異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第32話 俺が魔族に勝利した話

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「凄い凄い凄いすご~い! ナオヤすごいね、言った通りになったよ!」

 アウロラは興奮のあまり俺に抱き着き、頬を摺り寄せて来る。

 それがもう、気恥ずかしいというかなんというか……柔い温かい良い匂いがするというか色々当たってる触れてる気持ちいい恥ずかしい嬉しい止めて止めないでもっとやってじゃないもうすりすりしないで頬とかぷにぷにしてて気持ちいい今めっちゃ安心してて生存本能が爆発しそうでアウロラ君超絶美少女って自覚ないでしょそんな可愛い娘がこんな事したらあああああぁぁぁぁぁっ!!

「すっごい事しちゃったんだよね、私達! ああもう、今日はいっぱい褒めてあげるね」

 硬直している俺を他所に、アウロラは俺を好き放題色々とやってくれる。

 もうこのまま流されてもいいよね、なんて思ってしまっていたら……。

「――二人共、ちょっと、いいかな?」

 青い顔をしてふらふらになったシュナイドが木陰から姿を現した。

「シュナイドさんっ!」

 これ幸いと俺はアウロラ放り出し、シュナイドの下へと駆け付ける。彼は今にも倒れそうなくらいふらふらになっており、俺が近づいた瞬間倒れかかって来た。

 なんだかんだ言いつつ、彼は間違いなく今回の魔族討伐に置いて一番のキーになった人物である。俺たちの使う魔術のため、魔術式を書いたのは彼であるし、

魔族の魔法を解析し、その場で対策用の魔術を編み上げるなんて神業めいた芸当をやってくれたのも彼だ。

 シュナイドが居なければ、俺たちの勝利は無かったと言っても過言ではない。

「ありがとうございます。助かりました」

「……そう、かな? あのまま、押し切れそう、じゃなかった……んじゃ、ないか?」

 シュナイドは息を切らせながら、一言一言吐き出していく。

 もう立っているのもしんどいのではないだろうか。

「シュナイドさんの魔術が無ければあれからまた仕切り直しでしたよ。とどめを刺したのは、間違いなくシュナイドさんです」

「そうですよっ! シュナイドさんも凄いですっ!!」

 ……アウロラ、シュナイドさんには抱き着かないんだね。

 なんというか、うん。……うん、ちょっといいかも。

「そ、そうか……。じゃあ、私達が、世界で初めて……」

「はい、この世界で初めて、魔族を倒したんです」

 言葉にして初めて自覚が湧いて来たのか、シュナイドは嬉しそうに勝利を噛み締める。

 魔族は圧倒的な能力を持ち、高い身体能力と底知れない魔力を持っていた。

 普通ならば勝てる存在ではない。抗えすらしないだろう。

 それでも俺たちは勝ったのだ。

 知恵を絞り、作戦を練って、不可能としか思えない勝利をもぎ取った。

 きっとこの世界の誰もがこの勝利を信じないはずだが……それでもかまわない。

 確かに俺たちは魔族を倒したという事実が、俺たちの中に残っているのだから。

「……じゃあ」

「そうだね」

 俺とアウロラは視線だけで通じ合う。

 5日間みっちり呼吸を合わせる特訓をしたが、それ以上にこの戦いで完全に通じ合えた気がする。

 何を望んでいるか、何を狙っているかなんて手に取る様に分かるのだ。

 アウロラはシュナイドの腕の下に潜りこむと、担ぎ上げようとして――。

「アウロラ、君は身長が少しちい……」

「むきーっ、小さくないもんっ!」

 お互いの狙いが分かっても、それが出来るとは限らなかったようだ。

 俺は苦笑を浮かべながらシュナイドに肩を貸す。

「帰りましょう」





 それから3日という時間が流れた。

 それぞれに疲れを癒し――というか限界を越えて無理な動きをしたのが祟ったのか、すさまじい疲労感と筋肉痛に悩まされ、ほとんど寝て過ごさざるを得なかったのだ。

 魔力を大量に使っただけのシュナイドが、一番軽傷だったかもしれない。

 それから、帰って行った報告は、ほとんど誰も信用しなかった。

 誰からも信用されているシュナイドが保証したのにも関わらず、夢でも見たんじゃないですか、なんて言われてしまうあたり、魔族を倒したなんてのは、やはりとんでもなさすぎる事だったのだろう。

 別段無理に信じてもらおうとは思わない。

 事実は変わらないのだから……。

「っていう事があったんですよ、イリアスさん」

「ふへ~……凄いですねぇ……」

 テーブルを挟んで向かい側に座る、目つきのキツい女性はそんな人々とは違ってどうやら俺の言葉を信じてくれるようだった。

 やはり彼女には報告しなければならないと思ったのがひとつ。

 一つは、未だ意識が飛んでしまっている女性たちに、何らかの影響が出ないかと期待したのだが、やはり彼女たちは一切変わっていなかった。

 そして……。

「魔族を倒したんですか……」

「みたいです」

 喋りつかれて喉の乾いた俺は、出されたお茶を飲み干す。もうすっかり冷めてしまっていたが、少し渋く感じるだけで充分……やっぱりお世辞にも褒められる味ではなかった。

 お茶を淹れるのが苦手なのかもしれない。

「それで、アウロラさんはどうしているのですか?」

「アウロラは今、お金の支払いをしてまわってくれています。ようやく銀級の魔石を提出した報酬が来たんですよ」

 報酬は、魔石と同じ重さの宝石。もちろん一つの宝石で支払われたわけでは無く、何十個もの宝石だったのだが、十分とんでもない額になった。とはいえ魔族との戦いの為に用意した装備の代金を支払ったらほとんど残らなかったのだが。

「あら? でもお話を聞いている限りでは、そんなに高い装備品は無かったように思いますけど……」

「あ~、実は戦いには使用しなかったんですけど、銅級の魔石を使った、相手の魔力を乱す腕輪なんて代物も用意してたんですよ。銅級の魔石を国に内緒で使ったものですから口止め料が凄くてですね」

「あははは。じゃあ私は聞かなかったことにした方がいいですね」

「いえいえ、ですからこうして口止め料を、ね」

 そういって俺はカップの横に置かれたチョコレートに視線をやる。

 これは俺の世界から持ってきたチョコレートではない。それらは全て、甘いものが大好物なギルド長に召し上げられてしまっていた。

 少々割高だったが、誠意を見せると思えば安いものだ

「ふふっ、じゃあありがたくいただいておきますね」

「そうしてください……と、お茶のお代わりいただけますか? 喉が渇いちゃって」

「はい」

 イリアスは柔らかく微笑むと、席を立ってお茶の準備を始める。

 その背中に、

「手伝います」

 そう声をかけて近づくと――。

「あ、だいじょうぶで……」

 カシャンッと、イリアスの腕に先ほど話したばかりの腕輪を填めた。
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