異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第58話 嵐の中心は無風だったりする

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 守護の塔1階。最近は兵士達の間で遊戯部屋とか言われてたりする様々な室内遊具が置かれている部屋に、ガンダルフ王への挨拶を終えたヴァイダを招き入れていた。

「それじゃあ、お紅茶淹れますから少し待っててください」

 勝手知ったるというよりもう住んでしまっているアウロラが、お茶と菓子の用意をするためにパタパタと2階へ上がって行く。

 ヴァイダはその背中に礼を投げかけた後、ソファに座りもせず、珍しそうに部屋の中に雑然と放置されている物を眺めていた。

「ゼアルさん、こんな趣味があったんですねぇ。いつもぼーっとしていた印象がありましたが。姉妹だというのに知りませんでしたよ」

 それを聞いたゼアルが思わずといった感じに苦笑を漏らしながら俺の方へと視線を向けて来た。

 その原因は、もちろん分かっている。こうなったのは俺の責任であるからだ。

「あー……俺が持ち込んだ物が結構多いかな」

 この部屋に遊具が置かれるようになり始めたのは一週間前からであり、その前までは、まるでミニマリストの様に何もない空間だった。

 しかしそれは、遊ぶことに興味が無かったからではない。遊ぶことの楽しさを知らなかったからであり、その楽しさを共有する相手が居なかっただけの事。

 今のゼアルは今までの時間を取り戻すかの様に、ひたすらそういった遊びを楽しんでいた。それも、心の底から。

「へぇ~……ゼアルさん、本当にナオヤ様の影響を受けておいでなのですね」

「まあ、な」

 そう頷くと、ゼアルはお前のせいだぞ、みたいな感じで唇を尖らせながら、俺の胸に軽く拳を打ち付ける。ただ、彼女の顔は明らかに晴れやかなもので、こうなった事を快く受け入れてくれているのは一目瞭然だった。

「そういうヴァイダさんは何か趣味とかあるんですか?」

「私ですか? 私は魔術研究が趣味と言えなくもありませんが、それが本業でもありますし……。小説の類も嗜みますからそれが趣味と言えば趣味でしょうか」

 眼鏡をかけ、あまり化粧っ気ないヴァイダにイメージ通りの趣味であった。

 そんなヴァイダがとある器具に目を止め、あら、と声を上げる。彼女が手に取ったものは、俺がイフリータを倒した方法を説明するために試作してもらったファイアーピストンだった。

「これは遊具に見えませんが、何なのでしょう」

 形としては、試験管に蓋がされている様な物で、遊具の中に一つだけそんなものがあれば、不思議に思って当たり前だろう。

 俺はヴァイダからファイアーピストンを受け取ると、ピストンとシリンダーに分けてから説明を始める。

「これは断熱圧縮っていう現象を起こすための器具なんですよ」

「だんねつあっしゅく……」

 研究者としての魂に灯が燈ったのか、ヴァイダの瞳が真剣なものに変わる。

 この説明をした時の、宮廷魔術師やガンダルフ王、ゼアルにアウロラ達の態度とは明確に違っていた。

 こういう熱心な生徒がいると、教える立場としてもやる気が出るものだ。俺は仕組みや起きる現象などを事細かに説明すると、実演までしてみせる。

 この間ゼアルは少しつまらなさそうにしていたが、少しの間なので許してもらおう。

「ふむ。体積を10分の1にしたから温度が10倍になるという訳ではないのですね」

「10倍よりもっと熱くなりますよ」

 さすがに計算式までは覚えていないけれど。

「なるほどなるほど、これは興味深い。ちょっとやってみてもよろしいですか?」

「どうぞどうぞ」

 失礼しますと器具を受け取ると、ヴァイダは自分で何度か試してみて、その度に感嘆の声を上げる。透視が出来るとか言っていたので、もしかしたらシリンダーの中身を直接目視しているのではないだろうか。

「凄いですねぇ。魔力は欠片も感じませんし、特殊な材料を使っているわけでもない。本当に空気を圧縮するだけでこのような現象が起きるのですか……はぁ……」

 何故か色気を感じさせる吐息をつきながら、それとなく体を寄せてくる。ヴァイダは怪しい手つきで器具を撫でまわし、とろんと蕩けた瞳で俺の顔を眺めて来た。

 解剖したいという彼女の言葉を思い出し、若干後退る。

 今のヴァイダの目は、その時にそっくりだった。

「さすが異世界から来られた方ですねぇ。他にどのような知識を持っておられるのでしょうか」

「い、いや~、学生でしたしそこまで大層なものは……。中途半端に表層だけっていうのが多いって言いますか……」

「それでも私にとっては未知なのです。ああ、知りたい、知りたい……」

 ヴァイダは艶然と微笑むと、ゆっくりと俺の方に近づいてくる。

 俺が後ろに一歩下がれば彼女は二歩進み、どんどんと俺たちの距離は縮まっていき、彼女の豊かな胸の先が俺の胸に――。

「ナオヤ様が欲しいで……」

「ちけえんだよ! いいから離れやがれ!」

 間にゼアルが割って入る。

 正直この時ばかりはゼアルに心からお礼を言いたかった。違う意味で俺の鼓動は暴れ狂っていたからだ。

 ……解剖は嫌です。

「いいか? ナオヤはオレのだ!」

 ゼアルが気勢を上げながらそう宣言する。

 ……いつ俺がお前の物になったんだよ。そう言われて悪い気はしないけど。

「オレのお気に入りなんだからヴァイダにはやらねえ!」

「そんな事言わずに、ほんの少しだけですから。何でしたら首から上だけでも……」

「いや、こええよ」

 俺は人間だから首切られたら死ぬんだよ。ってかイリアスと言ってることが同レベルじゃねえか。

「待ちなさいっ! ナオヤはお姉ちゃんである私のものなんだからねっ!」

 ゼアルの大声を聞きつけて来たのか、アウロラが階上からどたばたと足音を立てながら参戦してくる。

 俺は俺自身のものであって、誰のものになった覚えもないのだが、そう抗議したところでまったく聞き入れてもらえそうにない状況であった。

「分かりました、ではこうしましょう。私は中身だけでいいので外側はお二人でお分けください」

 うん、この人はあれかな、サイコパスなのかな。

 脳みそだけになって生きるとか絶対嫌だよ、俺。

「ナオヤはあれだ。オレをこんな風にした責任を取ってもらわないといけないからな! だからオレのものなんだ!」

「わ、私なんてさっきプロポーズしてもらったのよ!? だからナオヤは私のものだわ! 絶対譲らないんだから!」

「いや、さっきのは間違いなくそういう意味じゃなかっただろ! 友達とか仲間ってヤツだ!」

「待ってください。もしも興味という度合いで所有者が決定するのでしたら、今現在一番興味を持っているのは私ではないでしょうか? でしたら……」

 三人の女性たちの勢いはとどまる事を知らず、どんどんヒートアップしていく。いやぁ、モテモテで困っちゃうなぁとかそんな雰囲気ではなかった。

 とりあえず……俺の人権どこ……?
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