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第5話 ギルドへ
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俺は何気なくポケットに手を突っ込み、スマホの所在を確認する。
撮影させてくださいとか言ってもいいものだろうかと悩んだが、どう説明していいか分からなかったし、お金を請求されたり断られたら困るのでこっそり撮影することを選択した。
「えっと……それでこういうのって折りたたんだり本にして持ち運んだりはしないんですか?」
「あー、折りたたむのは魔術式の一部が欠損するかもしれないから無理だな。本は色々問題起きるんだ」
そういうとおじさんは壁に立てかけてある石板に手をつける。
「こうやって真言を唱える時に魔術式に触れるだろ。んで魔力を流し込む。もしも裏側にも魔術式が描かれていたらどうなると思う?」
「裏側にも流れてしまう、ですか。なるほど」
つまり本にしたら描かれている魔術式全てに魔力が通り、誤爆してしまう可能性もあるということか。そりゃ本は無理だな。
手間だけど幾つも札みたいなのを持ち運ぶしかないという事か。
……つまり画像を切り替えられるスマホだといくらでも持ち運べる可能性があると。夢が膨らむなぁ。
「ありがとうございます、色々と教えてくださって。魔術なんてなかなか目にしなかったもので珍しくて」
「はははっ、男ならこういうもんに興味を持つもんだから構わんよ。俺だって初めてこの役目を仰せつかった時は先輩から説明される時に目を輝かせてたもんだ。そもそも……」
おじさんはずいぶんと話好きらしく、聞かれもしない昔話をぺらぺらと語り始めてしまう。この調子だとかなりの時間話に付き合わされてしまいそうだった。
アウロラはアウロラで外の景色に見入ってしまっていて助けてくれそうもない。
どうするかなぁ……。
「あ、あの、話の途中で申し訳ないんですが、この辺りの事について説明とかしてもらってもいいですか? この近くの事何も分からないんで」
おじさんが話す邪魔はしない。でも方向を変えるって対処でどうだ?
少しばかり緊張しながら待っていると、おじさんは一瞬意外そうな顔をした後、
「ああ、いいぞぉ。ほれ、こっち来い」
なんて気をよくして狭間まで歩いていく。どうやら話せるなら何でもいいらしかった。
番兵の仕事なんて基本的には会話に飢えてそうだもんなぁ。
後はアウロラも巻き込んで会話を盛り上げた後に隙をみてこっそり写真に収めて行けばイケるかな?
「なあ、アウロラ。あの山の名前きちんと分かるか?」
「もちろんっ。えっとね~……」
俺の目論見通りに事は進み、俺は四種類の魔術式全てを手に入れる事が出来たのだった。
「いや~、悪いなぁ。ずいぶん長く引き止めちまって!」
おじさんは言葉に反してまったく悪びれた様子もなく破顔している。二時間もの間、おじさんの口は一瞬たりとも止まる様子はなくしゃべり続けていたため、相当楽しかっただろう。
俺はいささか焦れていたが、アウロラは無邪気に会話を続けていた。
「ううん、すっごく楽しかったわ。また見せてね。私高い所から見る景色って大好き!」
「おお、いいぞ。頻繁には見せてやれんがたまにはな」
「やった」
アウロラはちゃっかり次の約束を取りつけ、おじさんと別れたのだった。
町並みは、インターネットなどで見たような石畳に赤レンガの家々が建ち並ぶ……ものとは違い、木を使って建てられた家がほとんどであった。
ちょっとがっかりしつつもアウロラの横に並んで土の露出している道を歩く。
魔術の事だとかこの世界の事なんかを話しながら歩き、目的地であるギルドにたどり着いた。
ギルドは赤レンガの壁と、木製の屋根で出来た思った以上に大きくて立派な建物で、正面入り口には堅い木を材料にした真っ黒な扉がどーんと備えられており、そこを色んな人達が出入りしている。
「あれってみんな冒険者なの?」
「冒険者っていうかギルド登録して身分を証明してもらった人たちかな。薬師や彫金師、それからお医者さんだったり商人だったりするよ。私みたいに戦ったりする人の方がむしろ少ないんじゃないかな」
「へ~」
そっか、ギルドってつまり組合ってことだもんな。
色んな情報を交換するならひとまとめにしてしまった方が合理的か。……ちょっと乱暴すぎる気もするけど。
「それじゃ行こっ」
アウロラに促されて俺たちはギルドの中に入っていった。
ギルドの中はホテルのラウンジを思わせるような造りになっており、正面のカウンターには受付嬢が8人並んでおり、部門ごとに分かれて並ぶようになっているらしい。
……文字が読めないから推測が大いに混じるけど。
「俺たちはどこに並ぶの?」
「あ、私はちょっと特別だからあっち」
そう言うと、アウロラはギルド右奥に設置されている階段の方へと歩いていく。
「特別?」
「……えっとまあ……私って今一人でしょ?」
「……なるほど」
ああ、そういえばパーティを追放されたとか番兵のおじさんに言ってたな。
そういう特別か。あんまり嬉しくない特別だな。
「そういうことだから、ギルド長のシュナイドさんが特別にクエストのお世話をしてくれたの」
「へー、じゃあ親切な人なんだ」
「うんっ、たまにお菓子くれるの」
それはきっとアウロラにだけだろうなぁ、このオジサンキラーめ。
その気持ちも分かるけど。なんとなく甘やかしたくなるタイプなんだよね、アウロラって。
そんな話をしながら階段をあがって廊下を進み、ある部屋の前にまでたどり着いた。
部屋のドアにはやたら丸っこく可愛らしい字で『ぎるどちょうしつ』と書いてあり――アウロラが教えてくれたのを勝手に脳内変換したのだ――少々雰囲気がぶち壊しになっている感が否めない。
「シュナイドさ~ん、居ますか~?」
そのドアを、アウロラがこんこんとノックすると、少し時間を空けてから間延びした声で、どうぞ~と返って来た。
「失礼しま~す」
「失礼します」
アウロラはやや軽い感じで、俺は緊張しながら一言断ったのちにドアを潜り――
撮影させてくださいとか言ってもいいものだろうかと悩んだが、どう説明していいか分からなかったし、お金を請求されたり断られたら困るのでこっそり撮影することを選択した。
「えっと……それでこういうのって折りたたんだり本にして持ち運んだりはしないんですか?」
「あー、折りたたむのは魔術式の一部が欠損するかもしれないから無理だな。本は色々問題起きるんだ」
そういうとおじさんは壁に立てかけてある石板に手をつける。
「こうやって真言を唱える時に魔術式に触れるだろ。んで魔力を流し込む。もしも裏側にも魔術式が描かれていたらどうなると思う?」
「裏側にも流れてしまう、ですか。なるほど」
つまり本にしたら描かれている魔術式全てに魔力が通り、誤爆してしまう可能性もあるということか。そりゃ本は無理だな。
手間だけど幾つも札みたいなのを持ち運ぶしかないという事か。
……つまり画像を切り替えられるスマホだといくらでも持ち運べる可能性があると。夢が膨らむなぁ。
「ありがとうございます、色々と教えてくださって。魔術なんてなかなか目にしなかったもので珍しくて」
「はははっ、男ならこういうもんに興味を持つもんだから構わんよ。俺だって初めてこの役目を仰せつかった時は先輩から説明される時に目を輝かせてたもんだ。そもそも……」
おじさんはずいぶんと話好きらしく、聞かれもしない昔話をぺらぺらと語り始めてしまう。この調子だとかなりの時間話に付き合わされてしまいそうだった。
アウロラはアウロラで外の景色に見入ってしまっていて助けてくれそうもない。
どうするかなぁ……。
「あ、あの、話の途中で申し訳ないんですが、この辺りの事について説明とかしてもらってもいいですか? この近くの事何も分からないんで」
おじさんが話す邪魔はしない。でも方向を変えるって対処でどうだ?
少しばかり緊張しながら待っていると、おじさんは一瞬意外そうな顔をした後、
「ああ、いいぞぉ。ほれ、こっち来い」
なんて気をよくして狭間まで歩いていく。どうやら話せるなら何でもいいらしかった。
番兵の仕事なんて基本的には会話に飢えてそうだもんなぁ。
後はアウロラも巻き込んで会話を盛り上げた後に隙をみてこっそり写真に収めて行けばイケるかな?
「なあ、アウロラ。あの山の名前きちんと分かるか?」
「もちろんっ。えっとね~……」
俺の目論見通りに事は進み、俺は四種類の魔術式全てを手に入れる事が出来たのだった。
「いや~、悪いなぁ。ずいぶん長く引き止めちまって!」
おじさんは言葉に反してまったく悪びれた様子もなく破顔している。二時間もの間、おじさんの口は一瞬たりとも止まる様子はなくしゃべり続けていたため、相当楽しかっただろう。
俺はいささか焦れていたが、アウロラは無邪気に会話を続けていた。
「ううん、すっごく楽しかったわ。また見せてね。私高い所から見る景色って大好き!」
「おお、いいぞ。頻繁には見せてやれんがたまにはな」
「やった」
アウロラはちゃっかり次の約束を取りつけ、おじさんと別れたのだった。
町並みは、インターネットなどで見たような石畳に赤レンガの家々が建ち並ぶ……ものとは違い、木を使って建てられた家がほとんどであった。
ちょっとがっかりしつつもアウロラの横に並んで土の露出している道を歩く。
魔術の事だとかこの世界の事なんかを話しながら歩き、目的地であるギルドにたどり着いた。
ギルドは赤レンガの壁と、木製の屋根で出来た思った以上に大きくて立派な建物で、正面入り口には堅い木を材料にした真っ黒な扉がどーんと備えられており、そこを色んな人達が出入りしている。
「あれってみんな冒険者なの?」
「冒険者っていうかギルド登録して身分を証明してもらった人たちかな。薬師や彫金師、それからお医者さんだったり商人だったりするよ。私みたいに戦ったりする人の方がむしろ少ないんじゃないかな」
「へ~」
そっか、ギルドってつまり組合ってことだもんな。
色んな情報を交換するならひとまとめにしてしまった方が合理的か。……ちょっと乱暴すぎる気もするけど。
「それじゃ行こっ」
アウロラに促されて俺たちはギルドの中に入っていった。
ギルドの中はホテルのラウンジを思わせるような造りになっており、正面のカウンターには受付嬢が8人並んでおり、部門ごとに分かれて並ぶようになっているらしい。
……文字が読めないから推測が大いに混じるけど。
「俺たちはどこに並ぶの?」
「あ、私はちょっと特別だからあっち」
そう言うと、アウロラはギルド右奥に設置されている階段の方へと歩いていく。
「特別?」
「……えっとまあ……私って今一人でしょ?」
「……なるほど」
ああ、そういえばパーティを追放されたとか番兵のおじさんに言ってたな。
そういう特別か。あんまり嬉しくない特別だな。
「そういうことだから、ギルド長のシュナイドさんが特別にクエストのお世話をしてくれたの」
「へー、じゃあ親切な人なんだ」
「うんっ、たまにお菓子くれるの」
それはきっとアウロラにだけだろうなぁ、このオジサンキラーめ。
その気持ちも分かるけど。なんとなく甘やかしたくなるタイプなんだよね、アウロラって。
そんな話をしながら階段をあがって廊下を進み、ある部屋の前にまでたどり着いた。
部屋のドアにはやたら丸っこく可愛らしい字で『ぎるどちょうしつ』と書いてあり――アウロラが教えてくれたのを勝手に脳内変換したのだ――少々雰囲気がぶち壊しになっている感が否めない。
「シュナイドさ~ん、居ますか~?」
そのドアを、アウロラがこんこんとノックすると、少し時間を空けてから間延びした声で、どうぞ~と返って来た。
「失礼しま~す」
「失礼します」
アウロラはやや軽い感じで、俺は緊張しながら一言断ったのちにドアを潜り――
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