異世界にスマホを持ち込んだら最強の魔術使いになれたんで、パーティーを追放された美少女と一緒に冒険することにしました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第9話 初めての共同作業

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 万が一にも周囲に被害が出ない様な場所へと移動しアウロラが使用できるか、魔術はどんな効力なのかを試した。

 結果としては、アウロラは使えたし魔術の効力もよくよく把握が出来たのだが……。

「一発一発の威力はファイアー・バレットより強い上に10発以上も撃ってるのに、なんでフレア・ガンズの方が消費魔力が低いのかしら」

 なんでなんでと言いながら、アウロラは頬を膨らませてぷんすか腹を立てていた。

 技術力の差だろうと突っ込みたかったが、言ってしまうと可愛そうだったので内心だけに留めておく。

「というか、それだけじゃないの! だって、こんなに違うんならグロリアとか……も~、あったまくるっ!」

「……それって追放された元パーティーの?」

「そうなのっ! あのねあのね」

 とりあえずかなり腹を立てているのは分かったので、魔獣の巣へと向かいながらアウロラの話を聞く。

 アウロラが言うには、元のパーティにほぼ同時期に加入したメンバーであるグロリアは、リーダーのサラザールに魔術式を書いてもらっていたらしい。

 それでアウロラより先に二重ツーサークル三重スリーサークルの魔術を使える様になっていたのだが、明らかに制御用の補助付きだった。

 アウロラは二重以上の魔術がまともに制御できなかった事を理由にパーティーを追放されたのだが、それは何の補助も無かったからで、不公平な理由だったと主張したいようだ。

「なんか色々リーダー……じゃない、サラザールにいっつもべたべた引っ付いて意味深な目配せしたりして、それで贔屓ひいきしてもらってたんだわ!」

「ふ~ん、状況を見てないから判断できないけど……」

 もーもーもーと悔しがりながら地団太を踏むアウロラは、子どもみたいだった。

 傍から見たら本当にただのしょうが……ごめんなさい何も考えてません。変な事考えてない? とかなんで分かるんだよ、勘良すぎだろ。

「そんなにもーもー言うと牛になるぞ~」

「牛さんはメ~メ~でしょ。もーもーは亀さんなんだから」

「異世界そんななの!?」

 こっちに来て一番びっくりしたかもしれない。なんてカルチャーショックだよ。

 つか亀が鳴くのかよ。それがビックリだわ。

「ナオヤの世界だと牛さんはもーもー鳴くんだ変わってるね」

「……まあ国が変わるだけで泣き声が変わるからな……世界が変わればもっと変わるよな」

 鶏のコケコッコーがアメリカだとクックドゥルドゥーだもんな。

 ……これは何となく分かるか。

「まあいいわ、どうせ終わった事だもの。これからの事を考えなきゃ」

 吐き出してスッキリしたのか、アウロラは幾分柔らかくなった顔で長くてきれいな黒髪を掻き上げる。

 それにちょっとだけドキッとしたのは内緒だ。

「そうだね。魔獣の巣を破壊しなきゃな」

「それだけじゃないわよ。ここにはゴブリン退治に来てるんだから」

 あ~……それは忘れてたや。

 そこら辺の気配りはさすが経験者なんだな。

 ああ、じゃあ歩いて行こうっていうのも体力を残すだけじゃなくて警戒しながら進むってのも入ってるのかな。

 それにしては地団太踏んでたりもーもー騒いでたけど。

「警戒しながら、出来る限りの速度で進みましょ」

「了解、お姉ちゃん」

 って何だよ、目をキラキラさせてこっち見て。

「良いわね、お姉ちゃん。良い響きね!」

 ……冗談で言ったんだけどな。本気にしちゃったよ。

 今度からは使うタイミングを考えとこ。なんか無駄に張り切ってるや。

 そんなこんなで3キロほどの道のりを、30分ほどかけて踏破したのだった。







 俺たちが隠れている物陰から約20メートルほど先に空間に出来た穴、闇の塊とでも言うべき存在が在る。

 魔獣の巣ビースト・ネストなどと言われているらしいが、巣というよりは出入り口の様に見えるのは俺がゲーム脳だからだろうか。

 普通生き物は洞穴などに巣を作るからこちらの人たちには巣と表現する方がなじみ深かったのかもしれない。

「とにかく強力な魔術で吹き飛ばせばいいんだよな?」

「そうだけど……周りに可燃性の物が多すぎるからちょっと心配かな」

 確かに、今この巣を吹き飛ばせる火力の魔術は爆裂か荷電粒子砲しかない。爆裂では近くに在る空き家などが燃えてしまうし荷電粒子砲ではその先に在る森が薙ぎ払われてしまうだろう。

「じゃあちょっと高い所から斜め下に荷電粒子砲を撃ち込む?」

「かで……何?」

 おっと内心で名付けてたのが思わず漏れちゃったか。

「ごめん、ブラスト・レイだ」

「……ナオヤって、魔術に自分だけの技名付けちゃう人?」

「……男の子なんだからいいだろ」

 男は誰だって中二病に感染するし、波○拳やかめは〇波の真似をするものだろ!

 ブラスト・レイって魔術名を唱えながら、心の中で「最大パワーの荷電粒子砲だぁっ!!」とか叫んでてもいいじゃないか。

「まったく、ナオヤは子どもねえ。やっぱりお姉ちゃんがしっかり見てあげないといけないわね」

 アウロラは腰に手を当ててふんすと鼻息を荒くする。

 ……俺より身長が30センチも低い、たった二カ月生まれが早いだけの自称お姉ちゃんだけどな。

「早く処理しよう。魔獣が孵ったら困るって」

「そ、そうね。あの家の屋根に登って処理すればいいんじゃないかしら」

 アウロラが指さす家は、中心から太い木が伸びていて、既に半壊に近い廃墟だった。

 しかし、半壊している分多少登りやすくなっている。多分俺がアウロラの補助をすれば簡単に登れるのではないだろうか。

「ん、じゃあアウロラが使ってよ」

「……えっと、いいの?」

 アウロラが下から覗き込むようにして問いかけてくるのだが、何故確認されなければならないのだろうか。その理由に皆目見当がつかなかった。

「だって、リーダーはこういう時自分がトドメを刺したりしてたから……」

 そのサラザールってリーダーマジでクソだな。

 美味しい所は持って行って、誰かをエコ贔屓するなんて。

「いいんだって。俺たちパーティーなんだから、協力し合って効率がいい方がやるべきなんだよ」

「そっか、そうだよね」

 アウロラは納得したかのように何度か頷くと、ちょっとだけ嬉しそうに顔を綻ばせる。

 もしかしたらこういうのは初めての経験なのかもしれなかった。

「じゃあ早くしよう」

「うんっ」

 俺はアウロラを連れ立って廃墟の家へと向かうと、登りやすそうな位置で立ち止まる。

 そのまま廃墟に背を向けた状態で腰を落としてバレーのレシーブをするような恰好をとった。

「よしっ、アウロラ来いっ」

「うんっ」

 頷いたアウロラは俺に向かって勢いよく走って来ると、眼前でぴょんと飛びあがって俺の構えた手に片足を乗せる。

「よっ!」

 タイミングよく俺は両手を跳ね上げ、アウロラの体を上へと放り投げる。

 アウロラは俺の肩に足を乗せ、勢いよくそのまま廃墟を駆けあがった。

「んしょっ」

 即席のコンビネーションにしてはなかなかうまくいったようで、あっという間にアウロラは元屋根の上へとたどり着いていた。

 俺はそんなアウロラを下から見上げて……群青色のスカートの奥に白っぽい物がチラリと浮かび上がった気がしてしまい、慌てて視線を下げる。

 パ、パンツとか見てないからね?

「足元大丈夫?」

「うんっ、ありがとっ」

 きっと今晴れ晴れとした笑顔を浮かべてるんだろうなぁ。まっすぐ見られない……。

「じゃあやっちゃうよ」

 ゴソゴソっと物音がした後に――。

≪ブラスト・レイ≫

 魔術名が響き、俺の頭上から真っ白な光の槍が突き進んでいき――闇の穴、魔獣の巣を狙い過たず貫いた。

 そのまま光の奔流が闇を押し流し、それでも止まらず大地に穴を穿っていく。

 魔術が直撃した周辺の地面は、あっという間にあけへと染まり、灼熱の溶岩と化してしまう。

 やがて魔術が終わり、土煙が晴れると……先ほどまで不気味に大口を開けていた虚うろは、影も形も無くなっていた。
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