異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第81話 戦闘開始

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 俺は走る。

 地面ではなく、ゼアルの作り出した道のように長い障壁の上を。

 障壁のその下には光すら拒絶する真っ暗な闇が広がっている。ほんの少しでも足を滑らせれば俺の命は無い。

 だが、死の世界と化した地面を走り回るよりはよほど安全だった。

 俺は恐らく魔王が居ると思しき方角へ顔を向ける。

「自称魔王。ちょっと忘れ物があるから取って来るんだけど待っててくれないか?」

『――はっ』

 失笑が帰って来る。

 まあ当然だ。普通は逃走するとしか思われないだろう。

『人間とはここまで愚かなのか?』

「いいや? お前が上に攻撃するのが苦手って事を見抜くくらいには愚かじゃないぜ」

 俺のジャブを受けて魔王が押し黙る。

 どうやら正解だったらしい。

 というか、わざわざ教えてやる義理も無いが、この闇とやらの構造も大体だが理解が進んで来た。恐らく――で間違いないだろう。

 何が闇だ。偉そうにしやがって。

「何手か足りないんだよ、お前を倒すためにな。さすが魔王だ、凄い凄い」

『貴様……』

 俺は足を止め、声の返って来た方角へ体を向けてわざとらしく手を叩く。

 魔王の隣に居るであろうイリアスが、俺の言葉に目を輝かせているのが容易に想像できた。

 この行為自体は相手に正常な判断をさせないために必要だからやっているだけで、別にやりたいからやっている行為ではないのだが……今回だけは少し楽しんでやっているかもしれない。

「おい、ナオヤ。挑発もいいが来るぞ」

「は? 来るって何が?」

「忘れ物」

 ゼアルがため息混じりに吐いた言葉が一瞬理解できずに居たが、自分が先ほど言ったばかりの言葉だと理解し……余計分からなくなってしまった。

 つまり、アウロラが来るってどういうことだ?

 そう頭を捻った瞬間。

「うにゃああぁぁぁぁぁぁっ!!」

 アウロラの悲鳴が飛んで・・・きた。

 その方向に顔を向けると、猛烈な速度でアウロラの体が宙を飛び、こちらに向かってくる。悲鳴を上げている事から分かる通り、明らかに彼女の意志ではない事が見て取れた。

「ヴァイダが飛ばしたんだそうだ」

「何やってんの!?」

 こっちにも頭のネジが外れてる天使が居たね!

 いや、確かに手っ取り早く合流できるけどさ!!

「どうやって受け止めればいい!?」

「俺が守護の力を纏わせてっからお前が手で捕まえろ。お前を自動で追尾するそうだから大丈夫だろ」

 またまた~、何言って……マジ? マジかよチクショウ!!

『戯れるなっ!!』

 挑発した時よりも更に激昂した魔王が闇を操り、竜巻のように巨大なうねりを生み出す。

 闇の竜巻は風を巻き起こしながらこちらへと迫りくる。

 道代わりになっていた障壁の端が噛み砕かれ、光の粒子となって闇に呑まれていく。

「次をっ」

「了解!」

 助走をつけて障壁から跳び出し、生まれたばかりの障壁に着地すると、そのまま走り出す。

 だが、新たな足場の下にも魔王の力は及んでいる。

 魔王は新たな竜巻を生み、俺たちを飲み込もうとしてきた。

「トドメだけに使うのは無理か」

 できれば慢心している間に致命的な一撃を叩き込みたかったのだが仕方がない。

 俺は魔術式を選択して――。

≪バニッシング・フォース!≫

 魔術を発動させる。

 バスケットボール大の無色透明な魔力の塊が前方の竜巻に向かって突き進んでいき――今までの魔術と同じく呑み込まれ、噛み砕かれてしまう。

『人間ごときの力で我に抗うことなど――』

 先ほどと同じ結果になったと、当然の様に得心した魔王が、そう勝ち誇った瞬間、それは起こった。

 バシッと、鞭か何かで空間をはたいた時に出るような音が響き、それと同時に竜巻が真っ黒な液体へと姿を変えていく。

「続きはどうした?」

 挑発的な俺の言葉に、魔王は返す言葉すら思い浮かばない様だった。

 もう、飛んでくるアウロラを阻むものは存在しない。

 相変わらずかわった悲鳴を上げているアウロラは、ゼアルの言った通り、動く俺に合わせて軌道を変え……。

「よっと」

「はひゅぅ……」

 無事、忘れ物を空中で受け止める事が出来た。

 アウロラはとんでもない登場をしたせいで目をぐるぐると回していたが、それでもなんとか言葉を口にする。

「ナ、ナオヤ。お姉ひゃんがたしゅけに来たわよ?」

「噛みまくってるって」

 苦笑しつつもアウロラを障壁の上に立たせる。

 グラグラしているため、軽く肩を抱いてやった。

「でも、ありがとう」

「ろういひゃひまひて」

 だから噛んでるって。

 なんて、戦闘中なのにも関わらず和んでしまう。だが、肩の力が抜けて変なプレッシャーから解放されたのは間違いなくアウロラのお陰だ。

「ヴァイダさんに頼んで飛ばしてもらったかいがあったわ」

「アウロラが頼んだのかよ……」

 なんか、ヴァイダさんから悪い影響受けてない?

 なんてのんきに会話をしていると……。

『……何をした、人間』

 呻くような声が耳朶を震わせる。

 魔王の威圧感に触れたアウロラが緊張で体を固くするが、安心しろ、と意味を込めて、ポンポンと叩きながら「大丈夫だ、俺達なら倒せる」と囁けば、たったそれだけでアウロラの緊張は嘘のように消えていた。

 こんなにも俺の事を信じてくれる少女がここにも一人居るのだ。

 そう思えば……絶対に負けられない。

「なあ、魔王様。人間如きに尋ねないと分からないのか? いやぁ、大した魔王様だ」

 なんて、敵にカラクリを教えるわけがない。

 実はとても単純だ。

 俺がしたのは飛行魔法の消去と妨害。

 そう、イリアス――その戦闘体であるドルグワントにトドメを刺した魔術を闇とやらに当てただけだ。

『……人間。確かに貴様だけは殺しておかねばならんようだな。――離れていろ』

 最後の一言はイリアスに対して告げられたものなのだろう。

 闇の一部が丸く開き、そこからふよふよとイリアスが浮かび上がってくる。

「頑張って~」

 なんて気軽に手を振りながらイリアスが離れていくのだが、お前、魔王の目の前だがいいのかと思わなくもなかった。

『少し我の闇を剥がす術を得たから――』

≪バニシング・フォース≫

 わざわざ最後まで御託を聞いてやる必要がどこにあるのだ。

 変身中に攻撃してはいけないなんてルールはない。

 俺は問答無用とばかりに魔術を撃ち込んだ。

 魔王の周囲に展開していた闇が黒い泥となって落ち、魔王――サラザールのドクロと思しきものが露出する。

 恐らくはあれが魔王の体だ。

「アウ――」

≪ファイアー・ボルト≫

 俺がアウロラに伝える前に、アウロラは出来るようになったばかりの二重魔術を無詠唱でぶち込む。

 ヴァイダのお陰で魔術の制御力が上がっているのだろう。

『ぐっ……ごぁぁぁぁっ!』

 突き進んだ炎の短矢は狙い過たず、ドクロの眼窩に突き刺さり、周囲の骨と、その奥に存在したナニカを焼く。

 そうだ。奴の体は人間を基盤にしているため、魔族とは比べ物にならないくらい脆い。アウロラの魔術でも当たり所によっては致命傷になるほどに。

 後は、どこにある・・・・・のか。

「これでいいんでしょ、ナオヤ」

「ああもちろんだ」

 アウロラは相も変わらず俺のして欲しい事を察してくれた様で、急な奇襲にすら対応してのけた。魔術師に将来慣れないかもしれないなんて事を気にしていたが、世間の評価なんてどうでもいい。彼女は俺にとって最高の相棒なのだから。

「それじゃ、人間様の力を見せてやろうぜ」
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