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第2話 自己紹介しましょう
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「終わった……」
全てのゴブリンが死に、安全を実感した瞬間思わず腰が抜けてしまった俺は、その場に座り込んでしまった。
「ふぇぇ~……」
少女も同様の想いを抱いていたのか、可愛らしく大きなため息を吐き出しながらぺしゃんとその場に腰を落とす。
そのまま二人して見つめ合い……。
「えっと」
「その……」
俺は少女に向かって手を差し出した。
「暁 直夜……です」
「アウロラ・メルグよ。よろしくねっ」
少女……というには失礼なくらいかなりの美少女が、俺の手を握り返して上下にぶんぶんと振る。
何となく気恥しくなった俺は、そこそこのところで手を離した。
「えっと、アウロラ……さんでいい……かな?」
一応初対面なので語尾にですを付けるか迷ったが、戦っている最中は付けて居なかったことを思い出し、アウロラも敬語では無かったため結局外すことにする。
「うんっ……というかさんはいらないわ。私はアカツキでいいかな? 聞いたことない名前ね」
「暁は苗字……フォアミリーネームで、名前は直夜だよ」
「じゃあナオヤね」
アウロラの屈託のない笑顔を見て、本当に純真ないい娘なのだと確信する。
こんな娘だから顔も名前も知らない俺を助けようとしてくれたのだろう。
本当に、あの神殿みたいな建物に隠れたままでいなくてよかった。
「アウロラ、ありがとう。助けてくれて本当に感謝してる」
「そんな。私も助けて貰っちゃったから、こちらこそありがとうっ」
互いに命を助け合って互いに感謝し合った俺たちは、何か表現し辛い絆というか運命めいたものを感じていた。
「それで……」
とりあえず何か話さなければと思い、話題を探したのだが、多すぎる事に言葉を失ってしまった。
俺は確か日本の一地方都市で、SUNY製最新型スマホをDOKOKOKOショップで契約してその場で充電させてもらった後、ウキウキしながら店を出たはずなのだ。
そしたら目の前にあのゴブリンたちが居て、近くにあった神殿に籠城していたらアウロラが助けてくれた。
……店からゴブリンってとんでもなく途中が抜けてない?
ねえここどこ? 確実に日本じゃないよね?
というかあのゴブリンが居る時点で地球でもないよね。
ってことは……異世界? いやそんなまさかアニメでもあるまいし……。
「ねえナオヤナオヤ」
「ん?」
アウロラに呼びかけられ、俺の意識は現実に引き戻される。彼女の綺麗な顔が意外と近くにあり、思わず少しだけのけぞってしまった。
「顔、引っかかれちゃって傷だらけだけど、他に痛い所ない?」
アウロラは顔の横で両手を猫のように曲げてガシガシと引っ掻くようなそぶりをしながら話しかけてくる。
綺麗な顔立ちに加えて背の低さと愛らしい素振りのせいで、かなり心臓に悪い精神攻撃になっているのだが本人はまったく気づいていない様だ。
俺は高鳴る鼓動に、吊り橋効果吊り橋効果と何度も呪文を唱える事で対抗してからアウロラとの会話に戻った。
「えっと、顔?」
「首筋とかも。うわぁ、よく見るといっぱい引っ掻かれてるね」
うわぁと顔を歪めるくらい酷い事になっているらしいが、先ほどまで殺し合いをしていたせいでアドレナリンが大量分泌されて痛みなんてこれっぽっちも感じていない。
とりあえず傷の状態を確認するためにポケットからスマホを取り出してちょいちょいっと操作し、カメラを起動する。
インカメラを鏡代わりにして顔を写すと、黒い短髪にきりっとした目元、祖母からは精悍なと言われている悪くもないが良くもない落ち着いた感じの顔が現れた。
ただ、今はアウロラに言われた通りそこかしこにひっかき傷が出来ており、思わず眉をひそめてしまうほど酷い状態になっている。
「これは酷い……」
傷を実際に見たことでようやく戻って来た痛覚が、じくじくと自己主張を始める。
……教えないで欲しかったなぁ。
「ねえねえ、それ鏡なの?」
いつの間にか移動していたアウロラが、ひょいっと気軽な感じでスマホを覗き込んでくる。
「あ、いや、これは……」
なんて説明すればいいんだろう。
多分魔法……魔術かなんかが存在するこの世界で、科学力を持って作りだされたこの装置をどの様に表現すれば分かってもらえるのか、いくら頭を絞っても答えはまったく出てこなかった。
「わぁ、なにこれ変なの」
手を動かすと一瞬遅れて表示されるのが不思議なのか、アウロラはピースしてみたり腕をぶんぶか振り回してみたりと色々試して遊んでいる。
無邪気な少女に苦笑しつつ、俺はアウロラを押しとどめるとスマホを操作してアウトカメラを起動した。
「アウロラ、この丸い部分を見てじっとしてて」
「うん」
レンズ部分を指さしてからスマホを構え、アウロラの不思議そうな顔を画面真ん中に捉える。
「笑ってみて」
「?」
意味が分からないのは変わらないようだが、俺の言う通り小首を傾げて笑顔を向けてくれるアウロラは、誰であろうとこうしたくなるだろう。
俺は本能に従い、そのまま画面をタップする。
カシャッと機械音が鳴り、2500万画素のカメラが本領を発揮してアウロラの可憐な姿がしっかりとスマホに記録された。
……保護かけとこ。
「なになに、何か音がしたけど?」
四つん這いになってもそもそ寄って来るアウロラにスマホの画面を見せると――。
「わぁっ、これ私だよね? 絵……にしてはすっごく細かいよ? すっごーい」
映し出された自身の姿に、アウロラは感心し、手まで叩いて喜んでいた。
「こういう事が出来る道具、かな」
本当はもっといろんな事が出来るが、アンテナも立っていない様なこの世界だと、カメラやビデオ、それから記録してある漫画や本くらいしか意味を持たないだろう。
というか電池切れたらただの箱以下だし。
一応充電用の電池はあるけど、1、2回くらいしか充電できないだろうなぁ。
「面白~い。射影魔導具みたいなものなんだね。でもこんなに綺麗なの初めてみたわ」
魔法で似たような事できるのか。それはそれで凄いな。
「じゃあ、今度は私が……」
アウロラは腰についたポーチを探り、その中から木で出来た板を取り出す。その板には何かごちゃごちゃとした紋様などが描かれていた。
「治療してあげるね」
「ありがとう」
平然とした顔で礼を言った俺だが、その実内心はもの凄くドキドキしている。
何せ人生で初めての魔術を目撃して、しかも体験することもできるのだ。めちゃくちゃ期待で胸を躍らせていた。
アウロラは魔法陣とでも形容すればいい謎の紋様と文字が描かれた木の板を左手で持ち、右手を俺の眼前で広げ――。
≪生命よ・沸き上がれ≫
呪文を唱えると同時に魔法陣が淡い白色の光を帯びる。そして同じ色をした光の塊がアウロラの手の平に集まっていく。
光の塊であるはずなのに、近くで見て居ても眩しくない、優しくて不思議な光だった。
≪ヒール≫
アウロラの呪文が完成すると、光の塊が手から俺の顔に移り、虫が這いまわっている様な奇妙な感覚に襲われる。
多分傷がもの凄い速度で治っているからこんな感覚がするのだろうが、もしかしたら直視しなくて正解だったかもしれない。
しばらくそのむず痒さに耐えていると、アウロラが満足そうな顔で頷いた後に光を消す。おそらく治療が終わったのだろう。
実際、じくじくとした痛みが今は完全になくなっていた。
「ありがとう」
「どういたしましてっ」
天使の様な微笑みでそう返されるとそれだけでもう一度礼を言いたくなってしまう。
俺は目を逸らして頬を掻いた。
「それじゃあ魔石の回収しよう」
「魔石?」
語感的にはなんとなく想像がつくが……。
「ゴブリンの死体を……」
アウロラは視線を彷徨わせてから少し開けた場所を指さした。
「あそこに集めよっ」
「分かった」
何をするのか全く分からなかったが、俺はとりあえず頷いておいた。
全てのゴブリンが死に、安全を実感した瞬間思わず腰が抜けてしまった俺は、その場に座り込んでしまった。
「ふぇぇ~……」
少女も同様の想いを抱いていたのか、可愛らしく大きなため息を吐き出しながらぺしゃんとその場に腰を落とす。
そのまま二人して見つめ合い……。
「えっと」
「その……」
俺は少女に向かって手を差し出した。
「暁 直夜……です」
「アウロラ・メルグよ。よろしくねっ」
少女……というには失礼なくらいかなりの美少女が、俺の手を握り返して上下にぶんぶんと振る。
何となく気恥しくなった俺は、そこそこのところで手を離した。
「えっと、アウロラ……さんでいい……かな?」
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「うんっ……というかさんはいらないわ。私はアカツキでいいかな? 聞いたことない名前ね」
「暁は苗字……フォアミリーネームで、名前は直夜だよ」
「じゃあナオヤね」
アウロラの屈託のない笑顔を見て、本当に純真ないい娘なのだと確信する。
こんな娘だから顔も名前も知らない俺を助けようとしてくれたのだろう。
本当に、あの神殿みたいな建物に隠れたままでいなくてよかった。
「アウロラ、ありがとう。助けてくれて本当に感謝してる」
「そんな。私も助けて貰っちゃったから、こちらこそありがとうっ」
互いに命を助け合って互いに感謝し合った俺たちは、何か表現し辛い絆というか運命めいたものを感じていた。
「それで……」
とりあえず何か話さなければと思い、話題を探したのだが、多すぎる事に言葉を失ってしまった。
俺は確か日本の一地方都市で、SUNY製最新型スマホをDOKOKOKOショップで契約してその場で充電させてもらった後、ウキウキしながら店を出たはずなのだ。
そしたら目の前にあのゴブリンたちが居て、近くにあった神殿に籠城していたらアウロラが助けてくれた。
……店からゴブリンってとんでもなく途中が抜けてない?
ねえここどこ? 確実に日本じゃないよね?
というかあのゴブリンが居る時点で地球でもないよね。
ってことは……異世界? いやそんなまさかアニメでもあるまいし……。
「ねえナオヤナオヤ」
「ん?」
アウロラに呼びかけられ、俺の意識は現実に引き戻される。彼女の綺麗な顔が意外と近くにあり、思わず少しだけのけぞってしまった。
「顔、引っかかれちゃって傷だらけだけど、他に痛い所ない?」
アウロラは顔の横で両手を猫のように曲げてガシガシと引っ掻くようなそぶりをしながら話しかけてくる。
綺麗な顔立ちに加えて背の低さと愛らしい素振りのせいで、かなり心臓に悪い精神攻撃になっているのだが本人はまったく気づいていない様だ。
俺は高鳴る鼓動に、吊り橋効果吊り橋効果と何度も呪文を唱える事で対抗してからアウロラとの会話に戻った。
「えっと、顔?」
「首筋とかも。うわぁ、よく見るといっぱい引っ掻かれてるね」
うわぁと顔を歪めるくらい酷い事になっているらしいが、先ほどまで殺し合いをしていたせいでアドレナリンが大量分泌されて痛みなんてこれっぽっちも感じていない。
とりあえず傷の状態を確認するためにポケットからスマホを取り出してちょいちょいっと操作し、カメラを起動する。
インカメラを鏡代わりにして顔を写すと、黒い短髪にきりっとした目元、祖母からは精悍なと言われている悪くもないが良くもない落ち着いた感じの顔が現れた。
ただ、今はアウロラに言われた通りそこかしこにひっかき傷が出来ており、思わず眉をひそめてしまうほど酷い状態になっている。
「これは酷い……」
傷を実際に見たことでようやく戻って来た痛覚が、じくじくと自己主張を始める。
……教えないで欲しかったなぁ。
「ねえねえ、それ鏡なの?」
いつの間にか移動していたアウロラが、ひょいっと気軽な感じでスマホを覗き込んでくる。
「あ、いや、これは……」
なんて説明すればいいんだろう。
多分魔法……魔術かなんかが存在するこの世界で、科学力を持って作りだされたこの装置をどの様に表現すれば分かってもらえるのか、いくら頭を絞っても答えはまったく出てこなかった。
「わぁ、なにこれ変なの」
手を動かすと一瞬遅れて表示されるのが不思議なのか、アウロラはピースしてみたり腕をぶんぶか振り回してみたりと色々試して遊んでいる。
無邪気な少女に苦笑しつつ、俺はアウロラを押しとどめるとスマホを操作してアウトカメラを起動した。
「アウロラ、この丸い部分を見てじっとしてて」
「うん」
レンズ部分を指さしてからスマホを構え、アウロラの不思議そうな顔を画面真ん中に捉える。
「笑ってみて」
「?」
意味が分からないのは変わらないようだが、俺の言う通り小首を傾げて笑顔を向けてくれるアウロラは、誰であろうとこうしたくなるだろう。
俺は本能に従い、そのまま画面をタップする。
カシャッと機械音が鳴り、2500万画素のカメラが本領を発揮してアウロラの可憐な姿がしっかりとスマホに記録された。
……保護かけとこ。
「なになに、何か音がしたけど?」
四つん這いになってもそもそ寄って来るアウロラにスマホの画面を見せると――。
「わぁっ、これ私だよね? 絵……にしてはすっごく細かいよ? すっごーい」
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「こういう事が出来る道具、かな」
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「じゃあ、今度は私が……」
アウロラは腰についたポーチを探り、その中から木で出来た板を取り出す。その板には何かごちゃごちゃとした紋様などが描かれていた。
「治療してあげるね」
「ありがとう」
平然とした顔で礼を言った俺だが、その実内心はもの凄くドキドキしている。
何せ人生で初めての魔術を目撃して、しかも体験することもできるのだ。めちゃくちゃ期待で胸を躍らせていた。
アウロラは魔法陣とでも形容すればいい謎の紋様と文字が描かれた木の板を左手で持ち、右手を俺の眼前で広げ――。
≪生命よ・沸き上がれ≫
呪文を唱えると同時に魔法陣が淡い白色の光を帯びる。そして同じ色をした光の塊がアウロラの手の平に集まっていく。
光の塊であるはずなのに、近くで見て居ても眩しくない、優しくて不思議な光だった。
≪ヒール≫
アウロラの呪文が完成すると、光の塊が手から俺の顔に移り、虫が這いまわっている様な奇妙な感覚に襲われる。
多分傷がもの凄い速度で治っているからこんな感覚がするのだろうが、もしかしたら直視しなくて正解だったかもしれない。
しばらくそのむず痒さに耐えていると、アウロラが満足そうな顔で頷いた後に光を消す。おそらく治療が終わったのだろう。
実際、じくじくとした痛みが今は完全になくなっていた。
「ありがとう」
「どういたしましてっ」
天使の様な微笑みでそう返されるとそれだけでもう一度礼を言いたくなってしまう。
俺は目を逸らして頬を掻いた。
「それじゃあ魔石の回収しよう」
「魔石?」
語感的にはなんとなく想像がつくが……。
「ゴブリンの死体を……」
アウロラは視線を彷徨わせてから少し開けた場所を指さした。
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