史上最悪の王妃は2度目の人生を与えられました

oro

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「…ケネス。」

背後からの声に振り向くと、そこには少しばかり大人びた容姿のケネスが立っていた。
艶やかな黒髪も更に伸び、その紅い瞳は冷たさを増している。
一方で殿下は鮮やかな金髪に透けるような碧眼と、まるで対称的な2人である。

「お前は…。」

「麗しき王子殿下にご挨拶申し上げます。しかし今は火急の用がある為、ベネット公爵令嬢をお借り致します。」

ケネスはそう言って腰を折ると、私の腰を抱いてその場を後にした。


「…まるで私を物のように扱うのね。」

連れてこられた中庭の庭園で、私は彼の手を振り払った。
私の意思を聞かずに物のように扱うなんて、ケネスも両親と同じなのね。
その事実は私に特別な感情を抱かせるほどではない。だって慣れてしまっているから。
…嗚呼、また闇魔法が暴走しようとしてる。私の心は凪いだままなのに。
どうしてかしら?
またカミラに頼んで、闇魔法の扱いに長けた先生でも紹介してもらおうかしら。

「気分を害したのならすまない。あの状況でリリスを助けるなら、今のが最善だったのだ。」

私を助ける?
…あなたが?

「私はあなたに助けを求めた覚えがないわ。」

私は助けを求めてなんかいない。
だってその術を知らないし、求めたところで誰も救ってはくれないから。
ケネスはその冷たい瞳を少しだけ伏せて、まるで悲しみを堪えるかのようにして私の頬に手を添えた。

「美しい…。」

…私の話を聞いていたのだろうか。
その疑問をそのまま瞳に映すと、ケネスは少しだけ微笑んだ。
前世では決して見ることがなかったケネスの笑顔は反応に困る。
私は溜息を着くと、話題を変えようと疑問に思っていたことを聞いた。

「あの王子は前世の記憶を持っているの?」

私の質問に、ケネスは少し考える素振りをする。

「いや、そんなはずは…。」

「何か知ってるの?」

丁度チャイムが鳴ったせいで、ケネスは私の質問に答えることなく教室へ戻ることになった。

少し遅れて教室へと戻れば、有象無象から射るような視線を向けられる。
嗚呼、これが好奇の目と言うものだろうか。社交界で見たことも無いような令嬢だから。
私が気にすること無く空いていた隅の席に着くと、ケネスはその隣の席に腰かけた。
この教室での席は、高位な身分程後ろの席に座るという暗黙のルールがある。そのためケネスの更に隣には殿下が座っている。殿下からも執拗に視線が送られてきたけれど、その視線には他の蟻達とは違った感情が込められている気がした。
その感情が何なのかはもちろん知らないけれど。

その後はこの後行われる入学式や学園の予定について説明がなされ、ランクの低いクラスから会場へと入場することになった。
前世と変わりない退屈な学園生活。

ただひとつ違うとすれば、ケネスが私のそばに居るということ。
前世では、同じクラスでありながら会話をした回数は片手で数えられる程しかなかった。
それが現世では私に自身の魔力を流し、時には私を救ったと言い、今も顔を背け頬杖をついている私の髪を掬っている。

一体何がしたいの?

喉元まででかかったその言葉は別の人間によって塞がれてしまった。

「君達は婚約しているのか?」

しているわけが無い。
声の主を睨み付けるように振り返ると、そこには殿下が立っていた。
はぁ、面倒ね。
私は不敬だと分かっていながら殿下から視線を逸らす。
正直関わりたくない。

「俺達の婚約が貴方に関係ありますか?」

そう答えるケネスの声は冷たかった。
彼は今も私の髪を手に取っているが、なるべく無関係だという風に視線は合わせない。
くだならい茶番に巻き込まれるつもりはない。
私の人生を邪魔されたくないのだ。

「もし君達が婚約関係では無いとしたら、その距離感は皆に誤解を与えてしまうから改めるべきだ。」

「関係の無い人間に指図される筋合いはないが…ここはご忠告どうも、とでも言っておくべきですか?」

嗚呼、煩い。他所でやって欲しいわね。
一触即発の張り詰めた空気に、教室にいる蟻達は皆動くことも出来ずに2人に注目している。

「私に向かって随分な良いようだね。そもそも君は…高位貴族の人間ではないだろう?なぜこの席にいるんだい?」

「確かに俺は子爵家の人間だが…。しかし入学時の魔力検査では1位でした。俺と共に魔力の桁の違う2位のリリスといても何ら不思議はないでしょう?」

やはりケネスが1位だったのね。
有象無象の視線は1位であるケネスとその隣にいる私に向けられたが、私は興味もなく無関係を装うことにした。
まぁそう上手くは行かない訳だが。

「ベネット公爵令嬢はどう思う?」

嗚呼、本当に煩わしい。 
前世の私なら無視を決め込んでいただろう。
しかし現世でそれをやれば、今まで私にマナーを教えてきてくれたカミラ達を裏切ることになる。
彼女達の優しさを無下にはできまい。

「お言葉ですが…。」

初めにそう一言おいて、私は口を開いた。

わたくしには何ら関係の無い、くだらないお話は他所でやって頂けます?」

有象無象の分際で、私を巻き込むな。
こんなにも遠回しに伝えたのだから、彼女達を悲しませることもないだろう。
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