神風として死ぬしかない私たちに、生きる意味を教えてもらえませんか?

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第13話 遊んであげる…

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 反省点を先生たちと洗い直し、課題を明確にしたところで訓練は終了した。

 訓練が終われば自由時間という事で、いやっほぉぅと奇声をあげて美弥が復活をする。あまりの現金さに先生たちも苦笑いをするしかなかったようだ。

 そんな美弥とは別行動をしたかったのだが、私達生体誘導機はあまり自由に基地内を移動できない事になっているため……。

「陽菜ちゃんのお花かぁ……。あとどのくらいで咲くの?」

「知らないわよ」

 結局付きまとわれる事になってしまった。

 まあ、私が居なくなってからも世話をして貰えるかもしれない存在が増えた事は、喜ぶべきことなのかもしれないが。

 私と美弥は、それぞれ交互に水の入ったバケツを持ちながら宿舎の裏側まで歩いていき……、

「よお」

「…………」

 またもあの眠そうな目つきをした男と鉢合わせた。

 しかも相変わらずあの変なプラスチックの棒を口に咥えて壁に寄り掛かっている。今度は花を踏んづけてはいないようだ。

「だれ?」

「……水原……誠。護衛機のパイロット、つまり私達を戦場で護衛してくれる人」

 記憶の片隅でうっすらと埃をかぶっていた彼のプロフィールを引っ張り出して美弥に教える。

「ふーん。あ、こういう時は自己紹介だよね」

 ぽんっと手を打ってから、美弥は持ち前の人懐こさを発揮してとてとてと彼の前にまで行くと、

「こんにちは~か、こんばんは? どっちでもいいや。誠さん、私は美弥だよっ。よろしくね!」

 なんて万歳しながら大輪が咲いたような笑顔で名乗った。

「う、む。ああ、水原誠……2等空尉だ」

 ……ちょっとそのテンションの高さに押されている様に見えたけれど、とりあえずは挨拶も終わった様だ。

「それで、なんであなたがここに居るの?」

 別に約束したりはしていないし、もしかしたらずっと待っていたのかもしれない。

 ……もしかして、安寿博士に教えてもらったストーカーとかいう悪い人なのだろうか。

「いや、別に適当に刺して帰っても良かったんだが、ゴミと間違われて捨てられても何だし、お前らが訓練してるのを見かけたから待ってたっつーか……」

「ぐちゃぐちゃと要領を得ないわね。結局何が言いたいの?」

「わぁ、由仁ちゃん先生の時と口調違いすぎない? よーしゃな~い」

 確かに私はこの男に対して忌憚きたんのない話し方をしている。

 でもこれはあの最悪な出会い方をした事と陽菜の事を知っている筈なのに教えてくれないのが原因だ。

 水原にとっては耳の痛い話かもしれないが、私は彼が陽菜の花を踏んでしまった事と、それからの事をかいつまんで説明した。

「なるほど~。前は悪かったけど今は悪くなくなった不良さんだったんだ」

「その言い方はずいぶんと恥ずかしい言い方だな」

 何が恥ずかしいんだろう。

 水原はため息の代わりにあの棒を通して息を吸い込むと……オレンジの香りで周囲を染め上げた。

 もしかして好きなのだろうか、オレンジ。私も悪くはないと思うけれど……。

「まあなんだ。とにかくお前に渡したいものがあってな」

 そう言って水原はポケットからプラスチック製のアンプルみたいな物を取り出した。

 緑色の透明な容器の中には水のような物が入っており、それが3本ある。

「何それ」

「肥料だよ。花の」

 世界の生産は、食料と武器に大きくリソースを割かれている。

 それから外れてしまうであろう花の肥料なんてものを手に入れることなどなかなかできないはずなのに、この男はそれをわざわざ手に入れてくれたのだろう。

 何故そこまでしてくれるのだろうか。

 私はそれが少し引っ掛かった。

「変な形~」

「持ってろ」

 水原はそう言ってアンプルの内2本を美弥に手渡すと、残った1本の先端を捻って開栓し、花壇の真ん中あたりに突き刺した。

「こうやっておくと、時間をかけて肥料が地面に染み込んでいく。無くなったらソイツと交換してやれ」

「どのくらいで無くなるの?」

「さあ? 2、3週間はもつらしいが詳しくは知らん。というかそれだけあれば使い切る前に花は咲くはずだ」

 つまり水原は花が咲くまでは面倒を見るつもりらしい。

 とてもありがたくはあるのだが……。

「……ねえ、なんでここまでしてくれるの?」

 私はこの男に何もしていない。

 花を踏んづけた償いなら多分もう終わっている。

 理由が分からないのだ。

「別に、何となくだ」

 嘘だ。水原はきっと、陽菜の最後に何らかの形で関わっている。だからここまでするのだろう。

 それをはっきりさせたくて、私は更に言い募る。

「何となくでここまで出来る物なの?」

 そんな会話をしていたら、美弥が突然あっと声をあげた。

「なに?」

「ふっふ~ん。謎は全て解けちゃったぞ」

 上機嫌の美弥は、ずびしっと人差し指を水原につきつける。

「誠さん、由仁ちゃんに惚れたね!!」

「え……?」

「は……?」

 ……この困惑顔。それだけは絶対にないと思う。

 なんて呆れている私達を他所に、美弥の思考は暴走を始める。

「きっと由仁ちゃんに一目ぼれしちゃったんだよ。だからこうして由仁ちゃんの気を引こうと一生懸命貢いでるんだよ~。きゃ~、由仁ちゃんの悪女~」

「…………」

「花の育て方は知らねえのに、んな事は知ってるのか、生体誘導機って」

 主に安寿博士のせいだ。

 美弥はそういう話が好きで博士によく話してもらっている。

 私はよく分からないのであまり聞いていないのだけど。

「戦場で咲いためくるめく恋の花~! いいなぁ、いいなぁ。あ、でも由仁ちゃん先生の事が好きだよね」

「な、なんでそこに先生が出てくるのよっ」

 先生は好きとかじゃなくて、とっても尊敬しているというか憧れているというか、そんな感じなのだ。それ以前に、私は男女間の好きという感情がよく分からなかった。

「三角関係だぁ! すごぉ~い。由仁ちゃん大人ぁ~!!」

「変な事言わないでよっ。というか水原誠。貴方も否定とかしなさいよね!」

 水原は眠そうな目を更に濁らせて、頭を掻いているだけで何も言ってくれなかった。

「いや、なんつーか、感情・自我発露個体っていうのがここまでだとは思わなくて少し呆れてた」

「それは美弥だけよ。私を一緒にしないでっ」

「いや……」

 呆れたのはお前達じゃなくてとかなんとか口の中でもごもご言っていたがよく聞こえなかった。

 何に呆れてたんだろう。多分聞いても答えてくれないんだろうけど。

 そんな事よりも……。

「早く否定してよ!」

「別に惚れたわけじゃない」

 むっ。そんなにすぐに否定されると少し胸がもやもやするわね。

「え~、じゃあどうして~?」

「……何となく暇つぶしだ」

「ホントかなぁ~。ホントは好きなのに隠してるんじゃないのぉ~?」

 ああもう、ああ言えばこう言う……。

 どうしてもそういう方向に持って行きたいみたいね。

「ねえ美弥。私今ちょっとかなり貴女に怒ってるいるのだけど」

 美弥は私の握り締めた拳を見たのか、ばっと身を翻して逃げていく。

「まったくもう……」

 ため息をついてから、肥料を美弥が持って行ってしまった事に気付き、またため息が出てくる。

「……肥料はありがとう。花が咲いたら嬉しいから遠慮なく貰っておくわ」

「そうしてくれ」

 少しだけ、目と目が合う。

 その瞳の奥にどんな言葉を隠しているのか知りたかったけれど、聞いてもたぶん教えてくれないだろう。でも、代わりにこうして気持ちをくれる。

 だから……あまり気にしないでおこう。

「ねーねー、安寿博士に言っちゃうよ~」

 逃げたはずの美弥がまた戻って来て囃し立てる。

 きっと私と遊びたいのだろう。

 ……待ってなさい。今から本気で遊んであげるから。

「それじゃあ。――――待ちなさい、美弥っ!!」

 私は思考を切り替えると、地面にバケツを置き、水原に別れを告げて走り出す。

 そんな別れ際の一瞬、これが誘導機かよなんて呟きを、風が私に届けてくれた。
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