異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第50話 組み上げていく戦闘論理

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 炎が薄れ、炎の狭間と狭間にイフリータの顔が見える。その顔に向けて、俺は念を押す様に問いかけた。

「もう一度聞いておくぞ。戦えばお前は死ぬ。それなのに止めないんだな?」

「人間如きが思い上がるなぁっ!」

 返答は光の障壁すらも紅蓮に染まるほどの炎。よほど癪に障るのだろう。

 ゴミとしか認識していない人間が、こんな大口を叩けば挑発としてしか取られないのかもしれなかった。

 ……本当に、本当に残念だ。

「ナオヤ、何言ってんだてめえ、いい加減にしろ! そんなんじゃまるでコイツを殺したくねえみてえじゃねえか」

「…………」

 その通りだ。多分俺はためらっている。

 何せ、これから初めて人格を持った存在を殺すのだから。

 魔獣のように必要に迫られて殺すのではなく。俺の意志で、俺がイフリータの死を望むのだ。

「頭で考えて居るのと実際にやるのはだいぶ違うな」

「当たり前だ!」

 でも、俺には守りたいものがある。

 セイラムに住む人たちもそうだけれど、今隣で俺の事を守ってくれている男勝りで寂しがりやな守護天使の、人間を守りたいという切なる願いを、俺は守りたかった。

「ゼアル。俺は……お前を守るよ」

「え?」

 一瞬、ゼアルの表情が解ける。何を言われているのか分からない、では多分ないだろう。

 こんな言葉を言われたことが無かった。

 初めての感情をぶつけられて、どうしていいのか分からない。

 そんな顔をしていた。

 こんなゼアルの瞳を見るのは二度目になる。

 人々の笑う写真を見せられ、泣き笑いをしながら分かんねえと答えたあの時の瞳と同じだった。

「協力してくれ。お前の力があれば、あいつは倒せる」

「……ああ、もちろんだよっ」

 ゼアルはそう言うと、乱暴に俺の腕を取って自らの肩に回し、イリアスと俺の隙間に手を突っ込んで腰を抱き寄せ、イリアスから俺を無理やり引きはがした。

「あんっ、乱暴なんだから」

「魔族はナオヤから離れてろっ!」

 ゼアルはイリアスをそう怒鳴りつけると、そのまま空に向かって急上昇する。

 俺はそんなゼアルに引っ張られながら、イリアスに向けてありがとうの意味を籠め、ちょいと手で合図を送っておいた。

「大口叩いたんだから絶対やってみせろよ!」

 大口……大口か。普通ならそうなんだけど、何故か俺の中では確信に近い何かを持っているんだ。

 それが……もしかしたらだけど、天使でも魔族でもない誰かに何かされたから――なんて、そんな気がしたのだけれど、今はそれを考えている時間などない。

「もちろんだ!」

 俺は怒鳴り返すと、スマホを構えて魔術式を選択する。

 目標は、生意気な羽虫を焼き殺してやろうと周囲にいくつもの火球を構えているイフリータ。

 俺はそんな彼女目掛け――。

≪ソニック・ランス≫

 魔術を撃ちおろした。

 威力は5重ファイブ・サークル。狙いは十分。

 そも、人間如きの攻撃など、避けるまでもないという考えなのだろう。

 確かにそれはそうだ。まともな方法では傷もつかない事は、前回で既に分かっている。更にイフリータは強力な再生能力を持っているともなれば、慢心は更に大きくなるはずだ。

「馬鹿めがっ!」

 イフリータはその場を全く動かず周囲に浮かんでいる火球の一つをぶつけ、俺の放った不可視の槍を迎撃しようとして――。

「なっ」

 幾分か威力は減衰しただろう。

 しかし、迎撃のための火球は素通りして明後日の方向へと飛んでいく。音撃の槍は打撃を与えるのに十分な力を残して直進し、イフリータの右腕を食いちぎった。

「――に、が……?」

 俺からすれば当然の結果だが、まさか人間如きが自分の体に一撃与えるなど思いもしなかったのだろう。

 イフリータは再生させる事も忘れ、呆然といった様子で、地面に落ちた己の腕を見つめていた。

「次だ」

 俺は更に同じ魔術をもう二発、続けて撃ち放つ。

 イフリータは慌てて右腕を再生させると、火球をかき集めて迎撃しようとするが、その程度の炎では俺の攻撃を防げはしない。

 再び同じ現象が繰り返され、イフリータの体を削る。

「くっ……何をしたぁ!」

 まさか人間如きが。イフリータの態度はその驚きを如実に物語っていた。

 俺はわざと冷たい瞳でイフリータを睥睨へいげいする。

「お前の炎が弱すぎるだけだ」

 相性が悪い、という回答をしてやりたいのだが、それは俺の狙いを達成させるためには言わないで置いた方がいいだろう。

 そもそも、観客にわざわざ種明かしをしてあげるマジシャンは居ない。そんな事をすれば、なぁんだ、と言われてしまうだけだ。

 魔族に対して圧倒的に劣る人間の俺に出来る事は、策を練り、弱点をついて最上の一撃を思わぬ方向から喰らわせるだけ。

「貴様ぁぁっ」

 イフリータが最も頼り、象徴にして誇りでもある炎を、たかが人間に馬鹿にされて頭に血が上らないはずがない。

 先ほど以上に熱く滾った炎を、倍以上呼び出していく。

「ゼアル」

「なんだ?」

 俺は小さな声で囁くと、ゼアルは同じくイフリータに聞こえない位の囁き声で返してくる。

「すまん、お前は守りや回避に回ってくれ。俺じゃ防げない」

「はっ、だろうな」

 俺の仕掛けたカラクリは単純だ。

 火、というのは物質に熱が加わり、熱分解を起こした原子が大気中の酸素と結びつく事で熱と光を放射する現象である。

 すなわち、物質や熱エネルギーに対しては影響を及ぼしやすい現象なのだが、大気中を伝わる音、即ち振動に対しては影響を及ぼしにくい。

 せいぜい熱によって大気が膨れ上がる瞬間、振動が阻害される程度だろう。

 しかも魔力から生成される炎は、酸素との化学反応を起こしたりはしない。純粋な熱と光だけなのだから、通常の炎より余計音に対して影響を及ぼしにくいのだ。

 逆を言えば、俺にもイフリータの攻撃を防ぐ手段はないに等しいのだが。

「人間風情が天使共の力を借りていい気になるな!」

 イフリータの全身から生み出された炎は、竜のごとくその体をくねらせながら空を駆け登って来る。

 防ぐ手段のない俺は、ゼアルを信じてあえて防御を捨てて次の攻撃をくみ上げていく。

「はぁっ」

 俺の体を虹色の光が包み、更に俺たちの周りに同色の障壁が球状に展開される。

 二重に張られた装甲は、炎竜に呑み込まれた所で不動を保つ。

 だが、莫大な光は周囲の景色から俺たちを隔離してしまった。

「あいつに本気を出させたい」

 ゼアルの訝し気な視線が俺を貫く。

 相手が本気になればなるほど厄介になる。それが普通だ。

 だが、今回だけは違う。

 イフリータの炎こそが、奴を攻略するカギになる。

 強大な力はそれそのものが弱点とはよくあるパターンだ。

「あいつをより熱くする事が出来れば俺たちの勝ちだ」

「分からんが――」

 炎が過ぎ去っていき、景色が晴れる。そしてそこには――。

「甲羅もろとも叩き切ってくれる!」

 輝く炎の剣を振り上げたイフリータの姿があった。
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