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第11話 私は正直に生きてるだけなのっ
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「しつれいしま~す」
「ちょっと美弥! ノックぐらいしなさい!」
「え~、でももう開けちゃったもん」
いつも通り、私は由仁ちゃんと言い合いをしながら調整室へと入った。
そして――。
「え?」
「……陽菜?」
ベッドの上で絵本を眺めている少女を見つけた。
由仁ちゃんは陽菜ちゃんと見間違えていたようだけど、私には分かる。
雰囲気が少し似てるけど、違う女の子だ。もしかしてこの子がさっき言っていた新しいお友達なのだろうか。
「いらっしゃ~い」
「美弥、落ち着いて行動するように」
先生からそう前もって注意されてしまい、私は駆けだしそうになる自分の足を抑えた。
「は~い」
私の声でようやく気付いたのか、絵本から顔をあげた少女は、以前先生に見せてもらった動画の子猫みたいにぷるぷる震えながらこちらを警戒している。
でも、彼女の目を見て私は確信した。
お友達になれる! って。
「それじゃあ二人共、紹介するから正面に来てくれるかな」
「はいっ」
由仁ちゃんの鋭い返事に少女が背中をびくつかせてしまう。
どうやら初めの印象通り、相当敏感な子らしかった。
「由仁はもっと柔らかく、ね」
「も、申し訳ありません……」
謝らなくてもいいよという先生の言葉を受けて恐縮している由仁ちゃんと共に女の子の前で気を付けをする。
でも私は今すぐこの子に抱き着きたくってたまらなかった。
私はとても嬉しかったのだ。
「この子の名前は恋」
先生はそう言うと、少女――恋ちゃんの頭を撫でながら、怖がらなくていいからねと言い添える。
「この二人は……」
先生が手のひらをこちらへ向けてくる。
それを自己紹介して欲しいという意味だと受け取った私は、
「美弥だよ。仲良くしようね」
精一杯の笑顔を作って名乗る。
本当は手を握るか抱き着くかしたかったけど、ぐっと堪えておく。
「私は由仁といいます。以後お見知りおきを」
由仁ちゃんはびしっと敬礼を決めて、堅苦しい言葉で自己紹介を済ませる。
ほんと、先生の前だと軍人さんって感じになっちゃうよね。
そんな私達の自己紹介を受けた恋ちゃんは……。
「…………」
無言で本を盾にして、その影に体を隠そうとしていた。
……うん、まだるっこしい。
「先生、質問があるんだけど」
「なんでしょうか」
「抱き着いて――」
「駄目です」
最後まで言い終わる前に禁止されてしまった。
先生のいじわる。
とりあえずぷくっと頬を膨らませて抗議の意思だけ示しておいた。
……それでもダメだったけど。
「恋ちゃんはまだちょっとだけ色んな事に敏感なの。だから、ゆっくりこの世界に慣らしてあげないといけないのよ」
あ、安寿博士の口調がなんかいつもより優しい気がする。
「分かりました。それでは具体的にどんなことをすればよろしいのでしょうか?」
「うん」
先生は一言頷くと、私達に小さく手招きをする。
驚かせないようにゆっくりと。
恋ちゃんに対する気遣いが、そんな先生の行動から見て取れた。
「二人にはね、日常であった楽しかった事や、好きなものとかの話を恋に聞かせて欲しいんだ」
「それならたっくさんある!」
……っと、騒いでごめんなさい。
はい、声を小さくね。
「分かりました」
「は~い」
私達と先生は選手交代ということで、先生は恋ちゃんから離れて部屋の端に、私達はベッドの端にちょこんと腰かけた。
そのまま恋ちゃんと見つめ合う事10秒。
「にひ~」
とりあえず笑顔でアピール大作戦。
「…………」
……失敗。
次は…………、
「由仁ちゃん、どうぞ」
思いつかなかったよ……。
「ちょっと、美弥。それずるい。私も……えっと……」
由仁ちゃんは……というか私もだけど、先生に視線で助けてーと訴えてみたのだが、先生は笑うだけで何も言ってくれない。
抱き着くの禁止しないでよ~~。
「えっと、その絵本はどのページが好きでしたか?」
そう由仁ちゃんが話しかけても恋ちゃんは更に小さくなって、本の陰に隠れてしまった。
ちょっと先は長そうだな、由仁ちゃん頑張れ~。
「私は――」
突然、ぐぐぅーなんてお腹の鳴る音がどこからか聞こえて来た。
……私じゃないよ。
「ちょっと、由仁ちゃん。こんな時にお腹鳴らしちゃダメじゃない。くいしんぼだなぁ」
「わ、私じゃないわよっ。美弥じゃないの? いつもあなたはお昼前になったら腹減った~って騒ぐじゃないっ」
「そうだけど、いつもお腹は鳴らしてないでしょ」
「私も鳴らしてないわよっ」
っていうことは…………。
私達は頷き合った後、揃って残り一人に視線を向けた。
「もしかして……」
「お腹が空いているんですか?」
返事は無い。
でもその代わりにぐぐ~っとさっきよりも少し大きな音が恋ちゃんから聞こえて来た。
「そういえば、恋ちゃんはずっと点滴だったし、ずいぶん長い間唯人とベッドの上で激しくやり合ってたものねぇ」
「……そうだけど、言い方は気にしてくれないかな、安寿さん」
安寿博士は先生をからかうのが大好きみたいで、いつものちょっと意地悪そうな笑みを口元に浮かべていた。
私もあんな風に先生を手玉に取れたらなぁってちょっと憧れる。
「今は……あら、あと30分でお昼ね」
今気づいたというように、安寿博士が左手首の時計を見て驚いている。
ずいぶん長い間ってさっき言っていたけれど、時間を忘れちゃうくらい恋ちゃんの相手をしていたのかな。
「今日は何だったかしら?
「金曜日だからカレー!!」
大好き……ってそうだ。
「ねえねえ恋ちゃん、お昼一緒に食べよ~。カレーってすっごく美味しいんだよ!」
ご飯はみんなを笑顔にします。
だから恋ちゃんも美味しいご飯を食べればにっこにこ。
仲良くなれてみんなハッピー!
うん、私ってば天才!!
「でもお昼の時間までは後30分あるでしょう」
「うっ」
「それまで何するのよ」
「それは……」
考えてなかったよぅ。
「い、今からもらいに行くとか?」
「出来るわけないでしょ」
「うぅ~~、由仁ちゃんが意地悪するぅ」
「あなたの案が問題だらけなだけでしょ」
いいもんいいもん。こうなったら……。
「恋ちゃん助けてぇ~」
なんて言いながら私は枕を手に取ると、四つん這いでベッドの上を移動して恋ちゃんの隣に行き、同じ様に枕を盾にする。
ちょっとだけ後ろに下がられてしまったけど、最初会った時みたいにビクビクしてないみたいだから多分大丈夫。
「恋ちゃん恋ちゃん、あれが悪い奴なのっ」
なんて言いながら、枕と絵本を合体して大きな盾にすると、由仁ちゃんへ指を付きつけた。
「ちょっ」
「酷いんだよ~。いっつも私に色々言ってくるの。きちんと片付けなさいとか、だらしない格好をしないのとかさ~」
もうホント、毎日同じことばっかり言ってくるんだよね。
「先生に抱き着いちゃだめって、由仁ちゃんもしたいのに恥ずかしくって出来ないから怒ってるだけだもんね」
「そ、そんな事ないわよっ。もう、さっきから言ってることは全部美弥が悪いんでしょ!?」
「違うも~ん。由仁ちゃんが口うるさいだけだも~ん」
「先生っ。私は悪くありませんよねっ?」
判定は先生に!
その場にいる全員の視線が先生に集まり、先生はあーとかうーとか言った後、
「そうだね。美弥はもうちょっときちんとした方が良いと思うよ」
私を裏切った。
「ほらー」
「えーー」
むむむむ。これで勝ったと思うなよぉ。
「安寿博士。私はそんなに悪くないよね? ね?」
「そうねぇ……」
博士もちょっと考えたあと、しょうがないなぁって顔になって、
「お風呂上りにパンツ一枚で走り回るのは~、女の子としてどうかな~って思ったり?」
やっぱり由仁ちゃんに味方した。
もう、由仁ちゃんの得意そうな顔ったら。
鼻つまんでやりたいくらい。
「いいもんいいもんいいもん。恋ちゃんは私の味方だもんねー。ねー?」
そう聞いたら、恋ちゃんがうんって頷いてくれた。
たぶんよく分かってないと思うけど、恋ちゃんが味方してくれた事が嬉しくって、つい――。
「やたーっ。ありがとー!」
って言いながら恋ちゃんに抱き着いてしまったのだけど……。
恋ちゃんは別に嫌がってなかったから、いいよね。
「ちょっと美弥! ノックぐらいしなさい!」
「え~、でももう開けちゃったもん」
いつも通り、私は由仁ちゃんと言い合いをしながら調整室へと入った。
そして――。
「え?」
「……陽菜?」
ベッドの上で絵本を眺めている少女を見つけた。
由仁ちゃんは陽菜ちゃんと見間違えていたようだけど、私には分かる。
雰囲気が少し似てるけど、違う女の子だ。もしかしてこの子がさっき言っていた新しいお友達なのだろうか。
「いらっしゃ~い」
「美弥、落ち着いて行動するように」
先生からそう前もって注意されてしまい、私は駆けだしそうになる自分の足を抑えた。
「は~い」
私の声でようやく気付いたのか、絵本から顔をあげた少女は、以前先生に見せてもらった動画の子猫みたいにぷるぷる震えながらこちらを警戒している。
でも、彼女の目を見て私は確信した。
お友達になれる! って。
「それじゃあ二人共、紹介するから正面に来てくれるかな」
「はいっ」
由仁ちゃんの鋭い返事に少女が背中をびくつかせてしまう。
どうやら初めの印象通り、相当敏感な子らしかった。
「由仁はもっと柔らかく、ね」
「も、申し訳ありません……」
謝らなくてもいいよという先生の言葉を受けて恐縮している由仁ちゃんと共に女の子の前で気を付けをする。
でも私は今すぐこの子に抱き着きたくってたまらなかった。
私はとても嬉しかったのだ。
「この子の名前は恋」
先生はそう言うと、少女――恋ちゃんの頭を撫でながら、怖がらなくていいからねと言い添える。
「この二人は……」
先生が手のひらをこちらへ向けてくる。
それを自己紹介して欲しいという意味だと受け取った私は、
「美弥だよ。仲良くしようね」
精一杯の笑顔を作って名乗る。
本当は手を握るか抱き着くかしたかったけど、ぐっと堪えておく。
「私は由仁といいます。以後お見知りおきを」
由仁ちゃんはびしっと敬礼を決めて、堅苦しい言葉で自己紹介を済ませる。
ほんと、先生の前だと軍人さんって感じになっちゃうよね。
そんな私達の自己紹介を受けた恋ちゃんは……。
「…………」
無言で本を盾にして、その影に体を隠そうとしていた。
……うん、まだるっこしい。
「先生、質問があるんだけど」
「なんでしょうか」
「抱き着いて――」
「駄目です」
最後まで言い終わる前に禁止されてしまった。
先生のいじわる。
とりあえずぷくっと頬を膨らませて抗議の意思だけ示しておいた。
……それでもダメだったけど。
「恋ちゃんはまだちょっとだけ色んな事に敏感なの。だから、ゆっくりこの世界に慣らしてあげないといけないのよ」
あ、安寿博士の口調がなんかいつもより優しい気がする。
「分かりました。それでは具体的にどんなことをすればよろしいのでしょうか?」
「うん」
先生は一言頷くと、私達に小さく手招きをする。
驚かせないようにゆっくりと。
恋ちゃんに対する気遣いが、そんな先生の行動から見て取れた。
「二人にはね、日常であった楽しかった事や、好きなものとかの話を恋に聞かせて欲しいんだ」
「それならたっくさんある!」
……っと、騒いでごめんなさい。
はい、声を小さくね。
「分かりました」
「は~い」
私達と先生は選手交代ということで、先生は恋ちゃんから離れて部屋の端に、私達はベッドの端にちょこんと腰かけた。
そのまま恋ちゃんと見つめ合う事10秒。
「にひ~」
とりあえず笑顔でアピール大作戦。
「…………」
……失敗。
次は…………、
「由仁ちゃん、どうぞ」
思いつかなかったよ……。
「ちょっと、美弥。それずるい。私も……えっと……」
由仁ちゃんは……というか私もだけど、先生に視線で助けてーと訴えてみたのだが、先生は笑うだけで何も言ってくれない。
抱き着くの禁止しないでよ~~。
「えっと、その絵本はどのページが好きでしたか?」
そう由仁ちゃんが話しかけても恋ちゃんは更に小さくなって、本の陰に隠れてしまった。
ちょっと先は長そうだな、由仁ちゃん頑張れ~。
「私は――」
突然、ぐぐぅーなんてお腹の鳴る音がどこからか聞こえて来た。
……私じゃないよ。
「ちょっと、由仁ちゃん。こんな時にお腹鳴らしちゃダメじゃない。くいしんぼだなぁ」
「わ、私じゃないわよっ。美弥じゃないの? いつもあなたはお昼前になったら腹減った~って騒ぐじゃないっ」
「そうだけど、いつもお腹は鳴らしてないでしょ」
「私も鳴らしてないわよっ」
っていうことは…………。
私達は頷き合った後、揃って残り一人に視線を向けた。
「もしかして……」
「お腹が空いているんですか?」
返事は無い。
でもその代わりにぐぐ~っとさっきよりも少し大きな音が恋ちゃんから聞こえて来た。
「そういえば、恋ちゃんはずっと点滴だったし、ずいぶん長い間唯人とベッドの上で激しくやり合ってたものねぇ」
「……そうだけど、言い方は気にしてくれないかな、安寿さん」
安寿博士は先生をからかうのが大好きみたいで、いつものちょっと意地悪そうな笑みを口元に浮かべていた。
私もあんな風に先生を手玉に取れたらなぁってちょっと憧れる。
「今は……あら、あと30分でお昼ね」
今気づいたというように、安寿博士が左手首の時計を見て驚いている。
ずいぶん長い間ってさっき言っていたけれど、時間を忘れちゃうくらい恋ちゃんの相手をしていたのかな。
「今日は何だったかしら?
「金曜日だからカレー!!」
大好き……ってそうだ。
「ねえねえ恋ちゃん、お昼一緒に食べよ~。カレーってすっごく美味しいんだよ!」
ご飯はみんなを笑顔にします。
だから恋ちゃんも美味しいご飯を食べればにっこにこ。
仲良くなれてみんなハッピー!
うん、私ってば天才!!
「でもお昼の時間までは後30分あるでしょう」
「うっ」
「それまで何するのよ」
「それは……」
考えてなかったよぅ。
「い、今からもらいに行くとか?」
「出来るわけないでしょ」
「うぅ~~、由仁ちゃんが意地悪するぅ」
「あなたの案が問題だらけなだけでしょ」
いいもんいいもん。こうなったら……。
「恋ちゃん助けてぇ~」
なんて言いながら私は枕を手に取ると、四つん這いでベッドの上を移動して恋ちゃんの隣に行き、同じ様に枕を盾にする。
ちょっとだけ後ろに下がられてしまったけど、最初会った時みたいにビクビクしてないみたいだから多分大丈夫。
「恋ちゃん恋ちゃん、あれが悪い奴なのっ」
なんて言いながら、枕と絵本を合体して大きな盾にすると、由仁ちゃんへ指を付きつけた。
「ちょっ」
「酷いんだよ~。いっつも私に色々言ってくるの。きちんと片付けなさいとか、だらしない格好をしないのとかさ~」
もうホント、毎日同じことばっかり言ってくるんだよね。
「先生に抱き着いちゃだめって、由仁ちゃんもしたいのに恥ずかしくって出来ないから怒ってるだけだもんね」
「そ、そんな事ないわよっ。もう、さっきから言ってることは全部美弥が悪いんでしょ!?」
「違うも~ん。由仁ちゃんが口うるさいだけだも~ん」
「先生っ。私は悪くありませんよねっ?」
判定は先生に!
その場にいる全員の視線が先生に集まり、先生はあーとかうーとか言った後、
「そうだね。美弥はもうちょっときちんとした方が良いと思うよ」
私を裏切った。
「ほらー」
「えーー」
むむむむ。これで勝ったと思うなよぉ。
「安寿博士。私はそんなに悪くないよね? ね?」
「そうねぇ……」
博士もちょっと考えたあと、しょうがないなぁって顔になって、
「お風呂上りにパンツ一枚で走り回るのは~、女の子としてどうかな~って思ったり?」
やっぱり由仁ちゃんに味方した。
もう、由仁ちゃんの得意そうな顔ったら。
鼻つまんでやりたいくらい。
「いいもんいいもんいいもん。恋ちゃんは私の味方だもんねー。ねー?」
そう聞いたら、恋ちゃんがうんって頷いてくれた。
たぶんよく分かってないと思うけど、恋ちゃんが味方してくれた事が嬉しくって、つい――。
「やたーっ。ありがとー!」
って言いながら恋ちゃんに抱き着いてしまったのだけど……。
恋ちゃんは別に嫌がってなかったから、いいよね。
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