異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

文字の大きさ
上 下
90 / 90

第88話 ただいま

しおりを挟む
 ――分かる。

 俺はきっと、彼女たちに観測されたことでこの世界に再構築されたのだと。

「ただいま」

 俺の一番近く、目の前に居るのはアウロラだ。

 口元を両手で押さえ、瞳を潤ませてじっと俺の事を見ている。

 それとほとんど変わらない位置に居るのはゼアルで、こちらは噴火前の火山のように、押し込めに押し込めた感情が、顔のすぐ下にまで迫って来ている感じだ。

 二人から一歩後ろに居るヴァイダは、ちょっと見たことのない表情で何度も何度も頷いている。少しでもつついたら、泣き出してしまいそうなくらい感極まっていた。

 三人が三人とも、俺の無事を喜んでいてくれて――。

「ありがとう。俺を連れ戻してくれて、ありがとう」

 心からの感謝を口にした途端、彼女たちの中で何かが切れたのだろう。

 俺の名前や、声にならない声を口々に叫びながら――。

「――って、ちょっと待って! 俺そんな力で抱きしめられたら死んじゃう! 痛い痛い痛い! アウロラ、肋骨が当たって痛い! ぜ、ゼアルは加減してくれなきゃ骨が折れ――むごっ」

 息が出来ませんヴァイダさん!

 死ぬ! 死んでしまうっ!!

 おっぱいで窒息死してしまう!!

 あ、ちょっ……まじやめ……。

 復活早々、俺の意識は再び闇へと逆戻りすることになりましたとさ。







 俺が実体化したのは、おなじみゼアルの居る守護の塔最上階だった。

 体感的には10分程度しか経っていなかったのだが、この世界では1週間以上の時間が流れていた。

 どうやら魔王との戦いが終わった後、ヴァイダとアウロラはすぐさま旅を中断して引き返し、俺のサルベージのための研究を始めたらしい。

「なあ、そろそろ俺を解放して……」

「やだっ」

「不満なのか?」

「お断りさせていただきます」

 右手にアウロラ、左手にゼアル、背中にヴァイダと、それぞれが思い思いの場所で俺に抱き付いている。

 柔らかいやら温かいやらいい匂いがするやらでもうどうにかなってしまいそうだ。嬉しいのだが、とてつもなく嬉しいのだが、先ほど神様に釘を刺されたばかりなので少しばかり後ろめたい。ってか絶倫ってなんだよ。

 …………気を付けよう。きちんと自制しないとな。

「いやー、あのな。みんなでお土産食べながらちょっと話をしたくてさ。ほら、神様だぞ? 二人のお父さんだぞ?」

 お土産とは俺がこの世界に転生した時に持っていたリュックサックだ。

 つまり、神様は過去の物を可能性の揺らぎとして観測し、複製してのけたのだろう。完全に同じものがこの世に二つ存在するなんて現象を軽々やってのけるのだから全知全能というのは伊達ではなかった。

「父様のお話はいつでも聞けますが――」

「オレたちは今寂しいんだ」

「そもそも話はこうしててもできるでしょ」

 お義父さん……親の心子知らずとは言いますが、その通りですね。

 って俺もなんでお義父さんとか言ってんだよ。まだそんな関係になってねえからな!?

「あ、あのな? くっつきたいのは分かる。俺もくっ付きたいしな。でも……」

「ならいいじゃねーか」

「問題ないわね」

「むしろこのまま交合するのもありかと」

「ヴァイダさんはブレーキ踏めぇぇぇぇっ!!」

 一旦怒鳴りつけた後、それから俺は滔々と貞淑さとか貞操観念について語り始めた。ついでに神様にヤりすぎんなよって注意された事も付け加えておく。

「ま、まあ……ナオヤが私達の事を大切に想ってくれているのは知ってるわよ?」

「ありがとう。でもな、俺の理性にも限度があるんだ。全員美人だって事をもっと自覚してくれって」

 特に死にかけたりとかすると、生存本能が刺激されて子孫を残そうとしだすしな。

 今は恐らくそういう状態で、特に俺の事をまるまる一週間心配し続けたから滅茶苦茶そういう心理が高まっているはずなのだ。

 その場の勢いだけでそういう関係になってしまい、だらだらと続けて行ってしまったら……いずれ関係に飽きてしまう、なんてことも考えられた。

 ……そういう話よく聞くし。

「……分かったよ、しゃあねえな」

「分かってくれたか」

 ほっと胸を撫でおろしたのも束の間。

「ちなみにゼアルさんは何をすればいいのかよく知らないだけですので今度懇切丁寧に仕込んでおいて差し上げますね」

「だからヴァイダさんんん~~!!」

 ダメだこの人、ってか天使。

 この人ブレーキって概念が存在しないんだ。

「分かっておりますよナオヤ様。私はそういう事は致しませんよ。大丈夫です」

「……ホントに?」

 なら頭の上に乗せてきた巨大な……をどけて欲しいなぁ。ちょっと意識したら理性が吹っ飛びそうなんだけど。

「私は人と天使の交配実験をするだけですのでナオヤ様の子種が頂ければ十分でございます」

「分かってねぇぇぇぇっ!!」

 もうアクセルべた踏みな上に、エンジンがF1レーシングカー並みのモンスターマシンが乗ってやがる。

 加速しかしない。

 かくなる上は……。

「あっ、あんなところにUFOがっ!」

 あらぬ方向を指さして完璧な誘導をかけてみたというのに……。

「ナオヤ様。未確認飛行物体など、ナオヤ様の頭を覗ける私にしか分からないのでございます」

「というかこんな時のナオヤのすることっていったら」

「逃げ出すだけだよな」

 Oh……完全にバレてやがる……。

 3人のホールドはより強まっており、どれだけ揺らそうとも拘束が外れる気配はなかった。

「とにかくお前は心配かけた罰だ。オレたちが満足するまでじっとしてやがれ」

 それを言われると弱いんだよなぁ……。

 命の恩人だもんな、この3人。

 仕方ない、俺も男だ。心を決めよう。

 頑張れ、俺の理性。神様も頑張れって言ってくれたんだ。俺なら出来る!

「よし、じゃあ……」

「これからどうするか、とかいいんじゃない?」

「そうでございますね。子どもは明確なデータを取るために10人は必要かと思われます」

 ……絶対突っ込まないからな。

「突っ込むだなんてナオヤ様。その気になられたのですね」

「あーもー、ヴァイダさんは下ネタ禁止!」

「ふふふ、分かりました。もうすぐでナオヤ様が爆発してしまいそうですからね。控える事にします」

 くそう、限界ギリギリを責めるとか俺の心臓が耐えられないからやめてくれ……。

「こんな時になっても心を読むな、と言わないナオヤ様が大好きでございます」

「あー……」

 今のマジで来たんだけど。ヤバいんだけど。

 ホントもう破裂寸前なんだけど。

 何その率直な告白。胸がときめいたでござる。

 いやもう俺わけわかんなくなってんな、チクショウ。

「わ、私だってナオヤの事大好きなんだからね」

「オレも……だからな」

 拗ねる様に告白してくる二人も本当に可愛くて。

 俺は天を仰ぐしかなかった。

「……あー……、これからどうしよっか」

 2個になってしまった虹の魔石をどうするかとか、もうスマホの電池が無くなりかけてるのに充電用の魔術式はまだ完成してないとか、中断してしまったけど旅は続けなきゃいけないとか……。

 まだまだ問題は山積みだ。

 それでも、大切で愛すべきこの仲間達がいるならば、俺は何とか出来る。

 そう、感じていた。
しおりを挟む
感想 19

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(19件)

赤井水
2021.11.12 赤井水

面白い!
31話でふと思ったのですが、地球の中心?
異世界なのでは?

この星の中心になるか地球と同じ構造だと信じて内核までとかそういう表現になるのでは無いでしょうか?

熱は透過出来るけど重力や斥力、圧力は透過出来ないから一瞬で死ぬんでしょうけど。

駆威命(元・駆逐ライフ)
2021.11.14 駆威命(元・駆逐ライフ)

感想ありがとうございます!!

おっと失礼しました、描写ミスを教えていただき感謝いたします
即刻、修正いたします

解除
ケロ ネロ
2021.07.26 ケロ ネロ

”こんな作品も読んでいます!”から飛んで読み終えましたー。
ページはまあまあですが中身はかなり濃かったのでとても面白かったです。
てえてえ系ですなぁ、、(*'▽')

駆威命(元・駆逐ライフ)
2021.07.27 駆威命(元・駆逐ライフ)

感想ありがとうございます

がんばっているキャラたちをお褒めいただき恐悦至極に存じます(*´ω`)

解除
ぷーすけ
2019.12.01 ぷーすけ

・もうブレーキべた踏み
   アクセルかな?

駆威命(元・駆逐ライフ)
2019.12.01 駆威命(元・駆逐ライフ)

ありがとうございます
訂正いたしました

解除

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。