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第71話 いつも笑顔な人が怒ると怖いですよね
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それから始まった会談は……予想通りひたすら暇だった。
それぞれの王がちょっとした話をして――ゼアルが言うに、それすら牽制らしいがよく分からない――本題に入れば自国の利益の為に無理難題を吹っかけてきたりする。
倒した俺とかほぼ完全に無視されていて、ちょこっと話題に上っても、どうせ天使様のバックアップをちょろっとしただけだろ、みたいな目で見られて終わり。名前すら聞かれなかった。
まったく出番のないアウロラは、眠気との死闘を余儀なくされ、顔が斜めになっては戻す、まぶたが降りて来ては手をつねるという事をずっと続けていた。
天使たちの中にも、会議に飽きてしまった物も居る。
アウロラよりも小さい体を持ち、ぶかぶかの皮鎧を着け、とび色の瞳と短い茶髪。そして何よりも小さい体に似合わずヴァイダに匹敵すると思われる巨大な胸を持った、ロリ巨乳天使のウールは、がっつりと寝息をかきながら爆睡していた。
ヴァイダは魔法だけ維持してはいるものの、表情が一ミリも動いていないところを見ると、たぶん思考だけ異次元に飛ばしているに違いない。
真面目な顔で頷いているのはゼアルとミカなる天使で、きっと他の天使は会談がつまらなくて欠席したんだろうなということが容易に想像できた。
「だからオレはナオヤに預けるのも手だと思うんだが」
急に名前を呼ばれた俺は、びくりと背筋を伸ばす。
というか全く内容を聞いていなかったため、何がどうなってそういう結論になって、俺が何をすべきなのか全く分からなかった。
「一ギルド員風情に、ですか」
髭を蓄えた王の一人が不満を口にする。
彼らにとっては俺はどこぞの馬の骨。預けるに値しないといったところだろう。
まあ、正しいのかもしれないけど。
見た目が如何にも強そうな英雄って感じならちょっと一目置かれるのかもしれないけど……。普通の男子高校生だもんなぁ。
背もちょっと低めだし。
人は見た目が九割とか言うしなぁ……。はぁ……。
「その冒険者が魔族三体倒してんだ。ふぜいとか言う前にてめえより世界に貢献してる事理解しろよ」
ゼアルがそう言った瞬間、会議の場が静まり返る。
そして――失笑が場を埋め尽くした。
「ゼアル様。あまりにもそれは言い過ぎでしょう。3体? 先日お聞きしたお話では2体だったではありませんか」
この世界は電話のような便利なものは存在しない。
ヴァイダの使う魔法でならば全世界何処に居ようとリアルタイムで連絡可能だが、ゼアルはそこまで強い魔法は使えないのだ。したがって、3日前にコキュートスを倒したという事は、彼らに伝わっていなかった。
「ゼアル、私も初耳です。詳しくよろしいですか?」
黒髪の美しい、委員長タイプの守護天使――ミカが代表して質問する。
彼女は失笑などしていなかったが、眉根を寄せて少し懐疑的な様であった。やはり人間が魔族を倒す、とは相当信じられない事の様だ。
「ナオヤ様の事でしたら私が逐一余さず漏らさず観察しておりましたので、私から説明いたしましょう」
それまで彫像の様に部屋の中心でピクリともしなかったヴァイダが口をはさむ。
どうやら俺の事だから関わりたかったらしい。
……嫌な予感がするが……さすがにこんな場で下ネタを飛ばすほどヴァイダも非常識ではないだろう。
ヴァイダはこほんと咳ばらいをして、王と天使たちを見回し、
「まず、私がナオヤ様に身も心も捧げた事は本件とは何も関係ありませんのでよろしいですね」
しょっぱなからぶちかましてくれやがりました。
「おいいいぃぃぃぃっ!? ねえ、何言ってんの? 何言っちゃってんの、ヴァイダさん!!」
「それはもう言った者勝ちの原則に則って、ナオヤ様と私の関係を既成事実化させてしまおうと思いまして」
してやったりと言いたげな表情で、ヴァイダがそう宣言する。
それを聞き捨てならない女性が二人、この場には存在していた。
ゼアルとアウロラがゆらりと立ち上がり、ヴァイダに食ってかかる。
「はぁ? ナオヤはオレのもんでもあるんだ。てめえ一人に独占させるつもりはねえぞ」
「そ、そうよ。みんなで決めたじゃないですか! ナオヤはみんなで仲良く等分しようって」
その言い方怖えよ、アウロラ。
ヴァイダさんに毒されてないか?
「時間はその通りですが、周りに対する印象というものは協定外でございますよ。それに時間は有限でございます。会談の間もナオヤ様の近くに居られてズルいと言いたいのは私の方なのですよ」
「うぅ……」
アウロラとゼアルの二人が、ヴァイダの反撃によって沈黙した隙を縫うようにして咳払いが響く。
守護天使に対してそんな事が出来るのはもちろん――。
「あ、あのですね。二人がと、殿方相手にその様な……か、感情を抱くのは勝手ですが。その、とにかくヴァイダは話を進めてください」
ミカはこの手の話が苦手なのだろうか。詰まりながらヴァイダに話を進める様促した。
というか、守護天使にそんな無礼な事する人間居なかったんだろうなぁ。
王様たちの視線が痛い……。
「はい。私の言いたいことは、とにかくそういった感情による身贔屓は無いという事を言いたかったのです。大体私がナオヤ様に落とされてしまったのは戦闘後ですから」
「いいから早くしてくれ……」
もういたたまれなさでいっぱいの俺は、顔を伏せたままヴァイダに頼み込む。
「ナオヤ様。こういう場合は俺の唇で黙らせてやると、と言ってくださいますと胸がときめくのでございます」
「後でな!」
それが何年後かは知らんが。
つーか、ヴァイダさんの国の王様。えっと、シャムシールなんちゃら王が口をあんぐり開けて心臓止まりそうなくらい驚いてんじゃないですか。
ショック死したらヴァイダさんのせいですからね。
「ふふっ、からかうのはこのくらいにして話を続けましょうか。それでですが――」
ようやく満足したのかヴァイダは急に真剣な表情になると、コキュートスとの戦いの話をする。
どうやら透視を使って観測していたらしく、俺が知らないことまで事細かに解説してくれた。
「――と、いう事です」
俺の行動を話すのがそんなに嬉しいのか、非常に満足げにそう締めくくる。俺としてはそう持ち上げられると体がむず痒くなってしまうのだが……。
「そんな事。それでは結局ヴァイダ様がたお――」
「数合の撃ち合いで相手の在り様と弱点を見抜き、私がトドメを刺すための時間を命がけで稼ぐ。そんなお二人の行動を、そんな事、ですか。なるほど」
思わず体が底冷えするほど酷薄な笑みを浮かべたヴァイダは、彼女たちが人間の上位者であることを思い出させてくれるほどのプレッシャーを放つ。
その場にいる人間全員が、知らず知らずの内に冷や汗を流し、固唾を呑み込んだ。
そんな事、と言ってしまった壮年の王など、プレッシャーの直撃を受けて生きた心地がしないのだろう。合わない歯の根をがたがたと震わせていた。
「私が追いかけますので本気で鬼ごっこをしてみますか? もちろん、私の魔法に当たれば一撃で命はありませんが……。ナオヤ様とアウロラ様はそれを為した上に反撃まで為さってましたよ? そんな事、とおっしゃるのですからできますよねぇ?」
「ヴァイダさん、言い過ぎです。擁護してくれるのは有難いですけど、今は王様がたを脅す状況じゃありませんよ」
俺は気にしてないから。と、心の中で語り掛ける。思考を読み取る事の出来るヴァイダなら、きっとわかってくれるはずだ。
そして――俺は目の前に居るゼアルの肩にも手を置く。
彼女も身を乗り出して俺の事を擁護しようとしてくれていた。
結局のところ、魔法や魔術を使って違う現象を起こして倒すというのは、科学的な知識が無い人たちには分かりにくいのだ。だから、分かってくれている人達だけが分かってくれればいい。
「王の皆様方は、こうして命を削って世界を動かして下さっています。それは俺にはできませんから……。適材適所ってことですよ」
ね、と未だ震えあがっている壮年の王に視線を送ると、王はコクコクと何度も頷いて同意を示した。
「ナオヤ様がそう仰るなら」
ヴァイダは怒りを納め、元の笑顔に戻ると、
「そんなわけですので、ナオヤ様に虹の魔石、つまり魔王の魂をお預けして、ミカさんの所にまで運んでいただくのが良いと思います」
「は?」
なんて、爆弾を落とされてしまった。
まあ、会談をまともに聞いてなかった俺が悪いんだけどさ。
それぞれの王がちょっとした話をして――ゼアルが言うに、それすら牽制らしいがよく分からない――本題に入れば自国の利益の為に無理難題を吹っかけてきたりする。
倒した俺とかほぼ完全に無視されていて、ちょこっと話題に上っても、どうせ天使様のバックアップをちょろっとしただけだろ、みたいな目で見られて終わり。名前すら聞かれなかった。
まったく出番のないアウロラは、眠気との死闘を余儀なくされ、顔が斜めになっては戻す、まぶたが降りて来ては手をつねるという事をずっと続けていた。
天使たちの中にも、会議に飽きてしまった物も居る。
アウロラよりも小さい体を持ち、ぶかぶかの皮鎧を着け、とび色の瞳と短い茶髪。そして何よりも小さい体に似合わずヴァイダに匹敵すると思われる巨大な胸を持った、ロリ巨乳天使のウールは、がっつりと寝息をかきながら爆睡していた。
ヴァイダは魔法だけ維持してはいるものの、表情が一ミリも動いていないところを見ると、たぶん思考だけ異次元に飛ばしているに違いない。
真面目な顔で頷いているのはゼアルとミカなる天使で、きっと他の天使は会談がつまらなくて欠席したんだろうなということが容易に想像できた。
「だからオレはナオヤに預けるのも手だと思うんだが」
急に名前を呼ばれた俺は、びくりと背筋を伸ばす。
というか全く内容を聞いていなかったため、何がどうなってそういう結論になって、俺が何をすべきなのか全く分からなかった。
「一ギルド員風情に、ですか」
髭を蓄えた王の一人が不満を口にする。
彼らにとっては俺はどこぞの馬の骨。預けるに値しないといったところだろう。
まあ、正しいのかもしれないけど。
見た目が如何にも強そうな英雄って感じならちょっと一目置かれるのかもしれないけど……。普通の男子高校生だもんなぁ。
背もちょっと低めだし。
人は見た目が九割とか言うしなぁ……。はぁ……。
「その冒険者が魔族三体倒してんだ。ふぜいとか言う前にてめえより世界に貢献してる事理解しろよ」
ゼアルがそう言った瞬間、会議の場が静まり返る。
そして――失笑が場を埋め尽くした。
「ゼアル様。あまりにもそれは言い過ぎでしょう。3体? 先日お聞きしたお話では2体だったではありませんか」
この世界は電話のような便利なものは存在しない。
ヴァイダの使う魔法でならば全世界何処に居ようとリアルタイムで連絡可能だが、ゼアルはそこまで強い魔法は使えないのだ。したがって、3日前にコキュートスを倒したという事は、彼らに伝わっていなかった。
「ゼアル、私も初耳です。詳しくよろしいですか?」
黒髪の美しい、委員長タイプの守護天使――ミカが代表して質問する。
彼女は失笑などしていなかったが、眉根を寄せて少し懐疑的な様であった。やはり人間が魔族を倒す、とは相当信じられない事の様だ。
「ナオヤ様の事でしたら私が逐一余さず漏らさず観察しておりましたので、私から説明いたしましょう」
それまで彫像の様に部屋の中心でピクリともしなかったヴァイダが口をはさむ。
どうやら俺の事だから関わりたかったらしい。
……嫌な予感がするが……さすがにこんな場で下ネタを飛ばすほどヴァイダも非常識ではないだろう。
ヴァイダはこほんと咳ばらいをして、王と天使たちを見回し、
「まず、私がナオヤ様に身も心も捧げた事は本件とは何も関係ありませんのでよろしいですね」
しょっぱなからぶちかましてくれやがりました。
「おいいいぃぃぃぃっ!? ねえ、何言ってんの? 何言っちゃってんの、ヴァイダさん!!」
「それはもう言った者勝ちの原則に則って、ナオヤ様と私の関係を既成事実化させてしまおうと思いまして」
してやったりと言いたげな表情で、ヴァイダがそう宣言する。
それを聞き捨てならない女性が二人、この場には存在していた。
ゼアルとアウロラがゆらりと立ち上がり、ヴァイダに食ってかかる。
「はぁ? ナオヤはオレのもんでもあるんだ。てめえ一人に独占させるつもりはねえぞ」
「そ、そうよ。みんなで決めたじゃないですか! ナオヤはみんなで仲良く等分しようって」
その言い方怖えよ、アウロラ。
ヴァイダさんに毒されてないか?
「時間はその通りですが、周りに対する印象というものは協定外でございますよ。それに時間は有限でございます。会談の間もナオヤ様の近くに居られてズルいと言いたいのは私の方なのですよ」
「うぅ……」
アウロラとゼアルの二人が、ヴァイダの反撃によって沈黙した隙を縫うようにして咳払いが響く。
守護天使に対してそんな事が出来るのはもちろん――。
「あ、あのですね。二人がと、殿方相手にその様な……か、感情を抱くのは勝手ですが。その、とにかくヴァイダは話を進めてください」
ミカはこの手の話が苦手なのだろうか。詰まりながらヴァイダに話を進める様促した。
というか、守護天使にそんな無礼な事する人間居なかったんだろうなぁ。
王様たちの視線が痛い……。
「はい。私の言いたいことは、とにかくそういった感情による身贔屓は無いという事を言いたかったのです。大体私がナオヤ様に落とされてしまったのは戦闘後ですから」
「いいから早くしてくれ……」
もういたたまれなさでいっぱいの俺は、顔を伏せたままヴァイダに頼み込む。
「ナオヤ様。こういう場合は俺の唇で黙らせてやると、と言ってくださいますと胸がときめくのでございます」
「後でな!」
それが何年後かは知らんが。
つーか、ヴァイダさんの国の王様。えっと、シャムシールなんちゃら王が口をあんぐり開けて心臓止まりそうなくらい驚いてんじゃないですか。
ショック死したらヴァイダさんのせいですからね。
「ふふっ、からかうのはこのくらいにして話を続けましょうか。それでですが――」
ようやく満足したのかヴァイダは急に真剣な表情になると、コキュートスとの戦いの話をする。
どうやら透視を使って観測していたらしく、俺が知らないことまで事細かに解説してくれた。
「――と、いう事です」
俺の行動を話すのがそんなに嬉しいのか、非常に満足げにそう締めくくる。俺としてはそう持ち上げられると体がむず痒くなってしまうのだが……。
「そんな事。それでは結局ヴァイダ様がたお――」
「数合の撃ち合いで相手の在り様と弱点を見抜き、私がトドメを刺すための時間を命がけで稼ぐ。そんなお二人の行動を、そんな事、ですか。なるほど」
思わず体が底冷えするほど酷薄な笑みを浮かべたヴァイダは、彼女たちが人間の上位者であることを思い出させてくれるほどのプレッシャーを放つ。
その場にいる人間全員が、知らず知らずの内に冷や汗を流し、固唾を呑み込んだ。
そんな事、と言ってしまった壮年の王など、プレッシャーの直撃を受けて生きた心地がしないのだろう。合わない歯の根をがたがたと震わせていた。
「私が追いかけますので本気で鬼ごっこをしてみますか? もちろん、私の魔法に当たれば一撃で命はありませんが……。ナオヤ様とアウロラ様はそれを為した上に反撃まで為さってましたよ? そんな事、とおっしゃるのですからできますよねぇ?」
「ヴァイダさん、言い過ぎです。擁護してくれるのは有難いですけど、今は王様がたを脅す状況じゃありませんよ」
俺は気にしてないから。と、心の中で語り掛ける。思考を読み取る事の出来るヴァイダなら、きっとわかってくれるはずだ。
そして――俺は目の前に居るゼアルの肩にも手を置く。
彼女も身を乗り出して俺の事を擁護しようとしてくれていた。
結局のところ、魔法や魔術を使って違う現象を起こして倒すというのは、科学的な知識が無い人たちには分かりにくいのだ。だから、分かってくれている人達だけが分かってくれればいい。
「王の皆様方は、こうして命を削って世界を動かして下さっています。それは俺にはできませんから……。適材適所ってことですよ」
ね、と未だ震えあがっている壮年の王に視線を送ると、王はコクコクと何度も頷いて同意を示した。
「ナオヤ様がそう仰るなら」
ヴァイダは怒りを納め、元の笑顔に戻ると、
「そんなわけですので、ナオヤ様に虹の魔石、つまり魔王の魂をお預けして、ミカさんの所にまで運んでいただくのが良いと思います」
「は?」
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まあ、会談をまともに聞いてなかった俺が悪いんだけどさ。
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