神風として死ぬしかない私たちに、生きる意味を教えてもらえませんか?

駆威命(元・駆逐ライフ)

文字の大きさ
上 下
12 / 41

第11話 私は正直に生きてるだけなのっ

しおりを挟む
「しつれいしま~す」

「ちょっと美弥! ノックぐらいしなさい!」

「え~、でももう開けちゃったもん」

 いつも通り、私は由仁ちゃんと言い合いをしながら調整室へと入った。

 そして――。

「え?」

「……陽菜?」

 ベッドの上で絵本を眺めている少女を見つけた。

 由仁ちゃんは陽菜ちゃんと見間違えていたようだけど、私には分かる。

 雰囲気が少し似てるけど、違う女の子だ。もしかしてこの子がさっき言っていた新しいお友達なのだろうか。

「いらっしゃ~い」

「美弥、落ち着いて行動するように」

 先生からそう前もって注意されてしまい、私は駆けだしそうになる自分の足を抑えた。

「は~い」

 私の声でようやく気付いたのか、絵本から顔をあげた少女は、以前先生に見せてもらった動画の子猫みたいにぷるぷる震えながらこちらを警戒している。

 でも、彼女の目を見て私は確信した。

 お友達になれる! って。

「それじゃあ二人共、紹介するから正面に来てくれるかな」

「はいっ」

 由仁ちゃんの鋭い返事に少女が背中をびくつかせてしまう。

 どうやら初めの印象通り、相当敏感な子らしかった。

「由仁はもっと柔らかく、ね」

「も、申し訳ありません……」

 謝らなくてもいいよという先生の言葉を受けて恐縮している由仁ちゃんと共に女の子の前で気を付けをする。

 でも私は今すぐこの子に抱き着きたくってたまらなかった。

 私はとても嬉しかったのだ。

「この子の名前はれん

 先生はそう言うと、少女――恋ちゃんの頭を撫でながら、怖がらなくていいからねと言い添える。

「この二人は……」

 先生が手のひらをこちらへ向けてくる。

 それを自己紹介して欲しいという意味だと受け取った私は、

「美弥だよ。仲良くしようね」

 精一杯の笑顔を作って名乗る。

 本当は手を握るか抱き着くかしたかったけど、ぐっと堪えておく。

「私は由仁といいます。以後お見知りおきを」

 由仁ちゃんはびしっと敬礼を決めて、堅苦しい言葉で自己紹介を済ませる。

 ほんと、先生の前だと軍人さんって感じになっちゃうよね。

 そんな私達の自己紹介を受けた恋ちゃんは……。

「…………」

 無言で本を盾にして、その影に体を隠そうとしていた。

 ……うん、まだるっこしい。

「先生、質問があるんだけど」

「なんでしょうか」

「抱き着いて――」

「駄目です」

 最後まで言い終わる前に禁止されてしまった。

 先生のいじわる。

 とりあえずぷくっと頬を膨らませて抗議の意思だけ示しておいた。

 ……それでもダメだったけど。

「恋ちゃんはまだちょっとだけ色んな事に敏感なの。だから、ゆっくりこの世界に慣らしてあげないといけないのよ」

 あ、安寿博士の口調がなんかいつもより優しい気がする。

「分かりました。それでは具体的にどんなことをすればよろしいのでしょうか?」

「うん」

 先生は一言頷くと、私達に小さく手招きをする。

 驚かせないようにゆっくりと。

 恋ちゃんに対する気遣いが、そんな先生の行動から見て取れた。

「二人にはね、日常であった楽しかった事や、好きなものとかの話を恋に聞かせて欲しいんだ」

「それならたっくさんある!」

 ……っと、騒いでごめんなさい。

 はい、声を小さくね。

「分かりました」

「は~い」

 私達と先生は選手交代ということで、先生は恋ちゃんから離れて部屋の端に、私達はベッドの端にちょこんと腰かけた。

 そのまま恋ちゃんと見つめ合う事10秒。

「にひ~」

 とりあえず笑顔でアピール大作戦。

「…………」

 ……失敗。

 次は…………、

「由仁ちゃん、どうぞ」

 思いつかなかったよ……。

「ちょっと、美弥。それずるい。私も……えっと……」

 由仁ちゃんは……というか私もだけど、先生に視線で助けてーと訴えてみたのだが、先生は笑うだけで何も言ってくれない。

 抱き着くの禁止しないでよ~~。

「えっと、その絵本はどのページが好きでしたか?」

 そう由仁ちゃんが話しかけても恋ちゃんは更に小さくなって、本の陰に隠れてしまった。

 ちょっと先は長そうだな、由仁ちゃん頑張れ~。

「私は――」

 突然、ぐぐぅーなんてお腹の鳴る音がどこからか聞こえて来た。

 ……私じゃないよ。

「ちょっと、由仁ちゃん。こんな時にお腹鳴らしちゃダメじゃない。くいしんぼだなぁ」

「わ、私じゃないわよっ。美弥じゃないの? いつもあなたはお昼前になったら腹減った~って騒ぐじゃないっ」

「そうだけど、いつもお腹は鳴らしてないでしょ」

「私も鳴らしてないわよっ」

 っていうことは…………。

 私達は頷き合った後、揃って残り一人に視線を向けた。

「もしかして……」

「お腹が空いているんですか?」

 返事は無い。

 でもその代わりにぐぐ~っとさっきよりも少し大きな音が恋ちゃんから聞こえて来た。

「そういえば、恋ちゃんはずっと点滴だったし、ずいぶん長い間唯人とベッドの上で激しくやり合ってたものねぇ」

「……そうだけど、言い方は気にしてくれないかな、安寿さん」

 安寿博士は先生をからかうのが大好きみたいで、いつものちょっと意地悪そうな笑みを口元に浮かべていた。

 私もあんな風に先生を手玉に取れたらなぁってちょっと憧れる。

「今は……あら、あと30分でお昼ね」

 今気づいたというように、安寿博士が左手首の時計を見て驚いている。

 ずいぶん長い間ってさっき言っていたけれど、時間を忘れちゃうくらい恋ちゃんの相手をしていたのかな。

「今日は何だったかしら?

「金曜日だからカレー!!」

 大好き……ってそうだ。

「ねえねえ恋ちゃん、お昼一緒に食べよ~。カレーってすっごく美味しいんだよ!」

 ご飯はみんなを笑顔にします。

 だから恋ちゃんも美味しいご飯を食べればにっこにこ。

 仲良くなれてみんなハッピー!

 うん、私ってば天才!!

「でもお昼の時間までは後30分あるでしょう」

「うっ」

「それまで何するのよ」

「それは……」

 考えてなかったよぅ。

「い、今からもらいに行くとか?」

「出来るわけないでしょ」

「うぅ~~、由仁ちゃんが意地悪するぅ」

「あなたの案が問題だらけなだけでしょ」

 いいもんいいもん。こうなったら……。

「恋ちゃん助けてぇ~」

 なんて言いながら私は枕を手に取ると、四つん這いでベッドの上を移動して恋ちゃんの隣に行き、同じ様に枕を盾にする。

 ちょっとだけ後ろに下がられてしまったけど、最初会った時みたいにビクビクしてないみたいだから多分大丈夫。

「恋ちゃん恋ちゃん、あれが悪い奴なのっ」

 なんて言いながら、枕と絵本を合体して大きな盾にすると、由仁ちゃんへ指を付きつけた。

「ちょっ」

「酷いんだよ~。いっつも私に色々言ってくるの。きちんと片付けなさいとか、だらしない格好をしないのとかさ~」

 もうホント、毎日同じことばっかり言ってくるんだよね。

「先生に抱き着いちゃだめって、由仁ちゃんもしたいのに恥ずかしくって出来ないから怒ってるだけだもんね」

「そ、そんな事ないわよっ。もう、さっきから言ってることは全部美弥が悪いんでしょ!?」

「違うも~ん。由仁ちゃんが口うるさいだけだも~ん」

「先生っ。私は悪くありませんよねっ?」

 判定は先生に!

 その場にいる全員の視線が先生に集まり、先生はあーとかうーとか言った後、

「そうだね。美弥はもうちょっときちんとした方が良いと思うよ」

 私を裏切った。

「ほらー」

「えーー」

 むむむむ。これで勝ったと思うなよぉ。

「安寿博士。私はそんなに悪くないよね? ね?」

「そうねぇ……」

 博士もちょっと考えたあと、しょうがないなぁって顔になって、

「お風呂上りにパンツ一枚で走り回るのは~、女の子としてどうかな~って思ったり?」

 やっぱり由仁ちゃんに味方した。

 もう、由仁ちゃんの得意そうな顔ったら。

 鼻つまんでやりたいくらい。

「いいもんいいもんいいもん。恋ちゃんは私の味方だもんねー。ねー?」

 そう聞いたら、恋ちゃんがうんって頷いてくれた。

 たぶんよく分かってないと思うけど、恋ちゃんが味方してくれた事が嬉しくって、つい――。

「やたーっ。ありがとー!」

 って言いながら恋ちゃんに抱き着いてしまったのだけど……。

 恋ちゃんは別に嫌がってなかったから、いいよね。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

絶世のディプロマット

一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。 レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。 レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。 ※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

十年前の片思い。時を越えて、再び。

赤木さなぎ
SF
  キミは二六歳のしがない小説書きだ。  いつか自分の書いた小説が日の目を浴びる事を夢見て、日々をアルバイトで食い繋ぎ、休日や空き時間は頭の中に広がる混沌とした世界を文字に起こし、紡いでいく事に没頭していた。  キミには淡く苦い失恋の思い出がある。  十年前、キミがまだ高校一年生だった頃。一目惚れした相手は、通い詰めていた図書室で出会った、三年の“高橋先輩”だ。  しかし、当時のキミは大したアプローチを掛けることも出来ず、関係の進展も無く、それは片思いの苦い記憶として残っている。  そして、キミはその片思いを十年経った今でも引きずっていた。  ある日の事だ。  いつもと同じ様にバイトを上がり、安アパートの自室へと帰ると、部屋の灯りが点いたままだった。  家を出る際に消灯し忘れたのだろうと思いつつも扉を開けると、そこには居るはずの無い、学生服に身を包む女の姿。  キミは、その女を知っている。 「ホームズ君、久しぶりね」  その声音は、記憶の中の高橋先輩と同じ物だった。  顔も、声も、その姿は十年前の高橋先輩と相違ない。しかし、その女の浮かべる表情だけは、どれもキミの知らない物だった。  ――キミは夢を捨てて、名声を捨てて、富を捨てて、その輝かしい未来を捨てて、それでも、わたしを選んでくれるかしら?

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

ふたつの足跡

Anthony-Blue
SF
ある日起こった災いによって、本来の当たり前だった世界が当たり前ではなくなった。 今の『当たり前』の世界に、『当たり前』ではない自分を隠して生きている。 そんな自分を憂い、怯え、それでも逃げられない現実を受け止められるのか・・・。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...