異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第26話 人間の強さ

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「――と、いう事があったんですよ」

 俺とアウロラは必死の思いでギルドまで帰り着き、夜も更けているというのにシュナイドへの報告を行っていた。

 正直所を言えば、もうベッドに直行してしまいたいのだが、そうもいかないだろう。さすがに世界の危機と俺の睡眠欲求は天秤にかけられない。

「なるほど、よく分かったよ」

「良かった――」

「私の手に負えない事がよく分かった」

「なんですかそれ!」

「ギルド長でしょ!」

 頭を抱えてソファに深く沈み込むシュナイドに、未だ少し不機嫌そうなアウロラと一緒に突っ込んでしまう。

「……いやだってね、魔族だけでもお手上げなのに、魔王だよ? おとぎ話か何かとも思ってた存在だよ? どうしろと言うんだね」

「それは……」

 確かに現代日本でヤマタノオロチが復活しますとか言われたら……怪獣と戦うのは自衛隊の役目か。がんばってーと応援するしかないよなぁ。

 でも蹂躙されてゴ○ラに助けてもらうまでがワンセットの様な気がしないでもない。シュナイドさんの立ち位置は自衛隊だろうから、確実に壊滅フラグが断ってるからなぁ。

 っと、そうだった。聞かなきゃいけない事があったんだ。

「ところで根本的な質問なんですけど……」

「うむ、何かね?」

「魔王って何ですか? 魔族も知らないので教えてください」

 その瞬間、アウロラがズルっと肩をこけさせ、シュナイドは更にうな垂れると、テーブルに額をぶつけてしまった。

 ……え、そんなに変な事言ったかな?

 だって異世界人よ、俺。二人共知ってるよね?

「な、ナオヤ、知らないで戦ってたの!?」

「多分知らないから戦えたんだと思う」

 どれだけヤバいのか、何となくしか分からなかったからあれだけ煽れたんだと思う。

「……私ギルド長辞めたい」

「そう言わずにお願いします」

 俺がその後も何度も頼み込んだ結果、ようやく気力を取り戻したシュナイドが、話をしてくれた。

 それによると、この世界の創世に関わるほどの物語だった。

 この世界がまだ生まれたばかりだった頃、世界は魔王が統べており、地上には魔物や魔獣が闊歩していた。

 人間や一部の動物たちは怯えて暮らすことを余儀なくされ、蹂躙される一方で在ったのだが、それを哀れに思った一柱神が魔王に戦いを挑み、壮絶な死闘の末にその魂を13つに分割することに成功したのだという。

 ただ、神もそこで力尽きてしまい、己の魂を7つに分けて7柱の天使を生み出し、この世界を管理する様言い残して息を引き取ってしまった。

 その後、神の体は灰となって世界中に降り注ぎ、この星を光あふれる豊かな星に生まれ変わらせたのだ。

 そうして人間たちは神のお陰で繁栄を謳歌し、今に至る。

 一方、魔王の死骸は腐り、苗床となって幾多の魔族を生み出した。魔族たちは創造主である魔王に忠誠を誓い、その復活のために幾度となく天使や人間たちと相争って来たらしい。

 今回のもその一つというわけだ。

「なるほど、ならその天使とやらに……」

「無理だね」

 俺の提案はにべもなく断られてしまった。

「正確には、もう手助けされているから、これ以上手を借りるのが不可能なんだ」

 そう言われて俺は魔族の言葉を思い出す。

 俺の頭が弄られていて、封印が施されている事を。

「我が国、エノク王国は世界で一番国土が広い。そして守護天使であるゼアル様は防御に長けていてね。国土に点在する全ての街に魔族除けの障壁を張ってくださっている。壁の内部で魔獣の巣が生まれないのもゼアル様のお陰だ」

「……って事は、俺はこの町に籠っていたら大丈夫ってことですか?」

 やった。それなら町の外に出られないっていうデメリットこそあるものの、かなり安心して暮らせるぞ。

 と思ったの矢先に、シュナイドは苦々しそうに顔を歪めながら首を左右に振る。

「障壁で止められるのは魔族だけなんだ。それより下位の魔獣や魔族の侵入は阻めない。君は大量の魔獣の巣を見たんだろう? 物量で攻められれば……防ぎきれないだろうね」

 なるほど。それなら……こちらから攻めるしかないのか。

 幸い相手の居場所は分かっている。奴はこちらを舐めきっていて居城は変えていない。

 装備や対策を整えれば多分……。

「とりあえずナオヤは王都に行きなさい。ゼアル様のお膝元ならきっと守ってもらえるだろう。紹介状は書いておくから――」

「ちょちょちょっ、え? 何を言っているんですか?」

 俺は慌ててシュナイドの言葉を制止する。

「俺は戦うつもりですよ?」

「…………………………はい?」

 長~い沈黙の後、心底意味が分からないとでも言うかのように首を傾げられてしまった。

 隣に座るアウロラも、ナオヤ何言ってるの分かんないと顔に書いてある。

「だから、戦えるから戦うって言ってるんですよ」

「……ナオヤ。君は知らないからそう言えるのかもしれないがね。魔族は悪意の塊の様な連中で、しかも強力な……魔術の上位互換である魔法を行使できるんだ。肉体だって明らかに我々より強い。勝てる存在じゃないんだよ!」

 勝てる存在じゃない、か。

 確かに魔獣すら屠った魔術を耐え抜くような化け物だ。単純な戦闘で倒せる相手でないのは分かっている。

 だが、今日戦ってはっきりと理解した。

 倒す方法はある。

 そして、その方法は実現可能だ。理由は分からないが、可能だと俺の頭の中で確信している。

 これはもしかしたら俺の頭が弄られているって事と何か関係があるかもしれないけれど、今は気にすることでもないだろう。

「やれるだけやってみましょうよ、シュナイドさん。それで倒す・・ことが出来れば御の字です」

 言いながら俺はリュックを探り、中から銅クラスの魔石を取り出す。

 差し出された魔石を目にして、シュナイドは思わず息を飲んだ。

 昨日は銀クラスで今日は銅クラス。どちらもめったにお目にかかれない代物だし、そのクラスの魔獣を殺すのは本来とても難しいらしい。

 それを二日連続したと見せつけられては開いた口が塞がらなくなっても仕方ないだろう。

「こうして材料も揃ってますし、魔族の弱点や倒す・・方法だって分かってます」

「…………言うのは簡単だけどね、実際に出来るとは限らないんだよ?」

「やらなければ、魔王が復活するかもしれませんよ? そうなれば人類の破滅です」

 俺が天使の元に逃げ込めば、確かに時間は稼げるだろう。

 だが、魔族は俺を手に入れる事を諦めて、次の異世界人を召喚し始めるはずだ。そうなれば多くの人間が殺されるだろうし、いずれは魔王を呼ぶ事に成功するだろう。

 俺たちは攻めなければならない。魔族を倒さなければ・・・・・・ならないのだ。

「やりましょう、シュナイドさん」

 そして俺は語り始めた。

 ――人間と魔族。圧倒的な差を縮めるための、唯一の方法を。
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