異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第13話 初クエスト完了!

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「終わった……」

 顔の上部が炭化してはさすがに生きていられないだろう。

 時間にして10分も経っていないはずだが、体感時間は1時間くらい経ったように感じていた。

 しかし……今のは本当に死ぬかもしれなかった。

 今無傷で俺が立っているのは、ただの一撃ですら受けたら死んでしまうから、という単純な理由に過ぎない。

 戦闘中は感じなかった死の恐怖を今更ながらに自覚して体に震えが走る。

 アドレナリンによって麻痺していた疲労感などがどっと襲ってきて頭がくらくらしてしまう。

 さすがにアウロラの前で情けなくへたり込むなんて事は無かったが、正直座り込んでしまいたいくらいに疲れてはいた。

 もしかしたらこれが魔力を使い過ぎたことから来る疲労なのかもしれない。

「まだだよっ。まだゴブリンが居るはずだから気を抜かないで」

「――っ」

 そうだ。俺たちは最初ゴブリンと戦っていたんだ。

 あちらの方がメインクエストで、こっちは乱入クエストみたいなもので、まだ終わってすらいない。

「そうだな、ありがと」

 俺は両手で頬を挟み込むようにしてパンパンと叩いて気合を入れ直す。

 スマホをスリープ状態にしてポケットにしまい、ファイアー・アローの木札を取り出すと左手に構える。

 これでゴブリンへの対処は十全なはずだ。

「それじゃあ、家を回って居ないかどうかを確かめて行こうか」

「そだね……って、そんな必要ないかも」

「え?」

 アウロラの視線を追って行けば、何十メートルか離れた場所にある家からゴブリンが続々と姿を現していた。

 そういえば、あの魔獣が居たからゴブリンたちは廃墟となった家の中に隠れ潜んでいたのだ。それが倒されればこうして出て来るのも当たり前だろう。

 頭を巡らせて他の家に目を向ければ、そちらからも同じ様にゴブリンが出てきている。どの個体も間違いなくこちらに向かってくるようだ。

 その数は……。

「あー……何体居る?」

「た、多分百体はさすがに居ないと思う」

 どこに居たんだよと突っ込みたくなるほどのゴブリンが、俺たちを目指して走っている。

「……何というか、現金だよな。あの魔獣が居なくなったからだろ?」

「そ、そうだね~……」

 状況的にはかなりのピンチなはずだ。だが先ほど絶体絶命の状況を潜り抜けた俺たちからすれば、100に満たないゴブリンなど怖くもなんともない。 

 のんきにおしゃべりする余裕すらあった。

「……魔獣を倒した相手なんだから相応の力を持ってるって思わないのかな」

 そこが知能の低い魔物の性なのだろう。

 強い存在に対してはひれ伏すが、人間という弱いと思い込んでいる存在には強く出てしまう。

「まったく」

 俺は取り出したばかりの木札をポケットに納め、再びスマホを取り出して起動する。

 選ぶ魔術は、こんな時にこそ力を発揮するであろう――。

≪フレア・ガンズ!≫

 ガトリングの様な火矢の掃射がゴブリンたちを襲う。

 熱で焼き、貫通する魔術の矢であるため、血煙が舞う事は無いが、代わりに当たった部分には大穴が開く。

 炭化した腕が宙を舞い、頭を失ったゴブリンが大地に倒れる。

 もはや哀れみの感情すら覚えてしまう光景であったが、手を抜けばこちらが殺されてしまう可能性だってある。魔術を維持したまま、ぐるりと360度全方位を薙ぎ払って行けば……。

「終わった?」

 アウロラも俺と同じ様な感情を抱いているのだろうか。

 苦笑いとか渋い顔とも言えばいいのだろうか、何とも言えない曖昧な表情でゴブリンたちの様子を見ている。

 動けるゴブリンは、一匹も居なかった。

「終わったと思う」

 家に潜んでいるゴブリンとか居なければ、今度こそメインクエストのゴブリン退治が終ったはずだ。

 乱入クエストが難しすぎて、メインと逆転している印象すら受けたが……まあ仕方ないだろう。

「一応、家を見て回って、それから魔石の回収しようか」

 戦闘終了してすぐお金が手に入ったりアイテムが手に入らないのは現実的ではあるが、めんどくさくも感じた。







 あれからゴブリンの死体をかき集めて魔獣の死体の周りに積み上げた後、アウロラが焼却のための魔術式を書き、二人で一緒に魔術を発動させたのだった。

 今は

「魔獣ってやっぱり燃えるのに時間かかるのかな?」

「どうかなぁ。初めて燃やすから分かんないけど、多分ゴブリンと時間変わらないと思う」

「へぇ、なんで?」

「魔力を持っている生物の、残った魔力を使って燃やすから……だったかな?」

 なるほど。なら魔力の多い魔獣の方がもしかしたらよく燃えるかもしれないんだ……ってことはこの円の中に入ってたら人間も燃えちゃうのか? なんて疑問には、アウロラがパタパタと手を振りながら応えてくれた。

「円の中に入って、何分間もじっとしてたら燃えちゃうけど、一瞬入るだけならそんな風にならないから大丈夫だよ。火を点ける魔術じゃないから」

 確かに、火と言うにはあまりに白くてさほど熱も感じなかった。

「色々と知らなきゃいけない事が沢山あるなぁ」

「それはそうだよ。私だってまだまだ勉強中なんだから」

 なんて雑談をしながら魔物たちが灰になるのを待ったのだった。





 回収できた魔石は、ゴブリンから出て来た茶色のものが81。それに魔獣から出て来た銀色に光り輝く物がひとつ。

 銀色の方は手で包み隠してみると、指と指の隙間から光が零れており、他の魔石と違って自発的に光っている。重さも掌に収まる位の大きさなのにずっしりとした確かな質量を感じて、素人目に見ても相当な価値があるだろうことは容易に想像できた。

「なんか……これってレアっぽいよね」

「うんうん。私が知ってるのって、赤色に近ければ近いほど値段が高いってことなんだけど、それって魔物から出て来る魔石の話だからこれとは多分違うと思う」

 つまり普通は話題に登らないほど希少な物って事か。いいねえいいねえ、ワクワクする。

「どのくらいの値段で売れるんだろ?」

「分かんない」

 俺は銀に輝く魔石を手に取って、めつすがつ眺めてみる。

 カットされていない宝石の原石といった感じの不定形であり、質感は金属というより宝石に近い。

 俺はじっくりとその輝きを堪能した後、アウロラに差し出す。

「アウロラが仕舞っといて」

「え……?」

 よほど意外だったのだろう。アウロラは丸くてぱっちりとした目を更に真ん丸にしてしばたかせる。

 そういえばこういう事ってアウロラはしたことなかったんだっけ。美味しい所は全てリーダーが持って行ってたらしいから、一番立派な戦利品を持たせてもらえることなんてなかっただろうなぁ。

「アウロラと俺で倒したんだから、アウロラがしっかり管理しといてよ」

 俺はそんな事はしない。

 この異世界で一番信用できる存在は間違いなくアウロラだ。正直で誠実で優しい女の子。彼女が報酬をちょろまかしたり、持ち逃げするなんて事は全く想像できなかった。

「う、うんっ! お姉ちゃんに任せてっ!」

 アウロラが見せた笑顔の中でも、きっとその笑顔は最高の物なんじゃないだろうか。俺が差し出した銀の魔石なんて目じゃない位に、アウロラの笑顔は輝かしいものだった。

「でもスマホって凄いよね! これからも色んなクエストを一杯受けて……」

「あ、それは無理」

「えー、なんで? スマホがあればきっとどんな難しいクエストでも楽勝だよ?」

 そういえば言ってなかったな。俺にとっては至極当たり前すぎて説明するまでも無い事でも、異世界人は知らなくて当然の事。

「スマホって使える時間が限られてるんだ」

 先ほどスマホの電源を落とす際に確認したら、残る電池残量は60%だった。時間にして二時間弱。実際にはもっと少ないだろう。

 一度くらいは予備のバッテリーで回復させる事も出来るだろうが、それでもプラス3時間程度と考えておくべきだ。

 だましだまし使って2か月もてばいい方ではないかと思う。

「それに、俺はあんまりスマホを見せびらかしたくないんだ」

 魔術師としては初心者に近いアウロラや、ずぶの初心者である俺でさえ、スマホを持てば大魔術師になれる。ここが問題なのだ。

 魔術と相性のいいスマホは、この世界ではとんでもなく価値が高い。それこそ何をしてでも手に入れようとする輩が出てもおかしくない程度の価値はあるだろう。

 アウロラが邪魔だからとクエスト中置き去りにするような連中がスマホの存在を知れば、それこそ俺の命が危なかった。

 そういった事をアウロラに話して聞かせ、

「分かった、スマホの事は絶対秘密にするね」

 十分に危険性を理解してくれた彼女と固く約束をしたのだった。
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