『歌い手』の私が異世界でアニソンを歌ったら、何故か世紀の歌姫になっちゃいました

駆威命(元・駆逐ライフ)

文字の大きさ
25 / 140

第25話 アイドルだって楽じゃない

しおりを挟む
「そうそう。テントの布を使って覆うようにして!」

 私は護衛の兵士たちに手伝ってもらい、舞台を整えつつあった。

 やはり外となると声はかなり拡散してしまう。何もなければ数十メートルでまともに聞こえなくなってしまうだろう。

 その為にも色々と策を整える必要があり、その内の一つが舞台であった。

 背後に壁があるのと無いのでは、やはりかなり響き方が違う。

「あ、姉御。自分もやっぱり手伝うっすが……」

 一人ICレコーダーで曲を聞き続ける事に罪悪感でも湧いたのだろう。ハイネが恐る恐ると言った様子で私に進言してくる。

「アンタがやるべきなのは、曲を何度も聞いて完璧に演奏できるようにすることっ! それ以外やる事はないっ!」

「は、はいっす!」

 私に怒鳴られてハイネは背筋を伸ばすと、慌てて馬車に戻っていった。

「ったく……」

「き、雲母さぁ~ん」

 問題は次から次へと尽きることなく湧いてくる。今度はエマが青い顔をしながらよろよろとこちらへ歩いて来た。

「無~理~で~すぅ~。わたし死んじゃいますぅ~~」

 なんだか最近気弱キャラが板について来た気がしなくもないエマが、いつも以上に弱音を吐いていた。

 というか本当に倒れそうなくらいふらふらだ。

 ……仕方ないなぁ。ちょっと勇気づけてあげなきゃこれは本格的に無理そうだなぁ。

「エマ、今まであの兵隊さんたちの前でいくらでも歌えるようになってたじゃない。その感じで歌えばいいの」

「あれは皆さんがお知り合いだからですぅ~。それに人数が桁違いじゃないですかぁ~。それにそれにぃ~」

 ええい、るっさい!

「いい、エマ。あの人たちの職業が何か分かる?」

 そう言って私は周囲に居る兵士や遠くの兵士を指さした。

「……軍、ですよね?」

「そうよ」

 それ以外の余地がない、あまりに簡単すぎる質問に対し、エマは戸惑いを隠せない様子だ。

 もちろん、私が聞きたいのはそんな事じゃない。質問を通して自覚してもらう事だ。

「あの人たちは、私達を守る為に、私達に代わって戦争を、殺し合いをしてくれてるの。頼んでないとか言わないでね。相手が居る事なのに、しなくてもいいよなんて出来ないのは分かってるでしょ」

「は、はい」

「そんな人たちに、せめて一瞬でも笑顔になってもらおうって思わない?」

 優しいエマだから、兵士の事を想ってあげられるはずだ。

 それに、あれだけ御者をしながら毎日練習したのだから、それを出さないなんてもったいなさすぎる。

「エマが恥ずかしいって感じるのは分かるよ? でも、それはあの人たちの笑顔と天秤にかけて、どうなのかな? 本当に恥ずかしいって感情の方が重いのかな?」

「…………」

 エマは無言で私の言葉を聞いていた。でも、私の言葉がエマの心に沁み込んで、エマの心が変わっていくのを感じた。

 エマの瞳に意志の灯が宿る。

 先ほどまでの弱気なエマは、欠片も無くなっていた。

「できる?」

「は、はいっ」

 うっしゃぁぁぁっ!! 揺れ要員ゲットォォッ!!

 やっぱり私が踊るだけだとインパクト薄いかなって思ってたんだよね。

 ぐへへ、あの最終兵器はやっぱり使わないとね!

「…………あれ、なにか寒気が……?」

 エマが私の邪気を感じ取ったのか急に自分を抱きしめて身震いする。

 おっと危ない危ない。あくまでも純真純情に行こう。

 ワタシ、ミンナノタメ、オドル。アノ、オッサン、カンケイナイ。……よし、自己暗示完了。

「じゃあ、がんばろっ。エマ!」

「はいっ」

 私たちは両手を使って胸の前でガッツポーズをする、いわゆる「ぞいっ」のポーズで気合を入れ合うのだった。









 舞台が整い、あとは演奏するだけ、という状態になってようやくグラジオスがやって来た。

「遅いっ!」

「無茶言うな。お前と違って報告や他の国の貴族連中に挨拶したりとやる事は山ほどあるんだ」

 連中なんて言葉が出る辺り、グラジオスも喜んでやっているわけではないのだろう。

 そんな事は分かっている。これは私とグラジオスのちょっとした挨拶みたいなものだ。

 皮肉を言い合うのが、なんとなく好きになって来たのかもしれない。いや、無いと物足りないっていう方が近いかな。

「大体俺はやるとは言ってない」

 まったく。言い訳を考えてあげる身にもなれっていうのだ。

 毎回毎回我が儘な子どものように否定して。……でも否定しきれなくて。

「ねえグラジオス。これだけ準備したの、見て」

 そういって私は舞台と、杭にロープをかけただけの簡素な観客席を指し示す。

 杭の傍には兵士が立っており、彼らは観客整理を買って出てくれていた。

「これだけの人が協力して貴方を待ってたの。貴方だけにしか出来ない事があるから待ってたの。これでもしないの?」

 これはグラジオスを追い詰める行為だ。そしてグラジオスはわざと追い詰められてくれる。ただの茶番。言い訳。言い方は何てもいい。

 グラジオスには理由が必要なのだ。

「……仕方ない」

 グラジオスはわざとらしいため息をついているが、もしグラジオスにしっぽがあれば今頃ぶんぶぶんぶかちぎれんばかりに振り散らしているだろう。

 そんな事、この場に居る全員が分かっているけど。

「リュートを取ってくる」

 グラジオスは私に背を向けて馬車へと向かおうとする。

「待って、今日はこっち使って」

「うん?」

 私が手渡した楽器は、ヴァイオリンだ。

 こちらの世界では、ヴァイオリンは比較的新しい楽器らしく、あまり浸透していないマイナーな楽器だ。だがそこは歌馬鹿で音楽マニアなグラジオス。抜かりはない。

 きちんと手に入れて、独学で扱えるようになっていた。

「外だから、リュートの音じゃちっちゃいの」

「……いいだろう。だが少し不安があるぞ?」

「大丈夫。そこは私がフォローするから」

「そうか」

「あっ、違う」

 グラジオスが不思議そうに首を傾げる。

 もしかして、分かってないのかな?じゃあきちんと教えてあげないとね。

「私じゃなくって、私達が、ね」

 エマと、ハイネと、私だ。グラジオスには、これだけ仲間がいるのだ。

 一人じゃない。

「……分かった」

 グラジオスは、照れ臭そうに頬を掻くと頷いたのだった。







 私とグラジオスは舞台袖――とはいってもほとんど何もないから外から丸見えなのだが――まで走っていき、そこに居る仲間たちに声をかけた。

「準備いい?」

「自分は準備万端っす! でも緊張で手が震えてるっす!」

「気合でなんとかしなさいっ!」

「うっす!」

 さてエマは……。うわっ、またなんかしゃがみ込んでる!

 エマは私が用意した衣裳、改造に改造しまくったメイド服を着こんでいる。スカートを短くして、フリルを嫌と言うほど追加しまくった、コケティッシュで可愛らしい代物だ。

 女性の私から見ても、かなりそそられる仕上がりになっているのだが……。

「うぅぅ……。雲母さぁ~ん。これスカートの丈が短すぎますぅ~。色々と見えちゃいますよぉ~」

 見せるためなのだから当たり前だ……とはさすがに言えない。

 一応、この世界にも下着はある。とは言っても履いてない人も多く居るのだが。

「ドロワーズ履いてるでしょ。それでも不安ならズロース履けばいいじゃない」

「それが見えちゃうから問題なんですぅぅ」

 ドロワーズとは、いわゆるカボチャパンツの事だ。私の感覚からすると、もうホットパンツに近くてショーツって感じはしない。

 でもエマの感覚からすると違うらしいかった。

「大丈夫。中身が見えるわけじゃないでしょ」

 男性陣が思わず盛大に吹き出してしまう。さすがに拙かった?

「見えたら嫌ですぅぅ!」

「……大丈夫よ、前に私が居るからそんなに見えないわよ」

 ……たぶん。

「ホントですかぁ。ホントですねぇ? 信じますからねぇ?」

 大丈夫、多分野郎どもは揺れまくる胸に視線がロックオンされてしまって気付かないはず。

 ……あれ~? エマなんてどうでもいい気がしてきたぞぉ~? へんだなー。

「さて、じゃあ私着替えるから……グラジオス布で覆って隠して」

「……ここは外だ。一応お前も女なんだから馬車まで戻って……」

「時間が惜しいの」

 私はグラジオスに大きなテント用の布を押し付ける。

 グラジオスの伸長で垂らしてくれれば、問題なく着替えられるはずだ。

「……他が見えなくても俺が見るかもしれんだろうが」

「見たいの? グラジオスなら見てもいいよ?」

 ぬふっと変な声を出しながら冗談半分で挑発してみる。

「お、お前のガキくさい体になんぞ興味はないっ」

「じゃあエマだったら興味津々で覗いた?」

「…………」

 おい、なんで無言なんだよゴルァ。エマも真っ赤になって自分を抱きしめてなんか雰囲気出してんじゃないの! おっぱいぐぞ!

 ハイネもなんで鼻息荒くしてんの? キモイんだけど。

「……ねえ、早くしてくれない?」

「す、すみゃん」

 なんで噛んでるのよ。

 それから私はグラジオスの手を借りて、素早く衣裳に着替えたのだった。

 ちなみにグラジオスは顔をずっと背けており、一切覗かなかったという……。

 むう、もやもやする。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~

水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。 彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。 失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった! しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!? 絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。 一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

処理中です...