神風として死ぬしかない私たちに、生きる意味を教えてもらえませんか?

駆威命(元・駆逐ライフ)

文字の大きさ
上 下
4 / 41

第3話 大空のエスコート

しおりを挟む
 コックピットの透明なカバー越しに見える大型の戦略攻撃機・富嶽の雄姿はいつ見ても圧倒される。

 尾翼に描かれている巨大な日の丸だけで、今俺が乗っているジェット戦闘機・火竜と同じくらいだと聞く。さすがにそれは盛り過ぎだと最初聞いた時は思ったものだが、今実際に見てみればそれが誇張でなかったと錯覚してしまうほど大きかった。

「あー……ったく、お守りとかやってらんねえぜ。なあ水原?」

 ただ、それは共に乗っている砲手の大木は違った様だ。富嶽に向かってどでかいため息と共に不満をぶつける。

「騒ぐな。お前が大声を出すと俺に響くって事を忘れてないか?」

 コックピットはひな壇のような造りになっており、下の段に俺が座って操縦し、上の段に居る大木が這いつくばって火器や通信を受け持っている。そのため大木が騒ぐと奴のだみ声が俺の後頭部に直撃してしまうのだ。

「あーあーすまんね。俺はお前みたいな戦闘機マニアじゃないんでね。何度も見てりゃあ飽きるんだよ」

「今日はいつも以上に荒れてるじゃないか」

 その理由は分かっている。

 最初に聞いた通り、大木は富嶽に搭載されている物が気に食わないのだ。

「俺はな、クソオームの野郎どもを俺の手で沈めたいんだよ。つーか自衛隊にはそのために入ったんだ。だっつうのにやるのはいつも露払いか護衛ばっかだぜ? 腹が立たねえのかよ」

「別に」

 富嶽に搭載されている桜花はそもそも特攻機だ。それに乗って出撃するのは死を意味する。そんなものが羨ましいとは到底思えなかった。

 いや、大木は自分が桜花に搭乗できないから文句を言っているわけではないのだろう。上層部が俺たちではオームに、宇宙から来た侵略者なんていう冗談みたいな存在に太刀打ちできないと判断した事が気に食わないのだ。

「仕方ないだろ」

 敵対的外宇宙生命体。Hostile Outer space OrganisMを略してHOOM通称オームと呼んでいる存在は、ただそこに在るだけで全てのコンピューターを機能停止させる。

 それを防ぐことは絶対にできない。

 つまり、現行兵器全てが奴らには無力だったのだ。

 だから人間は負けに負けた。

 最初の半年で、全人類90億人が、半分以下の30億人にまで減り、そうなってようやく対抗する手段を手に入れた。

 方法はとても単純。コンピューターを使用しない事。

 そして、地球が汚染されるのも構わず核兵器を使いまくる等、手段を選ばずなんでもする事だった。

 ただ、対抗とは言っても侵略される速度を遅くしただけにすぎないのだが。

「俺に水爆を撃たせやがれ! 全部沈めて来てやる!」

 上官に向かって同じ言葉を言うことなど出来ないだろう。だからこうして透明の強化プラスチック越しに富嶽目掛けてぶつけているのだ。

「2年早く吠えてろ」

 2年前はまだ特攻兵器・桜花に生身の人間が搭乗していた。そして、桜花には戦略兵器である純粋水爆を搭載する61型も存在したのだ。大木のお望み通り、オームに水爆を喰らわせることが出来ただろう。同時に大木の命も無かったが。

 その皮肉を聞いて大木がようやく黙り込む。

 俺はまったくと嘆息してから再び富嶽に意識を戻したのだった。





 10分も飛行した頃、

「そろそろだぞ」

 そう大木が警告してくる。

 護衛とは言っても帰還率は五割を下回るのが普通の世界だ。生きて帰るより死ぬ可能性の方が高い。

 大木の声には先ほどまでのダルそうな響きに代わって張りつめた緊張感が詰まっていた。

「分かった。今日も頼むぞ」

「ああ。お前もな」

 そうやってエールを送り合う。

 コンピューターによる補佐を受けられない以上、俺たちが頼れるのは俺たち自身の感覚と経験だけ。大木が敵機を撃墜するのが一秒でも遅れれば俺たちは死ぬだろうし、俺の回避が失敗しても命は無い。

 だからあれだけ悪態を叩き合っても俺たちはお互いを何よりも信用していた。

 俺は操縦桿を握り直し、ペダルに足を入れ直す。

 大丈夫だ。俺たちは二桁にのぼる回数共に出撃してきた。今日も生きて帰る。

 そう自分自身に言い聞かせて――。

 操縦桿を引いて急上昇をかけた。

「煙幕!」

 同時に大木が煙弾を発射する。

 その入れ違いに緑色のレーザーが遥か彼方から撃ち込まれた。

 レーザーが機体を焼き、しかし装甲が溶け出す前に、俺の操縦によって影響範囲から離脱する。

 攻撃が始まったことを察した周囲の機体から次々と煙弾が発射されていく。煙の帯が混じり合い、何もない大空に灰色のミルキーウェイを描き出す。

 これで味方と激突の危険が増えたが、その代わりに敵の攻撃を受ける事も無い。このまま突き進んでこちらの攻撃が当たる距離に近づけば、喉笛に思いきり喰らいついてやる。

 俺はひたすら牙を研ぎ澄ましながら、計器だけを頼りに煙の中を突き進んでいく。

 そうやって飛行していると、10秒もしない内に大きな火の球が生まれる。恐らく味方同士で接触してしまったのだろう。

「ドヘタがっ」

 毒づいた大木の声には同情が混じっている。

 嘲りは、ない。

 俺たちだっていつ自滅するか分からないのだから。

 そして――俺たちは煙幕の中から抜け出した。

 地平線から続々と、黒く小さいゴミのようなものが湧き出してくる。

 戦闘機型のオームだ。

 心の内側からゾクゾクと震えが湧き出してくる。これは怖いからではない。奴らを殺せるという歓喜からでもない。命のやり取りをしている事から来る興奮が、俺の魂を満たしているのだ。

 ペダルを強く踏み込むと、エンジン内部に燃料が噴射され、ジェットエンジンが雄叫びを上げる。生じたGが、体をシートに押さえつけ、その分だけ機体が加速していく。

 ふと横を見れば、同じ様に突撃を敢行している機体がいくつもあった。

 そんな俺たちに敵の攻撃が次から次へと襲い掛かって来る。緑色の光が音もなく照射され、あっという間に赤熱化して味方の機体が爆砕していく。何機もの味方が死んでいく中、俺は機体を上下左右無茶苦茶に振り回しながら回避していった。

 巨人が持っているシェイカーにぶち込まれてしまったかのように、体の中がかき乱される。頭に血が上ったと思えば次の瞬間は一気に逆流して思考が真っ白になっていく。

 それでも俺は意識を手放さず、必死に操縦桿を握り締めて機体を制御し続ける。

 やがて、最初は粒のような大きさだった敵の姿が見る間に大きくなっていき、はば3メートルほどもあるエイのような形をしているのが見て取れるようになった。

 戦力比は想定だけで1:20。話にもならないほど数では圧倒的に負けている。だが、人間にはきちんとそれをひっくり返せる――とは言わないが、肉薄できる策が用意してあった。

「対レーザーチャフ発射!」

 大木がそう言うと同時に右翼に備え付けられたロケットが発射され、キラキラした金属片をまき散らしながら高速で直進していく。

 ロケットに光線が集中して、撃墜されてしまうがその分だけ俺たちが敵に肉薄する。

 そして、対レーザーチャフを搭載したロケットは、まだ一基持っているのだ。

「もう一発!」

 左翼から光条が煌めき一筋の道を作り出していく。

 さあ、後に続け!

 俺の心の声が聞こえたわけではないだろうが、俺たちの作った道を通って更に仲間達が機体をオームの群れへとねじ込んでいく。

 あちこちで光が瞬き、チャフの雲が広がって行った。

「おっしゃあ! 後は喰らい尽くしてやろうぜぇ、水原ぁ!!」

「耳元で怒鳴るな!」

 対レーザーチャフがまき散らした金属片は、レーザーが当たった瞬間熱を奪いながら蒸発してレーザーを大幅に減衰させる煙を生み出す。その特性上、遠距離に届かなくとも短距離ではまだまだ脅威となるのだ。決して油断は出来なかった。

 だが長距離レーザーを封じたという事は戦略兵器を搭載した富嶽が近づいて来られるという事だ。

 これで第一段階はクリアーした。

 後は富嶽から放たれる桜花の通り道を作れば、俺たちの勝ちだ。

「オラオラ落ちろぉ!!」

 搭載された機銃を乱射する大木の声をバックミュージックに、俺は大空で敵とのダンスに興じ始めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

十年前の片思い。時を越えて、再び。

赤木さなぎ
SF
  キミは二六歳のしがない小説書きだ。  いつか自分の書いた小説が日の目を浴びる事を夢見て、日々をアルバイトで食い繋ぎ、休日や空き時間は頭の中に広がる混沌とした世界を文字に起こし、紡いでいく事に没頭していた。  キミには淡く苦い失恋の思い出がある。  十年前、キミがまだ高校一年生だった頃。一目惚れした相手は、通い詰めていた図書室で出会った、三年の“高橋先輩”だ。  しかし、当時のキミは大したアプローチを掛けることも出来ず、関係の進展も無く、それは片思いの苦い記憶として残っている。  そして、キミはその片思いを十年経った今でも引きずっていた。  ある日の事だ。  いつもと同じ様にバイトを上がり、安アパートの自室へと帰ると、部屋の灯りが点いたままだった。  家を出る際に消灯し忘れたのだろうと思いつつも扉を開けると、そこには居るはずの無い、学生服に身を包む女の姿。  キミは、その女を知っている。 「ホームズ君、久しぶりね」  その声音は、記憶の中の高橋先輩と同じ物だった。  顔も、声も、その姿は十年前の高橋先輩と相違ない。しかし、その女の浮かべる表情だけは、どれもキミの知らない物だった。  ――キミは夢を捨てて、名声を捨てて、富を捨てて、その輝かしい未来を捨てて、それでも、わたしを選んでくれるかしら?

ふたつの足跡

Anthony-Blue
SF
ある日起こった災いによって、本来の当たり前だった世界が当たり前ではなくなった。 今の『当たり前』の世界に、『当たり前』ではない自分を隠して生きている。 そんな自分を憂い、怯え、それでも逃げられない現実を受け止められるのか・・・。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

年下の地球人に脅されています

KUMANOMORI(くまのもり)
SF
 鵲盧杞(かささぎ ろき)は中学生の息子を育てるシングルマザーの宇宙人だ。  盧杞は、息子の玄有(けんゆう)を普通の地球人として育てなければいけないと思っている。  ある日、盧杞は後輩の社員・谷牧奨馬から、見覚えのないセクハラを訴えられる。  セクハラの件を不問にするかわりに、「自分と付き合って欲しい」という谷牧だったが、盧杞は元夫以外の地球人に興味がない。  さらに、盧杞は旅立ちの時期が近づいていて・・・    シュール系宇宙人ノベル。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...