異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第76話 訓練という名の決闘

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 ギルドの敷地内にある広場は綺麗に整地され、茶色の地面を覗かせている。

 そこに、俺とサラザールが3mくらいの距離を開けて立っていた。

 サラザールは動き易そうな革の鎧を見に纏い、抜き身の剣を肩に乗せ、苛立たしそうにつま先で地面をトントンと叩いている。

「おい早くしろっ。いつまで待たせやがる」

「初めて使うんだ。少しぐらい待て」

 そう言いつつ俺は左腕に取り付けたスモールシールドのバンドを弄りまわす。

 初めて装備した道具である事は間違いないが、その実準備そのものは終わっている。

 俺がわざともたついて見せているのはギルドに居た人たちや周辺住民を、出来るだけ静かにこの近くから遠ざける為に、時間が必要だったからだ。

「ゼアル、いざって時の守りは頼む」

 肩口に止まる小さな守護天使にそう囁く。

 彼女はこんな姿をしているが、こう見えて人間など及びもつかないほど強大、今日よくな存在であった。

「人間が使える魔術や剣程度じゃ傷もつかねえよ。だけどな……」

「分かってる」

 目の前に居るサラザールは、何かが違う。明らかに、ただの人間ではありえなかった。

 俺はこっそりスマホの電源を入れてポケットにしまっておく。

 残りの残量は30%とちょっと。長時間の戦闘ならば一度。短時間ならば二回程度は使えるだろう。

 充電を回復させる魔術ないし魔法は、まだ編み出せていなかった。

 まず雷魔法は絶縁体である空気の中ですら流れてしまうほどに強く、到底利用できるものではない。下手をすれば金属リチウムが発熱、爆発してしまう恐れだってある。単純に電圧をかければいいというわけではない。

 だったら組成そのものに魔術で手を加えれば思っても、コークス、つまり炭素分子で出来た板の狭間に存在する電子一つ一つを引き出して、酸化コバルトに引き渡さなければならないのだ。ヴァイダいわく操る狂った所業らしい。

 科学というのは簡単に見えるがその実非常に繊細でありえないぐらいに細かく、魔法や魔術などの感覚ではなかなか追いつけない代物なのだ。

「出来る限り戦いを長引かせて、避難が完了したら一気にやる」

 俺は肩の上に止まっているゼアルへそう囁きながら左手の盾の具合を確かめる。

 他の武器は、右手に取り着けた左手のと同じスモールシールドに斥力の真言が書き込まれたプレートだけ。

 リペル・パレットならば射程距離は最大でも10mだし、当たってもボクサーが全力で繰り出したストレート程度だ。

 サラザールが死ぬことは恐らく無いし、周辺の人や家に被害が出る事も無いだろう。

「……おい、サラザール」

「早くしろ、クソガキ」

 だが、俺と違ってサラザールは殺意に染まっている。

 奴が持っている剣は真剣で、柄の部分には火の真言が刻まれているのだ。

 彼がただの人間であった頃には、同じ人間を殺さない程度の良識が一応存在したが、今は何処にも見当たらなかった。

「一応、訓練って話なんだ。刃が潰れた訓練用の剣を使え」

「お前、ビビってんのか? 俺位になれば寸止めだって余裕なんだよ」

 そうは言うものの、サラザールが寸止めしそうな気配はまったくない。恐らくは全力で振りぬくつもりだろう。俺を殺すつもりで。

 説得が無駄に終わった俺は、せわしなく地面を叩くサラザールの足元を見て、時間稼ぎの限界を悟る。

 最後に一度ずつ両手に取り付けた盾のベルトを強く締め直し……俺は立ち上がった。

「ルールは決めた通り、相手に降参を認めさるか、トドメを刺せる状態にまで追い込むかだ。殺すのは無し。いいな?」

「はっ。盾を二つも装備して、そんなに死ぬのが怖いのか?」

「死を恐れないヤツが戦闘に関わるなってお前は教わらなかったのか?」

 俺は別に言われた事は無いが、そういうのは漫画の類でよく見かける為、そうなんじゃないかという推測だ。言葉に詰まったサラザールの顔を見れば、どうやら似たような事を言われていたのかもしれなかった。

「俺にはそんな臆病者の考えは関係ねえ」

「そうか……じゃあ……」

 始めよう、なんて言う暇は無かった。

 サラザールは待って待って待ち望んでいたのだ。開始の合図すらもどかしかったのだろう。

 気勢を上げながら、剣を振りかぶってこちらへ突進してくる。

 距離は――瞬きするまに詰められ、

「死ねっ!」

 大上段から剣を叩きつけてくる。

 それを俺は左腕を掲げる事で防ぐ。

「ぐっ」

 ガィンッと大きな音を立てて、盾と剣が接触する。

 宮本武蔵の逸話に倣い、もう片方の手で相手を突く、なんて動作は無理だった。

 ほんの少しでも力を緩めれば、そのまま俺の脳天を叩き割ってしまう。そのぐらいの強い力がサラザールの剣には込められていた。

 明らかに、人間に出せる力ではない。

「ははっ」

 今の激突で力の差を確信したのか、サラザールが嘲る。

 それもそうだ。俺が戦闘技術を学び始めてひと月と経たない。いくら先生が宮廷魔術師という戦闘における最高の技術を持った存在であったとしても、たったひと月でセイラムで最も強い存在に名前が挙がるサラザールに及ぶべくも無かった。

 ギャリッと盾の表面を剣が引っ掻き――。

 ――次撃が来るっ!

 横から来る薙ぎ払いを右の盾で受ける。

 盾を貫通してくる衝撃が腕を痺れさせるが、俺はそれを無視して更に意識を集中させて守りを固めた。

 旋回した剣が更に三合、四合と打ち付けられるが、そのすべてを俺は防いでいく。

「っぜえんだよ!」

 線の攻撃である剣撃では、面で防ぐ盾を二つも装備した相手に対して有効打を与えにくい。

 例えプロであっても、だ。

「盾ごとブチ殺すっ」

 力任せにサラザールが刺突を繰り出してくる。

 それで、俺は自分の予想が正しい事を理解した。

 サラザールは魔物や魔獣と戦うプロであって、人間と戦うプロではない。体重を十分に乗せた刺突ならば、強力な外皮を貫けるのかもしれないが、盾を持った人間相手にその常識は通用しないのだ。

 左腕に装着した盾に剣が当たった瞬間――、

「はっ」

 俺はそれに合わせて盾を左に、体を右に流す。

 金属を引っ掻く不快な音が響く中、サラザールの体が無為に泳ぎ――それに対して俺は右の盾をしっかりと正面に構えていた。

 シールドチャージ。

 盾を構えた状態で、相手に向かって突進する、なんの練習も要らない技。

 だがそれは、近接戦闘に置いてとても有効な一手となる。

 体勢を崩していたサラザールは俺に突き倒され、地面を転がっていく。

 そこへ――。

≪リペル・パレット≫

 斥力の一重魔術を叩きつけた。

 避ける手段などないサラザールは、胸を撃たれて苦悶にあえぐ。

 ――もう一発。

≪リペル……≫

 しかし、魔術名を最後まで唱える事は出来なかった。

「ああぁぁらぁぁっ!!」

 見えないボールを投げるような動作をしただけだというのに、虚空に炎の槍が生まれ、それがこちらに放たれる。

 俺の背後には民家があるため、避ける事は――出来ない。

「ゼアルッ」

 俺は守護天使の名前を呼び、守りの力を盾に纏わせると、右手の盾を使って炎槍を空へと弾き飛ばした。

 今の魔術は、間違いなく四重魔術。それをサラザールは魔術式を使わず、無詠唱で、しかも必ず唱えなければならない魔術名すら唱えずに扱ってみせた。こんな事は、人間には絶対不可能なはずだ。

 魔術は真言と魔術式――地球だと魔法陣が分かりやすい――を媒介にし、呪文を唱えた後、魔術名を唱えて完成させる。これが基本的な魔術の流れだ。

 魔術式を膨大なものにすることで、呪文の代替とすることが出来、それが俺のスマホによる魔術行使へと繋がって来るのだが……サラザールは今、そのルールを無視してのけたのだ。

 人間では、絶対にありえなかった。

「おらぁ、まだ行くぞぉ!」

 その隙に立ち上がっていたサラザールが叫ぶと、奴の周囲に火、氷、風など、様々な属性の四重、五重魔術が展開される。

 それが、次々と俺に襲い掛かって来た。
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