史上最悪の王妃は2度目の人生を与えられました

oro

文字の大きさ
上 下
14 / 18

異彩

しおりを挟む
自分が特別な存在だと言うのは知っている。
俺に両親はいなかったし、俺は生まれた時から既に王だった。

多くの魔物を従え、先代の魔王達が残していった負の感情を糧に闇魔法を操る。
この境遇に不満も喜びもなかった。
俺の心は無だ。


とある子爵家を洗脳して、一人息子として俺を育てさせた。
人に紛れるのもただの暇つぶし。
長く長く終わりの見えない人生を、きっと先代達もこうして過ごしてきたのだろう。
いつだったか、そこそこのサイズをした闇魔法の核が吸収される気配を感じた。
人間にとって闇魔法は毒でしかない。
憎しみや怒りといった負の感情を抱いていれば稀に馴染むことがあるが、根本的に人間の体には合わないものなのだ。
それを無理矢理吸収したとなれば、使用者はただでは済まないだろう。というか死ぬはずだ。
俺は吸収した人間を見に行こうかとも思ったが、やめた。
どうやらしぶとく生き延びているそいつは、もう少し成長してから俺の遊び相手にでもしようと思ったのだ。
…まぁそこまで生きていればの話だが。

人間と接する中で、俺はこの受け継いだ闇魔法の根源に気づいた。
きっとこれは、人間への嫉妬だ。
俺達よりも遥かに短い命、遥かに非力でありながら、その人生は一人一人全く違う。
ある者は栄光を手にし、ある者は人を愛し、愛されて。またある者は堕落する。花が無い平凡な人生を本当の幸せとして死ぬ者もいる。
初めから与えられた役職に縛られず、短い人生を自由に、存分に満喫して生きる人間。自分達に出来ないことを平然とやってのけるそれに、先代達は憧れ、そして嫉妬していたのだ。

その事を理解した上で、俺は思った。
なんて愚かなのだろう、と。
そもそも、魔王という存在が死ぬことは稀だ。
長い眠りにつくことはあるけれど、ただの攻撃や肉体の消滅で死ぬことはない。
それなのになぜ先代達は死に、魔王の闇魔法の核から俺が生まれてきたのか。
きっと先代達は、人間を愛してしまったのだ。

魔王が死ぬためには2つの方法がある。
1つ目は、闇魔法を全て使い切ること。俺達魔王は闇魔法によってできた存在だから闇魔法が消えてしまえば存在することは出来ない。…といってもまぁ暇潰しにこの世界を滅ぼそうとでもしない限り、闇魔法が尽きることはないのだが。
闇魔法は魔王の憎しみや怒りなどの負の感情によって出来るもの。怒りに身を任せ世界を滅亡させることは容易だろう。ただそんなつまらないことをする魔王は今後も存在しないだろうが。
そして2つ目は、闇魔法を捨てて人間になること。
ただの生身の人間となることで、魔王は他の人間と同じ様に死ぬのだ。その理由は事故や他殺、老衰など、いかにも人間らしい理由で。
しかしよっぽどの理由がない限り、我々の生命線でもある闇魔法を捨てることなどありえない。
魔王が闇魔法を捨てるほどの理由…そう、愛だ。
俺には関係の無い代物。
しかし歴代の魔王達は己の内に宿る負の感情ではなく、突然宿った愛の炎に熱を上げ、そしてその欲のままに魔王の座を降りたのだ。
なんて愚かなのだろうか。
たった1人の存在に熱を上げ、自らの命すら差し出してしまうなんて。
俺にはその感情が理解できなかった。
…あの女に会うまでは。



子爵家の令息として成長を遂げた俺は、年頃の貴族が通うという魔法学園に入学することになった。
正直人間の生活はもう飽きていたのでここで姿を晦ましても良かったが、今の人間がどの程度の魔法を扱えるのか気になった俺は大人しく入学することにした。
そして学園に着いた時、俺は自分の判断が間違っていなかったことを理解した。
なぜなら数年前に感じ取った闇魔法の気配をこの学園内でも感じたからだ。

魔力を抑えなければ魔王だとバレてしまうだろうから、俺は人間レベルまで魔力を抑え込んだ。
因みに参考は、遥か昔に俺を退治しに来たという自称勇者の魔力量だ。
勿論そいつは今生きていないが。

自称勇者は伊達ではないな、と、廊下に掲示された魔力量検査の結果を見て感心した。
ならばあの時、もう少し遊戯に付き合ってやるべきだったかとも考えたが、直ぐにその思考は消し去った。
例え俺があそこで手を抜こうとも、あの勇者が俺に勝てる見込みなどなかったのだから。
それよりも今は…。
人間としての俺の名前の上に表示されている人物。
リリス・ベネット。
名前からして女だろうか。自称勇者の魔力を遥かに上回る魔力を持つ女。恐らくこいつが俺の闇魔法の核を吸収した人間だろう。
…一目見てみるか。
全ての始まりは、俺のこの好奇心だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

下げ渡された婚約者

相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。 しかしある日、第一王子である兄が言った。 「ルイーザとの婚約を破棄する」 愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。 「あのルイーザが受け入れたのか?」 「代わりの婿を用意するならという条件付きで」 「代わり?」 「お前だ、アルフレッド!」 おさがりの婚約者なんて聞いてない! しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。 アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。 「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」 「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

わたしは不要だと、仰いましたね

ごろごろみかん。
恋愛
十七年、全てを擲って国民のため、国のために尽くしてきた。何ができるか、何が出来ないか。出来ないものを実現させるためにはどうすればいいのか。 試行錯誤しながらも政治に生きた彼女に突きつけられたのは「王太子妃に相応しくない」という婚約破棄の宣言だった。わたしに足りないものは何だったのだろう? 国のために全てを差し出した彼女に残されたものは何も無い。それなら、生きている意味も── 生きるよすがを失った彼女に声をかけたのは、悪名高い公爵子息。 「きみ、このままでいいの?このまま捨てられて終わりなんて、悔しくない?」 もちろん悔しい。 だけどそれ以上に、裏切られたショックの方が大きい。愛がなくても、信頼はあると思っていた。 「きみに足りないものを教えてあげようか」 男は笑った。 ☆ 国を変えたい、という気持ちは変わらない。 王太子妃の椅子が使えないのであれば、実力行使するしか──ありませんよね。 *以前掲載していたもののリメイク

そちらがその気なら、こちらもそれなりに。

直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。 それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。 真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。 ※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。 リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。 ※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。 …ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº… ☻2021.04.23 183,747pt/24h☻ ★HOTランキング2位 ★人気ランキング7位 たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*) ありがとうございます!

わたし、何度も忠告しましたよね?

柚木ゆず
恋愛
 ザユテイワ侯爵令嬢ミシェル様と、その取り巻きのおふたりへ。わたしはこれまで何をされてもやり返すことはなく、その代わりに何度も苦言を呈してきましたよね?  ……残念です。  貴方がたに優しくする時間は、もうお仕舞です。  ※申し訳ございません。体調不良によりお返事をできる余裕がなくなっておりまして、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じさせていただきます。

幼なじみの親が離婚したことや元婚約者がこぞって勘違いしていようとも、私にはそんなことより譲れないものが1つだけあったりします

珠宮さくら
恋愛
最近、色々とあったシュリティ・バッタチャルジーは何事もなかったように話しかけてくる幼なじみとその兄に面倒をかけられながら、一番手にしたかったもののために奮闘し続けた。 シュリティがほしかったものを幼なじみがもっていて、ずっと羨ましくて仕方がなかったことに気づいている者はわずかしかいなかった。

婚約者とその幼なじみがいい雰囲気すぎることに不安を覚えていましたが、誤解が解けたあとで、その立ち位置にいたのは私でした

珠宮さくら
恋愛
クレメンティアは、婚約者とその幼なじみの雰囲気が良すぎることに不安を覚えていた。 そんな時に幼なじみから、婚約破棄したがっていると聞かされてしまい……。 ※全4話。

もう惚れたりしないから

夢川渡
恋愛
恋をしたリーナは仲の良かった幼馴染に嫌がらせをしたり、想い人へ罪を犯してしまう。 恋は盲目 気づいたときにはもう遅かった____ 監獄の中で眠りにつき、この世を去ったリーナが次に目覚めた場所は リーナが恋に落ちたその場面だった。 「もう貴方に惚れたりしない」から 本編完結済 番外編更新中

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

処理中です...