38 / 41
第37話 未来の無い賭け
しおりを挟む俺を咲樹から受け取ったレイは、下へは降ろさずに、そのまま自分の腕に座らせるように俺を抱える。
咲樹は、自力でガルムからヒラリと降りた。
「何であの状況で普通にしてられるのよ」
咲樹がレイを睨む。
あの状況?
「獣化してると、風の抵抗とかあまり感じなくなるんです」
風の抵抗?話が全然見えないのだが。
とりあえず、そろそろ降ろして欲しい。
「新幹線の車外かと思ったわよ!」
「目も開けてられないって、危うく首から上がなくなるとこだったじゃん!」
「あのスピードじゃ、ただの枝も凶器よ!」
「貧弱な召喚師じゃ、呼吸困難必至じゃんか!オレの事も少しは考えてあげて!」
けたたましく話すミロとココアに、何かはわからないが大変だった事だけは理解した。
でもミロ、貧弱ではないよな。前に舞闘家からサモナーに転職したって言ってたし。
「オレちゃんの舞闘家は、ココアの武闘家と違って、優雅に舞うように戦うんだよ」と自慢げに言ってたよな。
その後、ココアが自分の一撃必殺の素晴らしさを延々と語って、二人で戦闘談義してたよな。
ウザい酔っ払い二人の面倒を、オーベに押し付けたのでよく覚えている。
ワイワイと四人が話していると、衛兵が一人、コッソリと近付いて来る。
目が合った。
「あの~、それで話を聞いても良いですかね?」
多分責任者なのだろう。他の衛兵よりも鎧がちょっと豪華だ。
頷いてみせると、衛兵の視線がリルへ向く。
そうだよな。見た事のない魔獣だし、ガルムよりも大きい魔獣なんてここでは見ないだろう。
「すまん。もっと街から離れた所で一度止まるつもりだったのだが……」
俺の予想以上に速かった。車位のスピードかと思いきや、ココアの言葉を引用すると新幹線並みだったらしい。
「これは、俺の従魔だ。これからギルドに登録する」
俺の言葉に合わせて、リルがペコリと頭を下げる。空気を読む事はできるらしい。
「身分証はお持ちでいらっしゃいますでしょうか?」
ちょ、言葉遣いが更に馬鹿丁寧に!
ギルドカードを渡すと、既に見慣れた行動をされる。だから、何度見直しても年齢は変わらないっての。
いっそ現実の免許証みたいに、写真付きにした方が良いのじゃないか?
「お返しいたします」
両手でカードを返された。
「このまま冒険者ギルドの方へ、おいでになられますでしょうか?」
「そのつもりだ。それから、俺はただの冒険者だから、その言葉遣いはやめてくれ」
背筋がムズムズするから、その馬鹿丁寧な言葉遣いはやめて欲しい。
「いや、しかし……」
衛兵の視線がチラリとリルを見る。ガルムは先程の伏せ状態で大人しくしているからか、衛兵の今の関心はリルだけだ。
そのリルは、初めて見るものに興味津々なのか、お座り状態で周りをキョロキョロ見回し、目をキラキラさせている。
これが傍から見たら、獲物を狙うギラギラした目に見えているのかもしれんが……
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
絶世のディプロマット
一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。
レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。
レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。
※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

十年前の片思い。時を越えて、再び。
赤木さなぎ
SF
キミは二六歳のしがない小説書きだ。
いつか自分の書いた小説が日の目を浴びる事を夢見て、日々をアルバイトで食い繋ぎ、休日や空き時間は頭の中に広がる混沌とした世界を文字に起こし、紡いでいく事に没頭していた。
キミには淡く苦い失恋の思い出がある。
十年前、キミがまだ高校一年生だった頃。一目惚れした相手は、通い詰めていた図書室で出会った、三年の“高橋先輩”だ。
しかし、当時のキミは大したアプローチを掛けることも出来ず、関係の進展も無く、それは片思いの苦い記憶として残っている。
そして、キミはその片思いを十年経った今でも引きずっていた。
ある日の事だ。
いつもと同じ様にバイトを上がり、安アパートの自室へと帰ると、部屋の灯りが点いたままだった。
家を出る際に消灯し忘れたのだろうと思いつつも扉を開けると、そこには居るはずの無い、学生服に身を包む女の姿。
キミは、その女を知っている。
「ホームズ君、久しぶりね」
その声音は、記憶の中の高橋先輩と同じ物だった。
顔も、声も、その姿は十年前の高橋先輩と相違ない。しかし、その女の浮かべる表情だけは、どれもキミの知らない物だった。
――キミは夢を捨てて、名声を捨てて、富を捨てて、その輝かしい未来を捨てて、それでも、わたしを選んでくれるかしら?
ふたつの足跡
Anthony-Blue
SF
ある日起こった災いによって、本来の当たり前だった世界が当たり前ではなくなった。
今の『当たり前』の世界に、『当たり前』ではない自分を隠して生きている。
そんな自分を憂い、怯え、それでも逃げられない現実を受け止められるのか・・・。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
年下の地球人に脅されています
KUMANOMORI(くまのもり)
SF
鵲盧杞(かささぎ ろき)は中学生の息子を育てるシングルマザーの宇宙人だ。
盧杞は、息子の玄有(けんゆう)を普通の地球人として育てなければいけないと思っている。
ある日、盧杞は後輩の社員・谷牧奨馬から、見覚えのないセクハラを訴えられる。
セクハラの件を不問にするかわりに、「自分と付き合って欲しい」という谷牧だったが、盧杞は元夫以外の地球人に興味がない。
さらに、盧杞は旅立ちの時期が近づいていて・・・
シュール系宇宙人ノベル。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる