異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第82話 闇の中には蠢く何かが存在する

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『貴様らぁぁっ』

 魔王が呻きながら手をかざす。

 それに応じて、闇の塊が計6本、巨大な腕のごとく立ち上っていく。

『絶対的な力の差を思い知るがいいっ』

 俺たちを囲うように展開された腕が、全方位から襲い来る。

 だが、相変わらずその速度は遅い。

「アウロラ、壁の方へ行くぞっ」

 正面の腕を魔術で無効化すると、その瞬間ゼアルによって光の道が敷かれる。

 背後の空間が闇に呑み込まれ、バリンと音を立てて砕け散るのを背に、全力でひた走り、包囲網を突破した。

 ちらりと後方に背を向ければ闇一色に染まっており、魔王の居場所など見当もつかない。攻撃は無理かと諦めかけたその時――。

「私が言う通りの場所を狙って」

「見えんのか?」

「もちろんよっ」

 闇が深すぎて、俺はもちろんのことゼアルにすら見通せないのだが、どうやらアウロラは魔王の姿をしっかりととらえられているらしい。

 どんな目をしてるのかと内心驚嘆しながら腕を構え、アウロラの指示通りに腕を動かしていく。

「そこっ」

「了解っ!」

 アウロラを信じて魔術を放てば、それを追うようにアウロラも炎の矢を放つ。

 俺の魔術が闇を穿ちながら進んでいき――それを最後まで確認することなく、俺たちは街を守る壁目指して走り始める。

『ぐっ、先ほどからなんの痛痒にもならぬわっ』

「当たったことをわざわざ教えてくれてありがとよっ」

 そう吐き捨てながら今度は振り向かず、一目散に壁へとひた走った。

――ヴァイダさん、お願いがあります。

――はいはい、ご要望は如何様にでも。

 飄々とした感じで返してくるが、ヴァイダは今魔王の血液らしきものを分析中なはずだ。その上注文というのはかなり無理かもしれないが、嫌とは言わずに聞いてくれている。

 心の中で感謝しつつ、急いで要件を伝えた。

――俺たちの上空に存在する雲へ、冷気の魔法を撃ち込んでください。

――雨を降らせたいのでございますね、了解いたしました。

 さすがヴァイダは知の天使だけのことはある。そういう事には明るい様で、すぐに察してくれた。

――ありがとう。

 返答はない。恐らくはしている暇も無いのだろう。

 そのまま走り続けていると、だんだんそそり立つ壁が近づいてくる。

 普段はこの壁が魔物の襲撃から人を守ってくれているが、後ろから闇に追いかけられている今は、俺たちを追い詰める存在となってしまっていた。

「どうするの?」

 俺の意図が分からないアウロラはそう問いかけてくる。

「外に出る」

 ごめんなさいシュナイドさん。後始末お願いします。

 甘い物を沢山お土産に買って来たから許してください。

 なんて、本人に対して言っていないのだからあまり意味はないのだが、心の中でそう断った後、俺はスマホを構えて、

≪ブラスト・レイ≫

 光線を壁に向かって撃ち放った。

 光熱の帯は石造りの分厚い壁に直撃し、当たった部分を灼熱化させる。

 さすがは長年人間達を守護し続けてきた壁なだけあって、かなり堅牢であったが――。

「退いてくれっ!」

 数秒間も照射し続ければ根負けしたらしく、人が走り抜けられる程度の真っ赤な口を開ける。

「オレの出番ってわけだ」

 俺の肩口に乗る小さな守護天使が俄然やる気を出し、愛らしい腕を正面に伸ばす。

 丸く開いた穴をコーティングするように、光の障壁が紡がれる。

 即席のトンネルをくぐりぬけ――広い広い荒野へと飛び出した。

「よし、ドンピシャ」

 壁から数キロ先には二週間くらい前まで山が存在していたのだが、今はドロドロに溶けた土が固まって、岩だらけになっている。

 以前俺とゼアルが、イフリータと戦ったせいだ。

「うわぁ、山が無くなってる!?」

 変わり過ぎた風景に、アウロラは驚愕を隠し切れない様で、悲鳴に近い声をあげた。

「もうキノコとかハチミツ取りに行けないじゃないっ!」

「そっちかい」

 器がでかいのだか小さいのだか迷う内容である。

 恐らく山で生計を立てていた人たちも居たであろうから、その人たちも同じような嘆きを抱えていると思えばまあ……。

「来るぞっ」

 ゼアルの警告に慌てて走り出す。

 それと同時に背後の壁が闇の圧力に耐えかねたか、ガラガラと音を立てて崩れていき、反動で巨大な破片のいくつかが飛んでくる。

 気分は怪獣映画で逃げ惑う人間みたいな感じだった。

「ゼアル、地面に下ろしてくれ」

「あいよ」

 下に魔王の操る闇はない。地面に降りても安全だった。

 斜めになった障壁の上に腰を下ろし、アウロラと共に滑り降りる。

 固い地面の感触を足裏に感じながら再び走り出した。







「……ふぅ。さて、そろそろいいかな?」

 街からは2キロ程度は離れているため、もう巻き込まれる人は居ないだろう。

 それに上空を見上げれば、厚い雲が広がり、ぽつぽつと涙雨が降り始めている。もっと時間が経てば、より激しく風と共に降り注ぐだろう。

 これで戦う条件は揃った。

 俺はその場に止まり、息を整える。

「ここで迎え撃つんだ。でも隠れる場所何処にもないね」

 俺が肩で息をしているのにアウロラは割と平気そうであった。さすがは野山でハチと格闘していただけのことはある。

「無い方が、今回はいいんだ」

 魔王の力は障害物ごと飲み込んでくる。それに――。

「っと、追いついて来たな」

 多少引き離していたのだが、見る間に闇が地面を呑み込みながら俺たちとの距離を詰め始める。

 もう数十秒もしない内に俺たちにまで到達するだろう。だが、街中の時と比べ、多少――。

「あれ、なんか遅い?」

 実はそれだけではない。明らかに全体の体積も少なくなり、闇がより濃く凝縮しているのが分かる。

「そ、あれは闇なんてかっこつけてるが、実際には煙に近いんだよ」

 一番近い例えはナノマシンを散布する月〇蝶だろうが、そんな例えをアウロラ達に話しても理解できないだろう。

 要は、エネルギーと物質を共に喰らう極小の物体の集まりなのだ。その物体が光を吸収して一切光の反射を起こさないため黒く見えるという事である。

 そんな魔王の力の弱点はいくつかあり、その一つがコントロールするための力場を消滅させられることだ。

≪バニッシング・フォース≫

 先頭の闇に向けて魔術をかけた途端、闇は地に落ち泥と化す。こうなれば、また魔王が操るための魔法をかけ直すまで泥のままだ。

 そしてもう一つ。

 拡散すればするほど、風などの全体にかかり続ける力の影響をもろに受ける。

 風を阻むものが何もないこの荒野では、街中のように広がることは難しいだろう。

 雨風が強くなれば、今のような状態を保つことすら不可能になるはずだ。

 と、闇が凝縮を始め、高く、高く空に向かって真っすぐ伸びる一本の柱の様な形を取り始める。

 そのまま柱は蛇のように体をくねらせると――。

「おいおい……」

 太陽をも喰らうかのように、まっすぐ空へと伸びあがっていく。

 遠くにあるから小さく見えるが、恐らくその幅は俺の胴を軽く超えるだろう。そしてそんな柱がとんでもなく高くそびえ立って……。

「まさかあれって……」

「あれを振るつもりかよ」

 ゼアルの言葉が、的中する。

 数百メートル向こうに居る魔王が、その手からまっすぐ伸びる柱を、俺たちへ向かって振り下ろした。
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