異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

文字の大きさ
上 下
50 / 90

第49話 決してその死は揺らがない

しおりを挟む
 俺が戻って来ると、そこは既に戦場だった。

 紅蓮の炎が暴れ回り、その合間を縫って光の壁がはしる。どうやらゼアルは強固な障壁を操って直接ぶつける事で、相手を圧縮したり切断する戦い方を行っている様であった。

 だが、イフリータは面であれば爆砕し、線であればどこを切られようともすぐさま再生する。どう見ても致命傷を与えられている様には見えなかった。

 互いに互いを倒しきれる手段を持たず、押し切れるだけの戦略も戦術もない。まさに千日手といったところだ。

「これだから二人はず~っと決着がつかなかったのよねぇ。でも、見て」

 イリアスが指し示すものを見る。

 そこは、イフリータの爆炎に吹き飛ばされ、焙られて赤熱化した地面があった。

「イフリータの目的は、ああして破壊する事。今回は爆発で穴を掘って魔王様の魂を回収することだから、このままいけばイフリータは目的を達成できる」

「対してゼアルは負けないけれど目的の邪魔は出来ないって事か」

 ゼアルが一方的に敵意を抱いている様に感じたのはそのためだろう。

 ……って事は、イリアスもドルグワントを回収できるわけだから、本当の力を取り戻してしまうってことか。大丈夫だとは思うが、一応忠告しておいた方がいいかな。

 俺は隣で立っているイリアスに顔を向け、まっすぐ視線を合わせる。

「イリアス。お前はイリアスのままで居てくれるよな?」

「……ふふっ、酷い顔」

 そこまで顔に出てたかな。

 でも仕方ないだろ。俺はやっぱり、こうして話し合える相手を殺すのは好きじゃない。

 必要に迫られるなら命を奪う事もやぶさかではないけど。

「言ったでしょ。私はあなたに興味が湧いたの。だから約束を破るような事はしないわ」

「……分かった信じる」

 イリアスの喜悦に満ちた瞳に嘘はない。だが、それは俺に興味がある間だけなのかもしれないという事は脳裏に留めておくべきかもしれなかった。

「うふっ、ありがと」

 イリアスの艶やかな微笑みから視線を戦場へと戻す。

 そこでは未だ超常の存在による戦いが続いていた。

 このまま続けば、ゼアルが負けるという事はないだろうが、地面を抉られ続ければ地盤は崩壊し、その近くに存在するセイラムそのものが崩れ去ってしまうかもしれない。

 それはゼアルの望むところではないだろう。

 もちろん、俺も。

 だから俺は決心すると、スマホを立ち上げて数百ある魔術式の写真の中から効果の高そうな魔術を選び、使いやすい様フォルダに入れていく。

 ……よし。これでいいだろう。

 後はもか。

「イリアス。一応警告するからお前も着いてきてくれ」

「あら、またするの?」

「話し合いですむならそれに越したことはないからな」

 たぶんというか絶対に受け入れられるはずは無いけどな。

 人間は明らかに格下の存在だと認識している連中からすれば、俺が何か言ったところでまともに取り合うはずはない。

 受け入れてくれたイリアスの方が異端なのだ。

 分かっている。分かっているが……魔獣などとは違う、話し合う事が出来る相手の命を奪うというのは、少しだけ辛いものがあった。

「じゃあ、一気に飛んで運んであげる」

「頼む」

 二人が争っているのは百メートル以上離れている。運んで貰えるのならありがたかった。

「でも熱は大丈夫……そうね」

「ああ」

 これほど近くで炎が乱舞しているというのに、一切火傷を負ったりしないのはゼアルの守護が未だ効いているからだろう。煮えたぎるマグマの中だろうと恐らくは大丈夫なはずだ。……多分。

 すぐさまゼアルに守ってもらおう。なんてちょっと情けない事を考えていると……。

「じゃあ行くわね」

 ぴとっと、イリアスが俺の背中に密着してくる。

 って、柔らかい二つのふくらみが! 結構ある!

 イリアスってもしかしなくても着やせするタイプだったのか!

「ふっふ~ん」

 体を硬直させてしまった事で俺の考えがバレたのか、得意そうに笑う声が耳元で響く。

 間違いない、コイツは分かってやっている。

 ……逆らえない男の本能が憎い!

 こんな事考えてる場合じゃないのに、つい意識が向いてしまう……!

「もっと当ててあげようか、ナオヤさん」

「要らないから早く行ってくれ!」

 考えてないぞ、一瞬でも考えてないからな!

「はーい」

 からかう様な調子のイリアスに背後から抱きしめられ、俺はゼアルとイフリータの元へと運ばれていった。







「遊びで邪魔をするな、リリン」

 戦いが始まってから恐らく一度もその場を動いていないイフリータが、迷惑そうな顔で俺を……いや、俺の背後で俺の事を抱きかかえて浮かんでいるイリアスの事を見る。

 リリンとは、状況的にイリアスの姿を借りている魔族の名前なのだろう。

 本人がイリアスだと名乗ったためにそう呼ぶしかなかったのだが。

「遊びじゃないわよぉ。それに今の私はイリアス……ってどうでもいいわ。ナオヤさんがあなたに言いたいことがあるんだって」

「人間如きが?」

 やはりイフリータは人間如きと見くびっている様だった。

「ナオヤ、下がってろ!」

 ゼアルが俺の横に飛んできて警戒するようにイフリータへと手をかざす。

 何時でも俺の事を守れるようにだろう。

 ただ、守護天使のゼアルですら、倒せると言った俺の言葉を信じてくれていなかったことが少しだけ残念だった。

「倒せる方法が分かればって言ったろ」

「――っ。分かったのか!?」

「いや、残念ながら分からなかった」

 その一言でゼアルは明らかに落胆した表情を浮かべる。だがすぐに切り替えると、何か俺に言おうと口を開き――。

「倒せる方法は、な」

「は?」

 意味が分からず戦いの場に似合わない、いささか間抜けな声が漏れてしまった。

 俺はそんなゼアルを手で制し、イフリータへと向き直る。

「イフリータだったな。ここで引き分けにするつもりはないか?」

 俺の提案を、イフリータは鼻で嗤って歯牙にもかけない。

 ここまで優勢なのだからそういう反応で当たり前だろう。恐らくは俺の提案など人間の命乞いだとでも思っていのかもしれない。

 その通り、これは命乞いだ。ただし乞うのは俺たちの命じゃなくて――。

「アンタが退いてくれたら、俺はアンタを殺さなくて済む」

「は?」

 今度はイフリータの口から間抜けな声が漏れる。

 何を言っているのだ、この人間は。そんな事でも言いたげだった。

「イリアス、俺の言葉が本心からで、俺にはそれが出来るって教えてやってくれないか?」

「ですって、イフリータ。ちなみにナオヤさんの言葉は本当よ。多分、あなたは本当に死ぬ」

 恐らくこの場で一番俺の事を信じているのはイリアスだろう。

 彼女こそ、俺によって言葉通りに倒されてしまった張本人なのだから。

「…………」

 それを告げられたイフリータは、目を丸くし、恐らく初めて俺の事を見た・・

 今までは俺の事が視界に入っていたとしても、気にも留めていなかったはずだ。当然だ。魔族にとって、人間は取るに足らない存在なのだから。

 だというのに殺すと大言壮語――事実なのだが――を吐いて見せた。しかも魔族自身のお墨付きで。

 それがどれほどの衝撃を与えたかは――。

「ふざけるなぁっ!!」

 自身の操る力のごとく、烈火のような怒りに身をゆだね、俺に向けて放って来た瀑布のごとき炎の奔流が証明してくれた。

「ぶねえっ!!」

 ゼアルがそれよりも更に巨大な障壁を生み出して俺を守ってくれる。

 ……ここでゼアルが守ってくれなければ俺は死んでただろうなとか思わないでもない。そうしたら確かに俺の言葉は実現しなかっただろうが――ゼアルが俺を守ってくれないはずがなかった。

 ああそうだ。全ての要素を加味して考えれば、イフリータの死は、揺らがない。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...