異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第16話 報告していたら、いつの間にかお菓子を食べていた…

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 俺は後悔していた。

 なにか強い魔物を倒したのかぁ、やったな! ぐらいの称賛を受ける程度だと思っていたのに、まさかあんな騒動になるほどの代物だとは想像だにしていなかったのだ。

 これじゃあ考えていた、なんか魔物が突進してきたら廃屋に絡まって動けなくなったんでフレア・ライズの魔術式を周りに書いて起動させたら勝っちゃったんですぅ、という言い訳が通じそうにない雰囲気だ。

 俺がそうやって頭を悩ませている間にも自体は進んでいき、ギルド長室にたどり着いてしまった。

 促されるままに先日も座ったソファにアウロラと共に腰を下ろす。

 隣で能天気にすごいね~とはしゃいでいるアウロラが、少し羨ましい。

 俺はスマホの事をどう伝えるかで頭がいっぱいだった。

「それで、まずはどんな相手だったのかな?」

 恐らく報告書と思われる紙にペンを落とした状態でシュナイドが質問してくる。

「えっとねぇ。ヤギみたいな頭と蛇みたいな頭とライオンみたいな頭があって、すっごくおっきかったの。それから、おっきな火球を吐いて――」

「ヒュージ・キマイラか……」

 パタパタと両手どころか全身を使って魔獣――ヒュージ・キマイラの容姿などを伝えるアウロラとは対照的に、シュナイドの顔はどんどん曇っていった。

 それから場所や状況などを詳しく聞き出した後、とうとう核心に触れる質問がされる。

「それで、君たちはそれをどうやって倒したんだい?」

「そ、それはですね……」

 一応用意しておいた言い訳を言ってみたものの、シュナイドは渋面を通り越して顔面が痙攣してしまっている。今すぐペンを外に放り投げてそのままベッドにダイブしてしまいたいと、彼の瞳は物語っていた。

「そうか、そんなに簡単に倒せるのなら今頃私は大金持ちだよ」

「はっはっはっ、ですよねぇ」

 ギルド長ともあろう人なら幾度かそういう魔獣の関わる案件を扱った事があるはずだ。

 そして、そんな簡単に倒せる相手ではない事ぐらい分かり切っているだろう。

 ……こちらとしてもある程度の覚悟は出来ていた。今のは言ってみただけ。

 運よく誤魔化せたらそれで、程度の感覚で試してみただけの話だ。

「シュナイドさん。どうやって倒したかは、下手をすれば俺やアウロラの命にもかかわって来るんです」

「…………ふむ」

 あのスマホさえあればだれでも最強の魔術使いになれる。この事をあのサラザールなどが知れば、確実に俺を殺してでも奪い取ろうとするだろう。

 いや、サラザールの様な悪人でなくとも正義のためにと俺を害してでも奪おうとするかもしれない。

 俺の手元に在るスマホという装置は、この世界にとって最高のオーパーツなのだ。

「それは私の事を信用できないという意味かな?」

「いえ……」

 無邪気だが思いやりに溢れてとても優しいアウロラが信用しているのだ、目の前に居るシュナイドという男は、多分そういった事をしないだろう。

 だが、シュナイドの報告書を読む人や噂として聞いた人が、全員そういう信用のおける人だとは限らないのだ。

 スマホの事を知る人が多くなれば多くなるほど危険は大きくなる。

 要らない危険は出来る限り避けたかった。

「出来ればシュナイドさんの胸の内だけに留めて置いてほしいんです。その確約が頂ければお話します」

「……しかし、私にもギルド長として報告の義務があるんだけれど」

「分かってます。なので、俺たちが危険にならない程度にぼかして書いてほしいんです」

 かなり無理を頼んでいる事はこちらも理解している。だが、正確な報告というのはそれによって誰かの命を脅かしてまでやらなければならないものだろうか。

 シュナイドは、アウロラの面倒をみたり傲慢なサラザールを止めたりと情に熱い人の様に思える。無下にはしないはずだと考えて居た。

「……聞いてから判断するで、いいかね?」

 俺は無言で首を横に振る。

 しばらくそのまま視線をぶつけ合って……、

「はぁ……」

 シュナイドは俺の意向を全面的に飲んでくれたのだった。

 彼はペンを置き、報告書を背後の机に放り投げると両ひざに肘をついて手を組み、そこに顎を乗せて俺の話を聞く体勢に入る。

「ありがとうございます」

 俺は無理を聞いてくれた事に対する礼をしっかりとした後、恐らく異世界から来たこと、スマホの事などを事細かに説明した。

「……という訳なんです」

 話し終わってもシュナイドはそのままの姿勢でしばらく固まっており、表情一つ動いていない。

 大方思考が現実に追いついていないのだろう。

 分からないけど分かったと、あやふやなまま納得してしまえるのはアウロラくらいではないだろうか。

「信じて貰えますか?」

「……信じるも何も、目の前に在るんだから信じないわけにはいかないだろう……」

 シュナイドはそういうと大きくため息をつきながら頭を抱えてしまった。

 ……気持ちは分かる。俺も異世界に来たばっかりの時は戸惑いしかなかっ……いや、殺されそうだったからそんなの考える暇もなかったか。

 ホント、アウロラには感謝しかないなぁ。最初に会ったのがサラザールとかだったら確実にその場で見捨てられてただろうし。

 世紀末コンビなら、多分俺が逃げ出してただろうな。

「……まったく、伝説の神器や魔剣でも持ってるなんて言ってくれた方がよほど良かったよ」

 あ、そんなのってやっぱりあるんだ。

 シュナイドはそのままボサボサ頭をグシグシとかき混ぜ、更にあーっ! と叫んだ後、こちらに向き直った。

「確かにその……スマホ、だったか? それは危険だ。そんな小ささで大量の魔術式を持ち運べるなんて、それを欲しがる人間は山のように居るだろうね」

「ですよね~……」

「あはははは……」

 俺とアウロラは揃って頬を掻きつつ首肯する。

 どんな人間だろうと容易にその結論にたどり着くだろう。

「あ、でも使える時間は限られていて……」

 えっと、24時間制でいいんだろうか? 一日の感覚はほとんど変わらない気がしたけど……。そう言えば数学の先生が、角度と時間はどんな場所でも3の倍数になっているとか言ってたっけ。

「一日の12分の1くらいしか使えません」

「……普通に2時間といいなさい」

「すみません。こっちの事何も知らないんで……」

「異世界から……来たんだったね……」

 あぁ、また頭を抱えられてしまった。

「どうしろというんだっ。私に判断しきれるかっ」

 ごめんなさい。でも俺も被害者というか巻き込まれたんです。

 ……っと、そうだ。

「あのですね」

 俺は足元に置いたままだったリュックを漁ると、ギルドから支給された携帯食……の下敷きになっていたグミの袋を取り出す。

 包装紙を破り、チャックを開けてからシュナイドの眼前に差し出した。

「これ食べて頭冷やしてください」

「……ああ、ありがとう」

 以前は断っていたのに、今はその余裕もないのだろう。

 ねぎらいの意味も兼ねて、シュナイドの手のひらにグミを乗せていく。

「アウロラも食べる?」

「うんっ、ありがとー」

 アウロラは天使の笑みを浮かべながら、両手をお椀にして差し出してくる。その手の上で袋を振ってグミを幾つも落とした。

 残った分は、自分用だ。一応まだお菓子は多少残っているが、いずれこの味とはお別れしなければならないのだから感慨深いものがある。

 俺は少しだけ感傷に浸りながら、グミをつまんで――。

「申し訳ないがお代わりをくれないだろうか?」

「はやっ! もう食べたんですか!?」

 シュナイドは顎を上下させながら空っぽの手を突き出してくる。

 どうやら全てまとめて口に放り込んだらしい。

「いやいや、さすが異世界の味。甘さもいいが、この触感はたまらないね。柔らかいのにしっかりとした歯ごたえがある。今までこんなものは食べたことないな、うん」

「ゼラチンに砂糖と果汁を混ぜれば作れますって」

「それではこのしっかりとした食感にはならないよ。昔ゼリーを作ったから分かるんだ」

 ……まあ、これだけ甘い物が好きな人なら自分でも作ろうとするよなぁ。

 とにかく、と再度突き出された手のひらの上に、大事に食べてくださいねと苦言を呈しながらグミを三粒ほど乗っける。

「美味しいねっ」

 むもむもとグミを食べるアウロラに癒されながら、俺もグミを頬張ったのだった。
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