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私は特別②
しおりを挟む最初は不安もあったけど、私はいつの間にかこのゲームの世界に慣れて順調にアルバート達との仲を深めていった。
やっぱりアルバートは他のキャラよりは手強いけど、思ったよりちょろいじゃん!なんて浮かれてたのだ。
周りからの視線も気持ち良かった。
例え彼らの視線にどんな感情が宿っていようとも、前世の私では到底得られないものだったから。
そういえば、ストーリーを進めていく中でゲームとは少しだけ違うところがあった。
それは最難関攻略対象であり私の最推しの一人でもあるケネスと、私達の恋路の邪魔をする悪役キャラのリリス。
ケネスはやっぱりイラストよりも実物の方が美しくて、教室で彼のことを見つけた時は嬉しくて卒倒してしまいそうだった。
アルバートも捨て難いけど、やっぱりケネスが1番ね!
ケネスは他の攻略キャラを全員制覇しないと出てこない最高難関のキャラ。更に彼のルートが解放されるイベント発生率は低確率で、彼とハッピーエンドを迎えるためには早くから手を打っておかないといけない。
おまけに彼の好感度は上がりにくくて下がりやすい。まさにラスボス級の攻略キャラだ。
…まぁ実際、本当にゲームの裏ボスなんだけどね。
今はこうして人間に紛れて学園に通っているけれど、彼の本性は生まれながらの魔王だ。
その性格は冷徹無比で極悪非道、目的の為ならば手段を選ばない、まさに悪の化身。
しかしゲームでは好感度の上がった主人公にだけはデレるという、その極端なギャップの虜になる女は多かった。もちろん私もその1人。
彼を攻略するためにも、学園にいるうちから積極的に声をかけておいた。
ゲームの主人公はイベント以外でケネスと関わることは無かったけれど、私は我慢できなかったのだ。
ケネスもケネスで最初はまるで興味が無いというような反応をしていたけれど、最終的には私の取り巻きの1人になっていた。
彼は正直私に興味が無いように見える。それどころか私じゃない誰かを目で追っている様だったけど、きっと考え過ぎだろう。だって私の取り巻きの1人になったのだから。
私はゲームの主人公ですらできなかったことやってのけたのだ。
…もしかしたら前世のヤツらがおかしいだけで、私には十分な魅力があるのかもしれない。
そして私の恋の刺激役、リリスもゲームとは違っていた。
やはり彼女もゲームのイラストより何倍も美しく、ただそこにいるだけで注目を浴びるような容姿だった。まさに前世の私が羨み妬んでいた存在。
だか彼女の第一印象は死人のような女、だった。
イラストよりも青白い肌に、光を宿さない微妙な色の瞳。
傍から見ても異常だとわかるその姿を、彼女は持ち前の傲慢さで隠していた。
彼女の人生がどんなものなのかは知らない。
確か前世では彼女のストーリーが追加コンテンツとして発売されていたけれど、私は脇役になんて興味が無いから買わなかった。
皆から忌み嫌われ注目を集めるリリスと、皆から天使のようだと持て囃されるフローラ。
どちらを選ぶかなんて悩むまでもない。
彼女がゲームと大きく違ったところは、私をいじめてこなかったことだ。
ゲームではアルバートルートを選択すると、彼女は常識も知らず傍若無人に振る舞い、そして自分の婚約者と仲が良いフローラを虐げる。
そしてそれに気づいたアルバートが彼女を断罪し、フローラは彼と結ばれるというのがエンディング。
けれどどれだけ私がアルバートと親密になろうとも、リリスは手を出してこなかった。
それどころかまるで私など認識していないかのように、誰彼構わず虐げた。
残虐な行為を躊躇いなく行い、自分に歯向かうものには容赦しない。
ゲームのリリスよりも悪役らしい彼女の振る舞いに、私は焦った。
このままじゃケネスルートに行けないじゃない!
ケネスルートに行くためにはアルバートも攻略しなければいけないというのに。
そこで私は、アルバートにいじめの虚偽申告をすることにした。
きっと彼女の振る舞いを知っている皆ならば、誰も疑うまい。
いじめの内容はゲームと同じものにする。
これ以上ストーリーから外れたら何が起こるかわからないから。
着々と皆の好感度を上げていって、あとのイベントは卒業パーティでリリスの断罪だけ。
私はケネスと結ばれるその日を楽しみに、全てが終わるのを待っていた。
あの時はたしかに幸せだった。
皆に愛され、未来への希望を持って…。
けれど現実は…。
「なんで…どうして?」
私の声は誰かに届くことも無く薄暗い部屋に響いた。
ここは王妃の寝室。
私は無事王妃になって、そしてケネスに迎えに来てもらう筈だったのに。
ケネスルートへのイベントが一向に発生しない。
あんなにも好感度上げを頑張ったのに、ケネスはあの日以降私やアルバートの前に姿を現さない。
そう。何故か起こらなかったリリスの断罪パーティを実行するべく、私がアルバート達を説得してリリスを殺したあの日から。
よくよく考えたら、ケネスは最初からリリスの断罪に乗り気ではなかった。
あの時はただ私にかまって欲しくて皆と違うことを言っているのかと思ったけれど。
「ぁ…あぁ…。」
そう言えば、ケネスは在学中ずっと誰かを目で追っていた。
ふと彼の視線の先見た時、そこに居たのは…。
「どうして?どうして私じゃないの?」
私は皆から愛されるべき存在なのに。
幸せになることが確約された存在なのに。
私はケネスを探し回った。
彼に会うべく。彼と幸せになるために。
そして私は再会した。
この国を呑み込んだ闇魔法の中で。
魔王ケネスの、魔法の中で。
気がついた時には、2度目の人生が始まっていた。
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