妹がいじめられて自殺したので復讐にそのクラス全員でデスゲームをして分からせてやることにした

駆威命(元・駆逐ライフ)

文字の大きさ
上 下
22 / 23
前章 妹がいじめられて自殺したので復讐に罰されない教師たちでデスゲームをして分からせてやることにした

第6話 笑う男の顔

しおりを挟む
『校長の机……一番おおきな引き出しの中だったかな。テレビのリモコンを改造した起爆装置があるはずなんだよね。それが無いとだぁれも殺せないんだ』

 殺せない。

 その言葉に二種類の反応が生まれる。

 ひとつは安堵。

 今すぐにという前提こそつくものの、死が訪れないのだ。

 もうひとつは……絶望。

 自分が殺そうとした相手と、逃げようのない密室に押し込められてしまった。

 この先どうなるのかは――。

「くっそぉぉっ!!」

 塊の中からひとつの影が飛び出し、部屋の隅に設けられている校長用のデスクにかじりついた。

「押さえつけろっ! リモコンを取らせるなっ!!」

 校長に言われるまでもなく、学年主任は教頭の下半身にタックルをかます。

 教頭の行動を許せば命はない。

 それだけでなく、許さなければ

「ははっ、ずいぶんと必死だなぁ。さっきまでの高笑いはどうしたよ!?」

「うるっ、さいっ」

 死に物狂いになるのは教頭の番だった。

 引き剥がされまいと顔を真っ赤にして机の縁を必死に掴む。

 机ごと引きずられようと絶対に放そうとはしなかった。

「諦めろ、この出来損ないが! 裏切ったお前はこうなる運命だったんだよ!!」

「くぅぅっ」

 けれど、教頭の敵はひとりではない。

 校長が教頭の後頭部や指先に拳を振り下ろす。

 何度も、何度も。

 指先が潰れて爪が剥がれようと、お構いなしに痛めつける。

 あと少し力があれば、もしくは校長の邪魔が無ければ、引き出しを開けてリモコンを取り出し自らの手で悲願を果たせただろう。

 しかし――。

「おらっ」

「あっぁああぁぁぁぁぁっ!!」

 抵抗虚しく教頭は体ごと持ち上げられた後、床にたたきつけられてしまう。

 当然、彼の手に握られているのは自身の流した血液と絶望だけ。

 命を守ることのできる唯一の手段は、教頭ではなく校長の手に握られたのだった。

「やめ……放せっ! 退け、退けぇぇっ!!」

 もはや勝敗は決してしまった。

 ガタイのいい学年主任によって肢体を拘束され、命運を左右するリモコンは校長の手の中だ。

 どれだけ暴れようと教頭の未来は変わらない。

 先ほどまで自分が他人に強いた結末。

 死、あるのみ。

「おいおいおい、落ち着けって。いつものいけ好かないすまし顔が酷いことになってんぞ」

「ん~、これはどう使うのか……。分かるかね、福田先生」

 他人の命すら左右できる全能感に酔いしれているからか、学年主任は歯を剥いて嘲笑う。

 校長もその悪趣味なノリに流され、リモコンをこれ見よがしに掲げていた。

「ふざけるなっ! お前たちこそ死ねっ!! 死んでしまえっ!!」

「おおこわ……」

 教頭の罵声を肩をすくめて受け流した校長は、手元のリモコンに目線を移す。

 見た目は黒いプラスチックの外装とカラフルなゴム製のボタンがゴテゴテとついており、テレビ用のリモコンそのものである。

 どのボタンを押せば首輪が爆発するのか、そもそも本当に爆破用のリモコンなのか校長にはまったく判別がつかなかった。

『ねえ教頭さぁ。あなただけが責任からの逃亡を選んだから、約束通りあなたを殺さないであげる』

「それ、はっ!?」

 地獄で仏とはこのことかとばかりに教頭の表情がぱぁっと明るくなる。

 しかし、

『私は、ね』

「――っ!? 騙したなぁぁぁぁ!!」

 最後に付け加えられた言葉の意味を正しく理解して、再び絶望の淵へと叩き戻されてしまった。

 彩乃が約束したのは、彩乃自身が望んだ通りの結末にするということ。

 校長と学年主任は含まれていない。

 つまり、ふたりは教頭を如何様にでもすることが出来るのだ。

『私は騙していない。あなたが自分の意思でこのふたりを騙したの。その結果があなたに返って来ただけ』

「ははっ、その通りだなぁ。アンタが裏切らなければこうならなかっただろ」

「こ……のぉっ」

 普通の状況であれば殺人なんて手段が選ばれることはない。

 しかし、殺されかけた直後ならば、殺さなければ殺されるという状況ならば……違う。

 校長と学年主任のふたりは、共に教頭を殺すつもりであった。

『だいたい甘く考えすぎ。私はあなたたちに償いをさせたいんだって言ったはずだけど覚えてないの?』

 彩乃は責任から逃げ出すなんてことをのうのうと言える面の皮が厚い人間を逃すつもりなどさらさらなかった。

『そのリモコンだけど、電源のボタンを押したら首輪がドカンと行くように改造されてるから好きに使って』

「ひっ」

『それから、私があなたたちの首輪を爆破する手段はそのリモコンだけ。それを壊されたらもう殺せなくなるから注意して扱ってね』

「…………なるほど、そういうことか」

 ルールとして殺されることが決まっていたが、その手段を持ち合わせていないのなら実行は不可能だ。

 なのに彩乃は自ら殺害の手段を放棄するという。

 あり得ない言動に、しかし校長はそれで確信を得た。

 彩乃は命を以て罪を償うという覚悟を見たかったのだと。

 覚悟を示してみせた自分たちは助かるのだと。

『ま、校舎を出たら自動的に爆発するからいざとなったらそっちの手段もあるんだけど』

「分かったよ」

 彩乃の言葉の裏側を読み取り、校長は大仰に頷いてから――。

「や、やめっ!」

「俺も居るんですから不用意にいじらんといてください!」

 教頭にリモコンを向けた。

 校長たちは、結局自分たちの命が助かると理解した上で、それでも変わらず教頭の死を望んでいた。

「そうだな。福田先生を奥に投げ飛ばしてからこっちに来なさい。斎藤先生なら出来るだろう?」

「出来なくもないですが……」

 投げ飛ばしたところで開く距離は数メートル。

 体勢を立て直してから襲い掛かって来るのに数秒とかからないだろう。

「なに、すぐさま起爆すれば問題ない」

 校長はリモコンの赤外線発振器を教頭に向け、親指を電源ボタンの上におく。

 確かにこれならば起爆するまで秒も必要ない。

 教頭が立ち上がるよりも早く殺すことが出来るだろう。

「絶対、俺がそちらに行くまで爆破させないでくださいよ」

「ところで斎藤先生、先ほどまでの口調はずいぶんと失礼だったな」

「そりゃあ必死だったからですって! こんな時に不穏なこと言うのやめてください!」

「ハハッ、冗談だ」

 絶対的に優位な立場となり、校長は悪趣味な冗談まで口にする余裕持っていた。

 そうなれば強者の特権である弱者をいたぶる嗜虐心にも火が点くのは必然であったのかもしれない。

 校長は口角を吊り上げて嬲るような視線を教頭へと向ける。

「ところで福田先生。私が居なくなってせいせいするとか言っていたね」

「…………」

「居なくなって当然だとも。あれはなんでかね? 後学のために教えてもらえないだろうか」

 教頭は一切返事をしない。

 絶対的な敗北感に打ちのめされて口を開く気力すらないようであった。

「残念! 残念だなぁ! 教えてはくれないのか! あれほど威勢が良かったのだから是が非でも言いたいことはあったと思うんだがなぁ!」

 うなだれている教頭の頭頂部に、これでもかと嫌味をぶつける。

 相手が殺意を失っていようと手加減などしない。

 思いやるなんて気持ちはこれっぽっちもなかった。

「殺すほどなんだからさぞかしご立派な大義名分があると思っていたのだが、まさかないとは……! お前はやはりその程度か。せっかく目をかけてやったというのにくだらん男だ」

 それから校長は幾度も幾度も罵詈雑言を吐き続け、学年主任から促されたところで不満そうではあったがようやく言い終えたのだった。

「さて、では始めようか」

「はいはい……」

 学年主任は愛想笑いを浮かべながら教頭の体を床に打ち捨てる。

 もはや抵抗する気配さえ感じられなかったが、念のためと力なく床に転がる教頭を蹴り転がしてから校長の背後へと移動した。

「じゃあ、お願いします」

 リモコンのボタンを押すことは殺人を犯してしまうことを意味するのだが、ふたりはそのことを意識すらしていない。

 むしろ当然の権利だと思っていて――。

「うむ」

 だから、なんのためらいも躊躇もなく、起爆用のボタンを押してしまう。

――パンッという乾いた破裂音は、この場の全員が想像していたよりも大きかった。

「……あ?」

「ぐ――ぎ――?」

 何故なら3つの首輪が同時に爆ぜたから。

『言ったじゃん。あなたの首輪を爆発させるリモコンだって』

 リモコンは、誰かひとりの首輪を爆発させる代物ではなかった。

 全員の爆弾を起爆するための物だったのだ。

 テレビ用のリモコンという慣れ親しんだ形から用途を思い込んでしまったのもあるだろう。

 しかしそれ以上に、勝手に助かると思い込んでしまったことが大きかった。

 そんなこと、あるはずもないのに。

「……ぐずっ……ごぽっ」

 声は既に発することが出来ず、代わりに不明瞭な水音だけが響く。

『だから、言ったはずだけど。私は騙してない』

 彩乃が言っていたことに裏など無かった。

 校長が自分にとって都合のいい様に解釈しただけだ。

『あなたがやったことがあなた自身に返って来ただけだって』

 誰かが誰かを殺そうとした瞬間、全員の死は確定してしまう。

 校長たちが助かる唯一の方法は互いを信じて許しあい、リモコンを破壊することだったのだ。

「――――か」

 校長が最期に目にしたもの、それは、嬉しそうに嗤う教頭の死に顔だった。
しおりを挟む
6月29日より販売開始です!
https://www.amazon.co.jp/dp/4434304585/
お気に召しましたら↑よりご予約ください!
感想 31

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。