異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第10話 死亡フラグ? 生存フラグに決まってる

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「終わった……?」

 あまりにもあっけなさすぎる幕切れに、若干どころかかなり肩透かしに感じてしまう。何かが起きる前に処理できたのだからこんなものなのだろうが……。

「うん、きちんと破壊できたみたい。凄いよナオヤ! 私達止めたんだよ、やったね!」

 足場の悪い崩壊しかかった屋根の上だというのに、アウロラは両手をぱたぱた振り回して喜んでいる。

 戦って、モンスターを叩きのめしてクエストクリア。また次のクエストを……っていう感覚なのは、俺がゲームをイメージしすぎているからだろう。

 こうやって災害の芽を潰していくのが普通だし現実的なのだ。

 テロリストを現場で射殺していくと被害が甚大すぎて最早悲劇でしかないから前もって止めるんだよな、うん。

 なんか……異世界に来て日が浅いせいか、ゲームでもしてるような感覚になってたや。直さないとな。

「アウロラ、危ないから降り――」

 あまり上に居るアウロラを見ないようにしていたのが幸いした。

 廃屋の影の中に、光何かが存在しているのを見咎める。それはパチパチと瞬いていて――。

「危ないっ! 中に何か居るっ!」

「え……ふえっ?」

 警告と同時にアウロラの足元から気色の悪い色をした手が、何本も突き出て来て彼女の足に群がる。それだけではない。穴だらけの壁を崩しながら同じ手を持っている存在――ゴブリンが何匹も湧き出て来る。

 その数は確実に二桁を越えているだろう。

 ――もっと早くに気付くべきだった。魔獣の巣が確認された場所であり、ゴブリン退治の依頼が出されていた場所なのだから、相応の数が居て当たり前なのだ。

「くそっ」

 俺は腰から剣を抜き放つと、手近なゴブリンの肩口に叩きつける。

 赤黒いねちゃっとした血が噴き出し、俺の体を汚す。

 ただ、その対価としてゴブリンの命は頂いておく。

「アウロラッ! 今助けるっ!」

 前回戦った時も思ったが、ゴブリンそのものはそこまで強くはない。

 背は小さいし体重も軽く、力も弱いのだ。一対一なら負ける理由がなかった。

 だが、それが多数集まれば違う。斧や鉈で切りつけられれば俺たちも傷を負うし、棍棒で殴られれば骨が折れる。

「おおぉぉぉっ!」

 俺は雄叫びを上げながら、遮二無二剣を振り回して群がってくるゴブリンを打ち払っていく。

 相手はまだ壁から飛び出して来たばかりで体勢が不十分だ。そこを狙って剣を叩きつけ、払い、突き込んだ。

 三体目のゴブリンの頭に剣を食い込ませたところで――

――クキュェー!!

 気持ちの悪い奇声を上げながら、四体目が襲い掛かって来る。

 それを左足で蹴り飛ばし……ゴブリンの持っていた小剣が足をかすめ、浅く皮膚を切り裂いていく。

 顔を歪める暇もなく、五体目、六体目が殺意をむき出しにして突進してくる。

 俺はそれを横っ飛びで地面を転がりながらかわすと、ポケットから木札を取り出して――。

≪炎よ・弾けろ、ファイアー・バレット≫

 練習したばかりの魔術を発動させる。

 俺の前方に、直径1センチ、長さ4センチほどの炎でできた弾丸が生まれ、魔術名を叫ぶと同時にその矢は流れ星の様に尾を引いて直進すると、五体目のゴブリンに突き刺さった。

 俺はそれを確認すると、立ち上がって孤立している六体目のゴブリンに走り寄り――

「はっ」

 左から右に、左手で剣を水平に振って首を斬り飛ばした。

「アウロラっ!」

 俺は左手で剣を正眼に構えてゴブリンたちを牽制しながら、右手の木札を掲げて何時でも呪文を唱えられるようにしてチラリと屋根の上へと視線を走らせる。

 アウロラはゴブリンの手を蹴っ飛ばしたり、階下に剣先を突き入れている様だが、どうにも手間取っている様だった。

 間の悪いことに、最大の戦力であるスマホはアウロラが持っていて、アウロラはそれを十分に使えない状況にある。

 足元に爆裂や火矢連射の魔術を使えば自分事燃やしてしまうかもしれないし、障壁や光線を使えば足元が崩れかねないからだ。

 状況はシビアだが、俺は少しだけ気分が高揚してくるのを抑えきれなかった。

「耐えてくれよっ!」

 俺はそうアウロラに告げると、木札を口に咥えて地面に落ちているゴブリンが持っていた鉈を掬い上げて投擲する。

 鉈は回転しながらゴブリンの胸に吸い込まれ――。

≪炎よ・弾けろ、ファイアー・バレット≫

 続く様に炎の矢で隣のゴブリンを屠り――。

「はぁっ!」

 一番左端のゴブリンを袈裟懸けに切り裂く。

 この世界に飛ばされてすぐ、ゴブリンに襲われて感じていた恐怖は、謎の高揚感にとって代わっていた。

「後6! 片付けたら助けるっ」

 8……いや、鉈が刺さっているゴブリンはまだ死んでいないので、倒した数を正確に数えるならば7体か。

 外に出ていて元気なゴブリンは残り6体だ。それを排除できればアウロラの援護に回る事が出来る。

 体が軽い――というか、心理的束縛が薄れたという感じだ。

 襲われる事への恐怖。命を奪う事への畏れ。そういった枷が、慣れとアウロラのピンチという状況から外れてしまったのではないかと思う。

「行くぞっ」

 俺の咆哮に抗うつもりなのか、ゴブリンたちも汚い奇声を上げて――。

――ゴアァァァァッ!!

 それら全てを吹き飛ばしてしまう様な、大地すら揺るがしているのではないかという錯覚を抱いてしまうほど大きな咆哮が、上がった。

 ……何故、ゴブリンは家の中に隠れていたのだろう。

 何故、魔獣の巣が一体だけ生んで消え去ると思っていたのだろう。

 もしかして、既に何らかの魔獣を生み落としていて、更に生み出すために形を保っていたとしたら――。

「アウロラッ! 飛び降りるんだっ!!」

「えっ、えっ!?」

「早くっ!」

 俺はアウロラが飛び降りやすいように、咆哮に怯え、身を固くしているゴブリンたちの間に突っ込んで大きく薙ぎ払う。

 腕が飛び、腹を裂くが、戦闘不能になるほどの痛手を負わせることは出来なかったが、アウロラが飛び降りられる場所は確保できた。

「このっ」

 アウロラの声が響き、頭上でガンガンと音がする。

 その数秒後――。

 黒い塊が屋根から降ってくると、地面でズダンッと音を立てた。

「逃げようっ」

「うんっ!」

 ゴブリンになど構っていられなかった。

 俺は剣を鞘に納めて木札をポケットに入れてから、アウロラと共にゴブリンたちへ背を向けて走り出す。

 背後からはゴブリンの鳴き声と足音に加え――、

――ゴアァァァァッ!!

 再び何かの咆哮が迫って来る。

 今度は先ほどよりも明らかに近い場所から聞こえていた。

 咆哮の主は恐らく……速く、大きい。

 俺たちは一旦廃墟の陰に隠れて状況を伺う事にした。

「アウロラ、スマホ!」

 恐らく通じるであろう唯一の武器はスマホだけだ。

 逆に言えば、多分スマホがあれば戦える。

 ブラスト・レイ。俺が心の中で密かに荷電粒子砲と読んでいるあの魔術が直撃すれば、ほとんどの魔物を倒すことが出来るはずだ。

「でも……」

 アウロラが心配そうな顔を見せる。

 俺が戦いを挑むと思っているからだろうか。

 ゴブリンですら近づかれたら逃げる様に指導されるのだから、それを越える魔獣に対しては抗うのすら不可能だという事は良く分かっていた。分かっていたが……この状況でそれを選ぶのは難しそうだ。

 だから俺が戦って、アウロラは逃げて欲しいと思っていたのだが――。

「置いて、行かない?」

「は?」

 意外に過ぎる事を聞かれてしまい、俺は思わず自分の耳を疑ってしまった。

「私ね、前のパーティーでクエスト中に置いて行かれた事あるから……」

 それを聞いて理解する。アウロラが心配そうな顔をしたのは、強力な武器であるスマホを持った俺が、アウロラを見捨てて逃げるんじゃないかと思ったからだと。

「なんだそのクソみたいな連中」

「ふえっ?」

 俺の心に怒りの炎が灯る。

 そんなクソ野郎どもと一緒にされたというのもあったが、何よりアウロラを傷つけたことが許せなかったのだ。

 追放されたアウロラは、ギルド長であるシュナイドが面倒を見ていた。つまりそれだけパーティー追放なんて出来事が起こらないのだろう。

 そんな状態であるのに、追放しようとしたらどうするか。きっと、どこか危険地帯に置き去りにするのが簡単だ。

 そうすれば、魔物や魔獣が勝手に始末してくれる。

 アウロラはそんな状況に置き去りにされ、それでも生還してしまったから追放されたのかもしれない。

 ……マジで頭腐ってるな、その連中。

「俺がアウロラを見捨てるはずないだろ。っていうか……」

 背後で何か爆発が起こり、それによって生まれた衝撃波が背中を叩く。

 ああ、そうだ。多分もう……逃げられない。

 逃げられないけど俺は――絶望なんか無かった。

 あるのは、目の前の女の子を守らなきゃならないっていう使命感だけ。

「ここは俺に任せて先に逃げろ。ああ、別にアレを倒してしまっても構わないだろう?」

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