異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第74話 再会と再会

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「まったく、おかしいと思ったんだよなぁ~」

 俺はガタガタと揺れながら道をひた走る箱馬車の中で頭を掻いていた。

 箱馬車には普通、それを曳く馬が居るはずだが、この箱馬車にはそれがおらず、結構な速度で自動車の様に自走している。

 もちろんそんな事が出来るのは、ヴァイダが魔法で動かしているからだ。

 俺たちは今、王都セブンスウォールを出てセイラムに向かっていた。

「何がでございますか?」

「いやだってさ。ゼアルのヤツ、俺と分かれるってのに随分あっさりしてんなって思ってたんだよ」

 ゼアルは守護の塔から魔力を送り、様々な都市に結界を張って多くの人を守っている。俺たちの旅についてくることは出来ない。

 だから、しばらくの間お別れになる――はずだったのだ。

「ほうほう、モテ自慢でございますか。ナオヤ様もずいぶんと垂らしになってまいりましたね」

「いや。俺はゼアルに……」

 会えなくなるのは寂しい。例えまた会えるのだとしても、往復に一年以上かかるエルドラド――ミカの守る皇国だ――への旅路の最中、顔すら見られないのなんて耐えられない位寂しいと俺は思ってしまったのだ。

 そんな事は恥ずかしくて口に出せなかったが。

「なるほど。ナオヤ様の方がゼアルさんに惚れていらしたと、そういう事でございますね」

「あっ……」

 ヴァイダは人の思考を覗き見る事が出来る。

 いつもその力を発揮しているわけではないのだが、時折こうして読み取られ、からかわれてしまうのだから困りものだった。とはいえ、一応ギリギリのラインは守ってくれているため、それでヴァイダを嫌いになるわけではないのだが。

「――アウロラも知ってたんだろ。別れる時やけに静かだなって思ってたんだ」

「えへへ、ごめんね? 黙ってた方が喜ぶんじゃないかなって言われて……」

「まったく」

 確かに分かった時は驚いたけどめちゃくちゃ嬉しかったよ。

 言わないけどな。だって……。

「へっへー。これで何時でも一緒に居られるぜ」

 ご機嫌な顔をして、ゼアルが俺の肩に止まっていた。ただし、拳を縦にしたくらいの身長な上、人形の様にデフォルメした姿で。

 なんでも加護を授ける時、通常よりも多くの魂を俺に渡し、更にヴァイダによって特殊な魔法を施されたらしいのだ。それにより、こんな芸当が可能になったのだという。

「お前が普通ならって強調した時に気付くべきだったなぁ……」

「そんな事言ってたか?」

「言ってた」

「ま、細けぇ事は気にすんなって」

 ゼアルはそう言いながら、本当に嬉しそうに俺の頬をぺちぺちと叩く。

 俺自身も彼女と別れたくは無かったので、この結果にほとんど不満はない。一つだけ不満があるとすれば……ゼアルが露出度の高い服装でもって強烈なスキンシップをしてくれた時に色々と当たって嬉しかったのだが、それが無くなってしまった事くらい――。

「あー、またナオヤがいやらしいこと考えてる!」

「か、考えてないし……」

 お前はヴァイダさんかよ。なんで俺の考えてることが分かるんだよ。

「ナオヤ様がスケベな事を考えてらっしゃる時は、鼻の下が伸び切っておられますので、非常に分かりやすいのでございます」

「目線もそういうところに来るから滅茶苦茶分かりやすいんだよな」

「ぐっ」

 ……おっぱいは見ない様に今度から気を付けよう。

「ナオヤ様ナオヤ様」

「ん?」

 ヴァイダに呼ばれた俺は、ぐっと目に力を入れつつヴァイダの瞳を見つめる。

 何があったって視線を下に下げない。そんな強い覚悟を持って……。

「馬車と共にナオヤ様も揺れてらっしゃるので気付いておられませんが」

 言いつつヴァイダが魔法を発動させたのか、俺の体がふわりと浮く。

 そして、彼女の言いたい事が理解できた。

「実は私、揺れ揺れでございます」

 俺が止まって、ヴァイダは馬車に揺られている。

 つまり、ヴァイダの胸も馬車の振動に合わせてぼいんぼいんと美味しそうに揺れていて――。

 くそっ、見てしまった!! しかも何故だ!? おっぱいから目が離せないっ!!

 これはきっとヴァイダさんが魔法を使って俺の体を動かしているに違いないっ。だから仕方ないんだっ。

「言い訳が全て表情に駄々洩れなのでございますよ」

「ナオヤのエッチ! わ、私だって……私だって……」

 17歳でそれなんだから期待しない方がいいと思うよ、アウロラ。

 大丈夫、小さいのはそれはそれで。

「アウロラ様、ナオヤ様は小さいのもお好きな野獣だそうですから安心なさってください」

「やめてぇぇ! 俺の心を読まないでくれぇぇぇっ!!」

「自業自得だ、バカ」

 なんて騒ぎながら、俺たちを乗せた馬車はセイラムまで超特急で進んでいったのだった。









 自走する馬車という、酷く目を引く乗り物でセイラムに入った俺たちは、そのままギルドへと向かった。

 ここで装備の調達や補給、シュナイドへの報告とお土産の持参、それから地面に封じられている魔王の魂へ対処を決めるつもりだったのだが……。

「アカツキ様っ!!」

 ギルドに足を踏み入れた瞬間、俺の苗字が声高に叫ばれる。

 ギルドの人たちは俺の事を直夜と名前で呼ぶため、苗字を呼ばれたのは久しぶりだった。

 声のした方を振り向くと、パタパタと足音を立てながら金髪をドリルにした、豊満な体つきの女性が駆け寄って来る。

 その後ろには、黒髪の中に人房金の髪が混じった男勝りな感じのする女性と――。

「……イリアス……」

 目つきが鋭いけれど、温和な話し方をする女性――のふりをしている魔族の姿があった。今はイリアスと名乗っているが、本当は別に名前があり、ドルグワントと呼ばれる戦闘体を操る強力な魔族である。

 今はその戦闘体が地面深くに封印され、かつ魔力を乱す腕輪をしている為、かなり弱体化しているのだが。

「ナオヤさん、お久しぶりですっ」

 なんてネコを2、3匹被りまくったイリアスが走りながら手を振って来る。

「お、お久しぶりです」

 こちらも丁寧なあいさつを返しながら引きつりそうになる顔を必死に笑顔の形に整えながら、なんでてめえがここに居るんだよ、と視線で問いかけた。

 もちろん華麗にスルーされてしまったが。

「ナオヤ様」

 ヴァイダがそっと俺の肩に手を乗せる。

 さすがは知の天使、一瞬でイリアスの正体を見破ったのだろう。ゼアルは何かよく分からないが危険度は薄い、という反応をしていたのだが、これは何もかもを透視できるヴァイダの特性もあってのことだ。

「ヴァイダさん」

 彼女は弱体化していますが、魔族です。でも、人間に害を与えないと約束をしてくれています。

 その証拠として腕輪をしてくれてますから、恐らく危険はありません。

 警戒は解かない方がいいと思いますが。

「……分かりました」

 ヴァイダは俺の思考を読んで、一応納得してくれたのか、肩から手を離すと一歩下がる。ただ、加護によって混じった魂から、彼女の警戒心が少し伝わって来た。

「アカツキ様でらっしゃいますよね!?」

 目の前にやってきた女性は、まるで生き別れた家族を見つけたとでも言わんばかりの勢いで、俺の手を両手で掴み、首を垂れる。

「そ、そうですが……」

「ああ、良かった。ほんの少しだけ、うすぼんやりとですがアカツキ様のお顔を覚えておりましたの。ぜひ一度お目にかかりたく、こうして幾度もギルドを訪れておりまして……」

「ようやく会えたんだ。あと、アウロラだったっけ」

「ふえ?」

 急に自分の名前を出されたアウロラが首を傾げる。

「アンタにも会いたかった」

 金髪をたなびかせ、お嬢様言葉でしゃべる女性の背後に立つ、やや男勝りな女性が、熱っぽい目を俺とアウロラに向けて説明してくれる。

 ――が、何故そうまでして俺たちを探していたのかまったくわからなかった。

 というか、失礼だが誰だ?

「失礼いたしましたわ、アカツキ様。私、ミスティ・クロスロードと申します」

「はぁ」

「アタシはレティシア・ガレウだ」

 順に自己紹介を受けたため、一応こちら側も返しておく。

 ミスティと名乗ったお嬢様口調にドリルな縦ロールの女性は、自分を取り戻したのか、アウロラに非礼をわびた後、同じ様にアウロラの手を包み込むようにして感謝の意を表す。

「本当に、お二人には感謝してもしきれませんわ」

「はあ」

「お二人は私たちの命の恩人のなのですから」

 その言葉で、気付く。

 ボロボロになり、汚れ切った上に憔悴した二人の姿しか見ていなかったので分からなかったのだが、ミスティとレティシアの二人は――。

「あの、魔族に捕まってた二人!」

 正確には実験台に利用されていたため、意識を無くしていたのだ。

 ここまで回復したという事は、彼女への処置がうまく行ったのだろう。

 それをしたのは、彼女たちの背後で静かにたたずんでいるイリアスだが。

「そっか、目が覚めたんですね……良かった」

 ただ、それが分かっていても俺の心は歓喜の光で満たされていく。

 本当に、この2つの命が助かってくれた事が、とても嬉しかった。

「本当に感謝しかございませんわ。私達3人・・はお二方に命を救われましたんですのよ」

 ミスティの4人居たパーティのうち、助かったのは3人ではない、正確には2人だ。

 本物のイリアスは死んで、今は魔族が入れ替わっている。

 恐らくは、このイリアスは本格的にミスティたちのパーティに潜り込むことにしたのだろう。だから3人と言っているのだ。

「……でも、救えなかった人も居ます。すみません」

「いいえ。シィルも指輪を持ち帰っていただいて、きっと魂が救われたはずですわ」

「アタシたち3人できちんと弔ってやれたからな。十分だ」

 戦闘を主体に活動するギルド員は、死体も残らない事がままあるそうだ。

 魔物に負けて食われたり、骨も残らないほど消し炭にされたりする。そういうのと比べればマシ、ということなのだろう。俺は到底そうは思えなかったが。

 ただ、いつまでも悲しみを引きずっていてもしょうがない。この世界は、日本に比べてずっと死に近い世界なのだから。

「そうですか。じゃあ今度そのシィルさんのお墓に――」

 アウロラやヴァイダに視線だけで確認を取りながら、そう提案しようとした矢先……。

「やっと帰って来やがったか、クソガキ」

 だみ声が、俺たちの間に割って入った。
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