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第70話 顔合わせ――きれていないのはご愛敬
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映画の中の英雄ならばキスして終了だが、そんな風に現実は終わらない。俺たちには地獄のような後始末が待っていた。
まずはガンダルフ王を始めとしたお偉いさんたちへの報告である。
顔面が痙攣して視線だけで人間を殺してしまいそうなほど怖い顔をしたガンダルフ王に、内心ガクブルと震えながら事情を説明した。
なお、聞くところによると、この時のガンダルフ王は俺たちに怒っていたのではなく襲撃してきたコキュートスに対して怒っていたらしい。その時の俺は知る由も無かったが。
破損した物の弁償――はさすがにゼアルとヴァイダの弁護によって勘弁してもらえた。
ヴァイダの、倒すのには王都まるごと吹き飛ばしたら倒せたでしょうが、それでもよいのならそう致しましたけど? という脅迫にも聞こえる一言が決定的だった様に思う。
イフリータの時は、確かに山三つと数十キロに渡って地面が溶岩の沼と化したので、それに比べれば宮殿が凍り付いて穴だらけになった程度安いのではないだろうか。
……ということにしておきたいのが俺の願望だったりする。
報奨金はちょっと期待できそうにないのかなと思わないでもない。代わりにヴァイダとの出会いがあったのだから良しとしておこう。
その後は、宮殿の解凍や壊れた壁などの応急処置、コキュートスの起こした突風や氷のせいで被災した人々の救援などやる事は沢山あったのだが、ガンダルフ王の見事な采配によって、事はつつがなく進んでいった。
そして三日が過ぎ――。
「それでは準備はよろしいですか? ガンダルフ王、ゼアルさん」
守護の塔最上階、部屋の中央に立つヴァイダが振り返って確認をする。
「よろしくお願いいたします、ヴァイダ様」
「おう、頼む」
部屋のやや端寄りの位置で椅子に座っているガンダルフ王とゼアルは、準備万端と言った様子で首を縦に振る。
彼女たちが何をしようとしているのかと言えば、世界中の守護天使及び王や皇帝とのリアルタイム直接会談を始めようとしているのだ。
ヴァイダがやって来たのもそれが目的の半分らしい。
残りの半分は虹の魔石――封印された魔王の魂を研究しようという腹積もりだったというのだから、実に彼女らしかった。
「ナオヤ様、アウロラ様もよろしいですか?」
「よろしくないです」
ヴァイダに尋ねられた俺は、憮然とした表情でそう答える。
ガンダルフ王の後ろ、俺と共に長椅子に腰かけているアウロラは、緊張しきって返事するどころではなさそうだが、たぶん俺と同じ気持ちだろう。
「あら? それはいけませんね。早く準備を終えてくださいますか?」
「ヴァイダさん、ひとつよろしいでしょうか?」
「はい、ナオヤ様からのご質問でしたらどんな秘密でもお答えいたしますよ。胸のサイズ――」
「ヴァイダさんっ!」
ヴァイダは相変わらずのおちゃらけた感じで混ぜっ返してくるが、今回ばかりは彼女のペースに呑まれてはいけない。だって……。
「なんで俺たちがそんな胃が痛くなるような会議に出ないといけないんですかっ」
だって俺ただの冒険者ってーかギルド員よ? 平民よ?
王様とかからしたら名もなき村人Aよ?
「ナオヤ様がただの一般市民と主張されるのは無理だと思われますが……」
「世界で初めて魔族を倒した人間のくせして、一般人の振りすんじゃねーよ」
「ま、魔族倒したことあるのは俺だけじゃないんだろ?」
天使たちは何体かの魔族を倒していると聞く。そんなに珍しい事でもないはずだ、なんて自分でもちょっと無理があるんじゃないかなって論理を振りかざして抵抗してみる。
「そうでございますが、宝石級はミカさんが一体倒しただけでございます。他は金級ですから、そういう意味では私達天使よりも撃破数は多いのですよ」
「いえいえ、コキュートスにトドメを刺したのはヴァイダさんじゃないですか。それにイフリータはゼアルと共同っていうか半分以上はゼアルの手柄ですし、ドルグワントは……」
なんて、言い訳を並べ立てる俺の事を歯がゆく思ったのだろう。
ヴァイダは冷たい声で、
「あまり往生際が悪いと寝込みを襲って差し上げますよ?」
なんて言葉をナイフの様に刺し込んで来た。
「……はいごめんなさい諦めます」
「その様に黙ってしまわれては些か女としてのプライドに傷がついてしまうのですが……」
すみません。ぷくって頬を膨らませているヴァイダさんはとってもかわいいと思います。
俺の覚悟が決まってないからです、はい。
だからそういう事言わないでください。っていうかそういう冗談言うとゼアルとアウロラの二人が本気にして寝込み襲ってきそうなんですやめてください。
「諦めろ、ナオヤ。テメーがした事の責任だ」
「そうかもしれないけどさ……」
「それに……」
急にゼアルが頬を赤くして、ぷいっとそっぽを向く。
「なんかあったらオレが守ってやるから心配すんな」
「あ、ああ」
「わ、私もナオヤの事守ってあげるからね。お姉ちゃんなんだからっ」
対抗するようにアウロラも名乗りを上げる。
確かに精神的には頼りになるのだが、弁が立つとは言い難いアウロラに頼るのは厳しそうだ。
俺はしょうがないとでかいため息をついてから……ヴァイダに向かって頷く。
彼女がくすりと笑ったのは、俺が相当情けない顔をしていたからに違いない。
いやでも、お偉いさんとの会談が好きな人っていないでしょ?
「それでは始めます」
ヴァイダが宣言した瞬間、彼女の足元から光のラインが四方八方へと走っていく。
それは一定の距離まで伸びると、その場に光の池を作る。
池に水が注ぎこむように、ラインを伝ってヴァイダの魔力が注ぎ込まれ、池の大きさが直径1mほどの大きさになると、それがさらに強く発光して、人の影のような物を映し出した。
アニメや映画でよくある立体映像の様な感じである。
時間が経つと人の影はより鮮明になっていき、それが男の人や天使だと分かるようになった。
「ゼアル、すまん。名前間違ってしまうと失礼だから、俺が発言することあったらこっそり教えてくれ」
一応全ての国名と王と天使の名前を教えてもらっていたが、さすがに全員間違えずにいられる自信はなかった。
「りょーかい」
こっそりと頼んだこちらに合わせ、小声でそう返してくれる。
ガンダルフ王は無言で聞き流してくれている当たり、顔は怖いが優しい人の様だ。顔と筋肉は怖いけど。
とりあえず胸を撫で下ろした俺は、天使の名前を頭に思い浮かべていく。
ミカ、ガリィ、ウール、リリア、ジルヴァ、ヴァイダ、ゼアルの七人で、それぞれの国を守護していて……って何柱か居ませけど?
なんて俺の疑問を代弁してくれるように、黒髪が涼やかな天使――背中に3対6枚の翼を持っている目元がきつめだが清楚なお嬢様といった風貌をしていて巫女服を身に纏っている――が口を開き、
「ジルヴァとガリィ、それからリリアは欠席ですか?」
そうため息交じりに問いかける。
「はっ。申し訳ありません、大天使様。ジルヴァ様は魔獣や魔物退治に走り回ってくださっておりまして……」
白いカイゼル髭を蓄えた王――ギョーム・ラ・ガイヤルド――が畏まって謝罪を口にする。
「ミカ、ジルヴァが一か所に留まってられるわけねえのは分かってんだろ。アイツは走ってないと死ぬんじゃねえかってくらい走るのが好きだからな」
ジルヴァという天使はヴァイダの姉妹らしく色々と癖がありそうな天使らしい。
ゼアルはまだ常識人より――っと、ヴァイダさんも常識人ですよ。でもからかうのは止めて欲しいんですよね。
心の読めるヴァイダにちょっとだけ睨まれ、慌てて途中から思考を切り替えて謝罪しておく。
「ガリィはまた治療でしょうね。あの子は自分の事を犠牲に人間の治療ばかりするのですから……」
「リリア様は少し前に修行の旅に出られました」
馬に乗って薙刀でも振り回しているのがお似合いな王――アジア系の顔立ちをしており少し親近感が持てる――が、何か文句あるのかと言わんばかりに堂々と言ってのける。
何となくだが、どの国の王も自国の守護天使を誇りに思っているのが何となく感じられた。
「仕方ありませんね。居ない者は王の判断に任せるという意思表示でしょう」
そう言って、ゼアルにミカと呼ばれた天使はぐるりと一同を見回し、
「それでは人間の王達よ。始めましょう」
会議の始まりを宣言した。
まずはガンダルフ王を始めとしたお偉いさんたちへの報告である。
顔面が痙攣して視線だけで人間を殺してしまいそうなほど怖い顔をしたガンダルフ王に、内心ガクブルと震えながら事情を説明した。
なお、聞くところによると、この時のガンダルフ王は俺たちに怒っていたのではなく襲撃してきたコキュートスに対して怒っていたらしい。その時の俺は知る由も無かったが。
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その後は、宮殿の解凍や壊れた壁などの応急処置、コキュートスの起こした突風や氷のせいで被災した人々の救援などやる事は沢山あったのだが、ガンダルフ王の見事な采配によって、事はつつがなく進んでいった。
そして三日が過ぎ――。
「それでは準備はよろしいですか? ガンダルフ王、ゼアルさん」
守護の塔最上階、部屋の中央に立つヴァイダが振り返って確認をする。
「よろしくお願いいたします、ヴァイダ様」
「おう、頼む」
部屋のやや端寄りの位置で椅子に座っているガンダルフ王とゼアルは、準備万端と言った様子で首を縦に振る。
彼女たちが何をしようとしているのかと言えば、世界中の守護天使及び王や皇帝とのリアルタイム直接会談を始めようとしているのだ。
ヴァイダがやって来たのもそれが目的の半分らしい。
残りの半分は虹の魔石――封印された魔王の魂を研究しようという腹積もりだったというのだから、実に彼女らしかった。
「ナオヤ様、アウロラ様もよろしいですか?」
「よろしくないです」
ヴァイダに尋ねられた俺は、憮然とした表情でそう答える。
ガンダルフ王の後ろ、俺と共に長椅子に腰かけているアウロラは、緊張しきって返事するどころではなさそうだが、たぶん俺と同じ気持ちだろう。
「あら? それはいけませんね。早く準備を終えてくださいますか?」
「ヴァイダさん、ひとつよろしいでしょうか?」
「はい、ナオヤ様からのご質問でしたらどんな秘密でもお答えいたしますよ。胸のサイズ――」
「ヴァイダさんっ!」
ヴァイダは相変わらずのおちゃらけた感じで混ぜっ返してくるが、今回ばかりは彼女のペースに呑まれてはいけない。だって……。
「なんで俺たちがそんな胃が痛くなるような会議に出ないといけないんですかっ」
だって俺ただの冒険者ってーかギルド員よ? 平民よ?
王様とかからしたら名もなき村人Aよ?
「ナオヤ様がただの一般市民と主張されるのは無理だと思われますが……」
「世界で初めて魔族を倒した人間のくせして、一般人の振りすんじゃねーよ」
「ま、魔族倒したことあるのは俺だけじゃないんだろ?」
天使たちは何体かの魔族を倒していると聞く。そんなに珍しい事でもないはずだ、なんて自分でもちょっと無理があるんじゃないかなって論理を振りかざして抵抗してみる。
「そうでございますが、宝石級はミカさんが一体倒しただけでございます。他は金級ですから、そういう意味では私達天使よりも撃破数は多いのですよ」
「いえいえ、コキュートスにトドメを刺したのはヴァイダさんじゃないですか。それにイフリータはゼアルと共同っていうか半分以上はゼアルの手柄ですし、ドルグワントは……」
なんて、言い訳を並べ立てる俺の事を歯がゆく思ったのだろう。
ヴァイダは冷たい声で、
「あまり往生際が悪いと寝込みを襲って差し上げますよ?」
なんて言葉をナイフの様に刺し込んで来た。
「……はいごめんなさい諦めます」
「その様に黙ってしまわれては些か女としてのプライドに傷がついてしまうのですが……」
すみません。ぷくって頬を膨らませているヴァイダさんはとってもかわいいと思います。
俺の覚悟が決まってないからです、はい。
だからそういう事言わないでください。っていうかそういう冗談言うとゼアルとアウロラの二人が本気にして寝込み襲ってきそうなんですやめてください。
「諦めろ、ナオヤ。テメーがした事の責任だ」
「そうかもしれないけどさ……」
「それに……」
急にゼアルが頬を赤くして、ぷいっとそっぽを向く。
「なんかあったらオレが守ってやるから心配すんな」
「あ、ああ」
「わ、私もナオヤの事守ってあげるからね。お姉ちゃんなんだからっ」
対抗するようにアウロラも名乗りを上げる。
確かに精神的には頼りになるのだが、弁が立つとは言い難いアウロラに頼るのは厳しそうだ。
俺はしょうがないとでかいため息をついてから……ヴァイダに向かって頷く。
彼女がくすりと笑ったのは、俺が相当情けない顔をしていたからに違いない。
いやでも、お偉いさんとの会談が好きな人っていないでしょ?
「それでは始めます」
ヴァイダが宣言した瞬間、彼女の足元から光のラインが四方八方へと走っていく。
それは一定の距離まで伸びると、その場に光の池を作る。
池に水が注ぎこむように、ラインを伝ってヴァイダの魔力が注ぎ込まれ、池の大きさが直径1mほどの大きさになると、それがさらに強く発光して、人の影のような物を映し出した。
アニメや映画でよくある立体映像の様な感じである。
時間が経つと人の影はより鮮明になっていき、それが男の人や天使だと分かるようになった。
「ゼアル、すまん。名前間違ってしまうと失礼だから、俺が発言することあったらこっそり教えてくれ」
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「りょーかい」
こっそりと頼んだこちらに合わせ、小声でそう返してくれる。
ガンダルフ王は無言で聞き流してくれている当たり、顔は怖いが優しい人の様だ。顔と筋肉は怖いけど。
とりあえず胸を撫で下ろした俺は、天使の名前を頭に思い浮かべていく。
ミカ、ガリィ、ウール、リリア、ジルヴァ、ヴァイダ、ゼアルの七人で、それぞれの国を守護していて……って何柱か居ませけど?
なんて俺の疑問を代弁してくれるように、黒髪が涼やかな天使――背中に3対6枚の翼を持っている目元がきつめだが清楚なお嬢様といった風貌をしていて巫女服を身に纏っている――が口を開き、
「ジルヴァとガリィ、それからリリアは欠席ですか?」
そうため息交じりに問いかける。
「はっ。申し訳ありません、大天使様。ジルヴァ様は魔獣や魔物退治に走り回ってくださっておりまして……」
白いカイゼル髭を蓄えた王――ギョーム・ラ・ガイヤルド――が畏まって謝罪を口にする。
「ミカ、ジルヴァが一か所に留まってられるわけねえのは分かってんだろ。アイツは走ってないと死ぬんじゃねえかってくらい走るのが好きだからな」
ジルヴァという天使はヴァイダの姉妹らしく色々と癖がありそうな天使らしい。
ゼアルはまだ常識人より――っと、ヴァイダさんも常識人ですよ。でもからかうのは止めて欲しいんですよね。
心の読めるヴァイダにちょっとだけ睨まれ、慌てて途中から思考を切り替えて謝罪しておく。
「ガリィはまた治療でしょうね。あの子は自分の事を犠牲に人間の治療ばかりするのですから……」
「リリア様は少し前に修行の旅に出られました」
馬に乗って薙刀でも振り回しているのがお似合いな王――アジア系の顔立ちをしており少し親近感が持てる――が、何か文句あるのかと言わんばかりに堂々と言ってのける。
何となくだが、どの国の王も自国の守護天使を誇りに思っているのが何となく感じられた。
「仕方ありませんね。居ない者は王の判断に任せるという意思表示でしょう」
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