異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第25話 人の死は……ただ悲しいもの

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 分からない。

 俺は今まで気にして来なかったが、俺がこの世界に存在する事には何らかの思惑が絡み合っている様だ。

 魔族、魔王、天使。俺の理解していない単語があまりに多く出てきて頭が混乱してしまう。

 魔族の言葉から推測出来ることになるが、俺は魔王と言われる存在を復活させるためにあの魔族によって召喚され、それに天使とかいう存在が介入した……。話が壮大過ぎてまったく実感が湧かない。

 ……まあいいか。今は出来る事をしよう。

 俺はとりあえず悩みを放り捨てると、180°体を回転させ……。

「あ~……」

 ある意味魔族よりも怖い存在――頬をボールの様に膨らませ、涙目でじっと睨みつけて来るアウロラと視線がかち合ってしまった。

 とりあえずスマホをスリープ状態にしてポケットに突っ込んでから対応を考える。

「……ごめん」

 結局名案は何も浮かばなかったので、素直に頭を下げる事にした。

「邪魔って言った……」

「はい、ごめんなさい」

 この場で唯一味方になってくれそうな人――牢屋から出たばかりの女性――に視線で助けを求める。

 ……疲れ切ってるみたいだからさすがに酷か。

「アウロラ。後でたっぷり怒られるから、今はその人と……」

 親指で背後に居る女性二人を指し示す。

「あの人達を何とかするのが先だから」

 奴にとってあの女性たちはもはや用済みのはずだ。救出しても問題はないだろう。

「……そうだけど」

 っと、一人はさっき殺されたばかりだから見えないようにしないと。

 死体を見せるのは多分アウロラにも女性にも厳しいだろうし。

「アウロラはその人に水と食料を。それからあっちの部屋に魔獣の死骸があるから魔石を回収しといて」

「この状況で?」

 一応時間的な余裕はあるだろうが、それでも出来る限り早くここを離れた方がいいのは俺も理解している。

 それを利用して無理やり俺の意見を押し付けているのが分かっている分、アウロラの機嫌はものすごい勢いで下降していっている様だ。

 ……後が怖い。

「武器になる可能性のあるものは少しでも集めておきたいんだ」

 なんて、アウロラに死体を見せたくない言い訳の方が強いけど。

「とにかくよろしく」

 それだけ言うと、俺は後ろ歩きで部屋に入って扉を閉める。

 これからやる事は山積みだった。

「でも、三人助けられたって思っておくか」

 気は重かったが、それを吹き飛ばす様にわざと明るく行ってから作業に取り掛かり始めた。







 まずは二人の女性を移動させたのだが、声をかけても体を触っても一切反応がなく、ただぼうっとしたまま虚空を見上げている。

 恐らくは何か違う世界を見続けているのだろう。

 もうこちらの世界を観測する事は出来ないのかもしれない。

「世話とかどうすんのかな……」

 意識のない彼女たちは、攫われてからずっと放置されていたため色々と垂れ流し状態になってしまっている。殺された方が温情だ、なんて考えもあるだろうがどうなのだろう。

 こうなっても彼女達は生きたいのだろうか。

 多分、答えは永遠に返ってこないだろう。

 少ししんみりしてしまったが、時間は大して食っていないので許容範囲内だ。次は……。

「安らかな眠りでありますように」

 頭が潰れてしまった女性に両手を合わせてから、遺品になりそうな物がないか体を探る。

 右手人差し指に飾り気のないリングをしていたため、それを外してポケットに入れておく。

「すみません。体は持ち帰れないからこれを貴女の代わりに供養しますから」

 断りを入れ、もう一度手を合わせておく。

 それが終われば魔獣の巣――魔族が言うに、可能性の霧に出来た狭間らしいが通じない呼び名をすることもないだろう――の間を生存者が居ないか確認して周る。

 ――生存者誰一人居なかった。

 これで、やるべきことはあと一つ。

 俺は扉の所にまで戻ると、女性二人の体を引きずって外に出す。

 今、部屋の中に存在するのは魔獣の巣だけだ。なら、気兼ねなく魔術で焼き払えるだろう。

 ……犠牲者の遺体ごと。

 この世界で火葬がどんな意味を持つのか聞いておくべきだったかと軽く後悔するが、今アウロラに聞く気にもなれなかった。

 俺はブラスト・レイで魔獣の巣を残らず消滅させてから、ついでの様に爆裂の魔術を部屋の中に叩き込んでおく。

 きっと何もかも、嫌な記憶も全て、残らず灰になる事だろう。

 こんな事が感傷だとは分かっていたが、どうしてもやらずにはおれなかった。

 全てやるべきことを終えた俺は、悪いと思いつつ女性二人の体を小脇に抱え、引きずりながらアウロラの居るであろう部屋へと移動する。

「アウロラ、終わった?」

 声を掛けるために部屋の中に頭だけ突っ込むと、ちょうど灰を冷気で吹き飛ばしている所だった。

「終わった」

 少しむくれながらそう言われ、先ほどの感傷がぶり返す。

 多分、俺もアウロラも、考えて居たことは一緒なのだ。

 凄く、凄く胸が切なくなる。考えればこの事件で俺は生まれて初めて他人の死というものに、直に触れたのだ。

 病院で亡くなった祖母の亡骸と対面した時とはまた違う、目の前で命を奪われてしまった感覚は、とても、とても……痛かった

「アウロラ、ごめん」

 それに気づいた時、俺の口からは素直に謝罪の言葉が漏れていた。

「俺、アウロラに生きてて欲しくてさ。ついキツイ言葉を使ったんだ」

 途端、アウロラの顔もクシャリと崩れてしまう。

 アウロラの声を聞かなくとも、何を言いたいかが理解出来た。

「バカ。ナオヤのバカ」

「…………そうだな」

「今度したら許さないからね」

「もうしない……と思う」

 どうやら最後の言葉は見逃してもらえたようだった。







 女性を背負ったまま山道を歩くのは酷く体力がいる。

 それでもしなければ俺たちはこの山で一晩明かすことになってしまう。さすがにそれは嫌だったので、アウロラに治療してもらい立ての体に鞭を打って山を下りて行った。

「後はまっすぐ道に沿って帰ればセイラムの街だ!」

「うん……はぁ……はぁ……」

 アウロラもだいぶ体力を消耗しているのか、先ほどから肩で息をしている。

 実は俺も同じようなものなのだが、女性陣にかっこ悪い所を見せたくないためちょっとだけやせ我慢をしていた。

「あの、私も手伝いましょうか?」

 背は平均より少し高めで、皮の鎧に身を包み、色素が薄くて白っぽく見える金髪を後ろで一つに纏めていて、目元がキツめの女性。イリアスがそう提案してくれる。

 ちょっときつそうに見えるが実はそうでもない様で、先ほどから何度かそう申し出てくれているのだが、さすがに何日も監禁されていた女性に重労働は任せられなかった。

「大丈夫ですから」

 それに結構美人さんだし、いい匂いするし。

「む。ナオヤなんか変な事考えてない?」

「ないない。疲れ切っててそんな事考える余裕なんてないから」

「疲れてるのなら代わります!」

「疲れてません! 疲れてませんからイリアスさんは自分の事だけ考えていてください」

 あ、アウロラが不満そうだ。

「ふんっ、デレデレしちゃって。ナオヤのバカッ」

 アウロラはすねた様に唇を尖らせツンツンし始める。

 これが嫉妬とかなら嬉しいのだが、まだ出会って三日目。そんな感情に至るイベントは起こっていないし、フラグも立っていなかった。

 男の本能を毛嫌いされているだけなのだろう。

 なんと言い訳したものかと頭を悩ませていたら……。

「え、えっとですね。この近くに私達の仮拠点がありますのでそちらに一度寄るのはどうでしょうか?」

「そうさせてっ!」

 イリアスの提案にアウロラが真っ先に喰らいつく。

 俺も異論はなかった。

「はい、お願いします」

 ……考えてみたら、これって初めて女の人達の家に上がらせてもらうってことだよな。やば、ドキドキしてきた。

 アウロラはホームレスだったもんなぁ。

「それでは私についてきてください」

「はい!」

「……なんでナオヤはそんなに嬉しそうなのよ」

 気のせい気のせい。

 過剰に反応すれば、アウロラから要らぬ反感を買うだろうと思い、俺は口にチャックをしてイリアスの後を着いていったのだった。
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