フローラはそれが未来の妻である自分のためであると1人納得して口を開く。
「あなたはモブリ侯爵家のダニエル様ね!確か剣技が凄いお上手なんですよね。アルバート殿下を守るために剣の道を極めるなんてすごいです!」
ダニエル・モブリには4つ年上の兄がいる。
長兄である兄は侯爵家の跡取りであり、常に完璧な兄に弟のダニエルは劣等感を抱いて育ってきた。
そんな時学園に入学するアルバート殿下の護衛として自分が選ばれたため、彼は護衛騎士という仕事を誇りに思っているのだ。
そしてこの世界に似ているというゲームをプレイし、且つ前世でも同じ人生を歩んだフローラはもちろんその情報を覚えている。
フローラの褒め言葉にあからさまに動揺したダニエルは、少し頬を染めて満更でもないような表情をする。
やっぱり脇役はちょろいわね。
なんてフローラが内心ほくそ笑んでいるとも知らずに。
「きゃぁッ!?リリス様!どうなさったの!?」
驚いた様子で自身の手を引いたフローラはアルバートの背に隠れるように後ずさった。
最早白々しい程の怯えた演技だが、その場にいる人間はフローラではなくリリスに注目しているため気づかない。
チッ。どうしてケネスがリリスを助けるのよ!
私が倒れるべきだったかしら。
フローラは内心そう憤っていたが、リリスを抱いたケネスに冷たい瞳で睨まれてしまえば何も言えない。
結局リリスとケネスは入学式に参加せず、新入生代表の挨拶は緊張してできないというフローラではなく王族のアルバートが行うこととなった。
「きっと、私の光魔法が強すぎたせいですわ。リリス様には本当に申し訳ないことをしました。」
直前に騒ぎがあったものの、入学式はアルバートの完璧な挨拶により無事閉式した。
そして今、アルバート達Sクラスの生徒は教室で教師が戻ってくるのを待っている。
アルバートやその取り巻き集団にさりげなく近付いたフローラは、まるで怯える小動物のように自分の責任だと口にした。
『そんなことはない。』
そう言ってもらいフローラに責任がないことを周囲の人間にも分からせるため。そして…。
「君のせいかどうかは医師に聞かなければ分からないだろう。それに魔力量の数値は彼女の方が高い筈だ。もし本当に君が意識して魔力を操っていないのだとしたら、君の光魔法が彼女の闇魔法を上回ったことになる。それではあの順位の意味がなくなってしまう。」
ハマった。
フローラは内心ほくそ笑んだ。
しかしそれを悟られないように、まるで勇気を振り絞った告白かのように不安げな表情でアルバートを見つめ、そして言った。
控えめに、けれどこちらの動向を伺っていた教室の生徒全員に聞こえるように。
「でも…不敬に当たるのは分かっています。リリス様…ベネット公爵令嬢は史上最年少で闇魔法を取得されたお方。けれど誰もその闇魔法を見たことも、ましてや本人だって今日初めて見た方が大半でしょう?ベネット公爵家は名誉欲や権力欲が強い家柄と聞きます。もしかしたら闇魔法も本当は大したことなくて、学園の教師を買収したのかも…。」
たった一滴の毒。
けれどこの場にいる者が皆疑問に思っていたことにこの毒を垂らせば、それが真実であろうと嘘であろうと、疑いの意識は嫌でも芽生える。
リリス・ベネットには大した能力がないのではないかと。
フローラの思惑通り、その発言によってクラス内では数々の声が上がった。
それはリリスやベネット公爵家を非難するようなものであったり、そんな筈はないと学園やリリスを擁護する声であったり。
「…ここは学園で、爵位に関わらずに様々な人間がいる。あまり憶測でものをいうのは控えたまえ。」
アルバートの普段よりも幾らか低い声色に、その場にいる者達は皆黙った。
アルバートはリリスを擁護する訳でもなく、ただ1人の憶測では混乱を招くだけだと判断しそう言った。
しかしフローラにはそれがリリスを擁護するようなセリフに聞こえ、再び怒りが込上げる。
私はヒロインであいつは悪役令嬢なのに!!
どうしてあの女を擁護するワケ!?
怒りを胸に、けれど周りには悟られないようにアルバートを見つめる。
前回も使った庇護欲をそそる表情で。
けれどアルバートの瞳にはフローラの姿は映ってお
らず、代わりにフローラはその瞳に写る感情を察した。
アルバートは口ではリリスを擁護しているものの、実際は不安なのだろうと。
次期国王が一令嬢の噂如きに翻弄されるのはお笑い草だが、フローラにとってはそちらの方が扱いやすくて丁度良い。
今度こそはケネスを手に入れて、本当のヒロインとして幸せになるんだから。
フローラがそう意気込んでいると教室に教師がやって来たため、噂話をしていた生徒達も皆自分の席に着いた。
「ベネット公爵令嬢は貧血でお倒れになったそうなので、命に別状はありませんでした。皆さんもこれからの寮生活では自己管理も怠らないように留意して下さい。」
教師の説明を真に受けた生徒は少ない。
ただの噂ではあるものの、先程の話を聞いてしまったから。
実際のリリスを知る人間も以前見た事のある人間もいないからこそ、教師の説明よりも面白い噂話を皆信じたのだ。
明日以降の予定について軽く説明を受け、Sクラスは解散となった。
皆が寮へと移動すると、教室にはアルバートやその取り巻き、そして彼らの様子を伺うフローラが残った。
「何のお話をしてるんですかぁ?」
時折自身を見つめる視線に気づいたフローラは、彼等の話を遮るようにその輪の中に入った。
「おい。貴様、さっきから不敬だぞ。」
「よせダニエル。例え王族であろうと下級貴族であろうと、この学園では皆等しく学生だ。」
アルバートが自身の護衛騎士ダニエルを制したことにより、フローラはそれが未来の妻である自分のためであると1人納得して口を開く。
「あなたはモブリ侯爵家のダニエル様ね!確か剣技が凄いお上手なんですよね。アルバート殿下を守るために剣の道を極めるなんてすごいです!」
ダニエル・モブリには4つ年上の兄がいる。
長兄である兄は侯爵家の跡取りであり、常に完璧な兄に弟のダニエルは劣等感を抱いて育ってきた。
そんな時学園に入学するアルバート殿下の護衛として自分が選ばれたため、彼は護衛騎士という仕事を誇りに思っているのだ。
そしてこの世界に似ているというゲームをプレイし、且つ前世でも同じ人生を歩んだフローラはもちろんその情報を覚えている。
フローラの褒め言葉にあからさまに動揺したダニエルは、少し頬を染めて満更でもないような表情をする。
やっぱり脇役はちょろいわね。
なんてフローラが内心ほくそ笑んでいるとも知らずに。
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