異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第54話 帰るべき場所

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 ゼアルにしがみつき、マッハを越える移動と運動したせいで強くなったゼアルのくらくらしてくる女の子の香りに数分間耐え、俺たちは守護の塔に戻って来た。

 行きとは逆で、窓から最上階の部屋へと降り立つと……。

「ゼアル様!」

「天使様がお帰りになられたぞ!」

「呪文やめっ。階下にも伝えよっ」

 大勢の魔術師が円陣を組んで座り、必死になって結界を維持している所だった。

 彼らの中心には大量の魔石が置かれており、それがみるみるうちに光となって消えていく。まさに魔石を湯水のごとく使っていて、不謹慎ながら札束での焚火を幻視してしまった。

 そんな中、筋肉の山……ではなく、非常識すぎるほどマッチョマンなこの国のトップであるガンダルフ王が駆け付けて来て、ゼアルの前で膝を折る。

「ゼアル様、出撃されるのでしたら一声おかけください」

「…………あー、すまん。忘れてた。ちっとばかし緊急事態でな。ってそれ言われたのお前の親父にか。なっつかしー」

 のんきにそう言いながら、ゼアルは俺と肩を組んだまま体を揺する。

 いや、もう必要ないんだから俺の事放してくれてもいいんじゃないか? なんか、今もしかしたら遊びに出かけたとか思われてそうなんだけど。俺、めっちゃ厳しい目つきで見られてるんだけど。

「魔族が出たので討伐に行ってました」

 俺は視線に屈してそう白状しておく。

 というか悪いことは何もしてませんよ。

「そーそー。行ったらイフリータの奴が山を三つほど吹き飛ばしててな。ちょっとヤバすぎた」

「三つ……ですか?」

「ああ。地図書き換えとけよ」

 ガンダルフ王は地図なんか気にしてないと思うぞ。

 被害状況とかそういう事を聞きたいんだと思う。

「山に人が居たかどうかは分かりません。それから現場周辺は溶解して人が立ち入れるような状況ではありませんでした。シュナイドさん……セイラムのギルドに冷却は依頼しておきましたが、今後どうなるかは様子を見ないことには分かりません」

「感謝する。後で子細に報告をして貰ってもよいか?」

「はい」

 自体が飲み込めて来たからか、ガンダルブ王の顔からは険が取れていた。

 そんな俺とガンダルブ王のやり取りを、ゼアルが「お前ら真面目だなぁー」なんて言いながら混ぜっ返してくる。

「こういうのはきちんとしなきゃいけないんだって」

「オレしたことねーや。てかあんなの魔族との戦いだったら普通だぞ、普通」

 どこのドラゴ〇ボールだよ。色々と桁が違い過ぎだろ、お前ら。

 我ながらよくそんな戦いに交じれたな、ホント。

「っと、ゼアル。魔石を渡しといた方がいいだろ」

「ああ、そうだな」

 ゼアルは俺に指摘されて思い出したのか、左脇の下当たりの空間に手を突っ込んでゴソゴソとまさぐる。

 どうやら空間に収納しているらしいが、そんな魔術は見たことがないので魔法でしかできないのだろう。魔法は本当にけた違いの事が出来る様だ。

「ホレ」

 ゼアルが無造作にポイッと魔石を投げ渡す。

 ……あ、前もって驚かないでくださいって言うの忘れてた。

 魔石の放つ、虹の輝きと宝石の白い輝きが部屋を埋め尽くす。

 ガンダルフ王は、自分の手の中に現れた代物が何だか分からなかったのか、きょとんとしてそれらを見つめ――自覚した後は体をガチガチに凍り付かせてしまう。

 同様に、その光に照らし出されている魔術師たちも、自分たちが見ている物が信じられないのか、呆然と口を開けるしかない様だった。

「すげえだろ。虹の魔石っていうか、魔王の魂だぜ。父上が封印されたから、知識でしか知らなかったんだよな」

「…………そ、そうで……すか」

 ガンダルブ王は、なんとか絞り出す形でそれだけ口にすると、震える手で二つの魔石を押し頂く。

 というか、それらを渡されても困るだけではないだろうか。

 その事を指摘しようとして口を開いた瞬間――。

「イフリータを倒したのコイツだから」

「…………………………」

 ゼアルは更なる爆弾発言をぶつけてしまっていた。

 俺の手柄にしてくれるのは嬉しいんだけどさ。まずお前が色々守ってくれなかったら無理だったからな。

「おい、なんか反応しろよ」

「いや、普通は無理だから。……ガンダルブ王、協力してです協力して。俺一人で倒したわけじゃないですから」

 ダメだ、思考がオーバーフローしてる。

 何言っても反応しない。

「え~? 倒したのはナオヤだろ」

「ゼアル。ちょっと静かにしよう。てーかいい加減離せって」

 ずっと肩抱かれっぱなしで恥ずかしいんだよ。

「なんだよ、いいじゃねえかよ。なんか気に入ったんだ、こういうの」

 俺は恥ずかしいから離して欲しい。

 なんというか、はっきり口に出して言えない膨らみが背中に当たってるからというか……。

「いいから離れろって」

「いいから黙って抱かれてろって」

 何その男らしい台詞。

 思わずときめいちゃう……わけないからな。

「だーもうっ、離せっ」

 なんて、俺はゼアルの拘束から抜け出ようとして暴れ、ゼアルはそれを阻止しようとして絡みついてくる。

 曲がりなりにも御前であり、人前でもあるのに俺たちはプロレスごっこめいたやり取りを始めてしまった。

 ……この中で一番身分というか、立場が高いのはゼアルだから誰も何も言えないんだろうけど。

 そんな風にもぞもぞとやり合っていると、バタバタという足音が、部屋の隅にある階段から聞こえて来て――。

「ナオヤッ――」

 大声共にアウロラが入って来る。彼女は感極まっているのか、少し涙目になっていた。

「――ゼアルッ!」

 アウロラは俺たちの名前を呼びながら、弾丸の様な速度で走り寄ってきて――。

「良かった!!」

 勢いそのままに抱き着いて来た。

 俺とゼアル二人の首をまとめて抱きしめた為に、軽くとはいいがたい程度に頭をぶつけてしまうが、そんな事はお構いなしに顔を擦り付けてくる。

 アウロラにはよほど心配をかけてしまったのだろう。

「二人とも、無事でよかったよぉ……」

 俺の名前だけでなく、ゼアルの名前も一緒に呼んだところが実にアウロラらしい。例え天使であろうと友達ならば心の底から心配する。そんな優しさを持ち合わせているのだ。

「お、おう?」

 そんな風に心配された事は初めてなのだろう。ゼアルは目を白黒させながら、アウロラの熱烈なスキンシップを受け入れる。

 先ほど俺に抱き着くのが気に入ったと言っていたのに、こちらは違うのだろうか。

 その事をからかい混じりに聞いてみると、

「いや、その……なんかくすぐってえ」

 なんて苦笑いしながら――しかしとても嬉しそうにそう言って、アウロラの背中に手を回したのだった。

 そして俺も――。

「ただいま、アウロラ」

「お帰りっ」
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