史上最悪の王妃は2度目の人生を与えられました

oro

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私は特別

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他の皆とは違う。私は特別なんだ。

生まれた時から抱いていた漠然とした自信。
けれどそんな思いとは裏腹に、現実の私はどこにでもいるような平民の子。
両親も可もなく不可もなくな平凡な人間。
特別強い権力欲や向上心がある訳でもなく、今のこのつまらない生活に満足しているつまらない人間。
平穏な生活が1番。だなんて言っていたけれど、私は自分の境遇に気づいた時に酷く落胆したものだ。

冴えない環境に華やかさとは程遠い生活。
けれど歳を重ねる度に強くなっていく私の謎の自信は、ある日両親と何となく向かった魔力検査所で確信に変わった。

「あなたは希少な光魔法の所有者です!」

数々の魔術師や研究員に囲まれて、私はそう告げられた。
世界的にも希少な光魔法の所有者。
正に特別な存在。

やっぱり私は特別な存在なんだ!

私は自分の新たな人生の始まりを感じていた。
そして同時に思い出したのだ。
この世界がどこで、自分がどんな存在なのかを。


私の名前はフローラ。
ここは、前世でプレイしていた乙女ゲームによく似た世界。
そして私はそのゲームの主人公。
平民だった彼女が貴族に引き取られ、魔法学園で多くの子息との恋愛を楽しむ逆ハーレムゲームのね。
前世ではセリフを丸暗記するくらいやりこんでいたから攻略は余裕のはず。
この魔力検査のエピソードはオープニングムービーで流れてたから、私も前世の記憶を取り戻したんだわ。

前世でも平凡な家庭に生まれた私は全てが地味だった。
存在感があり、華がある子達をいつも羨ましく思ってた。
きっとこれは、神様がくれたご褒美なのね!

目の前で泣いて喜ぶ地味な両親なんていらない。
嗚呼、早くボイド男爵が迎えにこないかなぁ!
私の脳内にはもう、これから始まる華やかな学園生活への夢しかなかった。



そして数週間後、本当に我が家にボイド男爵がやってきた。前世のイラストよりもだいぶキモイけど。
まぁこの地味な生活からおさらば出来るならと私は喜んで彼の馬車に乗った。
両親への恩だとか感謝の気持ちとか、別れを悲しむことも無い。
むしろこんなつまらない生活を生まれてからずっと強制させてきたことを謝って欲しいくらいだ。
けどまぁ私に家事だとか畑仕事だとか手伝わせたりしなかったのは感謝してる。
おかげでこの綺麗な手や顔が傷つかなくて済んだもの。
「辛かったらいつでも帰っておいで。」なんて言っていたけれど、こんな地味なところに帰ってくるくらいなら死んだ方がマシよ。
私は別れの挨拶もそこそこに、男爵に馬車を出発させた。

これから私の夢のような人生が始まるのよ。
楽しみで仕方がないわ!
前世での私の推しはアルバートとケネスだった。
やっぱり最後はあの二人のどっちかと結ばれたいけど、途中で他のキャラをつまみ食いしてもいいよね。
どうせここはゲームの世界だし。

入学までの数ヶ月間は貴族のマナーや常識について学んで、ついに入学式当日になった。
待ちに待ったゲームスタート!
門での魔力検査で、勿論私のクラスはSクラス。
魔力検査で光魔法だと大々的に公表された私を、すれ違う人々は興味津々といった様子で見てくる。
これこれこれこれッ!
前世では味わえなかったこの特別感と優越感。
みんなが私に注目している。
もう地味でつまらない私なんかじゃない。
私はこの世界の主人公なのよ。

クラスにはもう殆どの登場キャラがいた。
教室の1番後ろの席にはアルバートとその取り巻き、騎士のダニエル・モブリと宰相の息子、シーザー・メンディ、そして魔法の発明品を数々生み出しているチャールズ・トレイが屯っていた。
私はなるべく気づかない振りをして、彼らの1つ前の席に腰掛けた。

「ん?君は見たことがない生徒だね。」

今までイヤホンから聞こえていたボイスとは違う、本物のアルバートの声が自分に向けられていると気付くのにそう時間はかからなかった。

「あっ、は、初めまして。ボイド男爵家のフローラと申します。アルバート殿下にお目にかかれて光栄です!」
色々とやらかしてしまったかもしれない。
しかし私は主人公、これくらいどうってことないだろう。

「嗚呼、君が噂の…。」

深く下げた頭の上から聞こえてくる声。
そして私を値踏みするかのような視線を感じずにはいられない。
ああ、早く顔を上げても良いって言ってよ。
私が動けずにいると、ふっとその場の空気を壊すような柔らかな吐息が聞こえた。
そしてなんの前触れもなく肩を置かれる手に、私はあからさまに動揺してびくりと肩を震わせる。

「そんなに怖がらないでくれ。光魔法をもっている人に会うのは初めてなんだ。是非仲良くしてくれ。」

ゆっくりと顔をあげると、そこにはイラストよりも美しいアルバートの微笑を浮かべたご尊顔があった。
やっぱり王子は最高ね!
なんて、ドキドキと高鳴る胸を無理矢理押さえつける。
今焦って選択を間違える必要は無い。
これからの学園生活は長いんだから。
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