上 下
63 / 140

第63話 お風呂~おっふろ~おっふっろ~♪

しおりを挟む
「エマー、早くしてってばぁ」

「ひぃ~ん。だ、ダメですぅ。無理ですぅ」

「いいから早く脱げ~♪ きっもちいいんだぞぉ」

「うひゃぁぁぁっ」

 私は全裸のままエマに襲い掛かるとエマが着ている服を剥ぎ取っていく。

 ペチコートとズロースをまとめてずるっと脱がし、コルセットの紐を外して放り投げる。

 お、見事なシックスパック。毎日一緒に腹筋してるもんね。っていうかコルセット要らないじゃん。

 出るとこは出て、引っ込むところは引っ込む。いやぁ、あやかりたいものですなぁ。

 よく揉ませてもらってるのになんで私にはご利益ないんだろ。

「お、お風呂入ると病魔が毛穴から入ってくるって……」

「そんなの迷信だから。お風呂入った方が健康にもいいんだゾ」

 この世界に来て、本当に、初めてのお風呂に私は大興奮していた。

 お風呂を沸かすのには大量の薪が必要なため、かなりの贅沢になるのだ。

 幸いこのお城は山城であるため、豊富に薪を手に入れる事が出来た。

 というか、モンターギュ侯爵の隠れた趣味との事である。

 本当はエマの反応の通り、あまり褒められた事ではないとの認識が強いらしい。

 多分、みんなが風呂に入ると森林伐採が進んで人が住めなくなってしまうからそう言ってコントロールしているのだろう。

「とにかく気持ちいいから。あ、石鹸いい匂いする。香水入りなんだ」

 私はごちゃごちゃ言うエマをすっかり裸にすると、金属製のバスタブに引きずり込んだ。

 バスタブはかなりの広さがあり、対面になって互いの足を体の横に入れなければならなかったが、二人が十分に入れる大きさで……私が小さいからか、チクショウ。

「肩まで浸かってあったまると、すっごく気持ちいいんだから。エマもやってみて」

「うぅ~……。はい……」

 だいぶためらっていたエマだったが、私の言うとおりにお湯につかると、その気持ちよさにため息を漏らす。

 っていうかさ、楽になったのってそのぷかぷか浮いてる肉の塊が原因だよね。

 これ見よがしに水に浮かせやがってさぁ。そういやさっきもぶりゅんぶりゅん揺らして抵抗したっけ……。

 ふふふ、どうしてくれようか……。

 久しぶりにしこたま揉ませてもらおうかなぁ。

「き、雲母さん顔が怖いですぅ」

 おっと、お湯を楽しまないとね

「どうやって揉もうかなぁ」

「心の声が駄々洩れですぅ」

 しまった。エマのおっぱいを敵視しすぎてしまったか。さすが魔性の女、エマね。

 私を惑わすなんてやるじゃない。

 まあ、今はお風呂を楽しもっと。

 私はエマに言ったように、自分の体を湯船に沈めた。

「んんっ……しみるぅ……」

 ちょっと熱めのお湯が肌をチクチクと刺す。肌を通して侵入してきた熱が体に疲れを認識させ、心地良い気だるさを生む。

「はふぅ~……気持ちいぃ~……」

「ですねぇ~……」

 入る前はあれほど嫌がっていたエマだというのに、今は顔を蕩けさせてお風呂を堪能している。

 さすがお風呂様様といったところか。

 私達はそのまま何もしゃべらず、静かにお湯に浸かっていた。

「エマー……終わっちゃったね」

「……終わっちゃいましたね」

 私達の旅は終わった。これからどうなるのか分からないけれど、エマは多分、メイドに戻るつもりなのだろう。

「私は……ただのメイドでした。ちょっと変わったご主人様に音楽の手ほどきを受けただけの。それが舞台に上がって歌ったり踊ったりするようになって。それで皆さんから妖精だなんて言われるようになってしまって……」

 間を置くためか、エマはお湯で顔を洗う。

 何度かそうした後、エマはお湯を掬って手の中に鏡を作り、その中に居る自分自身を覗き込んだ。

「妖精って言われてる私は本当に私なのかなって思ったりして……。本当に、夢みたいでした。あんなに男の人に求婚されたり告白されるなんて思ってもみませんでしたし」

「ねえ」

 私はニヤッと笑いながら常々思っていたことを聞いてみる。

「だいぶいい気分だったでしょ」

「……ちょっとだけ」

 エマはクスッと楽しそうに笑った。

 多分、今までで一番モテた期間だろう。

 私もそうだ。……子どもとお爺さんばっかりだったけど。

「私は……帰ったらメイドに戻るつもりです。あ、もちろん歌は止めませんよ? 私の歌で喜んでくれる人が居るのはとっても嬉しいですし……」

「良かった」

「それに……もう普通のメイドには、戻れなさそうですし」

「あ……」

 きっと王城では貴族が放って置かないだろうし、外に出ればすぐ囲まれてしまう。

 普通にメイドとしての仕事を続けるのが難しい事は想像に難くなかった。

「ごめんね」

「雲母さんが謝る事なんてないですよ。すっごく楽しかったんですから」

 エマはパシャっと水音を立ててバスタブに体を預けると、遠い目で過去に想いを馳せる。

「本当に、夢みたいに楽しい一年と半年でした……。だから、これからが少し、怖い……」

 グラジオスは王に疎まれている。それに乗る多数の貴族たちからも。

 しかし今のグラジオスはそれに反発し始めている。

 これからの王城での生活が明るいものになるとは、到底思えなかった。

 グラジオスを助けたエマも、間違いなくその争いに巻き込まれてしまうだろう。

「最悪を考えればいくらでも出てきちゃうけどさ。大丈夫だよ」

「そう……ですか?」

「グラジオスに親子の縁を切ってもらって、ハイネみたいに出奔してもらうの。そしたらみんな自由だよ。後は今までみたいにアッカマンさんに頼んで、馬車の旅。ずっとみんなでいろんな国に行って演奏して回るの。何だったら帝国に雇ってもらお」

 それは夢だ。夢想だ。頭の中でなら誰でもドラゴンを倒せる勇者に成れるように、どんな絵空事でも実現してしまえる。

 王族が出奔など出来るだろうか。

 したところできっと一生命を狙われ続けるだろうし、利用しようとする輩は後を絶たないだろう。

 特に、歌という力で外交力の高さを見せつけてしまった今、グラジオスは少し危険すぎた。

 国という守りが無ければ、グラジオスの存在など簡単に吹き消されてしまうだろう。

「そうなったらいいですねぇ……」

 そんな事、王族に仕えて長いエマなら簡単に想像がつくだろう。

 異世界からやってきて、この世界に疎い私でさえ分かるのだから。

「……ところでさ」

「はい?」

 私の雰囲気が変わったことに気付いたのか、エマが軽い感じで返答する。

 ぬっふっふっふっ。私はね、シリアスな話題はさっきグラジオスとしてお腹いっぱいなのだよ。

 もっと女の子ならではの話題がしたいのだ。

「エマっていつになったらグラジオスに告白するの!?」

「ふやぁぁぁぁっ!?」

 ばっしゃーんとお湯を盛大に跳ね飛ばして転ぶエマ。

 まさか急に話題がそんな事に飛ぶとは思っていなかったに違いない。

「グラジオスって押しに弱そうだからさ、エマが全裸で迫ればイチコロだと思うんだ!」

「しませんっしませんっしませ~んっ! そんな事絶対しませ~んっ!!」

「なんのために胸にそんなでっかい凶器ぶら下げてるのよ! この一年半かけて使い方は教えてあげたでしょ! 挟むの! こするの!」

「あーあーあー、知りません聞いてません! 絶対しませぇぇんっ!!」

「あっ、ちょっと。耳塞ぐの反則! 揉むわよっ!」

「ひいぃぃ~~んっ!!」

 私達は、今を楽しんでいる。

 幸せな今を積み重ねたら、幸せな未来が待っていると信じて。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

【1/23取り下げ予定】あなたたちに捨てられた私はようやく幸せになれそうです

gacchi
恋愛
伯爵家の長女として生まれたアリアンヌは妹マーガレットが生まれたことで育児放棄され、伯父の公爵家の屋敷で暮らしていた。一緒に育った公爵令息リオネルと婚約の約束をしたが、父親にむりやり伯爵家に連れて帰られてしまう。しかも第二王子との婚約が決まったという。貴族令嬢として政略結婚を受け入れようと覚悟を決めるが、伯爵家にはアリアンヌの居場所はなく、婚約者の第二王子にもなぜか嫌われている。学園の二年目、婚約者や妹に虐げられながらも耐えていたが、ある日呼び出されて婚約破棄と伯爵家の籍から外されたことが告げられる。修道院に向かう前にリオ兄様にお別れするために公爵家を訪ねると…… 書籍化のため1/23に取り下げ予定です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 番外編は思いついたら追加していく予定です。 <レジーナ公式サイト番外編> 「番外編 相変わらずな日常」 レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

秋月一花
恋愛
 旅芸人のひとりとして踊り子をしながら各地を巡っていたアナベルは、十五年前に一度だけ会ったことのあるレアルテキ王国の国王、エルヴィスに偶然出会う。 「君の力を借りたい」  あまりにも真剣なその表情に、アナベルは詳しい話を聞くことにした。  そして、その内容を聞いて彼女はエルヴィスに協力することを約束する。  こうして踊り子のアナベルは、エルヴィスの寵姫として王宮へ入ることになった。  目的はたったひとつ。  ――王妃イレインから、すべてを奪うこと。

処理中です...