異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第53話 ネタバラシ

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 上空でゼアルが大きく羽ばたき、風を巻き起こす。

 風は戦場の空気をかき混ぜ、灰を大空へと舞い上げた。

「やった……のか?」

 本当にあのイフリータを倒せたのか半信半疑なのだろう。ゼアルがぽつりとつぶやいた。

 こちらとしてはそういうのはフラグだから止めてもらいたかったのだが、注意しようとしてもできないのだ――痛すぎて。

 イフリータが消滅するほどの熱なのだ。ある程度距離があった上にゼアルの守られていても、放射された熱はそれすら貫いて俺の皮膚を焼いてしまった。

 おかげで肌がもうヒリヒリ痛くて痛くて仕方がないのだ。

 きっと肌は真っ赤に、髪の毛はちりちりになってしまっているだろう。

「なあ、ナオヤ。何やったんだよお前。なんで光ったんだよ。お前が使ったのは風の魔術だろ」

「いってぇぇぇぇっ!!」

 ゼアルは天使だから人間の俺よりよほど頑丈なのだろう。

 けろっとした様子で俺を揺さぶって来るのだが、火傷だらけだというのに揺さぶられた俺はたまらない。

 思わず悲鳴を上げてしまった。

 ついでにその悲鳴を上げたせいで頬が動いて更なる痛みを引き出してしまう。

「あ、わりぃわりぃ」

「いいから、早くどっか休める場所に連れてってくれ……。話はそれから……」

 俺たちの足元には溶岩のプールが広がっている。さすがにここでバカンスは無理だろう。

 そんな事ができるのは、先ほど塵になったイフリータくらいではないだろうか。

「分かった。まさかとは思うが死ぬんじゃねえぞ?」

「……ああ、助かる」

 慌てた様子のゼアルが俺を優しく抱きかかえて飛んでいく。

 変わりゆく景色の中で、俺はマグマだまりへと視線を向け、静かに強敵の死への祈りを捧げたのだった。







 仄かに暖かい程度の地面に腰を下ろし、背中を木に預ける。

 体は痛んだが、とりあえず戦いは終わったのだと自覚できて、心の底から安心感が沸き起こった。

「やっぱりあなたが宣言した通りの結果になったわね」

 いつの間にやって来たのか、イリアスがとんっと俺の隣に腰を下ろす。

 って、いてえから肩に頭乗せるな。

「おい、ナオヤから離れろ、魔族」

「え~、何もしない……しようかしら?」

「なんでそうなるんだよ」

 マジで警戒するだろうが。

 一応約束した以上、イリアスの事は信用しているんだからな。

 俺がそんな事を考えて居たら、イリアスは急に四つん這いになると、艶然とした微笑みを浮かべ始める。

 赤い唇を、それ以上に赤い舌でペロリと舐め、ズイッと顔を近づけてくると、

「ナオヤが望むなら……色んな事、してあげてもいいわよ」

 なんて、本気なのか冗談なのか判断のつかない事を言って来た。

「なっ!?」

「なにぃっ!?」

 思わず驚いた俺は、瞬間的に仰け反り――。

「つっ!」

 火傷がうずいてそれどころでは無かった。

 俺は自身を抱きしめ、激痛を必死に耐える。

「いいから退けっ! おいナオヤ、治療してやっから安心しろ」

 俺の正面からのそのそとイリアスの気配が遠のいていき、代わりに別の、穏やかで柔らかい気配が俺を包み込む。きっとゼアルが俺に回復魔法でもかけてくれたのだろう。

 反射的に閉じていた目を、右側だけ開いて辺りを見回す。

 始めに心配そうなゼアルの顔が映り、その奥に、何故か嬉しそうなイリアスの顔が見える。

「ちっと痒いかもしれねえけど我慢しろよ」

 ゼアルの忠告と共に、皮膚が再生していく独特のむず痒さがぞわぞわっと全身から沸き起こる。

 思わず掻きむしりたくなる衝動をじっと我慢していると、治療が進んで来たのかだんだん痛みが消えていった。

「ありがとう、ゼアル」

「そりゃあこっちの台詞だよ」

 俺の健闘を称えるつもりなのか、ポンポンっと軽く頭を叩かれる。

「本当に、イフリータを倒しちまうんだもんなぁ……」

「貴女は信じてなかったのかしら、ダメね」

「さっきからうっせえぞ、魔族! 今すぐ滅ぼしてやってもいいんだからな!?」

「あらあら、ナオヤさんの顔に泥を塗るの? それが天使のやる事なんだ。品が無いのね。あ、それは口調で分かっていたことだったわ」

「んだとぉ?」

 一触即発の、険悪な雰囲気が漂い始める。先ほど戦いが終わったばかりなのだから、本当に勘弁してほしかった。

「ゼアル。イリアスは大丈夫だ。だから、頼む」

「……お前が言うなら、しゃあねえけどよぉ」

 本来なら魔族なんて天敵なのだから、顔を合わせた瞬間殺し合いを始めてもおかしくないのだろう。それでも聞き入れてくれるゼアルは、口調は乱暴だが性根は優しいのだ。

「それからイリアス。お前は挑発するな。お前の事だから、なんで倒せたのかを聞きに来たんだろう?」

 イリアスという魔族は、子どもの様に無邪気な好奇心を持っている。

 きっと知りたいからここに居るのだ。腕輪で魔力を封印されている身ではゼアルに抗えもしないはずなのに、それでも好奇心を優先させるのが彼女なのだ。

 俺に興味を持っている間は、たぶん人間に迷惑をかけるような事はしないだろう。

「は~い」

 イリアスの間延びした返事を聞きながら、俺は座り直す。

 ゼアルの魔法の効果は凄まじく、あっという間に全身の火傷が消えている。その上、魔力のほとんどを使い切り、全身に重くのしかかっていた倦怠感すら消えてしまっていた。

 俺は体に異常がないか叩いて確かめながら、二人に種明かしを始める。

「簡単に言うなら、イフリータの熱を増幅して返してやったんだよ」

「増幅って言うがよ、俺だって奴の炎は反射できるんだぜ?」

「相手の炎をそのまま相手に返したからって、温度が二倍になるわけじゃないんだよ」

 俺がしたことは、断熱圧縮という現象を生み出しただけだ。

 地球では比較的身近にある現象で、一部のエアコンなどにも利用されている。

 気体をぎゅっと圧縮すれば、その気体が持っている熱が一か所に集中するのだが、その時の温度の上昇は気体の量と温度により増していく。

 今回はイフリータの起こした熱と、ゼアルの聖楯で作り上げた尖塔内部に存在した大量の熱せられた大気により、数十万度を超える温度を作り出すことが出来たのだ。

 当然、数千から数万度程度の炎を操っていたイフリータでは耐えきれるはずも無かった。

 ちなみに現代の地球では、5.5兆℃なんて頭の悪い数字を実際に叩き出してしまうのだからもっともっととんでもなかったりする。

「異世界の知識なんだ。他にはどんなこと、知ってるのかしらぁ」

 うふふふ、と背筋が寒くなるような笑い声をイリアスが上げる。

 一方ゼアルはというと、イマイチ分かった様な分からなかったような、そんな微妙な表情をしていた。やはり科学知識に馴染みがないと、ピンと来ないのだろう。

 俺が魔法や魔術に対して何となくしか分からないように。

「ま、分からなかったら何度も説明してやるよ。王都セブンスウォールにはまだ居るんだしな」

 断熱圧縮を利用した発火器、ファイアーピストンとか作ったら多分感心するだろうな。

「……おう、頼む!」

 まだ居る、と俺が口にしたところで、ゼアルの表情が弾けるように明るくなる。

 なんというか、すげえ分かりやすいな。

 遊べる、とか思ってるんだろうなぁ。

「んじゃ、セブンスウォールに帰るか」

「後始末はいいのか?」

 俺たちが戦った場所は、半径数キロに渡ってマグマの赤い沼地と化している。

 さすがにこのままでは異常気象だの天変地異を招きかねないだろう。

「それはセイラムのギルドに任せりゃいいだろ。っつーかオレは守護の塔に戻らねえと、そろそろやべえ」

 守護の塔にゼアルが居る事で、国中の街に結界が張られるのだ。

 一応、予備電力というか魔力の様なシステムがあって、多少は維持できるらしいが長くはもたないらしい。

「んじゃあお前だけが戻って、俺が後し――」

「はぁ!? お前が戻らねえと意味ねえだろうがよぉ!」

 そんなにキレるまでかい。

「分かった分かった。じゃあシュナイドさんに報告だけして、それから一緒に帰るぞ」

「うっし!」

 ごめんなさいシュナイドさん。仕事が増えまくってしまって。

 ああ、ブツブツ念仏の様に文句を呟きながら氷の魔術で地面を冷やし続けるシュナイドさんの姿が目に浮かぶ。

 ……王都で甘い物をたっぷり買って帰ろう。

 金貨二百枚もあるんだからそれぐらいしてもいいはずだな。

「あら、このまま帰っていいの?」

「ん? ああ、イフリータが死んだんだから魔石があるか。教えてくれてありがとう、イリアス」

 あれほどの魔族だったのだから、金、なんてものじゃないだろう。

 どこぞの帝国にあるとかいう宝石級の魔石が出るんじゃないだろうか。

「違うわよ。そっちじゃなくて……ちょっと行ってくるわね」

 イリアスはそう言い残すと、ついーっと魔法でイフリータが死んだ辺りにまで飛んでいくと、マグマだまりの中へと沈み込み、何かを掴んで持ちあげた。

 その瞬間、七色の光がイリアスの手元で弾ける。

 ――そうだった。魔石は宝石の上に、虹っていうランクがあったんだった。

「あれは――」

 ゼアルが瞠目しながら呟く。

「父上が13つに分けて封印したはずの、魔王の魂……」

「……そういえば、13悪魔だったな。それにイリアスも持ってたんだっけ」

 イリアスは戦闘体の体内に埋め込んでいたのだが、俺が地中深くに封じてしまい、それをイフリータが掘り起こしに来たのだ。

 だったら同じ13悪魔でしかも序列が上のイフリータが持っていないと考える方が不自然だろう。

「はい、こっちはイフリータが持っていた魔王様の魂で、こっちがイフリータの魂」

 飛んで戻って来たイリアスが虹と宝石、計二つの魔石を差し出してくる。

 イリアスは魔王に対して随分と思い入れがあったはずなのだが……いったいどういう心境の変化なのだろう。

 それをイリアスに問うと、

「え、そっちの方が面白そうでしょ」

 なんて、逆に不思議そうな顔をされてしまった。

 そうだよな。お前はそういう奴だよ。

「……ありがたく貰っておく」

 虹の魔石は間違いなくトラブルの元になるだろう。

 イリアスはそれによる騒乱で俺がどうなるか楽しみで仕方ないのかもしれない。

 それでも、天使側で管理できるのは大きいはずだが……。これから先に控えている戦いに、俺は頭がズキズキと痛むのだった。
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