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第43話 守護天使様は夜遊びがお好き?
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アウロラは目の前にある二枚のカードを交互に触り、こちらの表情を確認する。
ジョーカーを引けばゲーム続行。絵札を引けばアウロラの勝ち。
ようするにババ抜きだったのだが、アウロラはこれで負ければ三連敗目になるとあって、酷く慎重になっていた。
「むむむむ……これだ!」
俺が少し笑ったのを見て判断したのだろう。
素早く――。
「やたーっ! 勝ったぁ!!」
絵札を引き当てたアウロラが、飛び上がって喜ぶ。
まあ、わざと表情を動かして誘導したわけだけど。
あんまり連敗したら泣いちゃいそうだったし。
「アウロラは根が正直すぎんだよ。全部顔に出てたぜ」
「そうかなぁ。私は普通だよ」
そういうゼアルは初めてやるこういう遊びがもう楽しくて仕方ないのだろう。何を引いても満面の笑顔で逆に分からなかったのだ。
負けても嬉しそうに、もう一回しようぜなどと言う彼女の姿を見ていると、やって良かったなと心の底から思えて来た。
将棋とかオセロとか麻雀……はルールがおぼろげにしか分からないけど楽しめるはずだから、いずれ作って持ってきてみようかな。
一人で時間を潰すなら本がいいんだろうけど高いんだよなぁ。
「ナオヤナオヤ、ほらもう一回。早くカード配ってよ」
「そーだなー……」
俺は窓へと目を向ける。複数の小さなガラスを鉛でつなぎ合わせたステンドグラスからは日の光が差し込んでおらず、いつの間にか空中に浮かんでいた光の玉が光源になっており、辺りを照らし出していた。
沢山あったお菓子の類は既に食べつくしてからかなりの時間が経っており、心持ち空腹を感じる気がしなくもない。
もしかしたら晩御飯はすんでしまったかもしれない頃合だった。
「今日はそろそろ御開きかな?」
なんて提案をした瞬間。
「えーーー!!」
もの凄く不満そうな声が上がった。
声の出所は、もちろんゼアルだ。
彼女は抗議の意味を込めているのかパンパンと膝を叩き、唇を尖らせて不満を口にする。
「いーじゃねぇかよ。もうちっとやろうぜぇ。せっかくカードのコツも分かって来たんだしよぉ」
「もうだいぶ遅いしさ。それにここで寝泊まりするって良くないだろ?」
「オレが許可する。お前らここに泊まれ。つか一日くらい寝なくても人間は死なねえだろ。夜通し遊ぼうぜぇ」
なんだその強権発動。
というかそんなに楽しんでくれてるのか。ちょっと、いや、だいぶ嬉しい……が、だ。
俺には少しばかりやりたいこととやらなきゃいけない事があるのだ。
「一応、セレナさんに勝手するなって怒られたばっかなんだよ。だからどうなったかとか今後どうするか、的な相談をしないといけないんだ」
後は、ガンダルフ王にゼアルの様子を伝えたりとか。
「ぐぬぅ……な、ならそれをしたらすぐ帰って来るってのはどうだ?」
「くすっ、ゼアルってば子どもみたい」
「あんだとぉ?」
アウロラに笑われたゼアルは凄んでみせたのだが、前後の言動や、今の表情からして全然まったく怖くもなんともない。
実際、遊び足りない子どもが駄々をこねているのと同じなのだから、怯える要素なんて雀の涙ほども無かった。
「あのねゼアル。これ、私のお母さんから言われたんだけどね」
そう言いながらアウロラは四つん這いになって近づくと、ゼアルの手を自分の両手で包み込んだ。
「一旦お別れすると、ちょっと寂しいかもしれないけど、明日また会う時もっと楽しくなるスパイスになってくれるのよ」
「でもよぉ……」
「大丈夫よ。私達は一週間は王宮に滞在するんだし、それが過ぎてからだって会えるから」
一緒にゲームをしてみたり、下らない馬鹿話や冗談を交わしたり、お菓子を食べながら相手の新たな一面を知って、同様に自分も知ってもらう。
ゼアルにしてみれば、初めて触れた友達という存在はとてつもない未知の刺激に満ちていたのだろう。
そしてそれが金や宝石にも勝る宝物だと知り、手放しがたくなってしまったのだ。
「これから王宮に行くのだって、実は明日の為の準備をしようと思ってるだけなんだよ」
俺はあえて行く、という言葉を選んだ。
だってゼアルは先ほど、この塔に『帰ってこい』と言ったから。
俺たちの居場所はここにあるんだと、そう言ってくれたのだから。
「だいたいお前、最初に会った時数何年ぶりに塔の外に出たとか言ってたじゃないか。一晩なんてすぐだすぐ」
「そりゃ、そうだけどよぉ……。オレは今遊びたいんだ! ぜんっぜん足りてないっ!」
……まったく、しょうがないなぁ。
ずっとこういうのを知らなかったんだから、遊びたくって仕方ないんだろうな。
俺は頭をガリガリと掻いた後、妥協案を提示する。
「じゃあ、俺だけ一瞬王宮に行ってくるよ。アウロラはゼアルと話でもしといて」
「うっしゃ!」
「きゃうっ」
ゼアルが喜びのあまり、目の前に居るアウロラの肩を乱暴に抱き、頬を押し付ける。その瞳は、さあこれから盛大に遊ぶぜ! とばかりにメラメラと燃え盛っていた。
……天使と違って人間は寝なきゃいけないんだからお手柔らかにしてくれよ。
「アウロラ、何か必要な物ってある?」
「えっと、ちょっとお腹が空いたから何か食べ物と……あと布とか欲しいかも。ちょっと床が冷たくって」
床は神殿のようになっているため、やや冷たい石造りになっている。
確かに女の子が座り続けていては体を冷やしてしまうかもしれなかった。
「了解。じゃあ行ってくる」
「すぐ帰って来いよ!」
「はいはい」
ゼアルの言葉に思わず苦笑してしまったが、別段誰も傷つくことなんてないので許してもらおう。
ゼアル本人にその発言をしたところで、わりいかよ、と開き直られることが目に見えていたし。
「おっしゃ。じゃあ、すぴーど? ってヤツで勝負だ!」
「うん、負けないわよ~」
そんな楽しそうな女性二人の声を背中に受けながら、俺は守護の塔を後にしたのだった。
守護の塔を出てすぐ、衛兵から伝えられた命によって、俺はとある場所を訪れていた。
「失礼します。入ってもよろしいでしょうか?」
少々畏まりながら俺は大きく頑丈そうな扉をコンコンと叩く。
俺がここまで恐縮しているのは、訪ねた相手がやんごとなき相手――ガンダルフ王――であり、場所が私室だったからだ。
……多分ゼアルの話を聞きたいだけだと思うけど、まさかアッーー! な目的じゃないよな?
なんて縛り首にされてしまいそうなほど不敬な事を考えつつ、返答を待つ。
「入れ」
昼間に聞いた時より幾分柔らかい感じのするガンダルフ王の声が返ってきたため……俺は素早く手のひらに人という文字を書いてから飲み込み、ゆっくりと扉を押し開けた。
「……マジかよ……」
俺がそう呻いてしまったのは他でもない。ガンダルフ王は浴衣のようにも見える寝巻きを纏い、ワイングラスを片手に、巨大なソファにリラックスした様子で横になっていたのを見てしまったからだ。
いやもうね、そういう相手をさせるために呼んだの? って思わず本気で思ってしまったくらいだった。
「どうしたのかね?」
「何でもありませんっ!」
俺はポケットの中にあるスマホを意識しつつ部屋の中に入った。
部屋は黒檀の様に真っ黒な木をふんだんに使った家具や調度品で統一され、非常に品の良い感じで整えられている。
質実剛健を地で行くガンダルフ王の性格がよく現れた内装であると言えた。
「それで、どうかね?」
頼むから主語を抜かないでくれ。そうとしか聞こえないじゃないか。
ってかマジでそうなの? そういうつもりで聞いたの?
すみません。俺はアウロラとかゼアルみたいな感じの娘の方が好みっていうかそもそも女性じゃないと守備範囲じゃないっていうか――。
「ゼアル様は喜んでらっしゃったかね?」
――ですよねぇ~~~。
良かったぁぁぁ~~。
「……何故ため息をついておるのだ?」
「なんでもありませんっ。思いのほか楽しかったので、思わず反芻してしまっただけですっ!」
俺はビシッと直立不動の体勢を取ると、手のひらを相手に見せない海軍式の敬礼をする。
とりあえずガンダルフ王は胡乱げな顔で俺の事を見てはいたものの、それ以上追及してくることは無かった。
「えー、それではゼアル……様の様子をご報告させていただきますっ」
それから俺は口早にゼアルと何をしたか。今ゼアルが何を望んでいるかを報告したのだった。
ジョーカーを引けばゲーム続行。絵札を引けばアウロラの勝ち。
ようするにババ抜きだったのだが、アウロラはこれで負ければ三連敗目になるとあって、酷く慎重になっていた。
「むむむむ……これだ!」
俺が少し笑ったのを見て判断したのだろう。
素早く――。
「やたーっ! 勝ったぁ!!」
絵札を引き当てたアウロラが、飛び上がって喜ぶ。
まあ、わざと表情を動かして誘導したわけだけど。
あんまり連敗したら泣いちゃいそうだったし。
「アウロラは根が正直すぎんだよ。全部顔に出てたぜ」
「そうかなぁ。私は普通だよ」
そういうゼアルは初めてやるこういう遊びがもう楽しくて仕方ないのだろう。何を引いても満面の笑顔で逆に分からなかったのだ。
負けても嬉しそうに、もう一回しようぜなどと言う彼女の姿を見ていると、やって良かったなと心の底から思えて来た。
将棋とかオセロとか麻雀……はルールがおぼろげにしか分からないけど楽しめるはずだから、いずれ作って持ってきてみようかな。
一人で時間を潰すなら本がいいんだろうけど高いんだよなぁ。
「ナオヤナオヤ、ほらもう一回。早くカード配ってよ」
「そーだなー……」
俺は窓へと目を向ける。複数の小さなガラスを鉛でつなぎ合わせたステンドグラスからは日の光が差し込んでおらず、いつの間にか空中に浮かんでいた光の玉が光源になっており、辺りを照らし出していた。
沢山あったお菓子の類は既に食べつくしてからかなりの時間が経っており、心持ち空腹を感じる気がしなくもない。
もしかしたら晩御飯はすんでしまったかもしれない頃合だった。
「今日はそろそろ御開きかな?」
なんて提案をした瞬間。
「えーーー!!」
もの凄く不満そうな声が上がった。
声の出所は、もちろんゼアルだ。
彼女は抗議の意味を込めているのかパンパンと膝を叩き、唇を尖らせて不満を口にする。
「いーじゃねぇかよ。もうちっとやろうぜぇ。せっかくカードのコツも分かって来たんだしよぉ」
「もうだいぶ遅いしさ。それにここで寝泊まりするって良くないだろ?」
「オレが許可する。お前らここに泊まれ。つか一日くらい寝なくても人間は死なねえだろ。夜通し遊ぼうぜぇ」
なんだその強権発動。
というかそんなに楽しんでくれてるのか。ちょっと、いや、だいぶ嬉しい……が、だ。
俺には少しばかりやりたいこととやらなきゃいけない事があるのだ。
「一応、セレナさんに勝手するなって怒られたばっかなんだよ。だからどうなったかとか今後どうするか、的な相談をしないといけないんだ」
後は、ガンダルフ王にゼアルの様子を伝えたりとか。
「ぐぬぅ……な、ならそれをしたらすぐ帰って来るってのはどうだ?」
「くすっ、ゼアルってば子どもみたい」
「あんだとぉ?」
アウロラに笑われたゼアルは凄んでみせたのだが、前後の言動や、今の表情からして全然まったく怖くもなんともない。
実際、遊び足りない子どもが駄々をこねているのと同じなのだから、怯える要素なんて雀の涙ほども無かった。
「あのねゼアル。これ、私のお母さんから言われたんだけどね」
そう言いながらアウロラは四つん這いになって近づくと、ゼアルの手を自分の両手で包み込んだ。
「一旦お別れすると、ちょっと寂しいかもしれないけど、明日また会う時もっと楽しくなるスパイスになってくれるのよ」
「でもよぉ……」
「大丈夫よ。私達は一週間は王宮に滞在するんだし、それが過ぎてからだって会えるから」
一緒にゲームをしてみたり、下らない馬鹿話や冗談を交わしたり、お菓子を食べながら相手の新たな一面を知って、同様に自分も知ってもらう。
ゼアルにしてみれば、初めて触れた友達という存在はとてつもない未知の刺激に満ちていたのだろう。
そしてそれが金や宝石にも勝る宝物だと知り、手放しがたくなってしまったのだ。
「これから王宮に行くのだって、実は明日の為の準備をしようと思ってるだけなんだよ」
俺はあえて行く、という言葉を選んだ。
だってゼアルは先ほど、この塔に『帰ってこい』と言ったから。
俺たちの居場所はここにあるんだと、そう言ってくれたのだから。
「だいたいお前、最初に会った時数何年ぶりに塔の外に出たとか言ってたじゃないか。一晩なんてすぐだすぐ」
「そりゃ、そうだけどよぉ……。オレは今遊びたいんだ! ぜんっぜん足りてないっ!」
……まったく、しょうがないなぁ。
ずっとこういうのを知らなかったんだから、遊びたくって仕方ないんだろうな。
俺は頭をガリガリと掻いた後、妥協案を提示する。
「じゃあ、俺だけ一瞬王宮に行ってくるよ。アウロラはゼアルと話でもしといて」
「うっしゃ!」
「きゃうっ」
ゼアルが喜びのあまり、目の前に居るアウロラの肩を乱暴に抱き、頬を押し付ける。その瞳は、さあこれから盛大に遊ぶぜ! とばかりにメラメラと燃え盛っていた。
……天使と違って人間は寝なきゃいけないんだからお手柔らかにしてくれよ。
「アウロラ、何か必要な物ってある?」
「えっと、ちょっとお腹が空いたから何か食べ物と……あと布とか欲しいかも。ちょっと床が冷たくって」
床は神殿のようになっているため、やや冷たい石造りになっている。
確かに女の子が座り続けていては体を冷やしてしまうかもしれなかった。
「了解。じゃあ行ってくる」
「すぐ帰って来いよ!」
「はいはい」
ゼアルの言葉に思わず苦笑してしまったが、別段誰も傷つくことなんてないので許してもらおう。
ゼアル本人にその発言をしたところで、わりいかよ、と開き直られることが目に見えていたし。
「おっしゃ。じゃあ、すぴーど? ってヤツで勝負だ!」
「うん、負けないわよ~」
そんな楽しそうな女性二人の声を背中に受けながら、俺は守護の塔を後にしたのだった。
守護の塔を出てすぐ、衛兵から伝えられた命によって、俺はとある場所を訪れていた。
「失礼します。入ってもよろしいでしょうか?」
少々畏まりながら俺は大きく頑丈そうな扉をコンコンと叩く。
俺がここまで恐縮しているのは、訪ねた相手がやんごとなき相手――ガンダルフ王――であり、場所が私室だったからだ。
……多分ゼアルの話を聞きたいだけだと思うけど、まさかアッーー! な目的じゃないよな?
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「入れ」
昼間に聞いた時より幾分柔らかい感じのするガンダルフ王の声が返ってきたため……俺は素早く手のひらに人という文字を書いてから飲み込み、ゆっくりと扉を押し開けた。
「……マジかよ……」
俺がそう呻いてしまったのは他でもない。ガンダルフ王は浴衣のようにも見える寝巻きを纏い、ワイングラスを片手に、巨大なソファにリラックスした様子で横になっていたのを見てしまったからだ。
いやもうね、そういう相手をさせるために呼んだの? って思わず本気で思ってしまったくらいだった。
「どうしたのかね?」
「何でもありませんっ!」
俺はポケットの中にあるスマホを意識しつつ部屋の中に入った。
部屋は黒檀の様に真っ黒な木をふんだんに使った家具や調度品で統一され、非常に品の良い感じで整えられている。
質実剛健を地で行くガンダルフ王の性格がよく現れた内装であると言えた。
「それで、どうかね?」
頼むから主語を抜かないでくれ。そうとしか聞こえないじゃないか。
ってかマジでそうなの? そういうつもりで聞いたの?
すみません。俺はアウロラとかゼアルみたいな感じの娘の方が好みっていうかそもそも女性じゃないと守備範囲じゃないっていうか――。
「ゼアル様は喜んでらっしゃったかね?」
――ですよねぇ~~~。
良かったぁぁぁ~~。
「……何故ため息をついておるのだ?」
「なんでもありませんっ。思いのほか楽しかったので、思わず反芻してしまっただけですっ!」
俺はビシッと直立不動の体勢を取ると、手のひらを相手に見せない海軍式の敬礼をする。
とりあえずガンダルフ王は胡乱げな顔で俺の事を見てはいたものの、それ以上追及してくることは無かった。
「えー、それではゼアル……様の様子をご報告させていただきますっ」
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