異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第28話 決闘

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 俺は、再びこの場所に、魔族の住処に戻ってきていた。

 準備に要した時間は五日間。たった五日というべきか、五日もというべきか。

 いずれにせよいくら時間をかけたところで無駄なのだ。用意した方法が効かなければ負け。効けば……。

「ほ、ホントに二人しか居ないのね……」

 隣に立つアウロラが自身を抱きながら肩を竦ませる。

 それも仕方ないのかもしれない。何せ一度まみえた相手とはいえ、魔族と再び戦う事になるのだから。

 しかも味方してくれたのはシュナイド一人だけ。そのシュナイドも直接戦う訳ではなく、とある準備のためにこの場に居ない。

 実質、俺とアウロラ二人きりで戦う事になっていた。

「アウロラ、本当に帰っていいぞ」

 これは煽り何かではなく、本気で心配しているのだ。

 アウロラはこの五日間シュナイドの指導をみっちり受けたとはいえ、直接戦闘に長けているとは言えない。

 生け捕りにされるであろう俺と違って、下手をすれば腕の一振りで命を失ってしまうかもしれないのだ。

「ナオヤこそ、怖いなら帰っていいのよ? お姉ちゃんがやっつけてあげるんだから」

 アウロラは胸を反らして威勢のいいことを言ってみせる。

 だが、薄い胸板に添えられた手は小さく震えており、心の奥底に在る本当の感情を如実に物語っていた。

「……アウロラ」

 俺は、初めて――。

「わひゃっ!? な、何? 急に何なの、ナオヤ!?」

 初めて、自分から女の子の手を取った。

 アウロラの手はとても小さい。華奢で、丸っこくてぷにぷにしてて柔らかで、なんというか、これが女の子の手なんだって感じだ。

 それに手だけが小さいのではない。背も小さいし胸は小さいというかゼロだし、結構子どもっぽい。本当にただの女の子で……女の子なのに、俺を守るなんて言ってくれている。

 俺の、魔族を倒せるなんていう言葉を信じて、スマホチートも無いのにこの場にたった一人着いてきてくれて……。

「ありがとう」

 顔をまっすぐ見るのは何となく照れくさくて出来なかった。

 魔族には立ち向かえるのに? なんて言われそうだが、俺にとっては魔族と相対する方が楽な気がしている。

「……どういたしまして」

 俺の手の中にあったアウロラの手がくるりと回り、俺の手を握り返してくる。その手はどこまでも優しくて、とても暖かかった。

 しばらく洞窟――住処の入り口前で、手を繋いだまま立ち尽くす。

 もう、アウロラの手は震えてなどいない。

 俺の心も同様に、緊張や恐怖などは欠片も存在しなかった。

 ――よし、行こう。

 心の中でそう告げるとアウロラの手を離す。

 代わりに視線を送ると、アウロラはつぶらな瞳で俺の事をじっと見つめていた。

 俺たちは無言で頷き合うと、同時に前へと踏み出した。

 ――景色が歪む。

 それまで岩ばかりだった風景が一瞬で消えてなくなり、無機質な赤レンガ造りの部屋へと変貌する。

 そこは依然と寸分たりとも変わらない、敵の住処だった。

 右に顔を向けてみれば、俺の付けた破壊跡がそのまま残っている。多分、牢屋の状況もそのままだろう。

 俺は息を深く吸い込むと、ポケットからスマホを取り出してスリープを解除する。

 残る電池の残量は35%だが、写真を表示するだけなので一時間以上もつだろう。むしろ十分すぎるほどだ。

「出てこい、話があるっ!」

 俺は地面に手をかざして怒鳴りつける。

「今すぐに出てこなければ、ブラスト・レイを地面に向けて撃つ。この下にはお前の研究所でもあるんじゃないのか?」

 言い終わってから、心の中で1、2、3……と数を数え始める。それが15を超えたところで、

「まったく、うるさいなぁ。まだ種が出来てないから君に用はないんだよ」

 なんて言いながら、マスケラの様な仮面をつけた執事服の魔族が姿を現した。

 以前と違うのは、全ての傷が修復されており、新品同様になっている事か。

「こっちにはあるんだよ」

 俺はそう言うと、魔族の顔面に指を突き付けて、

「決闘しよう」

 そう言い放った。

 魔族は俺の宣言に対し、泥団子の様な瞳を更に丸くしながら絶句している。

「俺が負けたら俺の体を好きにしていい。お前が負けたら二度と人を傷つけるな」

 簡単で分かりやすい条件を提示するが、

「…………」

 魔族は俺の言葉に一切反応を見せなかった。

 そのまましばらく待っていると、魔族の体がびくりと跳ねる。

 その痙攣は時間と共に数が増していき……。

「はははははははははっ! 人間が、決闘!? 魔族であるこのボクと!? あはははははははっ!!」

 魔族は嗤っていた。虫けらのように見下していた存在が生意気にも決闘などと言い出したことがそんなに面白かったのだろうか。

 確かに魔族と人間の力には人間と羽虫かそれ以上の大きな差が存在している。魔族からすれば、手を払うのでさえ気を付けなければ潰れてしまう感覚なのだ。むしろ、俺を殺さないように手加減するので精一杯というのが事実なのだろう。

 身の程知らずにもほどがある。だが、そこに俺たちの勝機が存在するのだ。

「笑っている所悪いが、答えないなら不戦勝で俺たちの勝ちでいいな?」

「屁理屈をこね回すことだけは一流だよね、人間って」

「いいから答えろ。受け入れるのか、受けないのか」

 もっとも、受けないのであれば地面の下に在るであろう、種を作り出す設備に向けて魔術を叩き込むつもりであったが。

「暇だし、受けてあげてもいいよ。ただ、君が約束を守るのかなぁ。人間って嘘つきだから信用できないんだよね」

「約束が守られなければ色んな前提条件が覆るからな。お前も負けそうになって逃げだすなよ?」

 魔族は俺の挑発を鼻で笑い飛ばす。

 そんな事あり得るはずがないと確信しているのだろうが、俺はその鼻っ柱をぼっきりへし折ってやる気で居た。

 互いの利益がかみ合えば、それで約束は結ばれる。

「いいよ。その決闘、受けてあげようじゃないか」

「死にそうになっても逃げるなよ?」

「その言葉、そっくりそのまま返してあげるよ。まあ、君は殺せないわけだけど、手足ぐらいはもいであげるからね」

 前哨戦として、俺たちは視線を激しく打ち合わせる。

 もはや、言葉を交わす必要などないだろう。

 これから始まるのは決闘。ルール無用のぶつかり合いだ。

 一方的な殺戮が始まるのか、それとも研ぎ澄ました刃が首筋を抉るのかは――。

「行くぞ」

 俺の宣言を聞いて、隣のアウロラが身構えた。

 彼女の手には、いつもの木札ではなく、薄い鉄板で出来たカードの様な物が握られている。

 シュナイド特製の、制御補助付き魔術式だ。

 描かれているのは一重ワンサークルの魔術だが、呪文を唱えずとも魔術名だけで発動するようになっていた。

 俺はスマホを操作し、それと同じ魔術式を表示すると、右手を銃の形にして魔族へと付きつける。

 魔族はどうせどんな魔術も効かないだろうと余裕綽々でこちらを見ていた。

 その小憎たらしい顔面に向かって――。
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