神風として死ぬしかない私たちに、生きる意味を教えてもらえませんか?

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第4話 神風は吹く

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 黒いエイのような敵機が、目にあたる部分から緑色のレーザーを照射してくる。

 それを機体を揺する事で避けて通り過ぎると、その奥に居る別の敵機へ襲い掛かった。

 目標が突然変わったのにも関わらず、大木の射撃は正確無比に敵機の翼を砕いていく。戦果を味わう間もなく次の敵へ機首を向ける。

 味方機を追尾している敵機の後方へ付けると、奇妙なスパークをまき散らしているケツへ向かって鉛弾をぶち込む。

「後ろっ」

 大木から鋭い指摘が飛ぶ。

 俺からは見えていないが、砲手をしている大木は後方の敵機が見えているのだろう。

 俺は機首を下げてペダルを踏みこみ、急降下をかけ――それをフェイントに、機体を更に横に飛ばし、捻って急激に上昇させる。

 滅茶苦茶にシャッフルされたせいで、内臓が体の中で暴れ回り、喉の奥から胃液が込み上がって来たのだが、それを唾液と一緒に無理やり飲み下す。

 視界がグルグルと渦を巻き、黒と銀、そして赤の筋が混じり合って混沌と化していく。

 舌を噛みそうになりながらも一瞬だけ、

「まだかっ!?」

 と投げかけるが、

「まだだっ!!」

 嬉しくない返答しか返ってこない。

 相手はこちらを捕らえられていないだけでまだ追尾を続けているようだ。計器に一瞬目を走らせれば、後方の装甲板の温度は上昇を続けていて時折敵のレーザーが当たっている事を示していた。

 ならまだ俺はこの曲芸飛行を続けるしかない。続けなければ死、あるのみ。

 ジェットを吹かせて更に加速をかける。機体がギシギシと音を立て、細かく振動を始め、降参の意志を伝えて来たが、それに取り合わず更にペダルを踏みこむ。

 大木も必死に銃撃してくれているのだろうが、こうも動きまくっていてはまともに当たらないのだろう。かといって回避行動を止めればこちらが落ちてしまう。

 ダメか? と不安がよぎった瞬間――。

 ドッと衝撃が機体を貫通し、横合いから体を殴りつけてくる。

 これは……桜花!?

 水爆が爆発したのか!?

 でも目標はまだ先なはずだ。こんな近くで爆発するなんて……?

 刹那の時間。様々な思考が頭の中を駆け巡る。

 理解は出来ない。出来ないが――。

「おおぉぉぉぉぁぁぁぁっ」

 俺は太陽目掛けて一気に駆け上がる。

 日の光が目を焼くが、それでも構わず突き進み――内燃機関の出力をゼロにした。

 木の葉落とし。

 直進しつつも機体を垂直に立てる事で空気抵抗により強烈なブレーキを行う空中戦闘機動だ。

 ゼロ戦に乗っていた先輩方のお家芸でもって――。

 後方から追いかけてきた敵機が、急激な制動についていけずに俺たちの前に飛び出してくる。

 名前の通り木の葉が落ちる様に暴れ回る機体を宥めて垂直にすると――、

「貰ったぁ!」

 大木がトリガーを引いた。

 翼に取り付けられた機銃が火を噴いて、大量の弾丸を敵に浴びせる。

 敵は目の前で阿波踊りを踊り、力を失って落下を始めた。

 勝った――が、そんな事を喜んでいる暇などない。

「今の爆発は桜花か!?」

「ああ」

「残っているか!?」

 恐らく桜花による攻撃が行われたのだが、その頭を抑えられ、誘爆させられてしまったのだろう。

 だがまだ桜花は残っているはずだ。

 今の威力は戦術型。戦略級が誘爆すれば、俺たちも消し炭になっている。

 戦略級が撃墜されていなければ、まだ――。

「落下中!」

 機体を斜めにして桜花を視界に入れる。

 俺は忌々しく思いながら落ちていく何機かの桜花を見つめた。

 あの人形どもに落下している状態から機体を立て直して更に突っ込むなんていう芸当ができるとは到底思えない。第二次攻撃隊の援護に回るかと思った矢先、たった一機の桜花が息を吹き返す。

 ケツから固体燃料が燃えている証である白い炎を噴き上げて、流星の様に伸びあがって来る。しかも都合のいいことに、形状から桜花81乙型、戦略水爆搭載型である事が見て取れた。

「守るぞ!」

「うるせぇっ!」

 大木に怒鳴り返しながら、桜花を追いかけていく。

 一度止められたのだ。二回目三回目も止められてしまう可能性が高い。

 ならこの一機を通すことが最もよい選択であるはずだ。

「援護をっ!!」

「通じねえっ!!」

 この場所にはチャフが撒かれている。通信に使われる周波数を邪魔しない大きさで揃えられている筈だがそれが影響しているのだろうか。それとも水爆が誤爆してしまった影響だろうか。いずれにせよスピーカーからは何の音も聞こえてこなかった。

 仕方がない。俺たちの様に気付いたやつらが援護してくれるだろう。

 最悪俺たちだけで通すしかない。

 そう覚悟を決めた俺は、スピードを上げて桜花に追いすがる。

 だが、俺たちが気付いたという事は――敵も気付く。

 黒いエイのような体を翻して桜花へと群がって来た。

 桜花の上から奇襲した敵機がレーザーを放つ。

 それを、桜花は機体を激しくロールさせたり波立たせながら躱していく。

 その動きには、自分のことなどどうなってもいいから、なにがなんでも相手に体当たりするという激しい決意と感情が見て取れた。

 生体誘導機には意思などないはずなのに。

 しかし今はそんなことなどどうでもいい。考える事は後ででも出来る。

 俺は桜花を追う敵機に機体を近づけ、射撃するための絶好のポジションを取った。

「もらいっ」

 ̠火線が迸り、後ろから敵を喰らい尽くしていく。

 いちいち数えるのも惜しくなるほど敵機を落としていくが、それでもまだまだ際限なく敵が集まって来る。

 それはまるで流砂で出来た滝の如く、壁となって桜花の進撃を阻む。

「くっそぉ!」

 ここで爆発すれば多くの敵を道連れに出来るだろうが、その先に在る空中要塞を破壊することは敵わない。

 だが無駄死にするよりは――なんて事、桜花は思っていないかの如く敵機のただ中へと突っ込んで行く。

 それを俺は追いかける事が出来なかった。敵が多すぎて、進むことをためらってしまったのだ。

 敵機と敵機の間をすり抜け、ほんの少しの隙間に機体をねじ込み、正面にぶつかって来た敵を、身を削りながらも躱す。

 恐ろしいまでの執念。その一言に尽きた。

 桜花が飛ぶ。

 尾翼の右側は完全に溶け落ち、翼は一部が欠けているというのに。

 もはや真っすぐ飛ぶことすら出来ず、回転しながら飛ぶというよりはロケットの勢いだけで空中を進んでいるだけ。

 それでも意志を見せつける如く、ノズルから激しい炎を吐き出し、雄叫びを上げ続ける。

 瀑布のような敵の中を一条の光となった桜花は貫いていき――その先に待ち構えていた敵の本丸、巨大な球体に口のような発進機関と目のような巨大なレーザー砲をハリネズミの様に備える空中要塞へと肉薄して――。

 ――ぶつかった。

 俺たちの視界をただ光が満たす。

 戦略級の水爆の威力は凄まじく、空中要塞だけでなく周囲を飛び回っていた敵機すら飲み込んでいった。

 そんなことをいつまでものんびりと観賞している時間などない。俺は慌てて機体を旋回させると逃走を開始する。

 だが衝撃が追いすがって来て、死神の如く俺たちの機体へ手を伸ばして来た。

 機体が風に呑まれ、木の葉の如く吹き飛ばされる。

 上下すら分からないほどもみくちゃにされながら、それでも俺は操縦桿を握り締めていた。
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