異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第78話 決められた敗北

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 とてつもなく強い。

 しかもこれから先、更に強くなっていくだろう。

 だというのにこちらは制限が多く、周りを気にしながら戦わねばならない。

 負けを認めろ。全部手放して逃げ出してしまえば楽になる。そう心の中で何かが囁いてくる。

 それに従ってしまえばどれだけ楽になれるだろう。

 だが俺は――。

「サラザール、言葉が通じる内に聞いておく」

 体を強く打ち付けたからか、節々から悲鳴があがる。

 俺はそれを無視して立ち上がった。

「お前は何かに取り憑かれてる。それは明らかに、魔の側に属する存在だ」

「それがどぉしたよ」

 先ほど確かに皮膚が破れ、黒い色をした体液の様なものが流れ出たはずだ。

 だが、その傷は何処にも見当たらない。

 治療魔術を施した形跡はないため、何もせずに再生してしまったのだろう。

「いずれお前はその存在に取り込まれてしまう。そうなったらどうなるか分かるか?」

 サラザールは酷くいけ好かない存在だ。

 俺自身奴を嫌っていて、助ける価値なんてこれっぽっちも見出せないが、それでも、人の命は大切なものだから、助けられるなら助けた方がいい。

「お前は死ぬんだぞ。消えてなくなるんだぞ? もうお前は人間じゃなくなり始めてる。今すぐ止めろ」

 この場には知の天使が存在している。可能性はゼロに等しいかもしれないが、治療の余地は残っているのだ。

 そんな一心で最後の手を、差し伸べたのだが――。

「はっ。こんな力を手に入れた俺に、嫉妬してんのか?」

 鼻で笑い飛ばされてしまう。

 サラザールは力に溺れてしまっていた。それこそ、後戻りが出来ないほどに。

「分かった。じゃあ……」

 分かった、ではなかった。

 分かっていた、だ。

 こいつはもう戻る事が出来ない。自分から足を踏み出してしまったんだ。

 決して踏み込んではいけない領域に。

 俺は最初、叩きのめして治療を試みるつもりだったのだが、そんな状態はとっくの昔に過ぎ去ってしまっていたのだ。

「殺す気で相手してやるよ」

 心のスイッチを、無理やり切り替えた。

 頭からすぅっと血の気が引いていき、氷の様に冷たい何かが体の中をめぐり始める。

 俺は――人を殺す決意をした。

「馬鹿が。俺は最初からそのつもりだっ!」

 サラザールが突進してくる。

 その強大な力でもって振るわれる剣は、その一撃一撃が必殺の威力を持つ。

 受ける事すら難しいだろう。

「死ねぇぇっ!!」

 大上段の更に上。烈火から、俺を唐竹割りにしようと剣を叩きつけてくる。

「お前がな」

 受けるのが難しいなら、受けなければいい。

 そもそも近接戦闘を素直に受け入れてやる必要などないのだ。

 俺は一歩後ろにさがると、

≪ソニック・ウォール≫

 超音波の防壁を展開させた。

 何度も何度も使い、魔術の範囲など体に染みついている。

 もっとも威力の発揮される地点も。

「がぁぁっ」

 ヴヴヴッという耳障りな音と共に、大気が揺らぐ。

 サラザールは周りの大気ごと揺さぶられ――。

「効くかぁっ!」

 そのまま突っ込んで来た。

 まずいと思う暇も無く、サラザールの剣が旋回して俺の側頭部を強襲する。

 盾を掲げつつしゃがみ――右腕が俺の顔にぶつかり、それでも構わず押し流されていく。鉄の板が打ち付けてある頑丈な盾が、衝撃に耐えかね激しい音を立てて壊れた。

 だがそれで終わったわけではない。唸り声をあげて旋回した剣が、血を求めて今度は逆方向から襲い掛かって来る。

 これを俺単体の力で防ぐことは不可能。ならば――。

「頼むっ」

 俺の中から光が溢れ、左半身を守る様に光の柱が立ち上る。

 その柱が剣を受け止めているうちに、俺は右手の盾――とは呼べない鉄くずを、サラザールの体に押し当てた。

 盾の残骸は、鉄板がねじ切られていて剃刀の様な断面を持っている。

 即席の刃に体重を乗せ、そのまま押し斬った。

 鉄片は革の鎧など容易く食い破り、その下にあるサラザールの体に食い込んでいく。

 皮膚を裂く感触と骨を削る感覚が、盾を固定している革のベルト通して伝わって来る。しかしそれは――。

「うっとおしいんだよぉ、クソガキがぁっ!!」

 普通の人間ならば致命傷にあたる傷でも、サラザールの現状からすればかすり傷だ。

 逆襲の蹴撃しゅうげきが俺の腹部に決まり、衝撃で後方に吹き飛ばされてしまう。

 4、5メートルは体が空を飛び、それと同じだけ地面を転がる。

 ――やばい。

 本能的に俺は盾を上にかざし、ゼアルの力を総動員させて身を護る。

 光の防壁が俺を包み終わるや否や、雨霰と大小さまざまな魔術が降り注いできた。

 爆音が轟き、衝撃で大気が弾ける。

 防壁の向こう側に少しでもはみ出してしまえば、その瞬間にその部位は消滅してしまうだろう。

 だが、守護天使の力は絶大だ。俺には毛ほどのダメージもない。

 死の雨が降り続く中、俺は既に意味のなくなった盾を外して足元に放る。

 そして、俺はスマホの操作を始めた。

 仕込みが終わった俺は、

「――――サラザール!」

 魔術の爆音に負けないくらいの大声を張り上げる。

「俺の負けだ!」

 その途端、あれほど降り注いでいた魔術がピタリと止まった。

 だが、土煙の向こうからは射貫くような殺気がピンピンと伝わって来る。

 サラザールはまだやる気でいるだろう。もちろん、俺も。

「お前に神器を渡す。それで許してくれ!」

 サラザールの嗜虐心が満足出来るかどうかは分からないが、感情の入らない声で敗北を告げた。

 しばらくの静寂が場を支配する。

 どうなるかはサラザールの胸三寸にかかっているのだが……。

「てめえがそんなタマか?」

「俺は冷静に物事を判断しただけだ。この物量には勝てない。それが分からないほど馬鹿じゃあないさ」

 これじゃあ足らないか。

 まあ、想定内だ。

「武器は持たない」

 そう言って、魔術式が書かれたプレートの入ったポーチを外してその場に放り捨てる。更に分かりやすい様、ポケットも引き出して裏地を晒した。

「盾も捨てろ」

「了解」

 俺は頷いてからスマホを地面に置き、左腕の盾を外す。

 これで本当に武器は一つもない。

 一応、分かりやすいように両手を広げた状態で頭の上にあげ、ゆっくりその場で一回転して見せる。

「……神器を持ってこい」

 完全に武器はない――恐らくまだ疑っているだろうが――と認めてくれたのか、顎をしゃくって命令する。

 俺はチロリとスマホに視線を落とし……。

「……神器を渡したら、俺の命は奪わないと約束してくれるか?」

「…………」

「約束しないなら、この神器を破壊する。この神器は割と繊細なんだ。こう見えて魔導書なんでね」

 鬱陶しそうに俺を見た後、サラザールはいいだろうと頷いた。

 ここまではまだ、俺の予想通りに事は進んでいる。ここから先は――綱渡りだ。

 俺は画面に触れない様慎重にスマホを拾い上げると、背についた泥をふっと吹き飛ばす。

「この神器の事を説明するが……」

 俺は魔術によって穴だらけになった地面に手こずりながら、ゆっくりと歩を進める。

「こいつは様々な魔術式を保存できる魔導書だ。街の入り口辺りに設置されている巨大な魔術式でも保存できるから、10重だろうと扱える」

 残り、2メートル。

 早くしろとサラザールの表情が言っているが、俺の知った事ではない。

「ああ、魔術名は唱えないとだめだ。それから魔力だって使う」

「そんな事は言われなくとも分かっている! てめえとは違うんだよ、クソガキ」

「そうか」

 残り、1メートル。

 互いに手を伸ばせば届く距離だが、まだ少し早い・・

「最後に、この神器は……」

 そう言いながら、魔術式の映って・・・いる画面を見せる。

「神器に選ばれない人間が触ると、この画面が真っ暗になる」

「……何が言いてえ」

「お前が選ばれてなかったら使えないって事だ。使えなかったとしても俺に文句を言うなよ」

「はっ」

 サラザールの口がにぃっと笑みの形に広がった。

「お前如きが選ばれて、俺が選ばれないとでも思うのか?」

 それに対する返答として俺は肩を竦めるだけで何も言わずにいた。

 俺のその態度を一種の開き直りと取ったのか、サラザールは笑みを濃くしながら手を差し出してくる。

 俺は一歩前に踏み出すと、その手にスマホを、ゆっくりと乗せた。

 その瞬間――まるでスマホがサラザールを拒絶したかのように、画面が真っ暗になる。俺の仕掛け通りに。

「なっ」

 サラザールから見れば、これは自分が神器に拒絶された様に見えるだろう。サラザールは驚愕に顔を強張らせて大きな心の隙間を生み――――俺はその顔面に拳を叩き込んだ。
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