神風として死ぬしかない私たちに、生きる意味を教えてもらえませんか?

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第6話 胸が……痛いよ

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 暗いコックピットのまま運ばれ、空を飛び、結局元の場所に戻って来た時、私は正直ほっとした。本当はこんな事思ってはいけないのだろうけど。

 また先生やみんなと会える、なんて考えるだけで、心がウキウキしてくるのだった。

 キャノピーが開らき、整備の人が中を覗き込んでくる。

 むすっとした顔の男の人で、一応頭をさげながら「ども」って言ってみたんだけど、表情はピクリとも動かなかった。

 そのまま慣れ切った手つきで金具を外してくれた後、義肢をドンッと横に置いたらそのまま何も言わずにタラップを降りていく。

 彼の背中へ向けて、

「ありがと~ございま~す」

 お礼だけは言っておいたが、まるで壁に向かって話している様に無反応だった。

 ……先生だったら頭を撫でながら「頑張ったね」って褒めてくれるのに。

 なんていつも訓練終わりに優しくしてくれる先生の事を考えながら、私は義肢を装着した。

「これでよしっ」

 きゅいぃっと微かな音を立てて義肢が起動して、私の思い通りに動き始める。

 プラスチック樹脂で出来た、重さをあまり感じない足を振って、勢いよくコックピットから飛び出す。タラップの上で周囲を見回して由仁ちゃんと陽菜ちゃんの姿を探したが、見つける事は出来なかった。

 多分、違う場所に居るんだと自分を納得させてタラップを駆け下りる。

 そのまま訓練の時の様に安寿博士の所へ向かおうと入り口へ体を向けると……。

「おい、誘導機はこっちに並べ」

 私の金具を外してくれた整備員さんとは別の人が少し乱暴に呼びかけてくる。

 その物言いに、少しだけムッと来たが、無視するのも何だったので振り向いたら――。

「早くしろ」

 そう言う男の人の後ろには、沢山の女の子が規則正しく並んで立っていた。

 彼女達はみんな同じ顔をして、同じ髪型で、同じスーツを着て、同じ背丈をしている。

 もちろんその顔に、私と寸分違わず同じ顔に、全く表情は無い。

 私はそんな様子を見て、少し気味が悪いなって思ってしまった。

「あ、あの。私は――」

「そいつはEEだから中村博士の担当だ」

 私の金具を外してくれた整備の人が、そう言って顎をしゃくる。

 多分行けって意味だと思ったので、軽く会釈をしてから私はそそくさとその場を後にした。





 嬉しそうにしている人や、忙しそうに走って居る人の横を通り抜けて、私は安寿博士の居る調整室の前までやって来た。

 何故かはわからないけれど、ちょっとだけ入るのが怖い。

 扉の前でドアノブに手をかけたまま、開けようかどうしようか迷っていたら……。

「何をしているの。早く入りなさいよ」

 背後から私と同じ声なのに全然違う様に聞こえる、由仁ちゃんの声が聞こえて来た。

「由仁ちゃん!?」

 私は驚いて振り返る。

「何?」

 ちょっと仏頂面にも見える、ちょっと固い感じの表情が浮かんだ由仁ちゃんの顔を見たら、何となく嬉しいなって感じになって来ちゃって……。

「由仁ちゃんだぁっ!!」

 ぎゅっと抱き着いてしまった。

 うん、あったかい。

 ふわふわと絡みつく長い髪の毛が揺れるのが面白くて、左右に体を揺らしてみる。

「なに? 何なの?」

 私の突然の行動に、由仁ちゃんは最初こそ戸惑っていたものの、

「ちょっと、まだ報告が終わってないのよ。止めなさいっ」

 すぐいつも通りの反応を返してくれる。

 それに私は、ああ、由仁ちゃんだなぁって思ってしまい、ちょっとだけ笑いがこみ上げてきてしまった。

「ねえちょっと、ふざけてないで……」

「やぁだぁ~」

 足も使って由仁ちゃんに抱き着いてみる。

 よろめきもしないのはさすが由仁ちゃんだ。私なら絶対こけちゃうのに。

「ふっふっふっ、振りほどけないだろ~」

「もうっ、放しなさいっ」

「やだもんね~」

 なんて遊んでいたら――。

「あらあら。そういう運動がしたいなら、この安寿博士がベッドでたっぷりとしてあげるわよぉ」

「変な事を言うな」

 扉が開いて中から安寿博士と先生が顔を出した。

 二人共笑顔で私達を迎えてくれていて……。

「せんせぇっ!」

「おっと」

 私は何故か、無性に胸のところがもやもやして、先生の首筋に齧りついた。

 ついでにさっきと同じ様に足も使って体に引っ付いてみると、ちょっとだけそれが治まった様な気がする。

「ちょっと、いきなり抱き着くのは危ないっていつも言われてるでしょ」

「由仁ちゃんも抱きつこうよ。楽しいよ」

「そ、そんなの……」

 ごにょごにょ言ってて聞こえないよ~。ホントは抱き着きたいくせに。

 知ってるんだからね。

「はい、とりあえず二人共中に入って。話はそれからだよ」

「は、はいっ」

 先生が私を抱っこしたまんま、部屋の中へと入っていく。

 先生の体がくるりと回って、由仁ちゃんと目があう。

 私は、一緒に抱き着こうよと手招きをしたのだが、何故か睨まれてしまった。

「はい、由仁ちゃんもどーん」

「ふきゅっ」

 扉を閉め終わった安寿博士が、そう言いながら由仁ちゃんの背中を押して先生の背中にぶつける。

 由仁ちゃんが抗議する間もなく、

「次はわったし~」

 歌うように宣言した安寿博士が、先生に抱き着いて、二人で由仁ちゃんをサンドイッチにしてしまった。

「ちょ、ちょっと?」

「抗議は聞きませ~ん」

 安寿博士の笑う顔を見ていたら、私も楽しくなってくる。

「聞きませ~ん」

「ね~」

「ね~」

 博士の真似をして、一緒に頷き合う。

 それで私のもやもやは、少しだけ小さくなった気がした。







「は~い、それじゃあ検診をするからそろそろ離れましょ」

「え~~」

 安寿博士にそう言われたので、私は仕方なく先生から離れる。

 もうちょっとだけくっ付いてたかったなって思ったけど仕方なかった。

「早くして。先生がご迷惑してるでしょ」

「由仁ちゃんも嬉しかったくせに」

「なっ」

 ほら言い返せない。やっぱり嬉しかったんでしょ。

 素直じゃないなぁ。

「わ、私は……」

 なんて由仁ちゃんとお話している間に安寿博士が聴診器を耳につけ、胸に当てる丸い部分を手に持った。

 でも――。

「あれ、陽菜ちゃんは待たないの?」

 私がそう聞いた瞬間、安寿博士と先生の動きが止まる。

 それを見て、ああ、そうだったんだって気付いてしまった。

 陽菜ちゃんはもう……。

「……陽菜は立派に役目を果たしてくれたんだ」

 もう、会えない。

 私の胸の奥にあったもやもやがまた首をもたげてくる。

 寂しい――とは違う。あれよりももっと……痛い。

 なんだろう、これ。

 苦しいよ。

「陽菜がやったのですね。凄いです」

 私の感じている事とは全く違う感情を覚えているのか、由仁ちゃんはそう言って素直に喜んだ。

 明るい顔で先生の方を向いて、ビッと敬礼をする。

「先生、私も次こそ役目を果たしてみせますっ」

 それに先生は、感情の全てが抜け落ちたような、からっぽな顔をした後、

「……ああ、期待しているよ」

 そう言いながら無理やり笑顔を作る。

 それを見て、辛そうだなって私は感じた。

 多分、先生も私と同じなんだ。

 胸がもやもやして……とっても苦しい。

 本当は由仁ちゃんみたいに私も敵をやっつけますって言わないといけないはずなのに、私にはどうしてもそう言う事が出来なかった。
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