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第22話 フラれ野郎
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1歩踏み出した先に何があるのかすらわからないほどの深夜に、ことことと音を立てて馬車が進む。
操っているのは詐欺師の片割れである茶髪の青年、アル。
その後ろでいささか脱力した状態で背もたれに体を預けているのは、絶世の貴公子であるダンテと、それに見合わないほど地味な少女であるベアトリーチェだった。
「今日は、一生分踊った気がします」
ベアトリーチェは疲れの見える、しかし幸せいっぱいといった笑顔をダンテに向ける。
彼女はこんな深夜になるまでひたすらダンテとともに踊りまわりっていたのだ。
もう体力などほとんど残っていないだろう。
「ならこれから一生踊らなくてもいいな?」
ダンテは肩をすくめて意地の悪そうな笑みを浮かべる。
「あー、そんな意地悪なこと言っちゃうんですか、ダンテさんは」
「お前があんなに不格好なダンスを見せたってのに、そんな満足そうな顔をするからだ」
ベアトリーチェは盛り上がった雰囲気に飲まれた結果、こっそりと練習していた歌姫のダンスとやらを披露したのだが、曲が最高潮に達したところで盛大にずっこけてしまったのだ。
むろん、ベアトリーチェを除いた全員が腹を抱えて大爆笑したことは言うまでもない。
「そ、それは~……忘れてくださいよぉ……」
「忘れられるか、あんなもん」
それだけベアトリーチェが滑稽だったから……ではない。
「だから、次うまくいったので上書きしろよな」
「……ダンテさん」
また次も誘う。
今度はうまく踊れたのを見せてほしい。
そんな、応援の意味を込めた言葉を、皮肉じみた言葉で脚色しただけだった。
「え、えっと、はいっ!」
ダンテの言葉の意味を正しく理解したベアトリーチェは、琥珀色の目を輝かせてうなずく。
ふたりの間には温かい空気が流れるが、それは男女の仲というよりは、幼い子どもたちが一緒に遊んで笑いあっている様な空気だった。
「旦那様、奥様。こんな真夜中に馬車を扱う俺の苦労も察しちゃくれませんかね」
そんな二人の間に、若干呆れの混じったアルのボヤキが割って入る。
アルも一応、久しぶりに女性と触れ合う時間を持てたのだが、遊ぶこともできず、こうして仕事に戻らなければならなかったのだ。
皮肉の一つも言いたくなったのだろう。
「お、お、おく奥さまぁぁっ⁉」
「大声をあげすぎだ、ベアトリーチェ」
アルと軽口でやりあうことに慣れきっているダンテはまったく動じなかったのだが、男性にまったくと言っていいほど免疫のないベアトリーチェは、過剰なまでの反応を見せた。
「礼はいずれ手に入るさ。それまで待ってろ」
ダンテの礼とは、大量の金貨のことだ。
ブルームバーグ伯爵家の一人娘であるアンジェリカはダンテに心酔しきっている。
そう遠くないうちに伯爵家当主との交渉の時が訪れるだろう。
「今日の分、上乗せしてくれ」
「それはお前の親父に言え」
「ちぇーっ」
金貨を実際に搾り取るのはアルの父親であるモーリスの役目だ。
彼はケチな男ではなかったが、金に対しては非常に厳格な男で、この程度の苦労であれば考慮などしないだろう。
「あっ。なら私がお礼しますね」
「何をするつもりだ?」
ダンテとアルは、ベアトリーチェに聞かれても悟られないよう主語を抜いて話していた。
それが逆に、ベアトリーチェが会話に参加するハードルを下げることにもつながっていた。
「この前、ダンテさんが美味しいって言ってくれたバゲットサンドを作ってくるなんてどうでしょうか」
「ふむ、それはいいかもな」
ベアトリーチェが作るバゲットサンドは、舌が肥えたダンテの味覚を満足させられるほどの代物だった。
アルへのお礼としては十分だろうと、ダンテは考えたのだが、続くベアトリーチェの言葉に軽く虚を突かれてしまう。
「ふふっ、ちょっと多めにしておきますね、ダンテさん」
「なんで俺のぶんまで作ろうとしてい……いや――」
そう言ってから、ベアトリーチェが自身にも礼をしようとしていることに気づく。
スラムは相手から奪ってなんぼの世界であり、他人に譲る者は馬鹿を見る。
さすがにアルのような親友となると話は別だが、たとえ仲間同士であってもシビアなやり取りの上に関係が成り立っている。
ダンテのような、他人に分け与える者のほうが異常なのだ。
ベアトリーチェの言葉を一瞬理解できなくても仕方がないことだった。
「――俺は俺のためにお前を誘ったんだ。だから別に礼をしてもらうようなことじゃない」
「そうだとしても、私は嬉しかったですから」
ダンテは貴族に対する嫌悪感を抱いており、その感情故にベアトリーチェを連れ出した――そう、ダンテは考えていたのだが、ベアトリーチェの柔らかい笑顔を見てしまうと、それが言い訳のような気がしてならなかった。
ダンテはかぶりを振って頭からその考えを追い出すと、また意地の悪い表情を顔面に張り付ける。
「俺はガキには優しくするのが信条なんでね」
「あ、その言い方はひどいですよ。同じ17歳だって言ったじゃないですかぁ」
「だったら背丈をもう10サントぐらい伸ばせ」
「無理言ってますよぅ」
いつものようにベアトリーチェが噛みついて来ないのは、ダンテのからかいが言い訳であると見抜いているからだろうか。
ベアトリーチェは相手の目を見れば嘘をついているか分かると言っていたが、ダンテにそんな力はない。
ただ、ダンテからはベアトリーチェの瞳に、幸福だけが宿っているように見えた。
「靴の底を厚くして帽子でも被ればすぐだ。髪の毛をもっとあげてもいいだろ」
ダンテは言い訳を続けながらベアトリーチェの茶色い髪に手を伸ばしたのだが、ベアトリーチェの手に阻まれてしまう。
「そういうおしゃれはしません~っ。ダンテさんはそんな感じの娘が好みなんですか?」
「ダンテは子ども好きだから意外と子どもっぽ――」
「そんな不名誉な言いがかりをつける舌なら引っこ抜くぞ」
からかい時だとばかりに根も葉もない戯言をのたまうアルを、ダンテはぴしゃりと言って黙らせる。
そもそもダンテはそういう感情を女性にも、もちろん男性にも持ったことがないため、好みもへったくれもなかった。
「でもあれだ、ダンテ。お前がここまで気に掛ける女の子は初めてだろう」
「ちげーよ、口止め料だ」
もうアルもダンテも開き直って気にもしていないのだが、ベアトリーチェにはいろいろと知られてしまっている。
それに対する口止め料として、ベアトリーチェへの嫌がらせを止めさせるというものを試みたのだが、結局それはうまくいかなかった。
だから代わりに……というのがダンテの言い分であるのだが、そのことをベアトリーチェの目の前で口にするのは、いつものダンテらしくない失敗だった。
「分かってますよ」
ベアトリーチェはそう呟くと、少しだけ寂しそうな笑顔を浮かべる。
「あ~……」
何か別の言い訳をと口を開いたダンテを、ベアトリーチェは押しとどめる。
「ダンテさんは優しい人ですから」
「……違う。俺はそんなんじゃない」
ダンテ自身が否定しても、ベアトリーチェは首を横に振って更にそれを否定する。
「優しい人ですよ。私がそう言うんだから、間違いありません」
優しいのではなく甘いだけ。
今回のことだってベアトリーチェに同情したからだと、ダンテは反駁したかった。
しかしそれをしてしまえば、自身のエゴを通すためだけにベアトリーチェを致命的なまでに傷つけてしまう。
結局ダンテは何も言えず、口を閉ざすしかなかった。
「…………それにですね、私にだって選ぶ権利があります」
急にベアトリーチェの声に、愉悦の色が混じる。
「は?」
「え?」
彼女の語った言葉の意味が理解できず、ダンテも、そしてアルまでもが間抜けな声をあげた。
「私はお父さんとお母さんを見ていて、ああいう風になれるのが愛し合うってことなんだなって思ったんです。ダンテさんじゃ意地悪すぎてなれなさそうなので、私からお断りしちゃいます」
「…………」
ダンテはベアトリーチェの楽しそうな顔を呆然と眺める。
もちろん振られたという事実は理解していたのだが、まさかベアトリーチェがこんなことを言うとは思ってもみなかったのだ。
無言のまま時間が流れていき――。
「ハハハハハッ! マジかよ、あのダンテが振られやがった‼ アハハハハハハッ!!」
アルの大爆笑がその静寂を引き裂く。
ダンテだって人間なのだから、振られることもあるだろう。
今まではダンテからアプローチをかけたことがなかったため、一方的に女性から言い寄られるだけであり、一度も振られるなんて経験をしてこなかった。
ところが今は、アプローチをかける前からベアトリーチェに振られてしまったのだ。
アルはそれがおかしくてたまらなかったのだろう。
「ぷっ……今度エバ……くくっ、いや、ミレディに教えてやらねえと」
今日のダンスパーティーでダンテたちと顔を合わせることがなかったガタイのいい女主人は、面倒見がいいと同時におしゃべり好きでもある。
ミレディがこのことを知るということは、帝都中の娼婦たちが知ることと同義であった。
「おい、待て。ミランダには言うな」
「無理だろ、こんなおもろい話」
「お前……いくらでなら黙る?」
「いくら積まれようが絶対黙らねぇ。親父にも教えねえと……。それからテッドにレイに……」
「おいっ」
さすがに冗談では済まないと、ダンテは焦ってアルを買収しようと試みたのだが、そんなことで黙るアルではない。
今日一日の復讐とばかりにダンテをいじり倒す。
「ふふっ」
やってやったぞと言わんばかりに、ベアトリーチェが声を出して笑う。
馬を操っているアルに組み付くわけにもいかず、さりとてベアトリーチェに何かできるわけでもない。
「……ああ、くそっ」
結局ダンテはそう一言毒づくと、天を仰ぎ見る他なかった。
操っているのは詐欺師の片割れである茶髪の青年、アル。
その後ろでいささか脱力した状態で背もたれに体を預けているのは、絶世の貴公子であるダンテと、それに見合わないほど地味な少女であるベアトリーチェだった。
「今日は、一生分踊った気がします」
ベアトリーチェは疲れの見える、しかし幸せいっぱいといった笑顔をダンテに向ける。
彼女はこんな深夜になるまでひたすらダンテとともに踊りまわりっていたのだ。
もう体力などほとんど残っていないだろう。
「ならこれから一生踊らなくてもいいな?」
ダンテは肩をすくめて意地の悪そうな笑みを浮かべる。
「あー、そんな意地悪なこと言っちゃうんですか、ダンテさんは」
「お前があんなに不格好なダンスを見せたってのに、そんな満足そうな顔をするからだ」
ベアトリーチェは盛り上がった雰囲気に飲まれた結果、こっそりと練習していた歌姫のダンスとやらを披露したのだが、曲が最高潮に達したところで盛大にずっこけてしまったのだ。
むろん、ベアトリーチェを除いた全員が腹を抱えて大爆笑したことは言うまでもない。
「そ、それは~……忘れてくださいよぉ……」
「忘れられるか、あんなもん」
それだけベアトリーチェが滑稽だったから……ではない。
「だから、次うまくいったので上書きしろよな」
「……ダンテさん」
また次も誘う。
今度はうまく踊れたのを見せてほしい。
そんな、応援の意味を込めた言葉を、皮肉じみた言葉で脚色しただけだった。
「え、えっと、はいっ!」
ダンテの言葉の意味を正しく理解したベアトリーチェは、琥珀色の目を輝かせてうなずく。
ふたりの間には温かい空気が流れるが、それは男女の仲というよりは、幼い子どもたちが一緒に遊んで笑いあっている様な空気だった。
「旦那様、奥様。こんな真夜中に馬車を扱う俺の苦労も察しちゃくれませんかね」
そんな二人の間に、若干呆れの混じったアルのボヤキが割って入る。
アルも一応、久しぶりに女性と触れ合う時間を持てたのだが、遊ぶこともできず、こうして仕事に戻らなければならなかったのだ。
皮肉の一つも言いたくなったのだろう。
「お、お、おく奥さまぁぁっ⁉」
「大声をあげすぎだ、ベアトリーチェ」
アルと軽口でやりあうことに慣れきっているダンテはまったく動じなかったのだが、男性にまったくと言っていいほど免疫のないベアトリーチェは、過剰なまでの反応を見せた。
「礼はいずれ手に入るさ。それまで待ってろ」
ダンテの礼とは、大量の金貨のことだ。
ブルームバーグ伯爵家の一人娘であるアンジェリカはダンテに心酔しきっている。
そう遠くないうちに伯爵家当主との交渉の時が訪れるだろう。
「今日の分、上乗せしてくれ」
「それはお前の親父に言え」
「ちぇーっ」
金貨を実際に搾り取るのはアルの父親であるモーリスの役目だ。
彼はケチな男ではなかったが、金に対しては非常に厳格な男で、この程度の苦労であれば考慮などしないだろう。
「あっ。なら私がお礼しますね」
「何をするつもりだ?」
ダンテとアルは、ベアトリーチェに聞かれても悟られないよう主語を抜いて話していた。
それが逆に、ベアトリーチェが会話に参加するハードルを下げることにもつながっていた。
「この前、ダンテさんが美味しいって言ってくれたバゲットサンドを作ってくるなんてどうでしょうか」
「ふむ、それはいいかもな」
ベアトリーチェが作るバゲットサンドは、舌が肥えたダンテの味覚を満足させられるほどの代物だった。
アルへのお礼としては十分だろうと、ダンテは考えたのだが、続くベアトリーチェの言葉に軽く虚を突かれてしまう。
「ふふっ、ちょっと多めにしておきますね、ダンテさん」
「なんで俺のぶんまで作ろうとしてい……いや――」
そう言ってから、ベアトリーチェが自身にも礼をしようとしていることに気づく。
スラムは相手から奪ってなんぼの世界であり、他人に譲る者は馬鹿を見る。
さすがにアルのような親友となると話は別だが、たとえ仲間同士であってもシビアなやり取りの上に関係が成り立っている。
ダンテのような、他人に分け与える者のほうが異常なのだ。
ベアトリーチェの言葉を一瞬理解できなくても仕方がないことだった。
「――俺は俺のためにお前を誘ったんだ。だから別に礼をしてもらうようなことじゃない」
「そうだとしても、私は嬉しかったですから」
ダンテは貴族に対する嫌悪感を抱いており、その感情故にベアトリーチェを連れ出した――そう、ダンテは考えていたのだが、ベアトリーチェの柔らかい笑顔を見てしまうと、それが言い訳のような気がしてならなかった。
ダンテはかぶりを振って頭からその考えを追い出すと、また意地の悪い表情を顔面に張り付ける。
「俺はガキには優しくするのが信条なんでね」
「あ、その言い方はひどいですよ。同じ17歳だって言ったじゃないですかぁ」
「だったら背丈をもう10サントぐらい伸ばせ」
「無理言ってますよぅ」
いつものようにベアトリーチェが噛みついて来ないのは、ダンテのからかいが言い訳であると見抜いているからだろうか。
ベアトリーチェは相手の目を見れば嘘をついているか分かると言っていたが、ダンテにそんな力はない。
ただ、ダンテからはベアトリーチェの瞳に、幸福だけが宿っているように見えた。
「靴の底を厚くして帽子でも被ればすぐだ。髪の毛をもっとあげてもいいだろ」
ダンテは言い訳を続けながらベアトリーチェの茶色い髪に手を伸ばしたのだが、ベアトリーチェの手に阻まれてしまう。
「そういうおしゃれはしません~っ。ダンテさんはそんな感じの娘が好みなんですか?」
「ダンテは子ども好きだから意外と子どもっぽ――」
「そんな不名誉な言いがかりをつける舌なら引っこ抜くぞ」
からかい時だとばかりに根も葉もない戯言をのたまうアルを、ダンテはぴしゃりと言って黙らせる。
そもそもダンテはそういう感情を女性にも、もちろん男性にも持ったことがないため、好みもへったくれもなかった。
「でもあれだ、ダンテ。お前がここまで気に掛ける女の子は初めてだろう」
「ちげーよ、口止め料だ」
もうアルもダンテも開き直って気にもしていないのだが、ベアトリーチェにはいろいろと知られてしまっている。
それに対する口止め料として、ベアトリーチェへの嫌がらせを止めさせるというものを試みたのだが、結局それはうまくいかなかった。
だから代わりに……というのがダンテの言い分であるのだが、そのことをベアトリーチェの目の前で口にするのは、いつものダンテらしくない失敗だった。
「分かってますよ」
ベアトリーチェはそう呟くと、少しだけ寂しそうな笑顔を浮かべる。
「あ~……」
何か別の言い訳をと口を開いたダンテを、ベアトリーチェは押しとどめる。
「ダンテさんは優しい人ですから」
「……違う。俺はそんなんじゃない」
ダンテ自身が否定しても、ベアトリーチェは首を横に振って更にそれを否定する。
「優しい人ですよ。私がそう言うんだから、間違いありません」
優しいのではなく甘いだけ。
今回のことだってベアトリーチェに同情したからだと、ダンテは反駁したかった。
しかしそれをしてしまえば、自身のエゴを通すためだけにベアトリーチェを致命的なまでに傷つけてしまう。
結局ダンテは何も言えず、口を閉ざすしかなかった。
「…………それにですね、私にだって選ぶ権利があります」
急にベアトリーチェの声に、愉悦の色が混じる。
「は?」
「え?」
彼女の語った言葉の意味が理解できず、ダンテも、そしてアルまでもが間抜けな声をあげた。
「私はお父さんとお母さんを見ていて、ああいう風になれるのが愛し合うってことなんだなって思ったんです。ダンテさんじゃ意地悪すぎてなれなさそうなので、私からお断りしちゃいます」
「…………」
ダンテはベアトリーチェの楽しそうな顔を呆然と眺める。
もちろん振られたという事実は理解していたのだが、まさかベアトリーチェがこんなことを言うとは思ってもみなかったのだ。
無言のまま時間が流れていき――。
「ハハハハハッ! マジかよ、あのダンテが振られやがった‼ アハハハハハハッ!!」
アルの大爆笑がその静寂を引き裂く。
ダンテだって人間なのだから、振られることもあるだろう。
今まではダンテからアプローチをかけたことがなかったため、一方的に女性から言い寄られるだけであり、一度も振られるなんて経験をしてこなかった。
ところが今は、アプローチをかける前からベアトリーチェに振られてしまったのだ。
アルはそれがおかしくてたまらなかったのだろう。
「ぷっ……今度エバ……くくっ、いや、ミレディに教えてやらねえと」
今日のダンスパーティーでダンテたちと顔を合わせることがなかったガタイのいい女主人は、面倒見がいいと同時におしゃべり好きでもある。
ミレディがこのことを知るということは、帝都中の娼婦たちが知ることと同義であった。
「おい、待て。ミランダには言うな」
「無理だろ、こんなおもろい話」
「お前……いくらでなら黙る?」
「いくら積まれようが絶対黙らねぇ。親父にも教えねえと……。それからテッドにレイに……」
「おいっ」
さすがに冗談では済まないと、ダンテは焦ってアルを買収しようと試みたのだが、そんなことで黙るアルではない。
今日一日の復讐とばかりにダンテをいじり倒す。
「ふふっ」
やってやったぞと言わんばかりに、ベアトリーチェが声を出して笑う。
馬を操っているアルに組み付くわけにもいかず、さりとてベアトリーチェに何かできるわけでもない。
「……ああ、くそっ」
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