史上最悪の王妃は2度目の人生を与えられました

oro

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私の質問に、彼はその真っ赤な瞳を暗くした。

「ある…。前世で1度だけ。」

「そう。」

その表情はどんな感情からなのかしら。
私は聞くことも出来ずに、ただ空の向こうを見つめていた。
興味はあるけれど、聞いてはいけないような気がしたから。

「けれど…今回はしない。絶対に。」

「そう。」

何故私を見るのかしら。
私のことをじっと見つめる彼の表情からは何らかの決意が見て取れた。
私は彼の吸い込まれるような赤い瞳から目を背け、思っていた疑問を口にする。

「それにしても…。あなたはもう闇魔法を完璧に取得しているのね。」

私が史上最年少の取得者だなんてデタラメじゃない。
本当はケネスが史上最年少の取得者なのだ。しかし彼は子爵家の令息。我が公爵家の大々的な発表に、意義を唱えることは出来なかったのだろう。

「俺は憎しみをもって闇魔法を取得したから身体に馴染むのが早かっただけだ。最年少で取得したのは間違いなくリリスだろう。」

そう言った彼の瞳はまるでカミラのような悪意のない感情を含んでいて、居心地の悪くなった私は彼から目を背けた。
前世では、決して誰かと仲良くなることはないと思っていたけれど。
今はこうして何気なく人と話すことが出来ている。これはいいことなのかもしれない。
きっと私の体調が良く、両親から解放されたことによって心に余裕があるからかもしれない。

しばらくは二人の間に沈黙が流れたけれど、退屈ではなかった。
しかし遠くから使用人が私の名前を呼ぶ声が聞こえ、この静かな沈黙も破られる。

「どうやらここまでのようだな。」

「そうね。」

彼は最後まで不思議な表情をして、そして煙のようにその体を消した。
闇魔法を完全に扱えるようになれば、あんなことも出来るのかしら。
私がぼんやりとそんなことを考えていると、使用人の一人が私の側までやってきた。
といっても使用人からしたら先程まで闇魔法の暴走で死にかけていた私に近寄るのは恐怖でしかなく、一定の距離をとっている。

「リリス様!お探ししました。どうかッ、どうか塔へお戻りください!」

聞き慣れた声色だ。
恐怖に怯えながら、悲痛な面持ちで自分の願いを口にする愚者たちの声。
弱者が強者に逆らうことなど、ましてや命令も嘆願も許されないというのに。
前世の私なら、気に入らないこの使用人を今すぐ殺したかもしれない。いや、両親からの愛を求めていた私は、彼らに余計な迷惑をかけて嫌われまいと殺さずに我慢していたかもしれない。
だが今は、どうだっていい。
私が弱者の命を蹂躙することが出来るのは当たり前なのだ。そして今の私にとっては両親もただの弱者でしかない。しかしわざわざそんな当たり前のことをしたところで、彼ら全員がその理屈を理解することは無いのだ。

私は私のやりたいように生きる。
それが許される程の力を持っているのだから。







それからの私の生活は今までと何ら変わり無かった。
ただ初めての”反抗”によって、私は今までより厳重に塔に幽閉されることになっただけ。
しかしそれは両親が私の危険性を危惧した為であり、彼らの干渉は以前にも増して減った。
その結果、塔内ではある程度の自由が与えられた。
だから私はマナーレッスンやダンスレッスン等、カミラに勧められた講義を、カミラに勧められた教師で一通り受けている。
前世ではダンスなど、その場にいる人たちの動きを見よう見まねでやっていただけだったけれど。
こうして学んでみると興味深い。
それに彼女ら講師は皆カミラの様に慈悲深く、頼んでもいないのに私の境遇に同情し、悲しんでいた。
媚びるためでもなく、恐れているわけでもない。ただ同情や優しさを持って私の傍に寄り添ってくれた彼女達からは温もりが感じられた。
それはとても心地良いもので、私の凍りついた心にもじわりと馴染んでいった。

そうして私は1年間、鳥籠の中で自由に飛び回った。
私の行動が功を奏したのか、カミラも死んでいない。平穏な1年を過ごすことが出来た。
それもこれも、ケネスの魔力が私の体と闇魔法を上手く馴染ませてくれたためだ。おかげで私は前世の体とは全く違う健康体で過ごすことが出来ている。

「リリス様も学園に入学とは…嬉しいような、寂しいような、複雑な気持ちです。」

私が学園に入学する前夜。
カミラと私は2人きりでティータイムをしていた。
学園に入学したら全寮制となるが、夏と春には長期休暇が取られるため家に帰ることが出来る。
しかし私がこの家に帰ってくることは無いだろう。

「私も寂しいわ。」

以前のカミラのように眉を下げてニコリと微笑むと、カミラは今にも泣きそうな表情で微笑んだ。

「リリス様は…もちろん見た目もですが、中身も大変お美しくなられました。私はそんなあなたのお傍に付けて、とても幸せでした。」

まるで今際の別れのような言葉だわ。
私はカミラの手を取ると、その温かい手を自分の頬に当てた。

「貴女には暇を出すわ。だからどうか…決して死なずに、どこかで穏やかに生きて頂戴。」

絶対、絶対に。
私の言葉にカミラは驚いていた。だが涙をぼろぼろと零しながら、嬉しそうにコクリコクリと頷く。

「私はいつも、リリス様の事を想っております。あなただけに、私の忠誠を捧げます。」

そう言って、カミラは私の手の甲に口付けをした。
公爵家ではなく、私個人への忠誠。
それはとても、私の心を満たしてくれた。

「私もよ。カミラのことは決して忘れないわ。」





翌日、私が学園へと出発したその後に、カミラは公爵家を逃げ出した。
辞めたのではない。私が作った時間の間に逃げたのだ。
もし両親に辞めるなんて言えば、きっと私に関することの口封じの為に舌を切られるなり目を抉られるなりしてしまうから。
両親も分かっているのだ。自分達の教育が世間から非難されるものだと。
だからカミラには逃走用に充分な資金を与え、この公爵家から逃がした。
もしどこかに無事定住することが出来たのなら、名前を偽って私に手紙を書くように伝えて。
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