異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第83話 最高の相棒

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 煙であった時は人が全速力で走る速度よりも遅い程度であったが、結集して柱となった場合はそうではないらしい。

 柱の先端はもはや音速など軽く超えている速度が出ている様で、雨粒が水蒸気爆発を起こして破裂しているのが見える。

「走れっ」

 何度目の全力疾走だろうか。柱から直角になる様に離れていく。

 当たらないようにするだけでは不十分だ。あんな質量の塊が地面にぶつかれば、発生する衝撃波だけで全身粉々にされてしまうだろう。

 走っているうちに柱はぐんぐんと近づいて来ていて――。

「ナオヤ、てめえも防御魔術使え! 今のオレじゃ防ぎきれねえ」

「分かった!」

 俺はアウロラと共にゼアルが空中に作り出した足場を駆けあがりながら、魔術式を変える。

「はぁぁぁっ」

 ゼアルは、離れた場所に居るせいで本来のものより格段に強度の落ちた障壁を、それでも俺たちを守るために幾重にも展開していく。

 この大陸に存在する半数の都市へ結界を張り、更には俺たちの足場も作ってと、魔力消費量は大丈夫なのかと心配になるが、だからやらなくていいなどとは言わない。俺たちは一緒に戦う為にここに居るのだから。

≪ソニック・ウォール≫

 ゼアルの障壁の内側に、音の障壁を展開する。

 衝撃だって大気の振動なのだ、防げないはずはない。

 俺たちが守りを固めたのとほぼ同時に、柱が地面に接触し――。

 音が、消えた。否、大きすぎて既に音と認識できないだけ。

 爆発。閃光。衝撃。地震。地割れ。落盤。豪風。

 それら全てが同時に起こり、空間事俺たちの体を無茶苦茶に揺さぶっていく。

 目に見えるほどの大気の歪みが槍列となり、展開された障壁がまるでガラスのように次々と砕け散っていった。

「おおぉぉぉっ」

 ゼアルが両手を掲げ、迫りくる攻撃に抗おうと吠える。

 だが無情にも防御は崩れていき――最後の一枚。俺の張った防壁だけになってしまう。

 衝撃がぶつかり合い、負荷がかかったことで俺の体内から湯水のごとく魔力がくみ上げられていく。それでも俺は障壁に力を注ぎ込み続けた。

 だが、

「くっ」

 石片が俺の頬を掠める。

 ゼアルの障壁で威力をだいぶ減じられたはずなのに、それでも貫かれてしまったのだ。

 ヤバい、もう限界……。

 せめてアウロラだけでも守ろうと背後に居る彼女を俺の背中にかば――。

「オレは盾の天使なんだよっ!」

 ゼアルが俺の肩から飛び出し、そうめんで両手を広げる。

 そんな小さな体では無理だ、そう言おうとした瞬間、ゼアルの体が光となって弾け、ちょうど俺たちを守れるほど小さな障壁へと変わった。

 その障壁に、衝撃が喰らいついて大きく軋む。

 しかし、ゼアルの最後の力と願いを籠めた壁は、彼女の固い意志を具現化したかのように、決して破れず俺たちを守り切ってくれた。

 衝撃が過ぎ去り、風となる。

「ゼアルはどうなったの!?」

 アウロラが悲痛な声で叫ぶ。

 親友とも言える少女が不吉な消え方をしたのだから不安で仕方ないのだろう。

 俺もそうだ。胸の奥、魂に語り掛けてもゼアルの声は聞こえてこない。

 それでも――。

「ゼアルは生きてる! 魔力を使い果たしただけだ!」

 俺は自分自身を鼓舞するように言葉を重ねる。

「行くぞ、アウロラ! もう一度アレをやられたらもう防げない。やられる前に魔王を倒す!」

 そう断言すると、消えかかっている足元の障壁からひび割れた大地へ飛び降り、足をフル稼働して駆けていく。

 魔王までの距離は200メートル弱。もう一度同じ攻撃をされれば俺たちの負け。

 たどり着いても魔王に致命的なダメージを与えられなければこれも敗北が決まる。

 致命的なダメージ。どうすればいいかは、手段こそ分かっていても出来るかどうかは分からない。

 天秤はだいぶ魔王に傾いてしまっているが――やるしか、ない!

≪バニッシング・フォース≫

 俺は魔法消去の魔術を走りながら柱に叩き込んでいく。

 だが、柱は表面の一部がドロドロと融け落ちるだけで、質量のほとんどを残したままだ。

 如何に相性がいいとはいえ、凝縮されてしまえば力の差は歴然。

 レベルがMAXに近い相手に、レベル1が攻撃してもほとんどダメージが与えられなくて当たり前なのだ。

 それでも戦いようによっては一矢報いる……いや、倒すことだってできるはずだ。

「どうすればいいの、ナオヤ!?」

 背後から追いついて来たアウロラが問いかけて来る。

「アイツは封印が完全に解けてないはずなんだ。だからサラザールの体が必要だった。つまり――」

「どこかに虹の魔石があるっ」

「その通り」

 壊すことが出来なかったとしても、サラザールの体から切り離せば倒すか大幅な弱体が可能だろう。

 そんな会話をしながら走っている俺たちの隣で、柱が音を立てながらゆっくりと鎌首をもたげていく。その速度は思ったよりも早く、恐らく俺たちが今の半分ほど魔王に近づいた時には頂点に達しているだろう。

「ナオヤッ!」

「俺を信じろ!」

 大丈夫だ。少しなら抑えが利く。

 だから、少しでも速く。前へ、前へ――前へ!

 残り、170メートル。

 柱は30度ほど持ち上がっている。まだ魔王の顔は見えない。

 そのまま俺は走りながらスマホを操作して、恐らく一度きりの手段を――魔術を、

≪グラビティ・ジェイルっ≫

 叩きつける。

 発動した重力の槌は、柱の先端辺りを捕らえると、もう一度地面に圧しつける。

 柱の自重が増し、先端に近い位置に魔術を当てられたからこそ、重力の手は力を増してこの結果を得られたのだ。恐らく次は無い。

 魔王の作り出した黒い柱が地響きを立てて大地に沈む。走っていてもなお感じるほどの揺れにも、叩きつける様な風にも構わず進んでいく。

 そんな中、柱に変化があった。

 ズルズルと音を立てて、地面を這いずり始めたのだ。

 今でこそ柱を形作っているが、元は煙にも成れる泥の様な物体である。液状にもどして回収し、もう一度柱として構成し直せば、俺に邪魔されることも無い。

 またも魔王の元で柱が天目掛けて立ち上っていく。

 その速度から目算しても、俺たちの到達より柱の完成の方が早い。

「ナオヤ行って!」

 それを察したのか、アウロラの足が止まる。

 怖気づいたのか……なんて思うはずもない。

 彼女なりの策があるはずだ。

 俺は返事すらせずに体を傾け最後の疾走へと入る。

 大丈夫だ。俺はアウロラを信じている。必ず俺を魔王の元へと送り届けてくれるはず――。

≪炎よ――≫

 俺の背中を押すかのように、背後から詠唱が響いてくる。

≪其は彼方に手を伸ばす 其は翼を持つ≫

 射程を伸ばす呪文を一つ。

 弾速を速める呪文を一つ重ねる。

≪弾けろっ≫

 そして弾丸として形作られた炎は、威力こそ1重だが、3重――アウロラの出来る最大の魔術として結実する。

≪ファイアー・バレット・スナイプっ!!≫

 火線が俺を追い越し、虚空を疾駆して突き進む。

 魔王までの距離は、恐らく150メートル以上あるだろう。そんな遠距離を、点の魔術を使って狙撃するなど宮廷魔術士であろうと不可能だ。

 ブラスト・レイの様な垂れ流しの出来る光線などを使って修正しつつ当てるのが普通である。

 だが、柱の成長がピタリと止む。

 俺には結果など見えやしない。なんとなくおぼろげに人影が見えるだけだ。

 そんな距離を、恐らくアウロラは――。

「心臓に魔石!」

 見えている。

 本当に、本当になんて頼もしいのだろう。

 アウロラは俺みたいなチートを持っているわけではないし、魔力も並以下だ。それでも努力し、自分の才能を磨き上げ、強力な武器に昇華させたのだ。

「分かった!」

 アウロラは最高の相棒だ。
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